契約書なしでも未払い工事代金は回収できる?回収方法や注意点を解説

契約書なしでも未払い工事代金は回収できる

「工事を完成させて引き渡したのに、工事代金が未払いになっている」

「追加工事だったため契約書なしで取引を進めてしまった」

「契約書なしでも未払いの工事代金を支払ってもらえるのだろうか」

建設業界では、発注書や請書のやり取りだけで工事に着手するなど、請負契約書を作成しないケースも決して珍しくはありません

請負契約書を作成していなかったとしても、未払いの工事代金を請求することは可能です。

実際に契約書なしで請負契約を締結したという事案でも、当事務所が介入し、契約書以外の書類により契約関係を立証することにより、8割の金額で和解した事例もあります。

そのため、しっかりと証拠を集めて未払い工事代金の回収を進めていきましょう。

本記事では、

・契約書なしで請負契約の成立を立証する方法

・未払いの工事代金を回収する方法

・工事代金の未払いを防止するためにできること

などをわかりやすく解説します。

建設工事などの工事代金は、高額になるケースもありますので、対応が難しいときは早めに弁護士に相談するようにしましょう。

1 契約書なしでも未払い工事代金は回収できる!

契約書なしでも未払いの工事代金は回収できる

「請負契約書がないと工事代金の回収はむずかしいのでは?」と考える方も少なくありません。

しかし、結論からいえば、請負契約書がなかったとしても、未払い工事代金の回収は可能です。

そもそも請負契約は、当事者の合意だけで成立し、契約の成立にあたって請負契約書の作成は要件とはされていません。また、建設業法では、契約書の作成および交付が義務付けられていますが(建設業法19条1項)、建設業法に違反したからといって、請負契約そのものが無効になることもありません。

そのため、請負契約書以外の証拠により契約の成立や工事代金を立証することができれば、契約書なしでも未払いの工事代金を回収することができます。

2 契約書なしで契約の成立を立証する方法

契約書なしで契約の成立を立証する資料

請負契約書がない場合には、どのような方法で契約の成立およびその内容を証明していけばよいのでしょうか。

2-1 契約書以外の資料により立証する

請負契約書がなかったとしても、以下のようなものがあれば請負契約の成立およびその内容を証明できる可能性があります。

・発注者に提示した工事代金の見積書

・発注者から送付された工事の発注書

・受注者から送付した工事の請書

・発注者と受注者との間で交わされた工事の打ち合わせ記録

・工事内容に関するメールやLINEのやり取り

・工事に必要な材料の購入履歴や現場への搬入記録

・人工(にんく)の手配記録や報酬支払明細

これらの証拠は、単一で利用するよりも複数組み合わせて利用する方がより効果的に立証を行うことができます。

たとえば、見積書・発注書と同内容の請書があれば、見積書・発注書の内容で工事を注文し、請書によりこれを承諾したことがわかります。

また、見積書があり、発注者と受注者とのその後のLINEのやりとりで見積書の内容に従って工事を進めているようなものがあれば、見積書の内容で当事者が合意していたことがわかります。

さらに、工事の打ち合わせ記録を残しておけば、追加・変更工事があったとしても、合意の有無を立証することが可能になります。

そのため、契約書なしで工事を進めるのであれば、これらの証拠をきちんと残しておくことが大切です。

2-2 商法に基づく報酬請求権を行使する

契約書がなく、契約書以外の証拠も残されていない場合には、請負契約の立証ができませんので、請負契約に基づいて工事代金の請求をすることはできません。

しかし、以下の事実を主張立証することで、商法512条に基づいて相当額の工事代金を請求することができます

・受注者が商人であること

・受注者が工事を行い完成させた

・工事が発注者の営業の範囲内の行為として、受注者のために行われたこと

ただし、商法512条に基づき請求できるのは、「相当額の工事代金」になりますので、こちらが想定していた工事代金を支払ってもらえない可能性もありますので注意が必要です。

3 未払いの工事代金を回収する方法

未払いの工事代金を回収する方法

未払いの工事代金を回収する場合には、以下のような方法で行います。

3-1 目的物の引き渡しを拒否する|同時履行の抗弁権・商事留置権

工事完了後まだ目的物の引き渡しが済んでいないなら、同時履行の抗弁権や商事留置権を行使して、目的物の引き渡しを拒むことができます。

同時履行の抗弁権とは、相手方が債務を提供するまで自己の債務の履行を拒否できる権利です。請負契約では、報酬支払い義務と目的物引渡し義務が同時履行の関係になりますので、目的物の引き渡しを拒むことで、間接的に報酬の支払いを強制させることができます。

商事留置権とは、以下の4つの要件を満たす場合に発生します。

・両当事者が商人である

・商行為により生じた債権が存在している

・支払い期限が到来している

・債権者が債務者の所有物を保管している

このような要件を満たしている場合、債権者は、商事留置権に基づいて、債務者の所有物の返還を拒否することができます。これにより間接的に支払いを強制させる効果が期待できます。

3-2 発注者に未払い工事代金の支払いを催告

工事代金が期限までに支払われないときは、すぐに発注者に対して未払いの工事代金の支払いを催促します。この場合の方法は、電話、FAX、メール、LINEなどいずれの方法でも可能です。

単に期限を忘れていたという場合であれば、催促をすればすぐに対応してくれるでしょう。

3-3 内容証明郵便を送付

上記の方法で催促しても工事代金を支払ってもらえないときは、内容証明郵便を利用して工事代金の支払いを催促してみましょう。

内容証明郵便は、送った文書の内容や受け取った日などを証明してくれる郵便方法に過ぎませんので、支払いを強制するまでの効力はありません。しかし、これに応じなければ法的手続きがとられてしまうという不安を相手に与えることができますので、相手が支払いに応じてくれる可能性が高くなります。

3-4 支払督促・少額訴訟・通常訴訟

相手との交渉では支払いに応じてくれないときは、速やかに法的手段に移行します。未払い工事代金を回収する法的手段には、主に以下の3つの方法があります。

なお、支払督促や少額訴訟であれば、弁護士なしでも対応可能ではあるものの、「契約書のない」工事代金の回収については、工事についての請負契約の成立を立証する必要がありるため、弁護士に依頼するのがベターでしょう。

通常訴訟になれば、より弁護士のサポートが必要です。

【支払督促】

支払督促とは、債権者からの申立てのみに基づいて、簡易裁判所の裁判所書記官が債権者に対して、金銭などの支払いを命じる制度です。

簡易かつ迅速に権利を実現できる方法ですが、債務者から異議申立てがあると通常訴訟に移行してしまいます。

【少額訴訟】

少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを求める際に利用できる簡易裁判所の手続きで、原則として1回の審理で終了します。

支払督促と同様に迅速にトラブルを解決できますが、相手に不服があれば通常訴訟に移行してしまいます。

【通常訴訟】

訴訟を提起して、請負契約書以外の証拠で未払い工事代金を立証することができれば、裁判所から相手に対して、工事代金の支払いを命じる判決を出してもらうことができます。

判決が確定すれば、相手の財産を差押えるなどの強制執行の申立てが可能です。

3-5 強制執行の申立て

判決が確定しても相手が任意に工事代金の支払いを行わないときは、強制執行の申立てを行います。相手に差押えるべき財産があれば、それを差押えて強制的に未払いの工事代金を回収することができます。

3-6 特定建設業者の立替払い制度の利用

工事代金の未払いが生じると、従業員への賃金の支払いも滞ってしまうことがあります。このようなケースについては、特定建設業者の立替払い制度(建設業法41条3項)を利用すれば、賃金相当額の立替払いを受けられる可能性があります。

ただし、国土交通省または都道府県知事による立替払いの勧告は、裁量によって行われますので、必ずしも要望通り勧告が行われるわけではない点に注意が必要です。

4 契約書なしで未払いの工事代金を請求する場合の注意点

契約書なしの未払い工事代金を請求する際の注意点

契約書なしで未払いの工事代金を請求する場合には、以下の点に注意が必要です。

4-1 契約の成立・内容が立証できなければ敗訴するリスクがある

契約書がなくても未払いの工事代金を請求することはできますが、その場合には、契約書以外の証拠で契約の成立およびその内容を立証していかなければなりません。

十分な証拠がない状態では、裁判などの法的手続きを行ったとしても、敗訴してしまうリスクがあります。そのため、契約書がない場合には、それ以外の資料をしっかりと残しておくことが大切です。

4-2 工事代金請求権には時効がある

工事代金請求権には、以下のような消滅時効が定められています。

・2020年4月1日以降の請負契約……工事完成から5年

・2020年3月31日以前の請負契約……工事完成から3年

消滅時効期間が経過し、相手から時効の援用があると、未払いの工事代金があったとしてもそれを請求することができなくなってしまいます。

工事代金の時効は、以下のような方法で時効の進行をストップまたはリセットすることができますので、時効完成が迫っている場合には、すぐに適切な対策を講じることが大切です。

・内容証明郵便による支払いの催告

・支払督促の申立て

・少額訴訟の提起

・通常訴訟の提起

4-3 訴訟提起前に仮差押えを検討する

裁判は、訴えの提起から判決までに一定の期間がかかりますので、その間に債務者により財産が処分されてしまうと、勝訴判決を得たとしても、未払いの工事代金を回収することができなくなってしまいます。

そのため、訴訟提起前に仮差押えという保全処分を検討する必要があります。仮差押えとは、裁判所が債務者の財産を仮に差押えることで、債務者による自由な処分を禁止する手続きです。建設工事では、工事代金も高額になる傾向がありますので、工事代金の支払いを受けられずに経営破綻するリスクを回避するためにも、仮差押えが必要です。

5 工事代金未払いのトラブルでお困りの方はグラディアトル法律事務所に相談を

未払いの工事代金でお困りの方はグラディアトルへ

契約書なしでの工事代金未払いのトラブルでお困りの方は、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。

5-1 契約書なしでも契約の成立を立証できるか判断できる

契約書がなくても未払いの工事代金を回収することは可能ですが、そのためには他の証拠により契約内容などを立証していかなければなりません。

しかし、どのような証拠が必要になるかは、事案によって異なります。手持ちの証拠だけで争うことができるのかは、まずは専門家である弁護士により判断してもらう必要があります。グラディアトル法律事務所には、債権回収に関する豊富な知識と実績がありますので、契約書がない工事代金のトラブルについても適切なアドバイスをすることができます。

5-2 最適な債権回収の方法をアドバイスしてもらえる

未払い工事代金の回収方法にはさまざまな方法があります。債権回収はスピード勝負といわれますので、数ある手段の中から最適な方法を選択して実行していかなければなりません。

任意の交渉で回収を目指すのか、いきなり仮差押えの申立てや訴訟提起をすべきかは状況によって判断が異なります。グラディアトル事務所では、設立当初から債権回収に関するトラブルに取り組んできましたので、トラブル解決のためのさまざまなノウハウやツールを蓄積しています。それにより最適な債権回収の方法を提案することができますので、まずは当事務所までご相談ください。

5-3 裁判や強制執行などの法的手続きを任せることができる

相手が任意に未払い工事代金の支払いに応じてくれないときは、裁判や強制執行などの法的手続きが必要になります。

しかし、不慣れな方では、どのように手続きを行えばよいかわからず、時間ばかり経過してしまい、適切な債権回収のタイミングを逃してしまうおそれもあります。未払いの工事代金の支払いを催促しても応じてくれないときは、法的手続きが必要になる可能性がありますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

6 契約書なしで未払いの工事代金の回収に成功した事例

契約書なしの工事代金未払い回収の事例

依頼者と相手方はともに工事業者で、相手方とは、取引先の紹介により知り合いました。

取引先を含めての工事の際は、問題なく代金を支払ってもらっていたため、相手方からの請負工事の注文を受けた際には、特に契約書を取り交わすことなく受注しました。

相手方からは、計3件の注文を受けましたが、仕事を終えた1件目の請求をしても何かと理由をつけて支払われず、結局、3件の仕事を完成させたものの、まったく支払われず埒もあかない状態になってしまいました。

対応に困った依頼者は、当時所に相談し、依頼することになりました。弁護士は、相手方の態度や依頼者の希望を踏まえて、訴訟提起を行い、それぞれの工事内容・代金などについて争われたものの、結果として約8割の金額での和解により解決に至りました。

7 工事代金の未払いを防止するためにできること

工事代金の未払いを防止するためにできること

工事代金の未払いが生じると、回収できたとしても時間や労力が無駄になってしまいます。そのため、工事代金の未払いを起こさないための対策が重要になります。

7-1 契約書を作成する

工事代金の未払いに関するトラブルを防ぐためには、契約書を作成することが重要です。

契約書があれば、それだけで契約の成立および内容立証できますので、契約の成否や契約内容をめぐるトラブルを回避することができます。

建設業界では、契約書を作成せずに取引を進めてしまうことも多いと思いますが、契約書があれば防げるトラブルも多数あります。そのため、契約書は必ず作成するようにしましょう。

グラディアトル法律事務所では、契約書の作成や取引先から提出された契約書のリーガルチェックにより工事代金の未払いに関するトラブルを防止するサポートができます。また、顧問契約をした企業様に対しては、さまざまな取引に役立つ契約書のテンプレートをお渡しすることもできますので、ぜひご活用ください。

7-2 見積書などの契約内容を明らかにできる資料を残しておく

契約書がなくてもそれ以外の証拠があれば、契約内容を証明することができます。

取引先とやり取りをする際には、

・取引先から送られてきた書類

・取引先に送った書類

・工事の打ち合わせをした記録

・メールやLINEのやり取り

などが重要な証拠になる可能性もありますので、しっかりと整理して保管しておくようにしましょう。

7-3 連帯保証人を付ける

裁判で勝訴判決を得たとしても、相手に支払い能力がなければ未払いの工事代金を回収することはできません。このような事態を回避するには、契約時に親会社や代表者個人を連帯保証人にすることも検討するとよいでしょう。

特に、建設工事では工事代金が高額になる傾向がありますので、連帯保証人が付いていれば、万が一の事態があっても連帯保証人から未払いの工事代金を回収することが可能になります。

7-4 定期的に経営状態を確認する

工事代金の未払いは、取引先の経営状態の悪化を原因として起きることが多いです。

取引先の経営状態を確認することなく、漫然と取引を続けていると、ある日突然、取引先が破産してしまうという事態にもなりかねません。

そのため、定期的に取引先の経営状態を確認することが大切です。具体的には、取引先への定期訪問や定期連絡、共通の同業者や関係者との情報交換、業界ニュースや動向にアンテナを張っておくなどの行動が考えられます。

8 まとめ

建設業界では、契約書なしで取引を進めて工事に着手してしまうことも珍しくありません。このような場合でも契約書以外の証拠により証明できるのであれば、未払いの工事代金を請求することが可能です。ただし、債権回収はスピードが命ですので、未払いの工事代金が発生した場合には、すぐに弁護士に相談する必要があります。グラディアトル法律事務所には、債権回収に関する豊富な知識と実績がありますので、まずは当事務所までご相談ください。

Bio

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。
東京弁護士会所属(登録番号:50133)
男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。