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店舗型風俗店の増改築〜風営法と既得権〜

弁護士 若林翔 2017/12/28更新

大宮のソープランド火災のニュース

「古い建物が多い「ソープランド」、風営法でリフォームや改築困難…大宮火災で懸念の声」

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171219-00007138-bengocom-soci

https://www.bengo4.com/internet/n_7138/

 

大宮の風俗店の火災について,弁護士ドットコムニュースから取材を受け,掲載された。

上記記事で書かれているのは,ソープランドやファッションヘルスなどの店舗型風俗店では,増改築が厳しく制限されているため,それが火災に影響したのではないかという問題意識だ。

 

では,店舗型の風俗店の増改築は法律上,どのようになっているのだろうか?

風営法と店舗型風俗店の禁止区域について

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下,「風営法」という)では,店舗型性風俗特殊営業について,営業禁止区域を定めている。また,各都道府県の条例で営業禁止地域を定めることができるとしている。

その禁止区域の定め方としては,学校等の保護対象物件から200メートルという定め方と,地域を指定しての定め方がある。実務上,両方をクリアしている地域は極めて限られた地域になる。

風営法の禁止区域と既得権

風営法が改正される前から届出をだして営業をしていた店舗型の風俗店であれば,禁止区域でも営業できる。

既得権が保護されているのだ。

風営法28条3項では,「当該店舗型性風俗特殊営業」には,禁止区域の規定は適用されないと定められている。

(店舗型性風俗特殊営業の禁止区域等)
第二十八条店舗型性風俗特殊営業は、一団地の官公庁施設(官公庁施設の建設等に関する法律(昭和二十六年法律第百八十一号)第二条第四項に規定するものをいう。)、学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定するものをいう。)、図書館(図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定するものをいう。)若しくは児童福祉施設(児童福祉法第七条第一項に規定するものをいう。)又はその他の施設でその周辺における善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定めるものの敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内においては、これを営んではならない。
2 前項に定めるもののほか、都道府県は、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要があるときは、条例により、地域を定めて、店舗型性風俗特殊営業を営むことを禁止することができる。
3 第一項の規定又は前項の規定に基づく条例の規定は、これらの規定の施行又は適用の際現に第二十七条第一項の届出書を提出して店舗型性風俗特殊営業を営んでいる者の当該店舗型性風俗特殊営業については、適用しない。

今ある店舗型の風俗店の多くは,この既得権を持った店である。

 

風営法の既得権と増改築

では,既得権をもった店舗型の風俗店の増改築はできるのであろうか?

増改築をして「当該店舗型性風俗特殊営業」店でなくなってしまえば,禁止区域の規制の適用を受け,禁止区域での違法営業になってしまうということだ。そのため,増改築をした風俗店が「当該店舗型性風俗特殊営業」店といえるかが問題になってくるのだ。

そして,この「当該店舗型性風俗特殊営業」について,判断を示した裁判例(東京地判平成19年12月26日)がある。

この裁判例によると,法改正前に届出を出して営業をしていた風俗店と同一性を損なわなければ,「当該店舗型性風俗特殊営業」店といえるとのこと。しかし,営業所の建物の新築,増改築,大規模な修繕や模様替え等を行ったことによって,以前の営業所における営業との同一性が失われるような場合には,「当該店舗型性風俗特殊営業」店とはいえないとのこと。

建物の柱,床や壁などを変更する増改築では,同一性は認められない。

東京地判平成19年(行ウ)第216号(平成19年12月26日)
そもそも原告が営むファッションヘルス営業は,個室を設け,当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供するものであるところ,かかる営業は,露骨に性を対象としたものであって,売春などの違法行為が行われることが懸念されることから,昭和59年風営法は,善良の風俗と清浄な風俗環境の保持及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため,風俗関連営業として同法の規制対象とし,同法28条1項に定める地域において禁止されるほか,都道府県が条例により地域を定めて風俗関連営業を営むことを禁止することができるとし(同条2項),これに基づき,東京都は風営法施行条例により,地域の実情に応じて具体的に禁止区域を定めている。したがって,かかる禁止区域において風俗関連営業を営むことは,本来許されないことであって,昭和59年法律第76号施行時に現に風俗関連営業を営んでいる者であっても,禁止区域にある限りその営業は当然禁止されるべきものである。もっとも,風俗関連営業は,昭和59年法律第76号による改正前は規制されておらず,それまで適法に営業されてきたことから,経過規定として,昭和59年風営法28条3項は,施行の際,現に同法27条1項の届出書を提出して風俗関連営業を営んでいる者の当該風俗関連営業について,例外的に,禁止区域における営業の継続を認めたものであり,平成10年風営法28条3項も同様の規定であると解される。
かかる法の趣旨に鑑みれば,同法28条3項が適用されるのは,あくまでも昭和59年風営法施行の際に営業しており,同法27条1項の届出をした風俗関連営業と同一の営業の場合に限られるべきであって,当該営業が,営業所の建物の新築,増改築,大規模な修繕や模様替え等を行ったことによって,以前の営業所における営業との同一性が失われるような場合には,もはや従前より営んでいたことによる例外的な保護を与える必要は毫も存しないのであるから,同法28条3項の適用が除外されると解すべきである。
そうすると,本件基準において,営業所の建物の新築,移築及び増築,個室の改築,並びに営業所の建物につき行う大規模の修繕若しくは模様替え又はこれに準ずる程度の間仕切り等の変更がなされた場合,その店舗型性風俗特殊営業は「当該店舗型性風俗特殊営業」に当たらないとされているのは,このような場合はもはや営業としての同一性が失われるとしたものであって,同法28条3項の解釈基準として相当かつ合理的なものというべきである。

なぜ,このような同一性を損なう増改築は許されないのだろうか。

そもそも,既得権を認めたのは,風営法が改正されて,禁止区域では店舗型の風俗店の営業は禁止されたが,改正前から営んでいた風俗店に不利益すぎるため,既得権を与え,例外的に営業を許したのである。だから,増改築をして例外的に保護した店との同一性がなくなるならば,保護の必要性はないでしょ。という理屈だ。

以上のように,現状,禁止区域であるが既得権を得て営業している店舗型の風俗店は,増改築できない。

そうなると安全面の問題が残ることになる。

法の意向としては,安全面に問題が出てくるようなら営業やめてってことだろうが,実際,そうはいかなかったりするだろうから,既得権のある店舗の増改築を認める法改正をしたらどうかと思う今日この頃。

どこから増改築?風営法の解釈運用基準

この増改築については,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準についての通達に詳細が載っているので,以下,紹介する。
1 店舗型性風俗特殊営業の営業禁止区域等
(1) 法第28条第3項中「これらの規定」の「適用」とは、例えば、法の施行後特 定の土地に学校が建設されることとなった場合等において、その場所における 店舗型性風俗特殊営業について同条第1項の規定が適用されることになった場 合等をいう。
(2) 法第28条第3項の規定の適用対象となる「当該店舗型性風俗特殊営業」とは、当該規定の施行又は適用の際現に営んでいる店舗型性風俗特殊営業の範囲内の 営業を意味するものであり、営業所の新築、移築、増築等をした場合には、その店舗型性風俗特殊営業については同項の適用はなくなる。
なお、「営業所の新築、移築、増築等」には、次のような行為が該当する。
1 営業所の建物の新築、移築又は増築
2 営業所の種別に応じ営業所内の次の部分の改築
(i) 法第2条第6項第1号、第2号又は第4号の営業にあっては、当該個室
(ii) 法第2条第6項第3号の営業にあっては、営業の種類に応じそれぞれ次の部分
a 令第2条第1号に規定する営業 当該個室
b 令第2条第2号に規定する営業 当該個室又は当該個室の隣室若しくはこれに類する施設
c 令第2条第3号に規定する営業 当該客席又は舞台
(iii) 法第2条第6項第5号の営業にあっては、当該物品を販売し、又は貸し付ける場所
(iv) 法第2条第6項第6号の営業にあっては、異性の姿態若しくはその画像 を見せる場所、面会の申込みを取り次ぐ場所又は客が異性と面会する個室 若しくはこれに類する施設
3 営業所の建物につき行う大規模の修繕若しくは大規模の模様替又はこれら に準ずる程度の間仕切り等の変更
4 営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加
5 営業の種別又は種類の変更(ストリップ劇場をのぞき劇場にする場合等)
(注)
「新築」とは、建築物の存しない土地(既存の建築物の全てを除去 し、又はその全てが災害等によって滅失した後の土地を含む。)に建 築物を造ることをいう。
「移築」とは、建築物の存在する場所を移転することをいう。
「増築」とは、一の敷地内の既存の建築物の延べ面積を増加させること(当該建築物内の営業所の延べ面積を増加させる場合及び別棟で 造る場合を含む。)をいう。
「改築」とは、建築物の一部(当該部分の主要構造部の全て)を除却し、又はこれらの部分が災害等によって消滅した後、これと用途、 規模、構造の著しく異ならないものを造ることをいう。
「大規模の修繕」とは、建築物の一種以上の主要構造部の過半に対しおおむね同様の形状、寸法、材料により行われる工事をいう。
「大規模の模様替」とは、建築物の一種以上の主要構造部の過半に対し行われるおおむね同様の形状、寸法によるが材料、構造等は異な るような工事をいう。
「主要構造部」とは、壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいう。ただし、間仕切り、最下階の床、屋外階段等は含まない(建築基準法第 2条第5号参照)。
「これらに準ずる程度の間仕切り等の変更」とは、営業所の過半について間仕切りを変更し、個室の数、面積等を変える場合等をいう。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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