YouTubeなどの動画サイトや、BitTorrent(ビットトレント)などファイル共有ソフト(P2P)を利用した違法アップロードでの著作権法違反の事例が増えています。
今回は、ファスト映画をYouTubeにアップロードしたとして著作権法違反で逮捕された被告人が、1000万円超の多額の損害賠償金を支払示談したという事件を紹介しつつ、解説します。
なお、ここ最近、BitTorrent(ビットトレント)などファイル共有ソフト(P2P)を利用した違法アップロードについて、著作権者から発信者情報開示に係る意見照会書が届くという事例が増えてきておりますので、この件については、以下の記事もご参照ください。
BitTorrent(ビットトレント)などファイル共有ソフト(P2P)での違法アップロードをめぐる発信者情報開示請求やその対処法
ファスト映画の著作権法違反で逮捕されたニュース
「ファスト映画」投稿者が初の逮捕、著作権法違反の疑いで
映画やドラマの映像を、結末を含めて10分程度に再編集した「ファスト映画」を権利者の許可なくYouTubeにアップロードしたとして、宮城県警と塩釜警察署は6月23日、容疑者3人を著作権法違反の疑いで逮捕した。ファスト映画を巡る摘発は初という。映画やアニメなどの海賊版対策を目的とした社団法人のコンテンツ海外流通促進機構(CODA)が同日に発表した。
容疑者らは2020年6月から7月にかけて、映画「アイアムアヒーロー」「冷たい熱帯魚」など5作を権利者の許可なく編集。ナレーションをつけるなどした10分程度の動画にしてYouTubeに投稿し、広告収入を得ていたという。
ファスト映画を巡っては、本来の権利者に悪影響を与える他、犯罪者の収益源になる可能性があるとしてCODAがアップローダーの特定などを進めている。中には700万回近く再生される動画や、合計の再生数が8000万回を超えるYouTubeチャンネルもあるといい、同機構は安易な視聴は控えるよう注意喚起している。
ITmediaNEWS 2021,6,24 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2106/24/news078.html
ファスト映画の著作権法違反で多額の賠償金を支払ったニュース
巨額の賠償、関与を後悔 著作権法違反 「ファスト映画」ナレーター男性
映画を10分程度に無断編集し、結末を明かす「ファスト映画」の製作者5人が著作権法違反容疑で摘発された事件で、ナレーションを担当した川崎市在住の20代のアルバイト男性が、映画会社のうち1社と1000万円超の賠償金を支払うことなどを条件に和解していたことが分かった。
JIJI.com参照 8/26(木) 19:44 https://news.yahoo.co.jp/articles/80ef977d8536c310587c9fcd9d44656b90cb359c
ファスト映画と著作権法違反の弁護士解説
そもそも、本件で問題となっているファスト映画・ファスト動画とは、著作権者に無断で映画などの映像や静止画を使用し、字幕やナレーションを付けて結末を含めたストーリーを明かす短時間の動画のことをいいます。
話題の映画の内容を簡潔に見られることからか、YouTubeなどの動画投稿サイトで多く再生されています。
ファスト映画をYouTubeに違法アップロードすることは、著作権者の公衆送信権を侵害します。
公衆送信権とは、著作者がその著作物について、公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を専有しておこなうことができる権利をいいます。
著作権者でない者が著作物をインターネット上にアップロードすることは上記公衆送信権を侵害します。
著作権法上、他者の著作物について、一定の要件のもと、引用することも認められております。もっとも、ファスト映画は、著作物を短縮して編集しただけであって、自己の表現との区別の明瞭性や主従関係も認められないなど、引用の要件は満たさないものと考えられます。
(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。(引用)
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
そして、著作権法違反には、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金が定められています。
第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第二項、第三項若しくは第六項から第八項までの規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権(同項の規定による場合にあつては、同条第九項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第五号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第十項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第六号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
このように、著作権法違反の事案においては、重い刑罰が定められており、本件ファスト映画事件でも、著作権法違反の被疑者は逮捕され、起訴されています。
このような状況下では、早期の身体解放といった目的や、判決での量刑を軽くするという目的から示談交渉をおこなうことが多いです。
もっとも、本件では、複数の映画作品の違法アップロードをしてしまった事案で、示談は、1社とのみで、金額は1000万円超と極めて高額です。
ニュース記事からは詳細は不明ですが、他の映画作品の著作権侵害についても起訴されているのであれば、そちらとの示談も必要になってくると考えられます。。
著作権侵害事件の示談においては、早期に示談交渉を開始することにより、支払わなければならない損害賠償金額、示談金額を大幅に減額できることもありますので、早期の対応が重要になってくるでしょう。
なお、ファスト映画以外の著作権侵害事例、漫画村事件やビットトレントなどのファイル共有ソフトの著作権法違反の開示請求、逮捕事例、示談金、裁判例については、以下の記事もご参照ください。