近年、出会い系詐欺、偽ブランド品詐欺、情報商材詐欺等のネット上での詐欺が増加しています。それらネット上の詐欺では、被害者の方達からだましとったお金を犯罪者が取得する方法としてクレジットカード決済が使用されることが少なくありません。
本稿では、クレジットカード決済を利用した詐欺被害にあってしまった場合における法律上の救済手段である、 割賦販売法による「抗弁権の接続」「個別クレジット契約の取消」 について紹介していきます。
また、法律上の救済手段ではありませんが、 クレジットカード会社から決済金額の返還を受けることができる可能性のある「チャージバック」という制度にについてもあわせて紹介させていただきます。
1.割賦販売法による救済
クレジットカード決済を利用した詐欺被害にあってしまった場合、割賦販売法という法律によって救済されることがあります。どのような場合に割賦販売法が適用されるのか、どのような救済が得られるのか、その具体的な中身について説明いたします。
1.1 割賦販売法が適用される場合
クレジットカードを利用した取引すべてに割賦販売法が適用されるわけではありません。下記の条件に該当する取引の場合に、割賦販売法が適用されることになります。
具体的には、①2ヶ月超え後払い又は、②リボ払いのいずれかに該当する取引である必要があります。
そのため、インターネット取引において、最も決済数が多いマンスリークリア方式(翌月にまとめて一回払いをする方式)には、割賦販売法が適用されませんので注意が必要です。ただし、マンスリークリア方式でも、後からリボ払いにした場合には適用対象になります。
なお、割賦販売法が適用されるクレジット契約には、上記の「包括信用購入あっせん」 (割賦販売法2条3項 )と呼ばれるものと、「個別信用購入あっせん」(割賦販売法2条4項)と呼ばれるものがあります。
前者は、カード会社と会員の間で事前に締結された契約に基づき交付された、クレジットカードを用いてなされる取引を指します。
一方、後者は、そのような事前の契約なしに、個別に、購入者、クレジット会社、販売店の三者でクレジット契約を締結することによってなされる取引です。クレジット会社は 、販売店と提携していることが多く、購入者が商品を購入する際に、販売店を通じて提携先の個別クレジット会社に申込書を提出することによって契約が締結されます。
いずれにせよ割賦販売法の適用を受けるには、①2ヶ月超え後払い又は、②リボ払いのいずれかに該当する取引である必要があります。
1.2 割賦販売法による救済 「抗弁権の接続」
「騙されて怪しい業者にクレジットカードで高い壺を買わされてしまった・・・。」
このような場面で、怪しい業者に対して、詐欺による契約の取消し(民法96条)自体はもちろん可能です。
一方で、怪しい業者となんら関係のないクレジットカード会社に対しても、あの契約は詐欺だったのでお金は払いませんと言えるのでしょうか。
ここで出てくるのが、割賦販売法による救済です。クレジットカードの契約が前述した取引に該当し、割賦販売法の適用を受けることができる場合、同法の定める「抗弁権の接続」(割賦販売法30条の4、30条の5)という主張を、クレジットカード会社に対してもすることができます。
すなわち、詐欺による契約だから取り消すという主張(「抗弁」)を、カード会社に対しても「接続」して主張することができるのです。
1.3 効果と注意点
「抗弁権の接続」が認められた場合には、カード会員は、カード会社に対する支払いを拒むことができます。一見、頼もしく思える制度ですが、いくつか注意が必要です。
まず、上記のように、クレジットカード契約のうち割賦販売法が適用されるものは、一部の契約にすぎません。特に、マンスリークリア方式に適用がないことには注意すべきです。
また、割賦販売法の適用があるとしても、「抗弁権の接続」によってできる主張は、「支払いの拒絶」のみです。
すなわち、まだ支払っていない場合には、この主張は有効ですが、すでにカード会社に支払ってしまった場合には主張できないことになります。
お金がカード会社から引き落とされてしばらくたってから、詐欺だったかもしれないと気づいたとしても、抗弁権の接続によって、カード会社にお金を返してとは言えないということです。
1.4 個別クレジット契約の取消し等
割賦販売法が定める「抗弁権の接続」は、上述のように既払金の返還の方法としては機能しません。
しかし、同法は「個別信用購入あっせん」となる取引には、既払金を取り返すための方法も定めています。それが、平成20年の割賦販売法改正により導入された同法35条の3の10以下に定められた規定です。
これらの規定は、特定商取引法や消費者契約法によって、販売店と購入者の間の契約が、取消し、解除、クーリングオフ等の対象になる場合に、一定の要件のもとで、購入者と個別クレジット会社の間で結ばれた個別クレジット契約自体についても取消等の対象とすることを認めています。
これにより、「個別信用購入あっせん」においては、個別クレジット契約自体を取り消すことで、購入者は、クレジット会社に対して、既払金の返還を求めることができるようになりました。
2.チャージバックによる救済
すでに、クレジットカード会社によってお金を引き落とされてしまった場合、上記のように原則として割賦販売法による救済は、残念ながら受けられません。では、泣き寝入りするしかないのか。
実は、そんな場合でも、カード会社に返金してもらえる可能性があります。それが「チャージバック」という方法です。クレジットカードシステムの概要、チャージバックとは何かについて説明していきます。
2.1 クレジットカードシステムの概要
チャージバックという制度を理解する前提としてクレジットカードシステムの概要、登場人物を理解しておくと分かりやすくなります。
クレジットカードシステムを単純化すると、カード会員、カード会社、加盟店が存在し、会員が加盟店で買い物をした時に、カード会社が立替払いをしてくれる制度であるといえます。
この点、 会員と加盟店の間をつないでいる「カード会社」が複雑な仕組みになっており、いくつかの会社がそれぞれ別の役割を果たして、それらが合わさって「カード会社」としての機能を果たしてる場合があります。そのカード会社の中身を構成する主な登場人物は、国際ブランド、 イシュア、 アクワイアラという3者です。
「国際ブランド」とは、VISA、JCB、Master Cardなどをはじめとしたクレジットカードブランドのことで、クレジットカードシステムのネットワーク運営などを行ない、いわば、システム自体を作っている会社を指します。
「イシュア」とは、国際ブランドからライセンスの提供を受けてカードを発行する会社のことです。日本では、三井住友カードや楽天カードなどがあげられます。
「アクワイアラ」とは、自分の店でクレジットカードを使えるようにしたい加盟店を募集管理する会社のことを指します。日本では、イオンクレジットサービス、セディナなどがあげられす(なお、日本ではイシュアとアクワイアラ両方の役割を担うカード会社が多いです)。
これらの登場人物を加えてもう一度クレジットカードシステムを説明すると、国際ブランドのライセンスを受けたカード発行会社(イシュア)からカードの発行を受けた会員が、アクワイアラが管理する加盟店で買い物をしたとします。このとき、まず、加盟店にアクワイアラから立替払いがなされ、次にアクワイアラにイシュアが立替払いをして、最後にイシュアに会員が銀行口座などからお金を払うという流れになります。
2.2 チャージバックとは
では、チャージバックとは何かというと、クレジットカードの不正利用などの一定の事由があったときに会員の申し立てなどにより、イシュアがアクワイアラに返金請求をすることで、会員が返金を受けることができるという、国際ブランドが定めている制度のことです。
法律上の制度ではなく、あくまで国際ブランドをはじめとしたカード会社が作っている制度ではありますが、これによれば、すでにお金を支払ってしまったという法律上救済されない場合にも返金請求が認められることがあります。
2.3 チャージバックができる場合や手続きについて
チャージバックがどのような場合に認められるかについては、国際ブランドがルール作りをしています。
国際ブランドは、カード会員がカード発行会社(イシュア)に持ち込む千差万別のクレームを、分類整理し、定型化してチャージバックを行いうるパターンを定めており、これらはチャージバック・リーズンと呼ばれています。
チャージバック・リーズンの中身自体については、全てを公開していない会社もありますが、現在では、偽造カードの取引などの不正取引、身に覚えのない取引、不良加盟店関連にあたる場合には、チャージバック・リーズンが認められると言われています。なお、チャージバックが認められる期間については、最短で45日間、最長で120日間程度であるとされています。
詐欺被害に遭った場合には、不良加盟店関連としてチャージバック・リーズンが認められ、期間内であれば、チャージバックがなされる可能性が高いです。実務上もほぼ全額返金されるケースが多いようです。
この時、会員がとるべき手続は、イシュアに対してチャージバックをするように促す書面(Disputed Transaction、CARD HOLDER’S DISPUTE FORMなどといった書面)を提出することです。これによりイシュアがチャージバックをしてアクワイアラが応じれば返金がなされます。
2.4 注意点
チャージバックは、上記のようにそもそも法律上の制度ではありません。また、チャージバック自体はイシュアがアクワイアラに対してするものであり、会員はイシュアにチャージバックをするように促すことしかできません。
すなわち、カード会員には法律上も制度上も、チャージバックを受ける権利が認められているわけではないということに注意が必要です。それゆえ、実際はチャージバックに応じてくれるケースが多いものの、イシュアが対応してくれなければチャージバックは行われません。
なお、東京地裁平成21年10月2日判決では、イシュアたるカード会社がアクワイアラたるカード会社に対して「チャージバックを前提とした調査依頼をしなかった」として債務不履行責任が認められました。このような考え方の裁判例が続いていけば、チャージバックの判例上の権利性が認められることになり、カード会員にとって強力な方策になるものと思われます。
3.まとめ
本稿では、クレジットカード決済を利用した詐欺被害に遭った場合の救済方法について、①割賦販売法による救済、②チャージバックによる救済という二つをご紹介させていただきました。
クレジットカード決済を利用する詐欺の多くは、ネット上で行われ、相手が見えないため途方に暮れて、泣き寝入りしてしまう方も多いかもしれません。そんな場合でも、上記のように、クレジットカード会社に対する支払い拒否、返金請求が認められる場合があります。
詐欺被害に悩まれている方は、諦めずに、ぜひ一度、弁護士に相談してみてください。