ホスラブなどのネット掲示板やSNSが普及した現代、ネット上では心にない言葉が投げかけられることが増えてきました。
例えば、バカ、アホ、死ね、自殺しろなどの言葉がSNS上でよく見られますね。
このような抽象的な誹謗中傷の場合、名誉感情を侵害するかどうかで問題になることが多いです。
しかし、この名誉感情侵害では、違法かどうかの境界線が曖昧で、弁護士や裁判官でも判断が分かれることがあります。
今回は、ホスラブでの名誉感情侵害の裁判例をまとめることによって、この判断基準について探っていこうと思います。
ホスラブとは?
ホストラブ(ホスラブ)とは、夜のお仕事、すなわち風俗、キャバクラ、ホストクラブなどのお店の話題を中心としたインターネット掲示板です。
ホスラブでは、特定の風俗店、キャバクラ、ホストクラブなどの店名でスレッドが立ち上げられ、そこで誹謗中傷、名誉毀損、名誉感情侵害、個人情報流出などのプライバシー権侵害の書き込みが投稿されることがあります。
また、風俗嬢、キャバ嬢、ホストの名前を挙げた個スレと呼ばれるスレッドが立ち上がり、そのスレッドにて誹謗中傷等がなされることもあります。
ホスラブで誹謗中傷がなされた場合の削除依頼方法や犯人特定のための発信者情報開示請求の方法については、以下の記事をご参照ください。
名誉感情侵害における違法性判断基準
名誉感情侵害とは?
名誉感情侵害とは、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な価値を侵害することです。
名誉毀損では外部的名誉・社会的名誉が問題になり、名誉感情侵害では主観的名誉が問題になるという点で、名誉毀損と名誉感情侵害は区別されます。
すなわち、名誉感情侵害では、客観的名誉が問題となる名誉毀損と異なり、主観的名誉、プライドや自尊心が問題となります。
名誉感情侵害の違法性判断基準
前述のように、名誉感情侵害では、主観的名誉、個人のプライドや自尊心といった内心が問題となるため、その全てが違法となるわけではありません。
判例は、名誉感情侵害の違法性判断基準として、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められるかどうかを基準にしています。
名誉感情侵害の定義や違法性判断基準の詳細は、以下の記事をご参照ください。
ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例
名誉感情侵害は、主観的な名誉、自尊心やプライドを傷つける侮辱行為で、社会通念上許される限度を超えるものであれば違法性が認められ、削除や発信者情報開示請求が認められます。
ここでは、実際の判例上、ホスラブにおいて、どのような内容の書き込み・投稿が違法と判断されたのかを見ていきましょう!
ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例1(豊胸偽乳、チビなど)
東京地裁令和元年6月24日民事第43部判決:平成31年(ワ)第1094号
【当事者の主張】
(原告の主張)
本件投稿は、いずれも「豊胸偽乳」など原告に対する侮辱的表現を複数含んでおり、社会通念上許される限度を超える侮辱行為である。
(被告の主張)
本件投稿は、記載の意味が必ずしも明確ではないため、社会通念上許される限度を超えて原告の社会的価値を損ない、同人の名誉感情を侵害するとはいい難い。
【決定要旨】
「本件各投稿・・・はいずれも,「豊胸偽乳」,「気持ち悪い」,「残念な顔を整形すればいい」,「いくら整形しても品がないから意味ない」,「NGなしってただのヨゴレ」,「チビ」,「どブス婆」,「おばさん」,「ブス」,「顔も整形すればいい」,「アラフィフ」,「チビ婆」,「NGなしの金に忙しい病んでるヨゴレ婆」,「クレイジーな婆さん」,「一番病んでる」などの記載を複数含んでおり,侮辱的表現ということができるし,上記各投稿が,原告に対する誹謗中傷が重ねられていた中で行われたものであることなども考慮すれば,上記各投稿は原告に対する社会通念上許される限度を超えた侮辱行為であると認められ,原告の名誉感情を侵害する。」
ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例2(臭そうなど)
東京地裁令和元年6月26日民事第39部判決:平成31年(ワ)第6834号
【当事者の主張】
(原告の主張)
本件投稿4は、「花火ごときで鴨られる30歳」,「臭そう」、本件投稿5は、「フィリピンババア」、「何この肉塊」などと社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものであり,原告の名誉感情を侵害している。
(被告の主張)
本件投稿4、5は、社会通念上許される限度を超えて原稿を侮辱するものではない。
【決定要旨】
「本件投稿4は,・・・「花火ごときで鴨られる30歳」,「臭そう」などと,原告が30歳にもなって花火を一緒に見に行くだけでホストのために浪費してしまう人物である,体臭がきつい人物であることを示唆するものであって,これを単なる投稿者の主観的な意見や感想ということはできず,社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものであるから,原告の名誉感情を侵害することは明らかである。」
ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例3(ブス、ババアなど)
東京地裁令和3年3月29日民事第31部判決:令和2年(ワ)第28468号
【当事者の主張】
(原告の主張)
本件投稿は、原告の性格、容姿などを口汚く罵るものであり、社会通念上許される限度を越えて原稿を侮辱している。
(被告の主張)
本件投稿は、原告のことを指すものと同定可能であるかは疑義があり、いずれの投稿も原告の名誉権、名誉感情またはプライバシー権を侵害するものといえるかは疑義がある。
【決定要旨】
「本件投稿・・・は,原告の容姿について,「ブス」であるとか,付け睫が汚らしいとか,スタイルがゴツゴツしてぽっちゃりしているなどと罵る内容であり,社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものといえるから,原告の名誉感情を侵害する。」
「本件投稿・・・は,原告について,会話中は口角が下がっているとか,性格の悪さが滲み出ているなどと述べており,不特定多数人が閲覧し得る本件掲示板に公然とこのような投稿をすることは,社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものといえるから,原告の名誉感情を侵害する。」
「本件投稿・・・は,原告の容姿について,「寄り目」,「気持ち悪い」,「整形しなよ」,「ババア」などと罵る内容であり,社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものといえるから,原告の名誉感情を侵害する。」
ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例4(地獄に落ちろ、しねなど)
東京地裁令和3年5月10日民事第31部判決:令和2年(ワ)第32170号
【当事者の主張】
(原告の主張)
本件投稿は、原告の社会的評価を低下させるだけではなく、加害予告ともいうべき表現であり、一連の文章を読んだ一般人の常識的感覚に基づく受け止め方に照らせば、原告の名誉権、名誉感情及び平穏に生活をする権利を侵害することは明らかだ。
(被告の主張)
本件投稿は、具体的事実を摘示するものではなく、投稿者の意見や感想を述べたに過ぎないから、原告の社会的評価を低下させるものではなく、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為であるとも言えないので、名誉権または名誉感情の侵害はない。また、原告は本件投稿の一部が加害予告であると主張するが、具体的な加害日時や方法が記載されておらず、原告に対する具体的危険を発生させるものではないので、原告の平穏に生活する権利は侵害されていない。
【決定要旨】
「本件投稿1は,「・・・嫁も家族も早く地獄に落ちろ」「末代まで呪ってあげるねしーね」などの記載であるところ,ここでいう「しーね」とは,○○○○に対する誹謗中傷をしている文脈からして「死ね」という意味であると読むのが自然である。・・・本件投稿1は,原告やその家族らに対して「地獄に落ちろ」「しーね(死ね)」といった言葉を用いて侮辱するものであることからすれば、社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものであることが明らかというべきである。」
「本件投稿2は,・・・原告が過去に悪事を働いてきた悪党であり,原告に関わる全ての人間とともに不幸になるべきとの意見ないし願望を述べる内容のものである。かかる内容は,具体的な原告の行いについて摘示するものではないが,原告が悪党であり周囲の人間もろとも地獄に落ちるべきなどと原告の人格に対する否定的表現を用いて侮辱するもので,少なくとも社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものであることが明らかというべきである。」
「以上のとおり,本件各投稿は原告の名誉感情を侵害するものであるところ,本件各投稿に関して違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情は認められないから,本件各投稿により原告の権利が侵害されたことは明らかである。」
ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例5(より目してる、ロンパリなど)
東京地裁令和3年7月1日民事第15部判決:令和3年(ワ)第5892号
【当事者の主張】
(原告の主張)
XがA(原告)の身体的特徴を指摘してAを誹謗中傷するものであり、社会通念上の許容範囲を越えてAのことを不当に侮辱しており、その人格的利益を侵害している。
(被告の主張)
Aは、本件投稿が、Aが使用していたとするあだ名を記載していることをもってAがとの同定可能性を主張しているが、あだ名が原告を示す名称として一定期間使用されており、これをAと結びつける者が存在するといった状況は存在しないから、あだ名のみからAと同定可能性があると認められない。また、「なんでより目してるの?」以上の記載はなく、これが身体的特徴を意味すると判断することはできないし、「ロンパリ」との記載は不適切な表現であるが、これが社会通念上の許容範囲を逸脱する程度にAの権利を侵害することが明らかであるかは不明だ。
【決定要旨】
「本件各投稿が,本件スレッドの目的や前記(1)の原告に関する事情を前提とした上で,スレッド内で同様の投稿が続いている中であえてなされたものであってその態様は悪質といえることも考慮すると,本件各投稿はいずれも,社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものとして,原告の名誉感情を侵害することが明らかというべきである。」
なお、「ロンパリ」とは、 斜視を指す俗語で、一方の目はロンドンを見て、他方の目はパリを見ていることから由来する言葉です。
ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例6(糞尿漏らし、奇形、池沼など)
東京地裁令和3年8月17日民事第37部判決:令和2年(ワ)第31481号
【当事者の主張】
(原告の主張)
本件投稿記事の(1)「ヘルパーをこき使う,駅員にも暴言を吐く。・・・白目を剥いたオナニー動画を送りつけるくせに,店ではヘルプのホストに用を足した後の股を拭かせる。」、との事実の摘示は、原告の社会的評価を低下させている。また、本件投稿記事の(2)「こんなの股から出てきてどう思ったんだろうね。ダルマの糞尿漏らしが」、(3)「こんな姿で生きていたいとは思わない」、(4)「神様って残酷だよね。奇形で池沼で生まれてきたのに,死ぬまで使う予定無いのに生理は普通に来てて笑うわ。ふん尿と血が混ざってものすごい臭そう」、(5)「だってボコボコの手とあるかわからないような足バタバタさせてオムツに生理の血と糞尿で悪臭吐き気するような状態で奇声出すだけでしょ?しかも難聴で補聴器つけてるし(それも税金)そんな身体でホスト行く方がどうかしてるよ。何のために生きてるんって感じ」、(6)「生きてたって意味無いしね。税金の無駄」、(7)「葬式に限らず,誰からも歓迎されないよこのバカだるまは。1人で何も出来ないくせに人様の税金に頼って女王様気取りだからな」、(8)「こいつなんで早く死なないんだろう。棒でATM操作しかできないくせに」などの表現が社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものであり、原告の人格的利益を侵害している。
(被告の主張)
本件投稿には、原告の氏名の記載がないから、原告を対象としているとは言い難い。また、どの記載も抽象的な記載にすぎない。
【決定要旨】
「本件投稿記事1の事実の摘示は,一般の閲覧者に,原告が非常識な行動をしているとの印象を与えることから,原告の社会的評価を低下させると認められる。」
「本件投稿記事2・・・3・・・4・・・5・・・6・・・7・・・8・・・の表現は,原告の容貌等を侮辱し中傷するものであり,社会通念上許容される限度を超えて原告の名誉感情を侵害すると認められる。」
ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例まとめ
以上で見てきた判例では、チビ、ブス、ババア、ロンパリなど、容姿を侮辱するものや、チビ、ブス、ババア、ロンパリなど、脅迫的な言辞について、社会通念上許容される限度を超えた名誉感情侵害だと認めています。
また、これらの判例では、書き込みが執拗かどうかや、ホスラブのスレッドのタイトルやレスの流れなども考慮して、当該投稿が違法な名誉感情侵害に該当するかどうかを判断しております。
名誉感情侵害については、その違法性の判断がなかなか難しいところがありますので、ホスラブの書き込みが違法ではないか?削除や犯人特定のための発信者情報開示を希望する場合には、弁護士にご相談ください。