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本番強要客が風俗店店員に暴行したのに無罪!?

弁護士 若林翔 2018/03/19更新

風俗店(デリヘル)を利用した客がトラブル(おそらく,本番強要?)を起こし,風俗店の従業員がホテルに向かった。

その従業員がホテルの室内に入り,大声で怒鳴った。

これに対して,客がその従業員の顔面を灰皿等で殴り怪我を負わせてしまったという事例。

 

一審では,客は,傷害罪となったが,控訴審では逆転無罪となった。

 

ニュースは,以下のとおり。

 

「誤想防衛」認め男性に逆転無罪 高裁岡山支部 風俗店従業員を殴る

岡山市内のホテルで風俗店従業員を殴ってけがを負わせたとして、傷害罪に問われた鳥取県米子市の男性(40)の控訴審判決で、広島高裁岡山支部は14日、有罪とした一審岡山地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。身の危険が差し迫っていると男性が思い込んだ可能性が否定できないとして、「誤想防衛」が成立するとした。

 判決理由で長井秀典裁判長は、店のサービス外の行為をした男性に対して従業員がホテルの室内に入り、歩み寄って大声で怒鳴るなどしたことを「穏当なものではない」と指摘。報復や金銭的解決の手段として、男性が「(従業員による)攻撃が差し迫っていると誤信した可能性は否定できない」と述べた。

 男性は昨年3月、岡山市内のホテルの客室で、従業員の顔面を拳や灰皿で数回殴ってけがを負わせたとして、一審で懲役2年6月、執行猶予4年の判決を受け、控訴していた。

 男性の弁護人は「事実を正しく判断する役割を、司法がきちんと果たしてくれた」と話し、広島高検岡山支部は「判決内容を詳細に検討し、適切に対応したい」としている。

 

簡単に説明すると,「正当防衛」は,差し迫った危険を回避するために必要最低限の防御・反撃をした場合に違法性が阻却されるものだ。

たとえば,風俗店の従業員が灰皿をもって殴りかかってきたとした場合に,そこから身を守る防御のために客も灰皿で殴り返した。ということならば「正当防衛」となりうる。

 

しかし,今回の件では,風俗店の従業員はなんら客に危害を加えようとしたわけではない。

にもかかわらず,客は,危害を加えられると誤信し,防御したのだから,客の精神状態としては「正当防衛」と同じ状況だったと認定された。そのため,客には違法性を認識する故意がないとして無罪となった。

このように正当防衛が成立するような急迫不正の侵害行為がないにもかかわらず,これがあると誤信して防衛行為を行った場合を「誤想防衛」といい,これが成立すると故意が阻却される。

 

誤想防衛が成立するためには,誤信するような事情があることが必要だ。

 

今回の件の詳細な事実関係は分からないが,「店のサービス外の行為をした」とあるので,本番行為をしたのではないかと推測される。また,客がいるホテルに従業員が駆けつけているところをみると,本番強要された女性キャストがお店に助けを求めて電話したのではないかなとも想像できる。

また,ニュースからは,風俗店の従業員が「歩み寄って大声で怒鳴るなどした」行為を危害が加えられる急迫不正の侵害があったと誤信した事情としていることがうかがえる。

 

「など」の部分があるので,他にも行為があったのだろう。

もしかしたら,お店の従業員が脅迫に近いような行為をしてしまっていたのかもしれない。

 

詳細な事情が分からないので,なんともいえないが。

風俗店にとって,大切な女性キャストがお客さんから本番強要を受けた,盗撮されたなどの被害を訴えている場合,風俗店の経営者や従業員が怒る気持ちはよく分かる。

 

しかし,ここで,客に対して怒鳴ってしまうと,今回のようなことが起こりかねない。

大切な女性キャストを傷つけられて,助けにいった従業員が殴られ,怪我をし,しかも殴った本番客が無罪になる。

こんなことがおこりかねないのだ。

 

風俗では,本番や盗撮など,お客さんとのトラブルは起こりうることだ。

その際に,適切な対応をするかどうかで,その後の結論が変わりうる。

 

みなさん,お店のためにも,女性キャストのためにも,適切なトラブル対応を学んでいきましょう!

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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