新宿歌舞伎町のホストクラブに勤務するホストの男性が,売掛金の回収に際して恐喝をおこなったとして逮捕されたニュースが舞い込んできた。
まずは,ニュースを見てみよう!
歌舞伎町ホスト逮捕 コロナ警戒、警視庁捜査員が防護服姿で店を捜索 女性恐喝容疑
女性を脅して多額の支払いを約束する念書を書かせたなどとして、警視庁が恐喝の疑いで、東京・歌舞伎町の有名ホストクラブに所属する20代の男を逮捕したことが13日、捜査関係者への取材で分かった。警視庁は同日、容疑を裏付けるため店を家宅捜索。新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)する中、捜査員らは防護服などを装備して店内に入った。
捜査関係者らによると、男は今年7月、10代後半の知人女性に対し、店で飲食をしたなどとして多額の支払いを約束する念書を書くよう強要したうえ、数万円を脅し取るなどした疑いがもたれている。
男は女性に暴力をふるい負傷させた疑いで逮捕され、その後の捜査で、恐喝の疑いも浮上したという。
歌舞伎町はホストクラブなどで多数の感染者が確認されているエリア。13日は機動隊も加わり、店関係者にコロナ感染者がいる可能性を考慮し、防護服を着用するなどして家宅捜索が行われた。防護服姿の捜査員が次々に店に入っていくと、付近は物々しい雰囲気に包まれ、通行人が「何があったのか」と不安そうに様子を見守っていた。
関係者によると、男が所属する店は歌舞伎町などで複数のホストクラブを運営するグループの傘下で、40人程度のホストが所属しているという。
産経新聞 配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/111ab1c6fd1283844ba564245c05e32bebc680b4
恐喝罪(刑法249条,10年以下の懲役)とは,人を脅迫して財産や財産上の利益を得ることをいう。
恐喝罪の保護法益は,被害者の財産及び被害者の意思決定ないしは行動の事由である。
恐喝罪における脅迫とは,人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知をいい,その程度は人の反抗を抑圧するに至らない程度のものである(反抗を抑圧する場合は強盗罪となる)。
また,恐喝罪における脅迫は,脅迫罪における脅迫よりも対象範囲が広い。
脅迫罪においては,人の生命,身体,自由,名誉又は財産に対する害悪の告知が対象となるが,恐喝罪においては害悪の告知の対象・種類に制限がない。人の秘密をバラすなどブライバシー権の侵害に対する害悪の告知等も対象になる。
(恐喝)
刑法第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
ホストクラブでは,売掛金,売り掛け,カケなどと呼ばれる制度がある。
ホストクラブで飲食をした代金について,その場で支払わず,ツケ・カケにしておいて後から支払う旨の合意をすることだ。
このホストクラブでの売掛金について,ホスト個人が回収することが多くあるのが現状だ。
その際に,ホストが売り掛けをした客に対して脅迫をして恐喝罪で逮捕されてしまうケースがある。
売掛金が正当な債権であったとしても,違法な手段,脅迫を用いて回収する場合には,脅迫して財産を得たとして恐喝罪に該当するのだ。
今回の歌舞伎町のホストのケースでは,ホストが客に対して暴行を加えていたとのこと。また,「髪の毛全部焼くわ」などと,客の身体に対する害悪を告知していたとのこと。
暴行を加えられた相手からこのような言葉をかけられれば,通常,自身の身体に対して害悪が及ぶと畏怖するだろう。
事実関係が真実であれば,恐喝罪が成立することに間違いはないだろう。
実際に,ホストクラブで飲食をしていたとしても,恐喝被害にあった場合には,売掛金は支払わなくても良いのだろうか??
まず,今回のケースのようにホストが逮捕された場合,逮捕されたホスト側から示談の提案があることが多い。
なぜなら,逮捕されたホストにとっては,示談を成立させることにより,この後の刑事手続きが有利になる可能性があり,示談をしたいという思惑があるからだ。
そのホスト側との示談交渉の際に,売掛金債務は無効,その上で加えていくらかの示談金の支払いを要求して示談をするということになれば,売掛金の支払義務は無くなる。
次に,そのホストが客がホストクラブに来て,注文をした段階でも脅迫をしていた場合には,脅迫による注文の意思表示は取り消すことができ,ホストクラブの売掛金の支払義務は無くなる。
民法(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
さらに,注文時の状況や,注文内容,金額等も総合考慮して,当該売掛金自体が暴利行為にあたり,公序良俗に反するものであれば,売掛金債務を発生させる接待飲食物供給契約は無効となり,支払義務がなくなる。ホストによる売掛金回収時の暴行や脅迫というのは,公序良俗違反を判断する一要素になるものと考えられる。
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
以上のように,ホストが売掛金回収の際に脅迫をおこない,恐喝罪で逮捕された本件のようなケースでは,売掛金の支払義務自体が消滅する可能性があるといえるだろう。
恐喝容疑などで逮捕の元ホストを不起訴 東京地検
東京歌舞伎町にあるホストクラブの客の女性から現金を脅し取ったなどとして逮捕された元ホストの男性について、検察は28日までに不起訴にしました。
東京 歌舞伎町のホストクラブに勤務していた22歳の男性はことし7月、客の18歳の女性にライターの火を近づけるなどして、およそ74万円を支払う念書を書かせたほか、現金3万7000円を脅し取った疑いで逮捕されました。
警視庁によりますと、調べに対し容疑を否認していたということです。
この男性について、東京地方検察庁は捜査の結果、28日までに不起訴にしました。
検察は処分の理由を明らかにしていません。
NHKニュース 2020年9月28日 20時01分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200928/k10012638701000.html
恐喝罪で逮捕されていた歌舞伎町のホストが不起訴処分となった。
不起訴処分とは,検察が被疑者を起訴(公判請求)をしないという処分だ。
犯罪を犯したと疑われる被疑者について,警察・検察が捜査をして,検察官が起訴をすることにより刑事裁判となる。その刑事裁判で犯罪事実の有無や量刑が決められる。
不起訴処分ということは,検察官による起訴がされず,有罪にならないということだ。
不起訴処分の種類は3つある。
嫌疑なし,嫌疑不十分,起訴猶予だ。
嫌疑なしとは,警察・検察の捜査の結果,被疑事実・犯罪事実が無いと判断された場合の不起訴処分だ。
嫌疑不十分とは,警察・検察が捜査により得た証拠から犯罪を立証することが難しい場合の不起訴処分だ。
起訴猶予とは,証拠により被疑事実・犯罪事実を立証できるものの,その罪の重さや被疑者の境遇・態度などから起訴する必要がないと検察が判断した場合の不起訴処分だ。
今回のホストの恐喝事件の場合,被疑者であるホストが被疑事実を否認をしていたとのことなので,恐喝の事実が立証できないという嫌疑不十分により不起訴になった可能性も考えられる。
他方で,恐喝の事実を立証するに足りる証拠はあったのだが,被害者との示談が成立したなどの理由から起訴猶予により不起訴になった可能性も考えられる。
ホストクラブの売掛の回収方法等については,以下の記事も参照してほしい。