最近,デリヘル等の風俗店,ホストクラブやキャバクラ等の水商売の経営者の方から弁護士への相談として,労働問題に関する相談が増えてきている。
・ホストから残業代を請求する労働審判を起こされた。
・風俗店のドライバーを解雇したら,弁護士から解雇を争う内容証明郵便が送られてきた。
・突然とんだキャバクラ嬢が代理人弁護士をつけて未払賃金と残業代の裁判をおこしてきた。
などなど。
その背景としては,近年の労働問題に対する意識の向上のほか,
弁護士業界でのトレンドの問題もありそうだ。
最近,過払金バブルにかげりが見えてきた弁護士業界では,残業代請求等の労働問題が注目されている。
いくつかの法律事務所では,残業代請求について,着手金無料で受けているところもある。
このような状況も労働問題の増加に寄与しているのであろう。
残業代を請求したり,解雇を争ったりするためには,その前提として,風俗店やホストクラブ,キャバクラで働く人々が「労働者」である必要がある。
「労働者性」とは,労働基準法などの労働法規の適用を受ける労働者に該当することをいう。
そして,労働者とは,職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者 で、賃金を支払われる者をいう(労働基準法第9条)。
(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
要するに,雇用された労働者なのか,業務委託の自営業者なのかという問題だ!
労働者であれば,解雇や残業代などについて,労働基準法や労働契約法などの労働法規が適用される。
風営法では,労働者も業務受託者も合わせて従業者として,従業者名簿の対象にしており,この労働者の問題とは区別して理解する必要がある。
また,税金との関係でも,労働者であるかどうかは,源泉徴収をするのかどうかの問題とも密接に関係してくる。
そこで,その対象者が労働者なのか,業務委託者(自営業者)なのかが大きな問題となる。
労働審判や裁判でもこの労働者性が争われることがよくある。
実際の裁判例では…
キャバクラのホステス,ホストについて,労働者性を認めたものがある。
一方で,性風俗店の女性キャスト,銀座のクラブのママ,ホストについて,労働者性を否定したものもある。
労働者であるかどうかの判断は以下の要素などから総合的に判断される。
・時間的・場所的な拘束があるか
→勤務時間の自由があるか,働く場所は固定されているか
・業務の内容・遂行方法に対する指揮命令の有無,裁量の程度
・業務に代替性があるか
・業務に必要なものは誰が負担するのか
・報酬は源泉徴収されているのか
・契約書や給与明細等の形式面はどうなっているか
など。
ホストの労働者性を否定した以下の判決も,上記の基準から総合的に判断している。
なお,厚生労働省は労働者性の判断基準として,以下の基準を公表している。
1・2を総合的に勘案することで、個別具体的に判断する。
1 使用従属性に関する判断基準
(1)指揮監督下の労働1仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
2業務遂行上の指揮監督の有無
3拘束性の有無
4代替性の有無
(2)報酬の労務対償性
2 労働者性の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
1機械、器具の負担関係
2報酬の額
(2)専属性の程度
(3)その他
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11909500-Koyoukankyoukintoukyoku-Soumuka/0000181992.pdf
《東京地判平成28年3月25日》
ホストの収入は,報酬並びに指名料及びヘルプの手当で構成されるが,いずれも売上に応じて決定されるものであり,勤務時間との関連性は薄い。また,出勤時間はあるが客の都合が優先され,時間的拘束が強いとはいえない。
ホストは接客に必要な衣装等を自腹で準備している。また,ホストと従業員である内勤とは異なる扱いをしている。ミーティングは月1回行われているが,報告が主たるものである。
以上によれば,ホストは被告から指揮命令を受ける関係にあるとはいえない。ホストは,被告とは独立して自らの才覚・力量で客を獲得しつつ接客して収入を挙げるものであり,被告との一定のルールに従って,本件店舗を利用して接客し,その対価を本件店舗から受け取るにすぎない。そうすると,ホストは自営業者と認めるのが相当である。
したがって,原告被告間に雇用契約締結の事実は認められない。
労働者性が認められるか否かは,後々,労働トラブルが起こった際に大きな問題になる。
そのため,経営者の方々は,あらかじめ契約書の内容や実際の働き方を工夫して,後々の労働トラブルに備えるべきであろう。
《東京地判平成27年11月5日》
被告経営のクラブで稼働していた原告が,被告に対し,(主位的)被告との間には労働契約が成立しており,被告による解雇は無効であるとして,解雇後の賃金の支払を求め,(予備的)被告との業務委託契約は成立しており,被告による解約により損害を被ったとして損害賠償を求めた事案。裁判所は,本件契約は労働契約ではなく,原告が労働契約法上の労働者とは認められず,主位的請求は理由がないとし,本件契約が準委任契約であり,本件解約に「やむを得ない事由」は認められないことから,被告は損害賠償責任を負うとして,原告の平均所得相当額に本件契約残存期間を乗じた額から原告の他店稼働収入額を控除した残損害金につき,その支払を被告に命じた事例
判決文が長いので引用は差し控えるが,この判決においてもホストの労働者性を否定した上記判決と同じような判断基準を用いて判断している。
《東京地判平成27年7月14日》
証拠(甲14,乙1ないし3,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は本件クラブ側から指示された接客を断ったことがないこと,接客の中には自己の指名客だけでなく,いわゆるヘルプとして他のホストが対応している席での接客業務が含まれていたこと,本件クラブにはタイムカード機が設置されており,原告は出勤時間と退勤時間を打刻し,被告は原告に遅刻による罰金を科していること,被告は原告の給与から所得税を控除していることが認められ,以上の諸事実からすると,被告への労務提供全般にわたり,原告が被告から指揮監督を受ける関係にあったと認められ,本件契約は労働契約であると認められる。
この点につき,被告は,ホストは各々が完全歩合制の個人事業主である旨主張する。しかし,被告が同主張に関して種々指摘する事情は,いずれも上記認定事実と前提を異にするか,あるいは,上記認定事実から本件契約が労働契約であることを推認させることを妨げるものとはいえないものであり,同主張は採用できない。
証拠(甲2,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,原告の給与は,平成25年1月度(平成24年12月27日から平成25年1月25日)につき,54万3005円(=74万8450円(乙1の給与支払明細書の総支給額合計)-5万9845円(所得税)-2万5600円(ヘアメイク代)-12万円(バンス)),同年2月度(平成25年1月27日から同年2月25日)につき,91万6566円(=109万0740円(乙2の給与支払明細書の総支給額合計)-9万4074円(所得税)-3万0100円(ヘアメイク代)-7000円(その他)-4万3000円(バンス))であると認められる(なお,給与支払明細書(乙1,2)で控除されている「預り金(会費)」は,社員旅行の積立金であるところ,原告は社員旅行に行っていないため,また,同じく控除されている「未入金のマイナス」は,売掛金の未回収を理由とするものであるところ,以下のとおり,公序良俗に反する合意を前提とするものであるため,いずれも控除されるべきでない。)。
この点につき,被告は,原告への給与不払は客からの売掛金の未回収が理由である旨主張する。
しかし,仮に,本件契約に被告主張に沿う合意が含まれているとしても,このような合意は,本来事業者である被告が負担すべき客への債権不回収の危険を従業員である原告に負担させることに外ならず,これに本件クラブにおいては客をつけで飲食させるか否かの判断を原告ではなく店側が行うものであること(甲14,原告本人)も考慮すれば,公序良俗に反し,無効(民法90条)というべきである。