2021年7月9日、インターネット上のサイトにおいて、セクキャバの求人募集をしたとして、店舗経営者ら3名が逮捕された。
ニュース記事からは明らかではないものの、職業安定法違反(有害業務の募集)で逮捕されたものと考えられる。
そして、判例の解釈基準からすれば、本件については、争えば無罪判決が出る可能性があるだろう。
他方で、本件が職安法に違反するものだとすれば、風俗店などが求人サイトや自社サイトで求人募集をすることも違法になってしまいかねない。
そこで、本記事では、職業安定法の条文、判例について弁護士が解説をしていく。
まずは、ニュース記事をみてみよう。
求人サイトで募集…「セクシーキャバクラ」で卑猥な行為し働くよう勧誘か 風俗店運営会社の代表ら3人逮捕
名古屋の繁華街・錦三丁目のいわゆるセクシーキャバクラで、卑猥な行為をして働くよう勧誘したとして、男3人が逮捕されました。
逮捕されたのは、風俗店の運営会社の代表取締役〇〇容疑者(39)、会社役員〇〇容疑者(36)、風俗店従業員〇〇容疑者(50)の3人です。
警察によりますと、〇〇容疑者らは男性に積極的に触ったり自分の身体を触らせたりなどするセクシーキャバクラの従業員を、インターネットの求人サイトで募集するなどした疑いが持たれています。
6月、警察が店の捜査に入った際に、女性従業員から話を聞いたところ、犯行が明らかになったということです。
警察の調べに対し、〇〇容疑者は「私にはわかりません」と容疑を否認しています。
愛知県警は6月、この店を無許可で営業した疑いで〇〇容疑者らを逮捕しているほか、この店から用心棒代を受け取った疑いで、弘道会のナンバー3で「〇〇」総長〇〇容疑者(66)も逮捕しています。
(最終更新:2021/07/09 11:09) 東海テレビ https://www.tokai-tv.com/tokainews/article_20210709_179916
本件のニュース記事では、何罪で逮捕されたのかは明らかになっていない。
逮捕容疑は、セクキャバの従業員をインターネットの求人サイトで募集するなどした疑いであると記載されている。このことから職業安定法63条2号が定める有害業務の募集に違反して逮捕されてものと考えられる。
そして記事によれば、同店舗経営者は、無許可営業や暴力団排除条例にも違反する状態であったようだ。
職業安定法63条2号は、有害な業務に就かせる目的での労働者の募集を禁止しており、1年以上10年以下の懲役、20万円以上300万円以下の罰金という罰則を定めている。
第六十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。
一 省略
二 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者
有害業務の募集については、「有害な業務」という部分と、労働者の「募集」という部分に分かれる。
以下、分けて解説をする。
今回の事例では、セクキャバの求人募集が問題となっている。
セクキャバは「有害な業務」なのだろうか?
「有害な業務」とは,社会一般の道徳観念に反する業務をいい,労働者保護,善良な風俗の保護という観点から,判断される。
この点について、性風俗店が「有害な業務」に該当するとした判例(神戸地判平成14年7月16日)は、以下の理由をあげている。
・女性従業員をして,各個室内で不特定多数の男性客を相手にお互い全裸になった上で手淫,口淫等の性交類似行為をする業務に従事させていたと認められるという事実を認定し
・前記業務自体が,婦女の人としての尊厳を害し,社会一般の通常の倫理,道徳観念に反して社会の善良な風俗を害するという点で,売春との間に実質的な違いは認められないこと
・前記業務のような風営法所定の性風俗関連特殊営業は,同法1条所定の目的に照らすと,同法においても社会一般の道徳観念に反する行為であること
・職業安定法63条が専ら労働者保護を目的とする規定であること
性風俗店と職安法の有害業務の関係については、以下の記事も参照して欲しい。
以上の判例の見解からすれば、男性に積極的に触ったり自分の身体を触らせたりなどする業務をさせていたセクシーキャバクラは、有害な業務に該当する可能性が高そうです。
また、そもそも、セクシーキャバクラの業務は、風営法上、店舗型性風俗特殊営業に該当すると考えられるところ、多くのセクキャバでは、性風俗店の届出を出しておらず、キャバクラと同様の社交飲食店の営業許可により営業を行なっていると考えられる。
そうすると、風営法に違反する無届営業状態である可能性が高い。
加えて、本件のセクキャバでは、無許可営業、暴力団排除条例違反の状態であったことが報道されており、かなりの違法店であると考えられる。
そうだとすれば、本件セクキャバの業務は、労働者保護や善良な風俗の保護という観点からみて、社会一般の道徳観念に反する業務といえ、「有害な業務」といえるだろう。
前述の如く、職業安定法63条2号は、有害な業務に就かせる目的での労働者の募集を禁止している。
「労働者の募集」とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘すること(職業安定法4条5項)をいう。
(定義)
第四条 省略
⑤ この法律において「労働者の募集」とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいう。
この「勧誘」は、労働者となろうとする者に対し、被用者となるように勧め、あるいは誘うなどの働きかけのあることが必要であって、面接のなかでこのような働きかけをしたり、殊更雇用(労働)条件を偽るなど特別の事情がある場合は別として、前記契約締結の際における単なる面接や雇用(労働)条件の告知など労働契約締結に当然伴う行為は、労働者となろうとする者の意思決定に事実上影響を及ぼすことがあっても、勧誘に当たらないと解されている(大阪高判平成3年5月9日)。
すなわち、この「労働者の募集」といえるためには、単なる求人募集や、応募してきた人への仕事内容の説明や契約締結に必要な手続きでは足りず、これを超える積極的な働きかけが必要だといえる。
本件セクキャバの事件では、報道内容を見る限りだと求人サイトで募集をしただけのように読めるため、もしそうだとしたら、「労働者の募集」とはいえず、職業安定法違反の罪については、不起訴又は無罪になる可能性がある。
職業安定法は、同法六三条二号において、「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者」を処罰する旨規定し、同法五条五項において、「労働者の募集とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人をして、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいう。」と定義しているが、売春防止法一〇条のように、右の有害な業務に就くことを内容とする契約の締結行為自体を処罰の対象としていない上、労働基準法一五条が「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と規定し、右の有害な業務に就くことを内容とする契約も同条の労働契約から除外すべき理由がないこと(本件被告人経営の「リッチドール」の経営が労働基準法適用の事業に該当することは明らかである。)などにかんがみると、職業安定法五条五項にいう勧誘があるというためには、労働者となろうとする者に対し、被用者となるように勧め、あるいは誘うなどの働きかけのあることが必要であって、面接のなかでこのような働きかけをしたり、殊更雇用(労働)条件を偽るなど特別の事情がある場合は別として、前記契約締結の際における単なる面接や雇用(労働)条件の告知など労働契約締結に当然伴う行為は、労働者となろうとする者の意思決定に事実上影響を及ぼすことがあっても、なお右の勧誘に当たらないと解するのが相当である。
大阪高判平成3年5月9日
なお、求人募集時に労働条件を偽っていたケースなどでは過去にも逮捕事例があるので、以下の記事を参照して欲しい。
以上で見てきたように、違法な営業をしているであろうセクキャバの業務内容は職業安定法63条2号の「有害な業務」に該当するだろう。
他方で、労働者の「募集」といえるためには、応募してきた人と面接・契約をするのに必要な程度の事実の伝達や勧誘行為では足りず、積極的な勧誘が必要であると考えられるため、単なる求人サイトでの募集は労働者の「募集」には該当しない可能性が高い。
そのため、本件でのセクキャバにおける求人サイトでの募集が、単なる募集だけで積極的な勧誘行為がなかったのだとしたら、労働者の「募集」には該当せず、不起訴、無罪になる可能性があるだろう。
なお、職安法の有害業務の紹介でよく問題となるスカウトの違法性については、以下の記事を参照してほしい。