詐欺の被害金は、まず加害者に対して直接返金を求めるケースが一般的です。
そのうえで、当事者間での解決が難しい場合には、裁判を起こすことも選択肢に入ってきます。
しかし、裁判は何度も経験するものではないので、いざ着手しようとすると「何から始めたらよいのかわからない」「そもそも本当に裁判を起こすべきなのか自信をもてない」など、さまざまな疑問や不安が生じてくるものです。
実際に裁判の仕組みは理解しにくい部分も多く、手続きも煩雑なので、個人で進めていくことは難しいでしょう。
裁判を視野に入れるのであれば、まず弁護士に相談し、法的観点に基づいたアドバイスを受けることが大切です。
本記事では、詐欺の被害金を裁判で取り返す方法をわかりやすく解説します。
裁判を起こしたほうがよいケースや、裁判の流れ・期間・費用なども記載しているので、ぜひ参考にしてみてください。
詐欺の加害者に対して裁判を起こす2つの方法
まずはじめに、詐欺の加害者に対して裁判を起こす2つの方法を解説します。
民事訴訟と刑事告訴の2パターンが考えられるので、それぞれの特徴を詳しくみていきましょう。
民事訴訟|被害金の返還を求める
詐欺の加害者に対して裁判を起こす方法としては、まず「民事訴訟」が挙げられます。
民事訴訟は、被害金の返還を求めるためにおこなうものです。
裁判で勝訴すれば、強制力をもって被害金を取り戻すことができます。
ただし、詐欺事件では加害者が財産を使い切っていることも多く、勝訴したからといって、必ず被害金を回収できるわけではありません。
勝訴した場合に回収できる財産があるかどうかは、事前に調査しておく必要があります。
また、相手方の氏名・住所がわかっていなければ、訴訟を提起することすらできない点にも注意が必要です。
関連記事:
裁判による債権回収の流れと債権回収を実現するための3つのポイント
刑事告訴|加害者への刑罰を求める
詐欺の加害者に対しては、刑事告訴によって裁判を起こすことも選択肢のひとつに入ってきます。
刑事告訴は、警察や検察に対して被害の事実を伝え、加害者への刑罰を求めるためにおこなうものです。
刑事告訴をきっかけに捜査が進み、詐欺罪として起訴された加害者が刑事裁判で有罪になれば、「10年以下の懲役」の重い刑罰に処されることになります。
刑事告訴自体が被害金の返金に直接つながるわけではありませんが、刑罰をおそれた加害者が示談を申し入れてきて、スムーズな回収につながるケースも多くみられます。
また、刑事告訴をおこなえば、「被害回復給付金制度」によって被害金を回収できる可能性もあります。
被害回復給付金制度は、犯人からはく奪した財産を金銭化し、被害者に支給する公的制度のことです。
刑事告訴によって詐欺が刑事事件化し、被害回復給付金制度が適用された場合は、失ったお金を実質的に取り返すことができます。
詐欺被害に遭ったときに裁判を起こしたほうがよいケース
ここでは、詐欺被害に遭ったときに裁判を起こしたほうがよいケースを紹介します。
裁判を起こすには手間も時間もかかってしまうので、自身にとってどの程度のメリットがあるのか、慎重に見極めるようにしましょう。
交渉の余地がない場合
裁判を起こすべきケースとしては、まず「交渉の余地がない場合」が挙げられます。
前提として、詐欺の被害金は加害者との交渉のなかで回収するのが効率的で手間もかかりません。
しかし、加害者が任意の返金に応じるとは限らず、示談交渉が成立しないケースも多くみられます。
この場合には、裁判を通じて被害回復を目指すのが合理的な方法といえるでしょう。
裁判を通じて加害者に法的責任を追及すれば、強制力をもって被害金返還を求めることができます。
証拠があり、詐欺を立証できる場合
証拠があり、詐欺を立証できる場合も、裁判を起こしたほうがよいといえるでしょう。
裁判官はあくまでも中立の立場なので、十分な証拠がそろっていなければ、せっかく裁判を起こしても主張を認めてもらえません。
一方、客観的な証拠に基づく立証が可能であれば、詐欺の事実が認定され、被害金の返還命令や加害者への刑事罰が実現されやすくなるのです。
たとえば、投資詐欺に遭ったのであれば、メールやLINEでのやりとり、銀行口座の取引履歴などが重要な証拠になります。
ただし、証拠収集には専門知識が求められるため、まずは弁護士に相談することが重要です。
詐欺事件における裁判の流れと期間
次に、詐欺事件における裁判の流れと期間について解説します。
民事訴訟で裁判を起こす場合|審理期間は11ヵ月程度が平均的
民事訴訟で裁判を起こす場合、主に以下の流れで進行します。
詐欺の民事訴訟は、被害者が裁判所に訴状を提出することから始まります。
訴状には請求内容や事件の要点などを記載し、関連する証拠資料を添付するケースが一般的です。
次に、裁判所が訴状を審査し、問題がなければ加害者に送達されます。
その後、裁判所で口頭弁論期日が開かれ、当事者双方による主張や証拠の提出がおこなわれます。
必要に応じて、関係者への尋問などが実施されることもあります。
最後に、十分な審理がなされた段階で裁判官による判決が下されます。
民事裁判の期間はケースバイケースですが、令和3年における地方裁判所第一審の平均審理期間は10.5ヵ月です。(参考:令和4年司法統計年報概要版)
刑事告訴で裁判を起こす場合|審理期間は自白事件3ヵ月、否認事件11ヵ月程度が平均的
刑事告訴で裁判を起こす場合、以下のような流れで進行します。
まず、被害者が警察に告訴状を提出し、受理されると、加害者の取り調べや証拠収集などの捜査が開始されます。
その後、事件は検察に引き継がれ、さらなる捜査を経たうえで、起訴・不起訴が判断されることになります。
そして、起訴された場合は刑事裁判に移行し、以下の4つの手続きに沿って裁判が進行していきます。
【刑事裁判の基本的な流れ】
1.冒頭手続き|起訴状の朗読などにより裁判の趣旨や方向性を明らかにする 2.証拠調べ手続き|提出された証拠について、裁判所が審査し、評価する 3.弁論手続き|検察側と弁護側が事件に関する最終的な意見を述べる 4.判決の言い渡し|有罪なら刑が言い渡され、無罪なら釈放される |
刑事裁判の期間はさまざまですが、第一審の平均審理期間は自白事件の場合で3.2ヵ月、否認事件の場合で11.4ヵ月です。(参考:令和4年司法統計年報概要版)
詐欺事件の裁判にかかる費用
ここでは、詐欺事件の裁判にかかる費用を解説します。
なお、裁判にかかる費用は、事件の内容や依頼する法律事務所によって大きく変動するので、あくまでも参考程度にとどめておくようにしてください。
民事裁判の場合
一般的に詐欺事件で民事裁判を起こす場合は、裁判手続きに要する「訴訟費用」と法律事務所に支払う「弁護士費用」が発生します。
訴訟費用と弁護士費用の目安は、以下のとおりです。
【訴訟費用】
項目 | 金額 | |
---|---|---|
申立手数料 | 訴訟目的の価額が100万円まで | 10万円ごとに1,000円 |
100万円超~500万円 | 20万円ごとに1,000円 | |
500万円超~1,000万円 | 50万円ごとに2,000円 | |
1,000万円超~10億円 | 100万円ごとに3,000円 | |
郵便切手代 | 5,000~7,000円程度 | |
証人費用 | 1日あたり1~2万円程度 |
【弁護士費用】
項目 | 金額 |
---|---|
相談料 | 30分5,000円程度 |
着手金 | 10〜50万円程度 |
報酬金 | 得られた経済的利益の5~20% |
日当 | 1日あたり5万円程度 |
実費 | 事件の内容による |
民事裁判の訴訟費用は通常、裁判を起こす際に原告が立て替え、判決確定後に敗訴者が支払うことになります。
弁護士費用は、原則依頼者自身が負担しなければなりません。
ただし、詐欺事件のように、不法行為による損害賠償を請求する場合は、敗訴者に弁護士費用の一部を請求できることもあります。
刑事裁判の場合
刑事裁判を起こす場合に必要となるのは、以下の弁護士費用です。
【弁護士費用】
項目 | 金額 |
---|---|
法律相談料 | 30分5,000円程度 |
着手金 | 30〜50万円程度 |
報酬金 | 30~100万円程度 |
日当 | 1日あたり5万円程度 |
実費 | 事件の内容による |
弁護士費用は判決の内容に関わらず、依頼者自身が負担しなければなりません。
詐欺に関連する裁判事例
ここでは、詐欺に関する裁判事例を2つ紹介します。
リゾート会員権の預かり金を返還しない会社に約5,600万円の支払い命令
フィリピンでのリゾート会員権の預かり金が返還されなかったため、被害者5人が運営会社に対して訴訟を起こした事例です。
【事案】
都内リゾート会社の会員権を巡るトラブル。同社は1991年設立で、1口25万円の「預かり金」を支払った人に会員権を売却。会員は会員権の保有額によって施設利用券を交付され、利用券を会社が買い取るとして実質的な「利息」が月々支払われていた。新型コロナ禍による休業を理由に会社側が返金に応じずトラブルになっている。 |
(引用:「料亭で高齢者たちが現金を…老後不安につけ込まれ消えた”投資” 「信じてしまった」「逃げるなんて許せない」後悔と憤り リゾート会員権詐欺疑いの手口と実態」信濃毎日新聞デジタル)
弁護士らの調査によると、資金がリゾート運営のために使用された実態はなく、リゾート物件も実際には所有していなかったようです。
裁判では、預かり金名目で集めたお金を返還しないことは詐欺にあたるとし、被害者らの請求額どおり、運営会社に約5,600万円の支払い命令が出されました。
ロマンス詐欺で約280万円を騙し取った男性に懲役2年執行猶予4年の判決
オンライン上で知り合った複数の女性に恋愛感情を抱かせ、合計280万円以上をだまし取った40代男性が詐欺罪に問われた事例です。
【事案】
被告(48)は、オンライン上で知り合った富士河口湖町と鳥取県の40代の女性に、SNSのやりとりで恋愛感情を抱かせ「肺がんで今月もたないかもしれない。体を楽にしたいのでマッサージがしたい」などとうそを言い、おととし9月からことし7月までの間にあわせて現金280万円余りをだまし取ったとして、詐欺の罪に問われました。 |
<引用:“SNSロマンス”詐欺 執行猶予付き判決 甲府地裁都留支部(山梨NEWS WEB)>
裁判では、被害額が高額であることに加え、恋愛感情につけ込む行為は悪質性が高く、刑事責任も重いと指摘されました。
一方で、被害金が弁償され、示談も成立していることも考慮され、最終的には懲役2年に執行猶予4年が付されています。
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詐欺事件の裁判を起こすなら弁護士のサポートが必要不可欠
詐欺事件の裁判を起こす場合は、弁護士のサポートが必要不可欠です。
裁判で争うとなると、証拠の収集や裁判所とのやりとり、法廷での主張などやるべきことが数多くあります。
いずれの手続きも専門的な知識・経験を求められるため、自力での対応は現実的ではないでしょう。
場合によっては、被害者である自分自身が不利な立場に追い込まれる可能性もゼロではありません。
その点、詐欺事件が得意な弁護士であれば、法的な観点から事件を評価し、最適な戦略を立てることが可能です。
また、煩雑な手続きも全て任せられるので、仕事や家事で忙しい方でも無理なく裁判を進められるでしょう。
なにより、詐欺の被害に遭い、不安や焦りを感じている被害者にとって、弁護士という心強い味方がいることは大きな心の支えになるはずです。
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詐欺事件の裁判に関してよくある質問
最後に、詐欺事件の裁判に関してよくある質問を紹介します。
詐欺罪の時効は?
詐欺罪の時効には、刑事上の公訴時効と民事上の消滅時効の2種類があります。
まず、刑事上の公訴時効は7年です。
詐欺行為が終了した時点から7年が経過すると、加害者を起訴できなくなります。
民事上の消滅時効は、「被害者が被害と加害者を知ってから3年、または、不法行為のときから20年」です。
消滅時効が完成すると、加害者に対して損害賠償請求ができなくなります。
ただし、時効は一時的に停止させたり、更新させたりすることも可能です。
時効が迫っている場合には、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
訴訟詐欺とは?
訴訟詐欺とは、裁判所に対して虚偽の申立てをおこない、不正に勝訴判決を得ることで相手の財産を奪い取る行為を指します。
たとえば、裁判所からの通知を「どうせ詐欺だろう」と放置していると、架空の請求どおりに判決がなされ、差し押さえなどの強制執行を受けてしまうのです。
身に覚えのない通知が届いた場合などは、実際に裁判所へ連絡して詳細を確認したり、弁護士に相談したりするなど、しかるべき対応を取りましょう。
詐欺被害に遭ったときはグラディアトル法律事務所に相談を!
本記事のポイントは以下のとおりです。
- 詐欺の裁判を起こす方法は「民事訴訟」と「刑事告訴」の2種類ある
- 交渉の余地がなく、証拠がある場合は裁判を起こしたほうがよい
- 裁判を起こすには、裁判所に支払う訴訟費用と弁護士に支払う弁護士費用が必要
- 裁判を起こすなら弁護士のサポートは必要不可欠
詐欺被害に遭ったときは、裁判を起こすことも選択肢のひとつに入ってきます。
しかし、裁判への対応には手間と時間を要するため、弁護士のサポートが欠かせません。
詐欺事件に強い弁護士が味方についていれば、スムーズに裁判を進め、有利な判決を勝ち取れる可能性が高くなります。
実際に、グラディアトル法律事務所でもこれまで数々の詐欺事件に関与し、解決へと導いてきました。
経験豊富な弁護士が24時間体制で対応しているため、困ったときは一人で悩まず、いつでもお問い合わせください。
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