デリヘル、箱ヘル、ソープランド、メンズエステなどなど、風俗店の売買・M&Aが盛んだ。
・新規で風俗産業に参入したい
・デリヘル経営が軌道に乗ってきたので、ソープランド等の箱モノ経営もしたい
・規模拡大のため、競合他社を買収したい
・コロナ禍で業績が厳しいので経営している風俗店を売りたい
・摘発のリスクもあるので、風俗経営を引退したい
など、風俗店の売買・M&Aを希望している人も多いのではないだろうか?
コロナ禍で業績が悪化した店も、逆に業績を伸ばした店もあり、風俗店の売買・M&Aが増えてきている。
風俗店の売買では、風営法の届出や既得権の問題がからんできたり、そもそも税金を払っていなかったり、摘発リスクがあったり、通常の企業の売買・M&Aとは違った問題も生じる。
グラディアトル法律事務所では、歌舞伎町をはじめとした繁華街において、多種多様な風俗店の顧問弁護士をしている。
そして、数多くの風俗店の売買・M&Aのスキームづくり、交渉、契約書作成等の業務を行なってきた。
本記事では、グラディアトル法律事務所の経験を踏めた上で、風俗店の売買・M&A特有の問題点や解決法を含め、適法かつ安全に風俗店の売買・M&Aをおこなうためのポイントを解説していく。
M&Aとは、『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略で、2つ以上の企業が一つになること(合併)、企業が他の企業を買うこと(買収)だ。
風俗店の場合には、合併スキームを取ることはほとんどなく、買収・売買をすることがほとんどだ。
風俗店の売買・M&A場合、営業権譲渡という言い方をすることも多い。
風俗店の営業権譲渡とは、既得権がついたソープランドや箱ヘルなどの店舗型の風俗店において、既得権は既存の営業者や法人に残したまま、営業する権利を譲り渡すという契約をすることをいう。
もっとも、風営法上の届出名義人と実質的な経営者が異なる場合には、無届営業となってしまうため、注意が必要だ。
【キャストや客などの経営基盤を承継できる】
風俗店を開業するためには、キャスト、内勤スタッフ、ドライバー等の人材を集めて教育をし、集客のためのマーケティング戦略を考え、実行していくことが必要だ。。
ゼロからスタートするとなると、多額の費用と労力がかかる。
特に、風俗の経営では、キャストの求人が経営に重要な影響を与える。
また、求人も集客も既存のポータルサイト等の広告媒体を利用することが多いが、これには多額の費用がかかってくる。
風俗店を買収する場合には、既存のキャストやスタッフ等の人材や、既存の会員や顧客をそのまま承継することができる。
集客や求人の広告媒体や広告代理店についても引き継いでもらうことも可能だろう。
加えて、買収先の風俗店のHPや、風俗店をより効率的に経営するためのCTIやCRMなどの顧客管理システム、顧問弁護士や顧問税理士などの外部の協力業者や、内部のノウハウ等も引き継ぐこともできるだろう。
新規に開業を考えている人にとっては、買収先の風俗店のノウハウ等も含めて承継することにより、自分でゼロから開業するよりもはるかに労力をカットできるだろう。
既存の風俗店を経営している人としても、競業他社のノウハウを引き継ぐことにより、自社になかった新しいノウハウ等を手に入れることができるだろう。
【事業規模拡大ができる】
風俗店を買収することにより、自社の事業規模を拡大することができる。
事業規模が拡大すれば、スケールメリットにより、各種コストを抑えることができる。
【別地域へ出店できる】
今まで出店していなかった地域の風俗店を買収することにより、他の地域へスムーズに出店することができる。
風俗店においては、地域ごとの特徴があったり、広告・求人媒体についても各地域で効果が出る媒体が違ったりするからだ。
【別業種への出店ができる】
デリヘル経営者がソープランドを買収する、メンズエステ経営者がデリヘル店を買収するなど、別業種への出店が可能だ。
また、高級店、格安店、熟女店、デブ専店など、同じ業種であってもターゲット層が異なる別ジャンルへの進出も可能だ。
業種やジャンルの種類を増やすことにより、経営の多角化、安定化、リスクの分散を図ることができる。
また、キャストやスタッフについても、系列の別の店で働いてもらうことができるようになり、その人の持ち味を活かせる場所を提供できるようになるなどのシナジー効果も期待できるだろう。
【既得権を承継できる】
風営法の改正により、ソープランドや箱ヘルなどの店舗型の風俗店は、新規での開業が極めて難しくなっている。
新たにソープランドや箱ヘルなどの店舗型の風俗店を適法に経営するためには、既得権を持っている法人の株式を買う必要がある。
法人を既得権ごと買うことによって、既得権を承継することができるのだ。
【売却益を得ることができる】
風俗店を売却することによって、売却益を得ることができる。
売上規模や経営状態にもよりけりだが、数千万円〜1億円を超えるような高額での売却事案もある。
【後継者問題を解決できる】
自分で創業して育ててきた風俗店の後継者を外部の人間に任せることができれば、後継者問題が解決され、風俗店が存続できる。
同業他社の実績のある人・会社や、他業種でも信頼できる人・会社が、育ててきた風俗店を継続して経営をしてくれる。
【逮捕リスクから解放される】
風俗店の経営には、風営法、売春防止法、職業安定法などの法律により逮捕されるリスクがつきまとっている。
風俗店の売却により、風俗店の経営者という役割から解放されることにより、逮捕リスクからも解放されることになるだろう。
もちろん、売却前になんらかの犯罪事実での内偵捜査等が行われているような場合には、売却によって、その罪を逃れられる訳ではないのだが。
【雇用を継続できる】
風俗店に限った話ではないが、経営者としては、廃業等により、従業員を解雇しなければならないのは苦しい決断を強いられる。
しかし、風俗店の売買により、キャストやスタッフなどの従業員との契約を売却先に引き継ぐことにより、雇用を継続することができる。
通常、会社の売買やM&Aでは、以下のような方法・スキームが想定される。
・法人の株式譲渡
・事業譲渡
・合併
・会社分割
・株式交換
もっとも、風俗店の売買・M&Aでは、法人の株式譲渡か事業譲渡という方法のどちらかが選択されることがほとんどだ。
結論から言えば、以下の判断基準で風俗店の売買方法・スキームを選べばよい。
・既得権付きの法人を買う場合は株式譲渡
・それ以外の場合は事業譲渡
株式譲渡とは、対象会社の株式を売買することにより、その会社の所有権、経営権を取得する方法だ。
既得権のある店舗型の風俗店の売買においては、風俗店を経営している(風営法の届出を出している)法人の株式を売買するという方法が、既得権を唯一適法に売買できる方法だ。
そのため、ソープランドや箱ヘルなどの店舗型の風俗店を売買する際には、法人の株式の売買を選択すべきだ。
この点について、一部の風俗業会においては、風営法の届出を出した法人をそのままにしておきながら、その法人がもっている営業権だけを譲渡して、既得権付きの風俗店の営業を引き継ぐという方法がとられることがある。
しかし、この方法では、風営法状の届出名義人と実質的な店舗経営者が異なる状態になってしまい、無届営業の違法状態になってしまう。
事業譲渡とは、営業のために組織化されて一体となった権利や財産を譲渡することだ。
既得権付きの店舗型の風俗店の売買をする場合以外は、事業譲渡という方法を選択すべきだ。
なぜなら、風俗店経営会社の株式を譲り受けるという方法を選択すると、簿外債務や未払税務債務についても引き継がなければならないからだ。
風俗店の経営においては、従業員との労働契約上の債務や税金の債務がしっかりと支払われていないケースも散見される。
事業譲渡という方法であれば、これらの債務を引き継がず、風俗店の事業を引き継ぐことができる。
もっとも、事業譲渡においては、法人を丸ごと取得する株式譲渡とは異なり、譲渡対象を個別かつ明確に指定しておかないと漏れが出てしまう点に注意が必要だ。
風俗店を売買する際のおおまかな流れについて説明する。
・交渉
・秘密保持契約(NDA)の締結
・デューデリジェンス(DD)
・契約書の作成・締結
・クロージング(金の支払いと株式や事業の譲渡)
風俗店の売買・M&Aでは、一般の企業のM&A、売買の手続きと比べて、細かい手続きを省略することも多い。
風俗店を売りたい人と買いたい人との間で、基本的な交渉を行う。
担当者レベルで交渉を行うこともあるが、多くの場合、トップ同士で話し合いをして、売買の条件の大枠を決めていきます。
秘密保持契約(NDA:Non Disclosure Agreementの略)とは、風俗店の売買の過程において、開示された情報などを第三者に漏洩しない旨を約束する契約のことだ。
風俗店を売買するにあたって、売上高やキャスト・従業員の情報、出向先の広告媒体・求人媒体、取引のある代理店やスカウト会社など、店舗経営において重要で、秘匿性の高い情報の開示が求められる。
そのため、開示した情報が漏洩しないように、情報の開示前に秘密保持契約(NDA)を締結するのだ。
もっとも、一般企業におけるM&Aとは異なり、風俗店の売買においては、秘密保持契約(NDA)を締結せずにすすめることも多い。
昔ながらの慣習や、当事者同士の信頼感を重視する風潮があるからだろうか?
デューデリジェンス(DD:Due Diligenceの略)とは、売買対象である風俗店の価値やリスクなどを調査することをいう。
売上や経費についての会計情報や、訴訟等の紛争関係、権利関係についての契約状況やキャスト・スタッフとの契約関係などについての調査を行う。
風俗店の売買におけるデューデリジェンス(DD)のポイントについては、後述する。
風俗店の売買についての条件がまとまり、相手方から開示された情報についてデューデリで調査をして、いざ契約となる。
契約締結の際には、交渉でまとまった条件、風俗店の売買のスキームに応じて、契約書を作成する。
後々のトラブルを防止するために、できる限り、細かく具体的に契約書を作成するのが好ましい。
契約書を締結したら、あとは、契約書の内容に従って、それぞれが売買代金の支払いと株式や事業の譲渡、及びこれらに必要な関連業務を行なって、売買が完了する。
スムーズに風俗店の事業を承継するために、一定程度、売買後にも売主側が買主側のフォローをすることも多い。
風俗店の売買・M&Aは、人・物・金が有機的に一体となった事業や会社そのものを譲渡するものなので、リスクはつきものだ。
一般企業の売買やM&Aにおいても、法務リスク、財務リスク、労務リスクなどのリスクがある。
風俗店の売買においては、上記3つのリスクを特に意識する必要がある。
・法務リスク
そもそも、風俗店の売買・M&Aのスキーム自体が風営法に違反するリスクがある。
また、風営法のほか、売春防止法・職業安定法などによる逮捕・摘発リスクがある。風俗店の売主である前経営者時代に逮捕・摘発されていた場合や、警察から注意がなされていた場合など、警察からすでに目をつけられている可能性もある。
・財務リスク
風俗店経営会社の株式を譲渡する際に特に注意しなければならないのが、簿外債務や税金の未払いだ。
債務は会社自体が負担するものなので、風俗店の売主である前経営者時代の負債についても、会社が引き継いで支払わなければならない義務を負ってしまう。
・労務リスク
風俗店のビジネスで重要なのは、売り上げを上げてくれるキャストさんだ。風俗店の売買・M&Aによって、人気があるキャストさんが辞めてしまうというリスクがある。
また、債務を引き継ぐ株式譲渡の場合などでは、従業員に対する未払い残業代などを引き継いでしまうこともあるので注意が必要だ。
以下、これらのリスクを踏まえた上で、風俗店の売買においてトラブルを予防するためのポイントを解説する。
【事前に行うべき調査・DDをする】
前述したように、風俗店の売買においては、風営法上の法務リスク、財務リスク、労務リスクなどのリスクがある。
このようなリスクがあるにもかかわらず、風俗店の売買においては、最低限の調査やデューデリもしないままに売買がなされることがある。
リスクを回避するために、少なくとも、以下の事項については調査・デューデリをしよう!
・風営法の届出
・会社の登記
・会計帳簿(BS、PLなど)
・風俗店経営の関連法規違反の有無(逮捕歴、警察からの行政処分、行政指導歴など)
・税金の支払履歴
・従業者名簿
・店舗、事務所や待機所などの物件の契約書・使用承諾書
・広告媒体との契約書、その他事業経営について必要な契約の契約書
上記事項について、可能な限りの資料を提供してもらい、デューデリをしよう。
また、風俗店の売買における契約書において、表明保証条項を入れておくことも重要だ。
表明保証条項(レプワラ条項:Representation and Warranty)とは、風俗店の売買・M&Aにおいて、一定の時点における当該店舗や会社についての事実が真実かつ正確であることを表明して保証する旨の条項だ。
例えば、風俗店の譲渡時点の債務について、その内容を特定し、表明する旨の条項を入れておいて、後々、簿外債務が発覚した場合には、風俗店の売買・M&A契約を解除できるとか、簿外債務については売主側が負担するとかを定めておくのだ。
【契約内容、譲渡対象財産を明確に!】
風俗店の売買・M&Aは、互いの信頼のもと、しっかりと契約書を作り込まないまま締結されることも多い。
また、弁護士ではない仲介業者やブローカーが持ってきた不完全な契約書を使用してしまうこともある。
前述したように、風俗店の売買・M&Aには、様々なリスクが潜んでおり、慎重に契約を進めないと、後々トラブルになってしまうことがあるのだ。
そのため、当事者間の風俗店の売買・M&Aについての交渉内容はもちろんのこと、想定されるリスクが現実化してしまった場合に、どちらがどのような方法で責任を取るのか、契約書において明文化しておくのが好ましい。
また、特に、事業譲渡契約によって、風俗店の売買・M&Aをする場合には、譲渡対象を明確にしておかないと、後々トラブルになることがある。
そのため、風俗店の事業に関連する譲渡対象財産や権利について、できる限り具体的に特定しておこう。
風俗店を売る側のリスクとしては、売却代金が得られないというリスク、損害賠償請求されてしまうというリスクなどがある。
これらを踏まえて、どのようなポイントを抑えれば良いだろうか?
【譲渡代金の支払いの確率を高める】
売主側のリスク、トラブルとして、多いのは風俗店を売ったにもかかわらず、譲渡代金が支払われないということだろう。
「買った風俗店を実際に経営してみたら利益が上がらない」「交渉時の説明と違う」などと理由をつけて、譲渡代金が支払われないというケースがある。
風俗店の売買・M&Aの譲渡代金の支払いの角度を高めるために、以下の点に気をつけよう。
・相手の資金力・資力を調査しておく
・揉めないように事前に条件等についてしっかりと話し合いをしておく
・譲渡のタイミングや支払時期・支払方法の工夫をする
【無理のない契約をする】
実際には、守ることが難しいような、契約内容に無理がある内容ではないか、事前に契約の各条項をチェックする必要がある。
例えば、すでに風俗店を複数経営している人が、そのうちの一部の風俗店を売るような場合、売却した風俗店と同業種について、一定地域内で営業をしてはいけないという競業避止義務が付けられることがある。
この条項の内容に注意をしないと、既存のビジネスや今後のビジネス・出店が制限されてしまう。
【契約内容をしっかりと履行する】
風俗店の売買・M&Aで定めた義務をしっかりと履行することが重要だ。義務違反があれば、契約の解除や損害賠償請求をされてしまうおそれがあるからだ。
また、トラブルが生じてしまう原因としては、交渉時に説明をしていた風俗店の営業について、引き継いだ買い手側が再現できない、利益が上がらないということがある。
このようなトラブルの原因を防ぐために、契約上の義務をしっかりと履行するとともに、買い手側がスムーズに風俗店の営業を引き継げるようサポートも必要だ。
特に、キャストや従業員に対して、風俗店の売買・M&A後にも継続して働いてもらえるように、しっかりと説明をしておくことが重要だろう。
一般に、企業の売買・M&Aにおいて、さまざまなアドバイザーを付けることがある。
M&Aのアドバイザリーを専門とする会社や、銀行・会計士等のフィナンシャルアドバイザー(FA)、弁護士等のリーガルアドバイザーなどだ。
風俗店の売買・M&Aにおいては、仲介会社を利用する場合や、ブローカーを利用する場合も散見される。
この際に、気をつけなければならないのは、アドバイザー、仲介会社やブローカーが、風俗店の売り手側と買い手側の両方から報酬をもらい、両方に対してアドバイスをする両手取引をする場合だ。
この場合、間に入った仲介会社等は、当事者であるあなただけにアドバイスをするのではないため、相手方に有利な条件で風俗店の売買・M&Aが進められてしまう可能性があるからだ。
M&Aの相手方選定やマッチング、業界の慣習や風俗店を購入後のサポートなどについては、風俗業会に精通した専門の仲介会社に依頼するメリットもあるだろう。
もっとも、前述した両手取引のリスクがあることから、仲介会社などとは別に、自身専用のアドバイザーと契約をしておくべきだろう。
また、法律の専門家である弁護士が介入しない場合には、風俗店の売買・M&Aに内在するリスクを軽減するような内容の適切な契約書が作成されないことが多い。
そのため、できれば交渉過程から、少なくとも契約書の作成については、弁護士に依頼をしてしっかりとした契約書を作成すべきだ。
ここまで見てきたように、風俗店売買・M &Aは、両当事者にとってメリットが生じる取引ではあるものの、多くのリスクが存在する。
また、風営法の問題など、一般企業の売買等とは異なる独特の問題についても検討しておく必要がある。
グラディアトル法律事務所では、全国展開する大手風俗グループを含め、数多くの風俗店の顧問弁護士をしており、風俗店売買・M &A案件にも携わってきた。
経験上、実際のところは、風俗店売買・M &Aは、一般企業の売買等とは異なり、当事者間の信頼のもと、割と大雑把に進められてしまうことが多いように思う。
しかし、前述したように、風俗店売買・M &Aには、リスクもあるため、風俗業界について精通した弁護士にアドバイスをもらいながら進め、しっかりとした契約書を作成して、少しでもリスクを減らすべきだろう。
重要な条件交渉の場や、契約締結の場において、弁護士に同席をしてもらえれば、安心感もあるだろう。
両当事者が納得して、トラブルなく風俗店売買・M &Aが成立すれば、お互いにとってメリットがある取引だし、業界全体に活気を与えるだろう。
風俗店売買・M &Aについて、検討している方、是非ご相談を!