「支払督促の申立てをしたところ、債務者から異議を申し立てられてしまった」
「支払督促に対する異議申し立てとは何なのか?」
「債務者から異議申し立てがあると、どのような対応が必要になるのだろうか?」
支払督促は、書面審査のみで裁判所が債務者に対して金銭の支払いを命じてくれる法的手続です。
ですので、個人でも簡単かつ迅速にできる債権回収の手段といえます。
しかし、債務者から異議申し立てがあると、支払督促は通常の訴訟手続きに移行します。
そうなると、裁判所に出廷したり、証拠に基づいて形式に沿った主張や立証を行わなければならず、専門的知識がない限り個人での対応は困難になります。
したがって、債務者から異議申し立てが予想される場合には、最初から弁護士に依頼して通常訴訟の手続きを進めた方が解決までの期間はむしろ短くなるといえます。
本記事では、
・支払督促に対する異議申し立てとは?
・異議申し立てによる訴訟移行後の手続きの流れ
・支払督促の手続きを利用する際の注意点
などについてわかりやすく解説します。
ご自身で支払督促の手続きを進める際にも弁護士のアドバイスが有効となりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
支払督促に対する異議申し立てとは?
支払督促とは、債権者からの申立てのみに基づいて、簡易裁判所の書記官が債務者に対して金銭などの支払いを命じる手続きです。
書面審査のみで強制執行に必要となる債務名義を取得できますので、裁判所に出向く必要がなく、簡易かつ迅速に債権回収を行うことができる手段といえます。
しかし、債務者からすると、書面審査だけで金銭の支払いが命じられてしまうと、反論の機会がなく不当な支払い命令が出るリスクがあります。
そこで、債務者の権利や利益を保護するために認められた制度が「異議申し立て」です。
支払督促の申立てに納得できない債務者は、異議申し立てをすることにより、通常の訴訟手続きで争うことが可能になります。
なお、支払督促の流れについては、以下の記事をご参照ください。
「支払督促とは?手続きの流れや異議・訴訟移行後の流れなどを解説」
異議申し立てのタイミング
債務者が支払督促に対して異議申し立てをするタイミングには、以下の2つのタイミングがあります。
支払督促に対する異議申し立て
債権者が簡易裁判所に支払督促の申立てをすると、簡易裁判所の書記官から支払督促が発布されます。
債務者は、裁判所から支払督促正本の送達を受けた日から2週間以内であれば、異議申し立てを行うことができます。
債務者が支払督促の内容に誤りがあるなどの理由で納得していない場合には、このタイミングで異議申し立てがなされる可能性があります。
仮執行宣言付支払督促に対する異議申し立て
債務者が支払督促正本の送達を受けた日から2週間を経過しても異議申し立てがない場合には、債権者は、簡易裁判所に仮執行宣言の申立てをすることができます。
仮執行宣言とは、支払督促に執行力を付与する手続きで、強制執行をするために必要な手続きです。
債権者から仮執行宣言の申立てがあると、簡易裁判所の書記官は、仮執行宣言を発布し、債務者に対して「仮執行宣言付支払督促正本」が送達されます。
債務者は、裁判所から仮執行宣言付支払督促正本の送達を受けた日から2週間以内であれば、異議申し立てを行うことができます。
債務者が支払督促の内容には納得しているものの、強制執行されるのは避けたいと考えている場合や一度目の異議申立ての期間に間に合わなかった場合には、このタイミングで異議申し立てがなされる可能性があります。
まとめ
このように、債務者は、「支払督促」と「仮執行宣言付支払督促」という2つのタイミングにおいて、異議申立てをすることができます。
債権者側からみれば、通常の訴訟手続きに移行してしまうリスクが2回もあるということを意味します。
異議申し立てに理由は不要
支払督促が債権者個人でも簡単に利用できる手続きであるように、異議申し立ても債務者個人で簡単に行うことができます。
具体的には、裁判所から債務者に送達された書類に含まれている「督促異議申立書」に必要事項を記載して、裁判所に郵送するだけで済みます。
督促異議申立書の記載事項としては、主に以下のようなものになります。
・作成日
・債権者名
・債務者名
・住所
・電話番号
異議申立てにあたっては、詳しい理由を示すことまでは要求されていませんので、督促異議申立書に異議申立ての理由の記載は不要です。
債務者が異議申し立てをする3つの典型例
債務者が異議申し立てをする典型例としては、以下の3つが挙げられます。
このようなケースに該当する場合には、債務者から異議が出る可能性が高いといえるでしょう。
請求内容に誤りがある
支払督促は、債権者からの一方的な申立てにより金銭などの支払いが命じられる制度です。
裁判所では書面審査を行いますが、あくまで形式に沿って記載されているかなど不備がないかどうかの確認がメインとなります。
それゆえ、仮に請求内容に誤りがあったとしても、債務者からの異議申し立てがなければ支払督促が発布されることになります。
請求内容に誤りがあるケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。
・金額が違う
・返済期限がまだ来ていない
・借りたものではなくもらったものだ
・借りたけれどもすでに返済した
上記のような請求内容に誤りがある場合、債務者からすればもちろん納得のいかない支払督促ということになります。
したがって、請求内容に誤りがあるケースでは、支払督促を受け取った債務者から異議申し立てがなされる可能性が高いといえます。
時効が成立している
債権には、一定の期間の経過により権利が消滅することになる時効という制度があります。
時効が完成すると、債務者が時効の成立を主張(援用)することで、債権者は金銭の支払いを求めることができなくなってしまいます。
これは逆に言えば、債務者が時効の成立を主張(援用)していない限りは、時効が完成していても金銭の支払い請求自体は可能ということになります。
それゆえ、時効が完成した債権であっても、債務者が時効の成立を主張(援用)していない限りは支払督促の申立てをすることができます。
とはいえ、時効の完成を知った債務者からすれば、時効の成立を主張(援用)することで、金銭を支払わなくていいという恩恵を受けられるメリットがあります。
したがって、時効が成立しているケースでは、債務者から異議申し立てがなされる可能性が高いといえます。
支払いが困難なため分割払いを希望する
請求内容に誤りがなく、時効が成立していなくても、債務者が異議申し立てを行う典型例があと1つあります。
それは、支払いが困難なため分割払いを希望するケースです。
異議申し立てを行うと通常の訴訟手続きに移行されることになります。
そして、通常の訴訟手続きにおいては、後述するよう和解により解決することもあり得ます。
すなわち、通常の訴訟手続きに移行させ、和解による分割払いに応じてもらえる可能性を求めるべく、債務者が異議申し立てを行うということです。
それゆえ、支払いが困難なため分割払いを希望するケースでも、債務者から異議申し立てがなされる可能性が高いといえます。
支払督促に対する異議申し立ての効果
支払督促に対する異議申し立てがあった場合、法的にはどのような効果が生じるのでしょうか。
仮執行宣言発付前の異議申し立ての場合
債務者に支払督促正本が送達された日から2週間以内に異議申し立てがあった場合、支払督促は効力を失い、通常の民事訴訟の手続きに移行します。
仮執行宣言発付前の異議申し立てにより、債権者は、通常の民事訴訟の手続きにおいて、請求内容を証拠に基づいて主張立証していかなければならないことになります。
仮執行宣言発付後の異議申し立ての場合
債務者に仮執行宣言付支払督促正本が送達された日から2週間以内に異議申し立てがあった場合、通常の民事訴訟の手続きに移行するという点は、仮執行宣言発付前の異議申し立ての場合と同様です。
しかし、仮執行宣言発付後の異議申し立てにおいては、支払督促の効力自体は残ることになります。
そのため、債権者は、債務者から異議申立てがあったとしても、仮執行宣言付支払督促に基づき強制執行の申立てが可能です。
ただし、債務者から異議申立てとともに強制執行停止の申立てがあった場合には、仮執行宣言付支払督促に基づいて強制執行を申し立てることは不可能になります。
異議申し立てによる訴訟移行後の手続きの流れ
債務者から異議申し立てがあると支払督促の手続きは、通常の民事訴訟の手続きに移行します。
以下では、異議申し立てによる訴訟移行後の手続きの流れを説明します。
第1回口頭弁論期日
債務者から異議申し立てがあると、通常の訴訟手続きに移行し、裁判所から第1回口頭弁論期日が指定されます。
債権者(原告)および債務者(被告)は、指定された期日に裁判所に出廷する必要があります。
支払督促の手続きは、裁判所に出向く必要はありませんでしたが、通常訴訟に移行すると、期日ごとに裁判所に出向く必要があります。
続行期日
第1回口頭弁論期日では、トラブルが解決しなかったときは、次回以降の期日(続行期日)が指定されます。
債務者に対して金銭の支払いを求めるためには、債権者の側で債権の存在および内容を証拠により立証していかなければなりません。
また、通常の民事訴訟では、主張や反論がある場合には、「準備書面」という書面に記載して裁判所に提出しなければなりません。
争点が明確になるまで期日は繰り返され、期日は1か月から1か月半に1回のペースで行われますので、解決までにはある程度の期間がかかるでしょう。
和解勧試
期日を繰り返し、主張立証が出尽くした段階で、裁判所から和解の打診が行われることがあります。
裁判所が提示する和解案を当事者双方が検討し、和解に応じる場合には、和解成立により裁判手続きは終了となります。
証拠調べ期日
和解が不成立となった場合、その後も審理が続行し、証拠調べ期日が行われます。
証拠調べ期日では、証人および当事者が裁判所の証言台に立ち、尋問を受けることになります。
テレビドラマなどでよくみる証人尋問の場面をイメージしてもらえればよいでしょう。
判決
民事訴訟の手続きでは、当事者からの主張立証を踏まえて、最終的に裁判所が判決というかたちで結論を言い渡すことになります。
支払督促の手続きを利用する際に知っておくべき5つのポイント
支払督促の手続きを利用する際に知っておくべきポイントとしては、以下の5つが挙げられます。
異議申し立てが予想される場合は最初から通常訴訟を利用する
債務者との交渉段階から債権の存在や内容に争いがある事案では、支払督促の申立てをしても、ほぼ確実に異議申し立てがなされることでしょう。
このような事案で支払督促の手続きを利用しても、余計に時間がかかるだけです。
したがって、異議申し立てが予想される場合には、最初から通常の民事訴訟の手続きを利用した方がよいといえます。
債権回収における裁判については、以下の記事も併せてご覧ください
「裁判による債権回収の流れと債権回収を実現するための3つのポイント」
異議申し立てがあっても時効の完成猶予は継続する
時効の完成が迫っているという場合には、支払督促の申立てをすることで、時効の完成を猶予することができます。
支払督促による時効の完成猶予の効果は、債務者から異議申し立てあったとしても継続します。
すなわち、異議申し立てにより時効の完成猶予の効果が失われるという心配はありません。
なお、通常の民事訴訟により判決が出れば、時効は更新され、判決確定から10年間は時効になる心配もありません。
通常訴訟では証拠に基づく立証が必要
支払督促であれば、簡単な書面審査のみで金銭の支払いを命じてもらうことができます。
しかし、異議申し立てにより通常の訴訟手続きに移行すると、債権者の側で債権の存在および内容を立証していかなければなりません。
すなわち、訴訟手続きでは、証拠の有無によって結論が左右されることになります。
したがって、しっかりと証拠を集めておかなければ、通常の訴訟手続きで敗訴するリスクがあることは注意が必要です。
債務者が支払督促の受け取り可能な住所の把握
支払督促正本は、通常の民事訴訟とは異なり、債務者の住所や就業先がわらなかったとしても、公示送達により送達することはできません。
公示送達とは、所在のわからない相手に対して書類を送達するための特別な手続きで、裁判所の掲示板に掲示することで送達があったものとみなす制度です。
公示送達を利用できないということは、債務者の住所がわからなければ支払督促を利用できないということになります。
そのため、まずは債務者が支払督促の受け取りが可能な住所を把握する必要があります。
なお、債務者の住所がわからない場合の詳しい対処法については、以下の記事をご参照ください。
「貸したお金を回収したいけど住所がわからない場合の対処法を解説」
強制執行まで見据えるなら債務者の財産の特定
仮執行宣言付き支払督促が発付された後も債務者から支払いがない場合は、強制執行の手続きにより、債務者の財産から強制的に債権回収を実現することができます。
しかし、強制執行の手続きを利用する際には、債権者の側で債務者の財産を特定して行わなければなりません。
すなわち、債務者の財産がわからない状態では、強制執行の申立てをすることができないことになります。
したがって、支払督促後の強制執行まで見据えるなら債務者の財産を特定しておくことも重要です。
支払督促に対する異議申し立てがあったときは弁護士に相談を
債務者から支払督促に対する異議申し立てがあったときは、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。
通常訴訟の対応を任せることができる
債務者から支払督促に対する異議申し立てがあると、簡単な支払督促の手続きから、複雑な民事訴訟の手続きに移行してしまいます。
民事訴訟の手続きになると、一般の方ではまず対応が困難ですので、専門家である弁護士のサポートが必要になります。
グラディアトル法律事務所では、債権回収に関する豊富な経験とノウハウがあり、異議申し立てから通常の訴訟手続きに移行した事案についても多数取り扱った実績もあります。
ご自身で通常訴訟を行うと、敗訴してしまうリスクもありますので、まずは当事務所までご相談ください。
判決確定後は強制執行の手続きの対応が可能
通常訴訟で勝訴判決を得たとしても、債務者が任意に支払いに応じてくれるとは限りません。
判決確定後も支払いに応じてくれないときは、強制執行の申立てをすることで、債務者の財産から強制的に債権回収を実現することができます。
ただ、強制執行の手続きも、対象となる財産ごとに手続きが異なるなど複雑で、やはり弁護士のサポートは必要不可欠です。
迅速かつ確実に強制執行の手続きを進めていくためにも、債権回収に強い当事務所にご相談ください。
債務者の財産がわからないときでも特定できる
裁判所に強制執行の申立てをする際には、債権者の側で債務者の財産を特定して申立てを行わなければなりません。
弁護士であれば、債務者の財産がわからないという事案でも、以下のような方法により債務者の財産を特定することが可能です。
・債務名義取得後の金融機関への全店照会
・財産開示手続
・第三者からの情報開示手続
ご自身では債務者の財産がわからないという場合でもすぐに諦めるのではなく、遠慮なく当事務所までご相談ください。
まとめ
支払督促は、非常に簡単な債権回収の手段ですので、法的知識がない方でも気軽に利用することができます。
しかし、債務者の権利保護の観点から異議申し立てという手続きが設けられており、債務者から異議申し立てがあると通常の民事訴訟の手続きに移行してしまいます。
通常の民事訴訟の手続きは、非常に複雑な手続きですので、知識や経験がなければなかなか適切に対応することができません。
最後に、債務者から異議申し立てがありお困りの方は、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。