振り込め詐欺救済法(正式名称「犯罪利用預金口座等による被害回復分配金の支払等に関する法律」)による口座凍結の手続きをご存知でしょうか?
振り込め詐欺救済法では、預金口座等への振込みを利用して行われた詐欺等の犯罪行為により被害について、口座の凍結などにより返金を容易にしています。
昨今、詐欺の手口はますます巧妙になっており、弊所に寄せられる相談の中にも、一見して詐欺とわからないものも多くなっています。そのため、「自分は騙されるはずがない」とたかをくくることなく、少しでも怪しいと思った場合には決してお金を振り込まないように注意していただきたいです。。
万が一、詐欺師に騙されてお金を振り込んでしまった場合であっても、相手の口座がわかっている場合には振り込んだお金を取り戻せるかもしれません。
今回は、振り込め詐欺救済法(正式名称「犯罪利用預金口座等による被害回復分配金の支払等に関する法律」)による口座凍結で詐欺被害金を返金する方法について解説いたします。
口座凍結と振り込め詐欺救済法について
少しでも怪しいと思ったらお金を振り込まないことが一番大事ですが、万が一お金を振り込んでしまった場合でも、相手の口座を凍結させ、そこから振り込んだお金を回収できる可能性があります。
平成20年6月21日から、振り込め詐欺救済法(正式名称「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」)が施行されました。振り込め詐欺救済法は、金融機関に対し、振り込め詐欺等の犯罪行為に利用された疑いのある預金口座等について、迅速に取引の停止等の措置を講じるよう求めるとともに、簡易・迅速に被害者の財産的損害を回復するため、預金等の債権を消滅させ、これを原資として被害者に被害回復分配金を支払う手続きを定めた法律です。
以下では、振り込め詐欺救済法による被害回復の手続について解説していきます。
振り込め詐欺救済法による口座凍結の手続き
振り込め詐欺救済法による被害回復は、大きく分けると、①取引停止措置、②失権手続、③被害回復分配金支払手続という3つのプロセスを経てなされることとなります。
以下の図の赤字の部分です。
① 取引停止措置(口座凍結)について
預金口座等への振り込みを利用して行われた詐欺の被害者は、直接あるいは捜査機関、弁護士等を通じて、振込先の預金口座等を開設している金融機関に対し、犯罪利用の疑いがあるとの情報提供をします。これを受けた金融機関は、犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めた場合、取引停止措置を講じます(法3条1項)。
口座凍結の要請、金融機関に対する情報提供は、警察などの捜査機関や弁護士から書面を送付することにより行われるのが通常です。現在だと、FAXにより書面を送信して口座凍結要請をしております。
この取引停止措置により口座が凍結されます。
第三条 金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるときは、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講ずるものとする。
振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法)
② 失権手続
金融機関は、犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由があると認めた場合、当該預金口座等債権の消滅手続(失権手続)に入り、預金保険機構に対し、消滅手続の開始に係る公告をすることを求めます(法4条1項)。
(公告の求め)
振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法)
第四条 金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、次に掲げる事由その他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、速やかに、当該預金口座等について現に取引の停止等の措置が講じられていない場合においては当該措置を講ずるとともに、主務省令で定めるところにより、預金保険機構に対し、当該預金口座等に係る預金等に係る債権について、主務省令で定める書類を添えて、当該債権の消滅手続の開始に係る公告をすることを求めなければならない。
一 捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があったこと。
二 前号の情報その他の情報に基づいて当該預金口座等に係る振込利用犯罪行為による被害の状況について行った調査の結果
三 金融機関が有する資料により知ることができる当該預金口座等の名義人の住所への連絡その他の方法による当該名義人の所在その他の状況について行った調査の結果
四 当該預金口座等に係る取引の状況
次に、金融機関から公告の求めを受けた預金保険機構は、消滅手続が開始されたこと、口座に係る金融機関、店舗、口座の種別、番号、名義人、口座残高等の事項を公告します(法5条1項)。
公告は、インターネットを利用して公衆の閲覧に供する方法でしなければならないと規定されており(法27条)、現在は、預金保険機構のホームページで確認することができます。
相手方の口座について、凍結申請(取引停止措置)がなされ、公告がされている場合、口座情報を検索すると、現在どのような状態にあるかが表示されます。
(公告等)
第五条 預金保険機構は、前条第一項の規定による求めがあったときは、遅滞なく、当該求めに係る書面又は同項に規定する主務省令で定める書類の内容に基づき、次に掲げる事項を公告しなければならない。
一 前条第一項の規定による求めに係る預金口座等(以下この章において「対象預金口座等」という。)に係る預金等に係る債権(以下この章において「対象預金等債権」という。)についてこの章の規定に基づく消滅手続が開始された旨
二 対象預金口座等に係る金融機関及びその店舗並びに預金等の種別及び口座番号
三 対象預金口座等の名義人の氏名又は名称
四 対象預金等債権の額
五 対象預金口座等に係る名義人その他の対象預金等債権に係る債権者による当該対象預金等債権についての金融機関への権利行使の届出又は払戻しの訴えの提起若しくは強制執行等(以下「権利行使の届出等」という。)に係る期間
六 前号の権利行使の届出の方法
七 払戻しの訴えの提起又は強制執行等に関し参考となるべき事項として主務省令で定めるもの(当該事項を公告することが困難である旨の金融機関の通知がある事項を除く。)
八 第五号に掲げる期間内に権利行使の届出等がないときは、対象預金等債権が消滅する旨
九 その他主務省令で定める事項(公告の方法)
振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法)
第二十七条 この法律の規定による公告は、インターネットを利用して公衆の閲覧に供する方法でしなければならない。
公告の翌日から起算して60日以上が経過し、この間に預金口座等の名義人から権利行使の届出がなく、かつ、犯罪利用預金口座等でないことが明らかになったなどの事情もない場合には、当該預金等債権は消滅し、預金保険機構は、その旨の公告をします(法6条、7条)。
ここでいう権利行使の届出とは、振込先口座の名義人等が自分の権利を主張するための届出のことをいいます。権利行使の届出がなされた場合には、被害者は、通常の民事保全、民事訴訟等の手続によって被害回復を図ることになります。
(権利行使の届出等の通知等)
第六条 金融機関は、前条第一項第五号に掲げる期間内に権利行使の届出等があったときは、その旨を預金保険機構に通知しなければならない。
2 金融機関は、前条第一項第五号に掲げる期間内に対象預金口座等が犯罪利用預金口座等でないことが明らかになったときは、その旨を預金保険機構に通知しなければならない。
3 預金保険機構は、前二項の規定による通知を受けたときは、預金等に係る債権の消滅手続が終了した旨を公告しなければならない。(預金等に係る債権の消滅)
振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法)
第七条 対象預金等債権について、第五条第一項第五号に掲げる期間内に権利行使の届出等がなく、かつ、前条第二項の規定による通知がないときは、当該対象預金等債権は、消滅する。この場合において、預金保険機構は、その旨を公告しなければならない。
③ 被害回復分配金支払手続
金融機関は、消滅した預金債権等の額が1000円以上の場合、被害回復分配金の支払手続に入ります(法8条)。金融機関は、預金保険機構に支払手続開始の公告を求め、これを受けた預金保険機構が支払手続開始の公告をします(法10条、11条)。
8条、10条、11条引用
被害者は、支払申請期間内(法定上は30日以上の期間とされていますが、現在の実務上は90日以上の期間を定めることが多いです)に、金融機関に対し、所定の申請書で申請をします(法12条)。
通常は、金融機関から被害者に対して支払手続時に個別に連絡が来ることが多いです。そのため、支払申請期間が開始する前に、金融機関に対し、被害者であることを伝えておくことも重要です。支払申請をしなければ被害回復分配金の支払を受けることができませんので、忘れずに申請するようにしてください。
(支払の申請)
振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法)
第十二条 被害回復分配金の支払を受けようとする者は、支払申請期間(第十条第二項の規定による通知があった場合においては、金融機関が定める相当の期間。以下同じ。)内に、主務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書に第一号及び第二号に掲げる事項を疎明するに足りる資料を添付して、対象預金口座等に係る金融機関に申請をしなければならない。
一 申請人が対象被害者又はその一般承継人であることの基礎となる事実
二 対象犯罪行為により失われた財産の価額
三 控除対象額(対象犯罪行為により失われた財産の価額に相当する損害について、そのてん補又は賠償がされた場合(当該対象犯罪行為により当該財産を失った対象被害者又はその一般承継人以外の者により当該てん補又は賠償がされた場合に限る。)における当該てん補額及び賠償額を合算した額をいう。以下同じ。)
四 その他主務省令で定める事項
2 前項の規定による申請をした対象被害者又はその一般承継人(以下この項において「対象被害者等」という。)について、当該申請に対する次条の規定による決定が行われるまでの間に一般承継があったときは、当該対象被害者等の一般承継人は、支払申請期間が経過した後であっても、当該一般承継があった日から六十日以内に限り、被害回復分配金の支払の申請をすることができる。この場合において、当該一般承継人は、主務省令で定めるところにより、前項に規定する申請書に同項第一号及び第二号に掲げる事項を疎明するに足りる資料を添付して、これを対象預金口座等に係る金融機関に提出しなければならない。
3 前二項の規定による申請は、対象犯罪行為に係る第二条第三項に規定する振込みの依頼をした金融機関を経由して、行うことができる。
支払申請期間経過後、金融機関は、遅滞なく、支払該当者決定をします(法13条)。
この手続きによって、当該口座で被害に遭った人数が明らかになります。被害者が複数いて、被害額の総額が消滅預金等債権の額(当該口座に残っていたお金の額)を超えるときは、被害額に応じて按分されることとなります(法16条)。
例えば、詐欺の被害者が2人いて、Aさんが150万円、Bさんが50万円の被害にあったとします。犯罪に使われた口座に100万円が残っていた場合、被害額に応じて按分した額、つまり、Aさんが75万円、Bさんが25万円の分配金を受け取れることとなります。
そのため、口座に少ししかお金が残っていなかった場合や、被害者が多数いる場合には、被害に遭ったお金の一部しか回復されないことがあります。
(支払の実施等)
振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法)
第十六条 金融機関は、すべての申請に対する第十三条の規定による決定を行ったときは、遅滞なく、支払該当者決定を受けた者に対し、被害回復分配金を支払わなければならない。
2 前項の規定により支払う被害回復分配金の額は、支払該当者決定により定めた犯罪被害額の総額(以下この項において「総被害額」という。)が消滅預金等債権の額を超えるときは、この額に当該支払該当者決定を受けた者に係る犯罪被害額の総被害額に対する割合を乗じて得た額(その額に一円未満の端数があるときは、これを切り捨てた額)とし、その他のときは、当該犯罪被害額とする。
3 金融機関は、第一項の規定により支払う被害回復分配金の額を決定表に記載し、その旨を預金保険機構に通知しなければならない。
4 預金保険機構は、前項の規定による通知を受けたときは、第一項の規定により支払う被害回復分配金の額を金融機関が決定表に記載した旨を公告しなければならない。
詐欺被害の返金を弁護士に依頼するメリット
以上が、振り込め詐欺救済法による被害回復の手続になります。
振り込め詐欺救済法による被害回復は、個人でも行うことが可能ですが、金融機関への情報提供や被害回復分配金の支払申請等、被害者側で申請しなければならないものもあり大変です。弁護士に依頼すれば、申請等もスムーズにすることができ、被害者の方の負担も減ります。
また、振り込め詐欺救済法による被害回復は、口座にお金が残ってない場合や被害者が多数いる場合には被害回復ができない、預金口座等への振込みを利用して行われた詐欺等の犯罪の場合しか使えない等のデメリットもあります。そのような場合であっても、弁護士であれば、相手方の財産を調査する等してお金を回収できる場合があります。
もし詐欺の被害に遭った場合には、まずは弊所の弁護士にご相談ください。