債権回収には差し押さえが有効!差し押さえの対象財産や流れを解説

債権回収には差し押さえが有効!差し押さえの対象財産や流れを解説

「取引先から商品代金が支払われない」
「相手が任意に支払いに応じてくれないときはどうすればよいの?」
「債権回収で使われる差押えはどのような手続き?」

お金を貸したのに返してもらえない、売掛金が支払われない、家賃の支払いが遅れているなど債権回収でお悩みの方も少なくないでしょう。

相手が任意に支払いに応じてくれないときは、最終的に「差し押さえ」という方法により債権回収を実現することができます。

差し押さえは、強制的に相手の財産から未払いの金銭を回収できる強力な手段です。

ただ、手続きの利用にあたってはいくつか注意すべきポイントがあります。

債権回収の確率を上げるためにも、それらのポイントをしっかり押さえておくことが大切です。

本記事では、

・債権回収のために差し押さえることができる財産とできない財産

・債権回収のための差し押さえの流れ

・差し押さえのために必要になる財産調査の方法

などについてわかりやすく解説します。

債権回収の手段としての差し押さえとは?

差し押さえとは、債務者による財産の処分を禁止する手続きです。

債権回収は、債務者の財産を対象にして行いますが、債務者により財産が処分されてしまったり、名義を変えられてしまうと実際に回収を行うことができなくなってしまいます。

そのため、差し押さえにより、財産の処分を禁止するのです。

差し押さえというと、一般的には、債務者の財産から強制的に債権回収を行うイメージを持たれる方が多いかもしれません。

しかし、強制的に債権回収を行うのは、強制執行という手続であり、差し押さえは強制執行の手続の一手段して用いられるものになります。

債権回収のために差し押さえることができる財産

債権回収のために差し押さえることができる債務者の財産には、主に、以下のような財産があります。

債権回収のために差し押さえることができる財産

債権(預貯金)

債務者に預貯金がある場合、債務者は、銀行などの金融機関に対して、預貯金の払戻しを請求する権利を有しています。

このような権利を「預貯金債権」といいます。

預貯金債権は、差し押さえの対象財産となります。

したがって、預貯金債権を差し押さえることで、債務者の預貯金から債権回収を実現することが可能です。

なお、預貯金債権の差し押さえは、差し押さえ時点で存在する預貯金額が対象になります

ですので、差し押さえ後に入金された預貯金については差し押さえの効力は及びません。

債権(給与)

債務者が会社に雇用されている場合には、会社から債務者に対して支払われる給与債権も差し押さえの対象財産となります。

そのため、債務者の勤務先を把握しているのであれば、給与債権の差押えを検討してみるとよいでしょう。

なお、給与債権に対する差し押さえは、預貯金債権に対する差し押さえとは異なる点があります。

それは、一度差し押さえをすれば、債務者が退職しない限りは、未払い債権を全額回収できるまで差押えの効力が続くという点です。

動産

動産とは、土地や建物などの不動産以外の物をいいます。

差し押さえの手続では、以下のような動産が差し押さえの対象となります。

・宝石
・貴金属
・高級腕時計
・ブランドバッグ
・什器、備品
・機械
・電化製品
・現金
・有価証券(株券、手形、小切手など)
     

自動車

債務者名義の自動車がある場合には、自動車も差し押さえの対象に含まれます。

自動車は、法律上は動産として扱われています。

ただ、強制執行の手続では、動産執行ではなく、自動車執行という特別な手続になりますので注意が必要です。

不動産

債務者が土地や建物などの不動産を所有している場合には、不動産を差し押さえることができます。

不動産は、一般に他の財産に比べて価値の高い財産です。

したがって、不動産を差し押さえることができれば、債権回収の可能性は大幅にアップします。

ただし、不動産に抵当権が設定されている場合には、一般の債権者より抵当権者が優先されます。

※抵当権者の典型例:住宅ローンを組んで不動産を購入した際の当該金融機関

そのため、差し押さえに成功したとしても、抵当権者に優先的に配当される結果、差し押さえをした債権者にはほとんど配当されないということもありえます。

ですので、差し押さえを行う前に、登記簿を確認し抵当権者がいるかどうかチェックすることは必須です。

差し押さえが禁止されている財産

債務者名義の財産であればどのようなものであっても差し押さえできるわけではありません。

以下では、法律上差し押さえが禁止されている財産を紹介します。

差し押さえが禁止されている財産の一覧

差押禁止動産

民事執行法131条では、債務者の生活や仕事、信教・宗教、教育、プライバシーへの配慮という観点から以下の動産の差し押さえを禁止しています。

・債務者等の生活に欠くことのできない衣服、寝具、家具、台所用具、畳および建具
・債務者等の1か月間の生活に必要な食料および燃料
・現金66万円まで
・債務者の職業に応じて、その業務に欠くことのできない器具その他の物
・実印その他の印で職業または生活に必要なもの
・仏像、位牌その他礼拝または祭祀に必要な物
・債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿など
・債務者またはその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
・債務者等の学校等における学習に必要な書類及び器具
・発明または著作に係る物で、未公表のもの
・債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
・建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により
設備しなければならない消防用の機械または器具、避難器具その他の備品

差押禁止債権

差し押さえが禁止されている債権には、以下のものが挙げられます。

・給与債権のうち4分の3の部分(給与が44万円を超える場合は33万円)
・国民年金、厚生年金などの各種年金の受給権
・生活保護受給権
・児童手当受給権

債権回収のための差し押さえの流れ

以下では、差し押さえ対象財産に応じた債権回収のための強制執行の手続きの流れを説明します。

債権回収のための差し押さえの流れ

給与や預貯金を差し押さえる債権執行の流れ

給与や預貯金を差し押さえるときは「債権執行」という手続きを利用します。

債権執行は、以下のような流れで行います。

債権差押命令の申立て

債権執行の手続きを利用する場合、以下の書類を準備して、管轄裁判所に債権差押命令の申立てを行います。

・債権差押命令申立書  
・当事者目緑
・請求債権目録
・差押債権目録
・執行文の付与された債務名義      
・債務名義の送達証明書           

債権差押命令の送達

債権差押命令の申立てが裁判所に受理されると、裁判所から第三債務者(銀行や勤務先など)に対して債権差押命令が送達されます。

第三債務者に債権差押命令が送達されると、差し押さえの効力が発生し、第三債務者から債務者への弁済が禁止されます。

すなわち、差し押さえた金額に基づいて、給与であれば勤務先はその支払いを、預貯金であれば債務者による出金や振込ができなくなります。

なお、債務者への債権差押命令の送達は、第三債務者への送達から1週間程度遅れて行われます。

取り立て

第三債務者に債権差押命令が送達されてから1週間が経過すると、債権者による取り立てが可能になります。

債権者は、第三債務者に連絡し、自分に対して直接支払いを行うよう要求することができます。

動産を差し押さえる動産執行の流れ

動産を差し押さえるときは「動産執行」という手続きを利用します。

動産執行は、以下のような流れで行います。

動産執行の申立て

動産執行の手続きを利用する場合、以下の書類を準備して、管轄裁判所に動産執行の申立てを行います。

・動産執行申立書
・当事者目緑
・動産執行を行う場所の略図
・執行文の付与された債務名義        
・債務名義の送達証明書

動産の差し押さえ

動産執行は、対象となる動産の所在地に執行官が出向いて、動産の差し押さえを行います。

差し押さえた動産については、債務者に勝手に処分されないようにするために、債権者(または執行官)が持ち帰って保管することになります。

差押動産の換価(売却)

執行官は、動産の差し押さえから1か月以内に売却期日を決定して、動産の売却を実施します。

動産の売却方法としては、専門業者による買い取り以外にも債権者自身で購入する方法もあります。

不動産を差し押さえる不動産執行の流れ

不動産を差し押さえるときは「不動産執行」という手続きを利用します。

不動産執行は、以下のような流れで行います。

不動産強制競売の申立て

不動産執行の手続きを利用する場合、以下の書類を準備して、管轄裁判所に不動産強制競売の申立てを行います。

・不動産強制競売申立書
・当事者目緑
・請求債権目録
・物件目録
・執行文の付与された債務名義      
・債務名義の送達証明書

開始決定・差押

不動産強制競売の申立てが受理されると、債務者に不動産競売開始決定通知が送達され、対象となる不動産が差し押さえられた旨の登記が行われます。

売却の準備

裁判所は、執行官や評価人に調査を命じて、対象不動産について詳細な調査を行い、以下の三点セットを作成します。

・物件明細書
・現況調査報告書            
・評価書

また、裁判所は、評価人の評価に基づいて売却基準価額を定めます。

売却の実施

不動産の売却方法としては、定められた期間内に入札を行う期間入札という方法が一般的です。

入札期間内に一番高い価額をつけた人が不動産を落札し、代金の納付を行います。

配当

不動産の売却代金は、差し押さえ債権者や配当要求をした他の債権者に対して、法律上の順位に従って配当されます。

債権回収のための差し押さえの費用

債権回収のための差し押さえにかかる費用には、以下のものがあります。

・強制執行の手続きを利用する際に必要になる費用
・弁護士に強制執行の手続きを依頼した場合に必要になる費用

強制執行の手続きを利用する際に必要になる費用

強制執行の手続きを利用する際には、以下のような費用が発生します。

強制執行の手続きを利用する際に必要になる費用

【債権執行の費用】

債権執行にかかる費用の項目および相場は以下のようになっています。

・申立手数料(収入印紙)……4000円(請求債権が1個の場合)
・郵便切手……3000~5000円(裁判所により異なる)

【動産執行の費用】

動産執行にかかる費用の項目および相場は以下のようになっています。

・申立手数料(収入印紙)……4000円(請求債権が1個の場合) 
・郵便切手……3000~5000円(裁判所により異なる)
・予納金……3~5万
・解錠技術者費用……1~5万円

【不動産執行の費用】

不動産執行にかかる費用の項目および相場は以下のようになっています。

・申立手数料(収入印紙)……4000円(請求債権が1個の場合) 
・郵便切手……94円
・予納金……50万円~(裁判所により異なる)
・登録免許税……請求債権額の1000分の4

弁護士に強制執行の手続きを依頼した場合に必要になる費用

弁護士に強制執行の手続きを依頼すると、上記の費用に加えて、以下のような弁護士費用も必要になります。

相談料

弁護士に債権回収の相談をすると相談料が発生します。

相談料の相場は、1時間あたり1万1000円(税込)となっています。

着手金

弁護士に強制執行の手続きを依頼すると、まずは着手金という費用が発生します。

着手金の相場は以下のようになっています。

経済的利益の額 着手金
300万円以下 経済的利益の額×4%
300万円を超え3000万円以下 経済的利益の額×2.5%+4万5000円
3000万円を超え3億円以下 経済的利益の額×1.5%+34万5000円
3億円を超える 経済的利益の額×1%+184万5000円

報酬金

報酬金とは、依頼した事件の成果に応じて事件終了時に発生する費用です。

報酬金は、一般に強制執行の手続きにより回収できた金額を基準に計算されます。

報酬金の相場は以下のようになっています。

経済的利益の額 報酬金
300万円以下 経済的利益の額×4%
300万円を超え3000万円以下 経済的利益の額×2.5%+4万5000円
3000万円を超え3億円以下 経済的利益の額×1.5%+34万5000円
3億円を超える 経済的利益の額×1%+184万5000円

債権回収のために差し押さえを利用する際の注意点

債権回収のために差し押さえを利用する際には、以下の点に注意が必要です。

債権回収のために差し押さえを利用する際の注意点

事前に相手の財産を調査する

強制執行の手続きにより債務者の財産を差し押さえるためには、債権者の側で差し押さえ対象となる債務者の財産を特定して、裁判所に申立てをする必要があります。

裁判所が自らの職権で債務者の財産を調査して差し押さえをしてくれるわけではありません。

したがって、債権者自身で、事前に相手の財産を調査し、財産の有無および内容を明らかにする必要があります。

財産調査の詳しい方法については、後述します。

仮差押えの利用を検討する

強制執行の手続きを利用するためには、その前提として債務名義を取得する必要があります。

代表的な債務名義としては、確定判決がありますが、確定判決を得るためには、時間をかけて裁判を行わなければなりません。

事案によっては、判決が出るまでに1年以上もかかることもありますので、その間に債務者に財産を処分されてしまう可能性があります。

財産が処分されてしまうと、時間をかけて裁判で勝ったとしても、差し押さえる財産がないことになり、すべてが無駄になってしまいます。

そのようなリスクを回避するためには、訴訟提起前に仮差押えの利用を検討する必要があります。

仮差押えは、債務者の財産を仮に差し押さえることで、債務者による財産処分を禁止することができる手続きです。

仮差押えをすれば、裁判中に債務者により財産が処分されることを防げますので、より確実に債権回収を実現することが可能です。

なお、仮差押えについての詳しい内容については、こちらの記事をご参照ください。

https://www.gladiator.jp/false-pretenses/2024/05/12/debt-recovery-provisional-foreclosure

債権回収の差し押さえのための財産調査方法

債権回収で債務者の財産を差し押さえるためには、事前に債務者の財産を調査し、特定する必要があります。

そのための財産調査方法には、以下のようなものがあります。

債権回収の差し押さえのための財産調査方法

弁護士会照会

弁護士会照会とは、弁護士だけが利用できる特別な調査方法で、官公庁や企業などの団体に対して、必要事項の調査・照会をすることができる制度です。

差し押さえを行う際によく利用する弁護士会照会としては、金融機関に対する全店照会というものがあります。

全店照会とは、簡単に言うと、当該金融機関に債務者が口座を持ってるかどうか、持っている場合には口座情報や預金残高を照会するものです。

債務名義を取得した後であれば、金融機関に対する全店照会を行うことで、以下の情報を取得することができます。

・預貯金口座の有無           
・支店名
・口座科目
・回答日現在の残高

預貯金債権の差し押さえをするためには、債務者が有する預貯金口座の支店名まで特定する必要がありますが、弁護士会照会の全店照会を利用すればこれが可能になります。

財産開示手続き

財産開示手続きとは、債権者が債務者から財産に関する情報を取得するための手続きです。

債務者が裁判所からの出頭命令により財産開示期日に出頭し、財産状況を陳述することで、不明であった債務者の財産を明らかにすることが可能となります。

以前は、債務者の不出頭や虚偽陳述に対する罰則が30万円以下の過料という軽い制裁であったため、不出頭や虚偽陳述がなされるなど実効性の乏しい制度でした。

しかし、2020年4月の民事執行法改正により、不出頭や虚偽陳述の罰則が強化され、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるようになりました。

実際、法改正以降、不出頭や虚偽陳述をした債務者が逮捕・起訴されたケースもあります。

これにより以前に比べて財産に関する情報を取得できる可能性が高くなりました。

第三者からの情報取得手続き

2020年4月の民事執行法改正により、新たに第三者からの情報取得手続きが導入されました。

従前は、債務者本人から財産に関する情報の開示を受ける財産開示手続きのみでしたが、法改正により、債務者以外の第三者から以下の情報を取得することが可能になりました。

・債務者の所有する不動産に関する情報    
・債務者の給与債権に関する情報
・債務者の預貯金等に関する情報

新たに導入された第三者からの情報取得手続きを利用すれば、これまで財産が特定できず泣き寝入りしていた事案でも、債権回収を実現できる可能性があります。

債権回収のための差し押さえをお考えの方はグラディアトル法律事務所まで相談を

債権回収のための差し押さえをお考えの方はグラディアトル法律事務所まで相談を

債権回収のための差し押さえをお考えの方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。

債権回収に関する豊富なノウハウ・実績をもとにしたサポートが可能

民事執行法の改正により以前よりも債務者の財産の特定が容易になったとはいえ、専門的な知識や経験がなければ新たに導入された制度も利用することが困難です。

また、弁護士会照会は、個人では利用できず、弁護士に依頼することが必要不可欠です。

グラディアトル法律事務所では、開設当初より債権回収案件を多く手がけてきたことから、債権回収に関する豊富なノウハウ・実績を有しています。

ですので、個人では債権回収が困難な事案であっても、適切な手段を用いることにより、債権回収を実現できるようサポートすることが可能です。

少しでも債権回収の可能性を上げるためには、弁護士のサポートが必須ですので、まずは当事務所までご相談ください。

債権回収にかかる労力や負担を軽減

債権回収の手段としての差し押さえを利用するためには、対象となる財産ごとに異なる手続きが必要になるのは上述したとおりです。

ただ、どのような財産を対象にして差し押さえをすべきかは、事案に応じて判断しなければならず、差し押さえの利用経験がない個人で判断するのは相当困難と言わざるを得ません。

それが弁護士に依頼すれば、複雑で判断が難しい差し押さえの手続きをすべて任せることができます。

債権回収にかかる労力や負担を軽減したいと思っている方は、遠慮なく当事務所までご相談ください。

まとめ

債務者が任意に支払いに応じてくれないときは、強制執行の申立てを行い、債務者の財産を差し押さえることで、債務者の財産から強制的に債権回収を実現することができます。

しかし、差し押さえにあたっては、事前に債務者の財産を特定する必要があります。

ですので、差し押さえにあたって債務者の財産を自身で特定できないという方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士であればさまざまな手段により債務者の財産を調査することが可能だからです。

最後に、債権回収でお困りの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

Bio

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。
東京弁護士会所属(登録番号:50133)
男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。