結婚詐欺(婚活詐欺・恋愛詐欺)とは
「結婚詐欺(婚活・恋愛)詐欺」とは、一般に、結婚(婚活・恋愛)する意思がないにもかかわらず、結婚(婚活・恋愛)を餌にして異性に近づき、相手を騙して金品を巻き上げたり、返済の意思もないのに金品を借りたりする詐欺行為をいいます。
昔から行われてきた典型的な詐欺行為ですが、それが最近では、婚活パーティーや男女が相席する居酒屋やラウンジなど男女が出会う場所、また、婚活・恋活・出会い系サイトやマッチングアプリなどネット上で、「婚活詐欺」や「恋愛詐欺」というかたちでも行われているケースが多くなっています。
いずれにせよ共通する点としては、結婚・交際したい意思や恋愛感情を利用して詐欺を行う点にあります。
被害者は、金品を騙し取られる財産的被害にくわえて、心まで弄ばれたことによる精神的被害も受けるため、その意味で質の悪い態様の詐欺の1つといえます。
どこからが結婚詐欺にあたる行為か?
どこからが結婚詐欺にあたる行為なのでしょうか?
結論からいうと、結婚する意思がないにも関わらず、結婚する意思があると嘘をつき、騙されて錯誤に陥った相手から財産や財産上の利益を得る行為が結婚詐欺にあたる行為です。
刑法上の詐欺罪(刑法246条)の構成要件は、以下の4つです。
- 疑罔行為(嘘をつくこと)
- 錯誤(騙されてしまうこと)
- 財物の交付(お金を払うなど)
- 因果関係(嘘をつかれたから騙され、騙されたからお金を払ったこと)
これを結婚詐欺に当てはめると、以下のようになり、どこからが結婚詐欺に当たる行為かが明らかになります。
- 結婚する意思がないのに結婚する意思があると嘘をつき
- 結婚してくれると誤信して錯誤におちいり騙されて
- お金を渡してしまう
- これらの間には因果関係がある
(詐欺)
刑法
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
上記の構成要件に当てはまれば、結婚詐欺は詐欺罪に該当することになります。
また、民事上も不法行為(民法709条)に該当し、慰謝料や相手に騙されて交付してしまった金銭的な損害について、損害賠償請求ができます。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(財産以外の損害の賠償)
民法
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
もっとも、上記の構成要件に該当しない場合にも、民事上の返金請求や損害賠償請求ができることがあります。お金を貸していた場合には貸金返還請求ができるでしょうし、貞操権侵害があった場合には、慰謝料等の損害賠償請求ができるでしょう。
結婚詐欺の返金方法の詳細は、以下の記事をご参照ください。
また、結婚詐欺での慰謝料請求については、以下の記事をご参照ください。
結婚詐欺(婚活・恋愛詐欺)の特徴
男の詐欺師であれ女の詐欺師であれ、自らのスペック、具体的には学歴や経歴、職業、趣味に至るまで高い条件に偽っていることが多いです。
たとえば、男の詐欺師であれば、一流大学を卒業し、一流企業に勤務または会社を経営。医者や弁護士であるということも。趣味はゴルフやマリンスポーツ、車や時計、美術品の収集など偽っていることがよく見受けられます。
一方、女の詐欺師であれば、いわゆるお嬢様大学を卒業し、アパレルや美容系の店舗を経営。趣味は華道や茶道、料理など偽っていることがよくあるパターンです。
この理由は、まず自らを高い条件と偽って、結婚や出会いを求める異性から魅力的に見せる目的があります。
また、のちに金品を騙し取る上で、その時点ではあくまでもいったん借りるだけ、肩代わりしてもらうだけと装うために、返済する能力や財産があることを示す目的もあります。
結婚詐欺師の手口
交際直前または交際後まもなくの時点で、「交際や結婚したいが不都合な障害や問題がある」と打ち明けてくるのが通例です。
その不都合な障害や問題というのは、下記のような内容が挙げられます。
- 親や兄弟が大きな病気や事故に遭ったため手術など必要で多額の医療費がかかる
- 親や兄弟、お世話になった上司や先輩に借金があり、立て替えてあげたい
- 土地や建物、株式など有望な投資の話、店舗の開業や会社の設立などで資金が必要
そして、このようなことを伝えた後のお決まりのフレーズが、 「支払うお金や資産はもちろん持っているのだが、(定期の解約や資産の換金は避けたい、資金繰りのタイミングが合わないなど何かと理由をつけて)現在はそのお金がたまたま用意できないので、いったん立て替えてほしい。すぐに返すから。」 というものです。
交際直前または交際後まもなくという点で恋愛感情が芽生えていること、また、偽りであるものの返済する能力や財産を示していることから、すぐに返してくれるなら立て替えてもという気持ちにさせるように仕向けさせるのです。
それでも渋る場合には、「交際する相手、将来結婚する相手を信じてくれないなんて・・・」などと追い打ちをかけてきます。
交際したい、結婚したいという気持ちを逆手に取るためです。
また、そもそも手持ちがないと言った場合には、クレジットカードや金融機関のキャッシュカードのキャッシング枠を使うように促したり、なかにはカード自体を作成してほしいとまで伝えてくる詐欺師もいます。
このように何とかしてお金を引き出そうと詐欺師は行動してきます。
それから、いざ立て替えるとなると、金銭の引渡し方法について現金手渡しを要望してきます。
振込となると証拠が残ってしまうからです。
ただ、いわゆるトバシの口座を持っている場合には、振込でも大丈夫と言ってきますが、振込先は他人名義の口座であることがほとんどです。
そうして、いちどでも金銭を渡してしまうと、詐欺師は「あと少し足りない」「追加でどうしても必要になった」などと言ってさらに要求してきます。
いちど金銭を渡してしまったことで心理的ハードルが下がっていることにつけこみ、巻き上げられるだけ巻き上げようという魂胆です。
その後は、取れる限りの金銭を取り切った、また、そうでなくても返済の催促を執拗に言われる、詐欺ではないかと疑われていることに勘付いたりすると、徐々に距離を置きはじめ、会う頻度や連絡回数を減らしていきます。
結果、最終的には連絡しても連絡がつかない状態になります。
なお、お金を巻き上げるまでに、待ち合わせ場所では職場付近、デートでは自宅やその付近を詐欺師は選びません。
職場や住所を偽っているので、それがバレることを防ぐためです。
結婚詐欺(婚活詐欺・恋愛詐欺)の手口に騙されない対策
出会いの段階では、スペックが高ければ高いほど、具体的な話を聞くのがいいでしょう。
まず、もらえるなら名刺をもらう。もらえなかったとしても、企業に勤めているなら企業名はもちろんのこと役職や部署、会社や店舗を経営しているなら社名や店舗名に所在地、また、仕事内容などを聞き出せる限り聞き出すのがベターです。
このとき、聞いても仕事の話を避ける、抽象的な内容に終始するなら、疑った方がいいかもしれません。
再度会う約束をした段階では、その日までに出会った際に相手が話していた内容について、辻褄が合っているのか調べておくのがよいです。
ネットで名前をはじめ勤務先、会社や店舗について検索するのもさることながら、会社や店舗を経営しているのならば、その所在地に出向いて現実に存在するか確認してみたり、登記を取得するのもいいかもしれません(登記は法務局に行けば誰でも取得可能です。)。
実際、「名前を検索したら、詐欺被害を案内するページに載っていた」「会社や店舗が存在しなかった」「存在していたが、住所や代表者名が違った」などで未然に詐欺被害を防止できたケースがあります。
あわせて、連絡先を交換していて、その日までに電話やメール、 SNS等でやり取りを行う場合には、仕事の話はもちろん、家族構成や生い立ちなどをそれとなく尋ねて、相手の情報を集めておきましょう。
電話する場合、慎重を期すなら録音しておくのもいいかもしれません。
もし詐欺師であった場合に、詐欺師を追いかけるのに役立つ情報になり得るからです。
さらに、お金を要求してきた段階では、絶対にすぐに渡してはいけません。
家族や友人などに相談して意見を聞きましょう。
この段階になると、恋愛感情が芽生えているため、自身では冷静な判断ができないからです。
そして、どうしてもお金を貸す、立て替えるとなった段階では、弁護士に相談すべきです。
弁護士に相談することで、詐欺かどうかのアドバイスを受けることもできますし、必要であれば借用書(金銭消費貸借契約書)を弁護士が作成することも可能だからです。
結婚詐欺(婚活詐欺・恋愛詐欺)手口に引っかかっているかも?と思った場合の対応
相手方とまだ連絡がつながっている場合には、詐欺だと疑っていることを気づかれてはいけません。
詐欺だと疑っていることに気づかれると逃げられるからです。
そして、一刻も早く弁護士に相談しましょう。
相談した結果、詐欺の疑いが濃厚となった際には、弁護士は依頼を受ければ、たとえば待ち合わせ場所に同行するなどして、相手方と返金交渉を行うことができます。
一方、相手方と連絡がつかなくなった場合も、直ちに弁護士に相談すべきでしょう。
連絡不通の期間が短ければ短いほど、相手方を見つけられる可能性が高いからです。
なお、警察に相談に行くのも1つの手段でありますが、刑事事件としての詐欺、特に結婚詐欺(婚活詐欺・恋愛詐欺)を警察が事件として取り扱うことはなかなかありません。
恋愛感情があることから単なる民事上の男女トラブルとみられたり、詐欺の疑いがあっても証拠に乏しいことが多いので事件として立件するのが難しいからです。
ただし、同じ相手方で複数の被害届が出ているような場合には、詐欺として捜査が進められることもあります。
最後に結婚詐欺(婚活詐欺・恋愛詐欺)に遭ったかもと思った際には、遠慮なく当事務所にご相談ください。
結婚詐欺の(婚活詐欺・恋愛詐欺)逮捕事例
ここでは、結婚詐欺(婚活詐欺・恋愛詐欺)での逮捕事例について、最新のニュース記事をご紹介します。
結婚詐欺容疑で51歳男逮捕 警視庁、4千万円被害か
婚活アプリで知り合った40代女性に結婚をにおわせ、現金50万円をだまし取ったとして、警視庁城東署は14日までに詐欺容疑で東京都調布市深大寺南町、職業不詳〇〇容疑者(51)を逮捕した。この女性を含む数人から計約4千万円を詐取したとみて詳しく調べている。
逮捕容疑は2015年11月ごろ、大手商社の会社員と偽り、交際していた東京都江東区の女性に「空き巣に入られて会社の金を盗まれた」などとうそを言い、自身の預金口座に50万円を振り込ませた疑い。
〇〇容疑者は「生活費に充てた」と供述している。
共同通信2021,5,14 https://kumanichi.com/articles/228732
この事件で逮捕された被疑者は、結婚する意思がないにも関わらず、結婚する意思があるかのように結婚を匂わせて、「空き巣に入られて会社の金を盗まれた」などとうそを言い、騙されて錯誤におちいった被害者から、現金50万円を振り込ませて交付させたということで、詐欺罪で逮捕されています。
結婚詐欺(婚活詐欺・恋愛詐欺)の判例
ここでは、結婚詐欺(婚活詐欺・恋愛詐欺)の判例をご紹介します。
結婚詐欺師が詐欺罪として起訴された刑事事件の裁判例と、結婚詐欺師に対する損害賠償請求が認められた民事事件の裁判例をご紹介します。
結婚詐欺の刑事事件判例(仙台地判平成30年1月24日)
この事件は、既婚者である結婚詐欺師が、婚活パーティー等で知り合った女性8名に対して、既婚者であることを隠して、航空会社従業員を装うなどして、合計3500万円余を騙し取った事件です。
詐欺罪で懲役7年の実刑判決となっております。
【主文】
被告人を懲役7年に処する。未決勾留日数中470日をその刑に算入する。
【量刑の理由】
本件は,被告人が,8名の女性に対し,いわゆる結婚詐欺を行い,合計3500万円余りをだまし取ったという事案である。
被告人は,婚活パーティー等で知り合った女性と交際し,マンションの購入等をしなければ交際継続等が難しくなるなどと言葉巧みにだまして金銭の交付を受けたもので,犯行態様は巧妙である。被告人は,多数の女性を繰り返しだましていたもので, 常習性が高いことも明らかである。被害金額の合計が高額であることはいうまでもない。被害者4名について合計約210万5000円が,返済又は取り立てがされていること(Aについて約5万円,Bについて102万5000円,Cについて51万円,Gについて52万円)が認められるが,それ以外については,弁償されておらず,その見込みもない。被害女性らは,多大な精神的苦痛も被っており,被告人に対する厳罰を望むのも理解できる。
以上によれば,本件は,詐欺の事案の中でも相当に重い部類に属する。 また,被告人は,Hに対しては一応反省の態度を示すものの,その他の被害者に対しては,だましていない旨述べており,真摯な反省の態度はみられない。そうすると,被告人には,罰金前科があるにとどまることなどの事情を踏まえても,被告人に対しては,主文の刑に処するのが相当と判断した。
仙台地判平成30年1月24日
結婚詐欺の民事事件判例(東京地判平成28年11月30日)
この事件は、婚活パーティーで知り合った既婚者の男性から、既婚者である旨を隠され、結婚を持ちかけられ、「将来の妻として、父の株を持ってもらいたい」などと言われて、株式譲渡代金の名目で250万5000円を騙し取られてしまった独身女性が結婚詐欺の被害にあったとして、男性に対して不法行為に基づく損害賠償請求をした事件です。
裁判所は、結婚詐欺を認め、騙したとられた250万5000円に加え、慰謝料80万円の損害を認め、330万5000円を支払うように命じる判決を出しました。
3 以上によれば,被告の上記供述は,直ちに採用することはできず,上記認定事実によると,被告は,原告に対し,当初から結婚する意思もないのに,原告と結婚したいなどと虚偽の言葉をかけて,真に原告との結婚を考えているものと原告を誤信させ,その旨期待した原告と性的関係を伴う交際をする中で,原告に対し,言葉巧みに,結婚と仕事の話を関連づけて,被告の経営する会社の株式譲渡代金の名目で,本件金員①を交付させるとともに,被告の事業資金の融資の名目で,本件金員②を交付させて,これらをだまし取ったものと認めることができる。
4 そして,被告の上記不法行為は,婚活パーティに参加して真剣に結婚相手を探していた原告の心情につけ込んだものであり,原告は,被告のかかる言動により,被告と結婚できるものと期待して,多額の金員をだまし取られただけでなく,被告の求めに応じて,性的関係を伴う交際を継続しながら,結婚に向けて,勤務先を退職して東京に転居するなどしたのである。こうした事情に照らすと,原告の精神的苦痛は,多大なものであって,本件各金員に係る財産的損害の回復のみによって填補されるものではなく,かかる苦痛に対する慰謝料は,80万円をもって相当と認める。そうすると,被告の不法行為により被った原告の損害は,本件各金員に係る財産的損害250万5000円と慰謝料80万円の合計330万5000円となる。
5 よって,原告の本件請求は,被告に対し,不法行為に基づき,損害金330万5000円及びこれに対する不法行為後の平成27年8月20日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地判平成28年11月30日