預託法(特定商品等の預託等取引契約に関する法律)は,昭和61年に制定されましたが,従来から悪質な販売預託商法から消費者を適切に保護することはできないとの指摘がなされていました。
実際に、ジャパンライフ事件やケフィア事業振興会事件など、販売預託商法による大規模な消費者被害事例が幾度となく発生し社会問題化しております。
そこで,令和3年6月16日(公布日),預託法の一部が改正されました。
なお,本改正は,一部を除き(※),公布から1年以内で政令が定める日に施行されるものとしております。
※書面の電子化に関する規定は公布後2年以内で政令で定める日とされています。
本コラムでは,預託法の改正のうち,主だった改正点について解説いたします。
【改正のポイント】
・販売預託商法が原則禁止になった。
・預託法の適用対象が全ての物品を対象にすることとなった。
・クーリングオフがメールでも送れるようになった。
販売預託商法が原則禁止に!
販売預託商法とは?
販売預託商法とは,消費者に物品を販売すると同時にその商品を預かり,自ら運用,または第三者に貸し出すなどして消費者に配当して利益を還元し,その後契約満了時に商品を一定額で買い取るというものを指します(改正法上,「販売を伴う預託等取引」と記載されております。)。
どうでしょう?このような記載だけを見ても何ら問題のない取引に見えませんか?
しかし,通常このような商法には,元本保証と高い利率を謳い,消費者から多額の金銭を出させ,実際のところ運用の実態などは全くなく,消費者からの金銭を別の消費者の配当に充てるなどといった手法が多いとされています。
皆様のご想像のとおり,このような手法は当然破綻しますが,消費者としては当初配当が行われるため,それによって安心してしまい被害に気づくことなく最終的には多額の被害が生じることになります。中には被害総額が4000億円に上るものもありました。
勧誘及び契約締結の禁止
今回の改正によって,販売預託商法について,商品ごとに内閣総理大臣の確認を受けないで勧誘することを禁止しております(改正後預託法9条1項)。
また,契約ごとに事前の確認を受けないで契約を締結することを禁止しました(改正後預託法14条1項)。
(勧誘等の禁止)
第九条 預託等取引業者等は、預託等取引業者又は密接関係者(預託等取引契約の対象とする物品又は特定権利の販売を行う者その他の 預託等取引業者と密接な関係を有する者として内閣府令で定める者をいう。以下同じ。)が販売しようとする物品又は特定権利に係る 売買契約(当該物品又は特定権利を預託等取引契約の対象とする売買契約に限る。以下同じ。)の締結及び当該物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新については、当該物品又は特定権利の種類ごとに、当該預託等取引業者若しくは密接関係者が当該売買契約を締結し、又は当該預託等取引業者が当該預託等取引 契約を締結し、若しくは更新することにより、顧客の財産上の利益が不当に侵害されるおそれのないことにつき、あらかじめ、内閣総 理大臣の確認を受けなければ、その勧誘等(勧誘又は広告その他これに類似するものとして内閣府令で定める行為をいう。以下同じ。)をしてはならない。預託等取引業者又は密接関係者が既に販売した物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新に係る勧誘等についても、同様とする。(契約の締結等の禁止)
改正預託法
第十四条 預託等取引業者は、第九条第一項の確認及び次項の確認を受けていない種類の物品又は特定権利については、自ら売主となる売買契約の締結及び自己又は密接関係者が販売しようとする当該物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新をしてはならない。預託等取引業者又は密接関係者が既に販売した物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新についても、同様とする。
事前確認制度
本改正では,勧誘の際と契約締結の際に確認を必要とする極めて厳格な二段階の事前確認制度を採用しました。
具体的には,物品の価格や利益提供の見込み,物品の管理体制,経済的基盤等を審査し(改正後預託法11条1項,14条2項),全ての事項が適正と認められなければなりません。
(確認の審査)
第十一条 内閣総理大臣は、第九条第一項の確認の申請があった場合においては、次に掲げる事項を審査し、当該事項がいずれも適正であると認めるときでなければ、同項の確認をしてはならない。
一 申請者(当該申請に係る勧誘等を行う預託等取引業者をいう。以下この項において同じ。)又は密接関係者が締結しようとする売買契約(第九条第一項後段の確認の申請があった場合においては、既に締結された売買契約)に係る物品又は特定権利の価額
二 申請者が締結し、又は更新しようとするそれぞれの預託等取引 契約において物品の預託を受ける期間又は特定権利を管理する期間並びに当該それぞれの預託等取引契約によって顧客に供与される財産上の利益の金額(供与される財産上の利益が金銭以外の場合においては、当該財産の価額)及び内容
三 申請者が第九条第一項の確認の有効期間内に締結し、又は更新しようとする全ての預託等取引契約によって顧客に供与する財産上の利益の総額の見込額
四 第二号の預託等取引契約に基づいて預託を受ける物品又は管理する特定権利の管理の体制に関する事項として内閣府令で定める事項
五 申請者が第二号の預託等取引契約に基づいて、預託を受ける物(契約の締結等の禁止)
改正預託法
第十四条
2 第九条第一項の確認を受けた預託等取引業者は、同項の確認を受けた種類の物品若しくは特定権利に係る売買契約を締結しようとするとき及び当該物品若しくは特定権利であって自己若しくは密接関係者が販売しようとするものを対象とする預託等取引契約の締結若しくは更新をしようとするとき又は預託等取引業者若しくは密接関係者が既に販売した物品若しくは特定権利であって同項の確認を受けたものを対象とする預託等取引契約の締結若しくは更新をしよう とするときは、その確認の有効期間内において、あらかじめ、次に掲げる事項について、内閣総理大臣の確認を受けなければならない。
一 当該売買契約又は預託等取引契約の内容が第九条第一項の確認 の対象とされた売買契約又は預託等取引契約の内容(第十一条第 一項第一号から第三号までに規定する事項に限る。)に適合すること。
二 顧客の知識、経験、財産の状況及び当該売買契約を締結し、又は当該預託等取引契約を締結し、若しくは更新する目的に照らして、当該売買契約の締結又は当該預託等取引契約の締結若しくは更新が顧客の財産上の利益を不当に侵害するものでないこと。
違反の効果・罰則等
上記のような確認を得ずに,勧誘及び契約締結をした場合,当該契約は民事上無効となります(改正後預託法14条3項)。
刑事的には,5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれの併科し(改正後預託法32条),法人には5億円以下の罰金を科されることになります(改正後預託法38条)。
(契約の締結等の禁止)
第十四条
3 第九条第一項の確認及び前項の確認を受けないで締結した売買契約又はこれらの確認を受けないで締結し、若しくは更新した預託等取引契約は、その効力を生じない。第三十二条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第九条第一項の規定に違反して、同項の確認を受けないで勧誘等を行ったとき。
二 第十四条第一項の規定に違反して、第九条第一項の確認及び第十四条第二項の確認を受けないで売買契約の締結又は預託等取引契約の締結若しくは更新を行ったとき。
三 偽りその他不正の手段により第九条第一項の確認又は第十四条第二項の確認を受けたとき。第三十八条 法人の代表者若しくは管理人又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
改正預託法
一 第三十二条 五億円以下の罰金
全ての物品が預託法の適用対象に!
改正前預託法では,対象となる取引を「預託等取引契約」として,次のように定めています。
第二条 この法律において「預託等取引契約」とは、次に掲げる契約をいう。
一 当事者の一方が相手方に対して、内閣府令で定める期間以上の期間にわたり政令で定める物品(以下「特定商品」という。)の預託(預託を受けた特定商品の返還に代えて金銭その他これに代替する物品を給付する場合を含む。)を受けること(信託の引受けに該当するものを除く。)及び当該預託に関し財産上の利益を供与することを約し、又は特定商品の預託を受けること(信託の引受けに該当するものを除く。)及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格(一定の方法により定められる価格を含む。)により当該特定商品を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該特定商品を預託することを約する契約二 当事者の一方が相手方に対して、施設の利用に関する権利であつて政令で定めるもの(以下「施設利用権」という。)を前号の内閣府令で定める期間以上の期間管理すること(信託によるものを除き、当該期間の経過後当該施設利用権に代えて金銭その他これに代替する物品を給付する場合を含む。)及び当該管理に関し財産上の利益を供与することを約し、又は施設利用権を管理すること(信託によるものを除く。)及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格(一定の方法により定められる価格を含む。)により当該施設利用権を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該施設利用権を管理させることを約する契約
預託法(改正前)
改正前では,対象となる物品を「特定商品」として制限しており,預託法施行令に定める物品のみが預託法の適用対象になるとしていました。
(特定商品等)
預託法施行令(改正前)
第一条 特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下「法」という。)第二条第一項第一号の政令で定める物品は、次に掲げる物品(以下「特定商品」という。)とする。
一 貴石、半貴石、真珠及び貴金属(金、銀及び白金並びにこれらの合金をいう。)並びにこれらを用いた装飾用調度品及び身辺細貨品
二 盆栽、鉢植えの草花その他の観賞用植物(切花及び切枝を除く。)
三 哺乳類又は鳥類に属する動物であつて、人が飼育するもの
四 自動販売機及び自動サービス機
五 動物及び植物の加工品(一般の飲食の用に供されないものに限る。)であつて、人が摂取するもの(医薬品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第一項の医薬品をいう。)を除く。)
六 家庭用治療機器
2 法第二条第一項第二号の政令で定める施設の利用に関する権利は、次に掲げる権利(以下「施設利用権」という。)とする。
一 ゴルフ場を利用する権利
二 スポーツ又はレクリエーションの用に供するヨット、モーターボート又はボートを係留するための係留施設を利用する権利
三 語学を習得させるための施設を利用する権利
本改正によって,改正前の「特定商品」という概念はなくなり,全ての物品が預託法の適用対象となったということになります。これによってより消費者の利益の保護に資するようになりました。
クーリングオフの通知がメール(電磁的記録)でも可能に!
クーリングオフという言葉は聞き馴染みのある言葉かと思います。
預託法でのクーリングオフ期間は,交付を義務付けられた書面を交付されてから14日以内であれば,無条件で解除ができ,それには書面による通知が必要とされていました。
本改正において,書面だけでなく,電磁的記録(電子メール等)によっても行うことができることとなりました。
(預託等取引契約の解除)
改正預託法
第七条 預託者は、第三条第二項の書面を受領した日から起算して十四日を経過するまでの間(預託者が、預託等取引業者等がこの項の規定による預託等取引契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は預託等取引業者等が威迫したことにより困惑し、これらによって当該期間を経過するまでにこの項の規定による預託等取引契約の解除を行わなかった場合には、預託等取引業者が内閣府令で定めるところによりこの項の規定による預託等取引契約の解除を行うことができる旨を記載した書面を交付し、当該預託者がこれを受領した日から十四日を経過するまでの間)は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)により預託等取引契約の解除を行うことができる。
2 前項の規定による預託等取引契約の解除は、当該預託等取引契約の解除を行う旨の書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる。
3 第一項の規定による預託等取引契約の解除があった場合においては、預託等取引業者は、当該預託等取引契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。
4 第一項の規定による預託等取引契約の解除があった場合において、当該預託等取引契約に係る物品の返還に要する費用又は特定権利の管理の終了に伴う事務の処理に要する費用は、預託等取引業者の負担とする。
5 前各項の規定に反する特約で預託者に不利なものは、無効とする。
ちなみに,このような電子化の改正については,特定商取引法も同様に改正されております。今回特定商取引法でも重要な改正が行われていますので,以下の記事も参照してください。
預託法改正まとめ
今回の預託法の改正にて販売預託商法について極めて厳格な規制がなされているが,それでもさらに巧妙な脱法的な手法が取られることが考えられる。
そのような手法に騙されないためにも,少しでも怪しいと感じた場合,すぐさま弊所弁護士までご相談ください。