「貸したお金の返済を求めているが、一向に返済に応じてもらえない」
「長期間支払いに応じてもらえない債権があるため時効にならないか心配」
「時効が完成すると債務者から支払いを受けることができなくなる?」
債権回収はスピードが命と言われています。
その主な理由は、債権には消滅時効という制度があるからです。
すなわち、一定期間権利を行使することなく放置していると、時効により権利が消滅してしまいますので、債権回収が困難になります。
ただし、債権の消滅時効には、「時効の完成猶予」や「時効の更新」といった時効の完成を阻止する制度があります。
ですので、適切な措置を講じることで時効の完成を防ぐことも可能です。
本記事では、
・債権回収における消滅時効期間
・時効の完成を阻止する方法としての「時効の完成猶予」と「時効の更新」
・時効完成後の債権回収の可否
などについてわかりやすく解説します。
迅速な債権回収を実現するには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
したがって、債務者からの支払いや返済が滞ったときは、すぐに弁護士に相談し、債権回収に着手するようにしましょう。
債権回収における消滅時効とは?
消滅時効とは、権利を行使することなく一定期間が経過すると権利が消滅してしまう制度のことをいいます。
たとえば、友人にお金を貸した場合、返済期日を過ぎても返済がなくそのまま放置しているだけと、一定期間の経過に伴う消滅時効により貸金の返還を求める権利が失われてしまいます。
すなわち、消滅時効が完成してしまうと、債権回収の可能性はまずなくなることになります。
一方、時効が迫っているとはいえ、まだ完成していない場合には、後述する「時効の完成猶予」または「時効の更新」を行うことにより、時効の完成を阻止することが可能です。
そのため、債権を有している方は、ご自身の状況に応じて適切な手段を選択し、消滅時効を完成させずに債権回収に動く必要があります。
債権回収の消滅時効期間
2020年4月1日施行の改正民法により消滅時効の期間について、大きな改正が行われました。
債権の発生時期に応じて、適用される消滅時効の期間が変わりますので、以下で詳しく説明します。
現行民法での消滅時効期間|2020年4月1日以降に発生した債権
現行民法(改正民法)での消滅時効期間は、以下のように定められています。
・債権者が権利を行使できるときから10年を経過したとき(客観的起算点)
・債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年を経過したとき(主観的起算点)
すなわち、客観的起算点と主観的起算点のうち、いずれか早く到来した日に消滅時効が成立することになっています。
ただ、契約に基づく債権であれば、期限が到来したときに権利行使が可能になり、債権者も権利行使が可能であることを認識するのが通常です。
たとえば、2024年7月31日を返済期限とするお金の貸し借りの場合、その日に貸主は借主に返済するよう請求可能かつそれを知ったといえるからです。
そのため、客観的起算点と主観的起算点は一致するケースがほとんどです。
したがって、消滅時効期間は、基本的には債権者が権利を行使できるとき(債務の履行期)から5年と考えておけばよいでしょう。
旧民法での消滅時効期間|2020年3月31日以前に発生した債権
ちなみに旧民法での消滅時効期間は、権利を行使できるときから10年と定められていました。
しかし、原則的な時効期間を10年としながら、債権の種類ごとに以下のような異なる消滅時効期間が定められていたことには注意が必要です。
債権の種類 | 時効期間 |
旅館・飲食店などの料金 | 1年 |
演芸を業とする者の報酬債権 | |
運送料金 | |
生産者、卸売、小売商人の商品代金 | 2年 |
弁護士報酬 | |
注文により物を制作したり、他人のための仕事を業とする職人の報酬 | |
病院の治療費 | 3年 |
工事業者・設計士の報酬 | |
商取引で生じた債権 | 5年 |
時効の完成を阻止する方法①|時効の完成猶予
方法 | 詳細 |
裁判上の請求 | 裁判上の請求、支払督促、訴え提起前の和解、調停、破産・再生・更生手続きへの参加 事由終了後6か月間猶予 |
強制執行 | 強制執行、担保権の実行、形式競売、財産開示手続 申立ての取下げ・取り消し後6か月間猶予 |
仮差押え・仮処分 | 仮差押え、仮処分 事由終了後6か月間猶予 |
催告 | 債務履行請求の意思表示後、6か月間猶予 手段として内容証明郵便の送付が一般的 重ねて行うことはできない |
協議の合意 | 書面による協議の合意。 合意から1年、協議期間経過、 協議続行拒絶通知後6か月のいずれか早い時点まで猶予 |
天災その他避けることのできない事変 | 天災などで時効更新措置が取れない場合 障害消滅後3か月間猶予 |
時効の完成猶予とは、時効期間の進行をストップさせ、一時的に時効の完成を阻止することができる制度です。
以下では、各時効の完成猶予事由を説明します。
裁判上の請求
時効の完成猶予事由としての裁判上の請求には、以下の事由が挙げられます。
・裁判上の請求
・支払督促
・訴え提起前の和解
・調停
・破産、再生、更生手続きへの参加
これらの事由が生じた場合には、事由の終了時まで時効の完成が猶予されます。
なお、確定判決などにより権利が確定することなく事由が終了した場合は、終了後6か月が経過するまで時効の完成が猶予されます。
強制執行
時効の完成猶予事由としての強制執行には、以下の事由が挙げられます。
・強制執行
・担保権の実行
・形式競売
・財産開示手続
これらの事由が生じた場合には、事由の終了時まで時効の完成が猶予されます。
なお、申立ての取下げや取り消しの場合は、そのときから6か月が経過するまで時効の完成が猶予されます。
仮差押え・仮処分
債権者が債務者に対して、「仮差押え」や「仮処分」をした場合、事由が終了したときから6か月を経過するまで時効の完成が猶予されます。
催告
催告とは、債権者が債務者に対して、債務の履行を請求する意思表示をいいます。
催告があった場合、催告時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予されます。
催告の手段としては、その証拠としても利用できる内容証明郵便の送付が一般的です。
ただし、催告による時効の完成猶予は、重ねて行うことができません。
したがって、再度催告をしたとしても、さらに6か月間時効の完成が猶予されるわけではないことには注意が必要です。
権利について協議を行う旨の書面による合意
債権者と債務者が権利についての協議を行う旨の合意を書面でした場合、以下のいずれか早いタイミングまで時効の完成が猶予されます。
・合意があったときから1年を経過したとき
・当事者が協議を行う期間を定めたときは、その期間が経過したとき
・協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知のときから6か月を経過したとき
天災その他避けることのできない事変
天災その他避けることのできない事変が生じ、時効の更新措置をとることができないときは、それらの障害が消滅したときから3か月を経過するまで時効の完成が猶予されます。
まとめ
裁判上の請求、強制執行、仮差押え・仮処分は、法的手続きですので専門的な知識が必要になります。
また、権利について協議を行う旨の書面による合意は、債務者の協力が必要です。
そのため、債権者個人でも行いやすい手続としては、催告による時効の完成猶予になります。
具体的には、催告の効果があり、かつその証拠ともできる内容証明郵便の送付を債務者に行うことを検討・実施するのがよいでしょう。
時効の完成を阻止する方法②|時効の更新
方法 | 詳細 |
裁判上の請求 | 裁判上の請求、支払督促、訴え提起前の和解、調停、破産・再生・更生手続きへの参加 確定判決などにより権利が確定した場合に時効が更新される |
強制執行 | 強制執行、担保権の実行、形式競売、財産開示手続 手続きが取下げや取り消しされず完了した場合に時効が更新される |
承認 | 債務者が債権の存在を認めること 債務者による承認があった時点で時効が更新される |
時効の更新とは、時効期間の進行をリセットし、時効の完成を阻止することができる制度です。
以下では、各時効の更新事由を説明します。
裁判上の請求
時効の更新事由としての裁判上の請求には、以下の事由が挙げられます。
・裁判上の請求
・支払督促
・訴え提起前の和解
・調停
・破産、再生、更生手続きへの参加
これらの手続きが途中で終了することなく、確定判決などにより権利が確定した場合、時効の更新となります。
強制執行
時効の完成猶予事由としての強制執行には、以下の事由が挙げられます。
・強制執行
・担保権の実行
・形式競売
・財産開示手続
これらの手続きが取下げや取り消しによって終了することなく、手続きが完了した場合、時効の更新となります。
承認
承認とは、債務者が時効期間の満了までに債権者に対して、その権利(債務)の存在を認めることをいいます。
たとえば、少額であっても債務者からの返済や債務者に一筆を書かせることが承認にあたることになります。
債務者による承認があった場合、そのときから時効の更新となります。
まとめ
裁判上の請求、強制執行は、法的手続きですので、どうしても専門的知識や経験が必要になります。
そのため、債権者個人で行うのであれば、承認による「時効の更新」を選択すべきでしょう。
具体的には、債務者から少額であっても返済を受けられれば、債権全体について時効の更新の効果が生じますので、少しの金額でもよいので債務者から返済をしてもらうようにしましょう。
また、あらためて借用書(債務承認弁済契約書)を書かせることも「承認」にあたりますので、こちらも検討するとよいでしょう。
時効が完成した場合でも債権回収はできる?
時効が完成した場合でも債権回収が可能なケースがあります。
債務者による時効の援用により効果が生じる
消滅時効は、時効期間が経過しただけでは効果が生じず、債務者による「時効の援用」が必要になります。
時効の援用とは、時効の完成によって利益を受ける人が時効の完成を主張することをいいます。
たとえば、債務者から「借金の時効が完成したから、返済しません」という意思表示がなされれば、時効の援用があったことになります。
そのため、時効期間が経過した後であっても、債務者による時効の援用がなければ問題なく債権回収を行うことができるということになります。
債務者が債務の存在を認めれば時効の援用はできなくなる
時効期間完成後に債権回収を進めていくと、債務者が債務の存在を認めたり、一部の返済に応じてくれることがあります。
このような時効完成後の債務承認があった場合、債権者としては、債務者がもはや時効の援用をしないだろうとの期待を抱くことになりますので、時効の援用が制限されることになります。
すなわち、時効完成後の債務承認があった場合には、債務者による時効の援用は認められず、時効期間経過後であっても債権回収を行うことが可能となります。
時効完成後でも相殺できる
債務者に対する債権が時効になっている場合でも、時効により消滅する以前から相殺できる状態であれば、債権者が債務者に対して負っている債務を相殺することが可能です。
たとえば、貸している100万円が時効になっていたとしても、債務者に支払わなければならない商品代金100万円と時効消滅前より相殺できたのであれば、相殺ができることになります。
そのため、債権者が債務者に対して債務を負っている場合には、相殺することにより債権回収を図ることもできます。
債権回収の時効に関する悩みを弁護士に相談するメリット
債権回収の時効に関してお悩みの方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
時効期間についてアドバイスしてもらえる
消滅時効期間は、債権発生時期に応じて適用される法律が異なり、時効期間も変わってきます。
また、時効期間の計算ではどの時点から時効期間がスタートするのかという「起算点」が重要になるところ、正確に判断するには専門家である弁護士のアドバイスが不可欠となります。
ご自身での判断が難しいと感じるときは、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
時効の完成を阻止するためのサポートができる
時効の完成が迫っている場合、そのままでは大切な権利が時効により失われてしまいます。
そして、時効の完成を阻止するには、「時効の完成猶予」または「時効の更新」の措置を講じる必要がありますが、そのためには法的知識が不可欠です。
弁護士であれば、迅速に時効の完成を阻止するための措置を講じることが可能ですので、大切な権利が失われてしまうのを回避することができます。
債権回収の手続きを任せられる
時効の問題がクリアしたら、本題である債権回収を進めていく必要があります。
当事者同士の話し合いで解決が難しい場合には、訴訟や強制執行などの法的手段を執ることになりますが、一般の方にはなかなか難しい手続きといえます。
弁護士であれば、法的手段が必要になった場合でも問題なく手続きを進めることが可能ですので、自分で対応が難しいと感じるときは、すぐに弁護士に相談しましょう。
債権回収はグラディアトル法律事務所にお任せください
債権回収はスピードが命と言われています。
時間が経てば経つほど債権回収の可能性は低下していきますので、債務者による支払いや返済が滞ったときはすぐに債権回収に着手する必要があります。
自分だけで対応できない方は、弁護士に依頼して債権回収を進めていくことになりますが、弁護士であれば誰でもよいというわけではありません。
迅速な債権回収を実現するためには、債権回収に強い弁護士に相談することが重要です。
グラディアトル法律事務所は、債権回収に関する豊富な実績と経験がありますので、債権回収に関してお困りの方は、まずは当事務所までご相談ください。
債権回収に関する相談は、初回相談料無料ですのでお気軽にお問い合わせください。
まとめ
債権には消滅時効がありますので、時効期間が経過するまえに債権回収に着手することが重要です。
万が一、時効期間が迫っている債権があるという場合でも「時効の完成猶予」や「時効の更新」により時効の完成を阻止することができますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
最後に、債権回収に関するトラブルは、債権回収に強いグラディアトル法律事務所にお任せください。