プライバシー権侵害が認定された裁判例まとめ【削除・発信者情報開示請求】

爆サイやホスラブなどの掲示板やTwitterなどのSNSでの誹謗中傷や個人情報流出の被害にあっている人が増えてきています。

このような被害にあった場合の対処法として、当該投稿を削除する、投稿をした犯人を特定するための発信者情報開示請求をして、損害賠償や刑事告訴をするなどの方法があります。

削除依頼をするにしても、犯人特定のために発信者情報開示請求をするにしても、法律上必要な要件があります。

その中でも重要な要件が、権利侵害性です。

裁判上では、法律上保護される権利が侵害されたことが、削除や発信者情報開示が認められる要件となっているのです。

削除や発信者情報開示請求の場面では、名誉権、名誉感情、プライバシー権などの権利の侵害性が問題になるとことが多いです。

今回の記事は、プライバシー権に焦点を当て、プライバシー権侵害が認められた裁判例をまとめてみました。

 

Googleの検索結果削除/逮捕・不起訴となった強姦被疑事実

→プライバシー権侵害にあたり削除が認められた

現時点において本件検索結果の表示を維持する社会的必要性は低く、他方で、本件検索結果が表示されることによる原告の具体的被害の程度は大きいことが認められる。そうすると、本件事実が伝達される範囲はある程度限定的であることや、さらに性犯罪が厳罰化され、性暴力被害についての被害者の意識に変化が生じているという社会情勢にあることが認められるとしても、本件検索結果の表示を維持する必要性よりも本件事実を公表されない原告の法的利益が優越することは明らかである。したがって、原告は被告に対して本件検索結果の削除を求めることができるというべきである。

引用|札幌地方裁判所平成30年(ワ)第2390号【削除請求事件】

 

本件で問題となっている強姦罪(現在は「強制性交等罪(刑法177条)」に改正されています。)の被疑事実ですが,不起訴処分から7年が経過した時点でも,当時のニュース記事がGoogleの検索結果上に反映されている状況でした。

日常でも目にするとおり,強制性交等罪や殺人罪・強盗罪などの重大犯罪については様々なメディアが被疑者の氏名等を速報でニュースに流します。

在京キー局のようなテレビであれば,視聴者数が多く一瞬にして「氏名」と「罪名」が紐付けられて全国に広まってしまいます。そうはいっても,日々ニュースが更新されニュース番組自体がバックナンバーとして再放送などもされないため,元々の知り合いなどでもない限りは視聴者はすぐにニュースの内容を忘れてしまうでしょう。

しかし,ネットニュースなどは各媒体のさじ加減で記事が半永続的に残り続けることも多いです。(新聞社が運営するネットニュースサイトでは速報を出したあとにすぐに記事が削除されることもままありますが。。)
それがGoogleの検索結果上に残り続けることで,仮に不起訴処分になったとしても,その不起訴処分になった記事は出されずに「氏名」と「罪名」が紐付いた記事だけが残る結果となってしまいます。

そこで,Googleの検索結果から「氏名」と「罪名」が紐付いた検索結果やサジェスト等を削除するよう求めることが重要になってきます。

詳述すると長くなってしまうため,詳細は下記リンクをご覧ください。

関連記事:Googleの検索結果とサジェストを削除する方法

関連記事:Googleの検索結果と忘れられる権利の関係

 

風俗業界とプライバシーに関する裁判例

風俗嬢の個別スレッドに本名を記載する投稿

→プライバシー権を侵害する

性風俗業は、社会通念上も、社会的偏見の強い職業であると認められるから、一般人の感受性を基準としても、当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないものであるというべきであり、原告のプライバシー権を侵害するものと認められる。

引用|東京地方裁判所平成26年(ワ)第34762号【開示訴訟】

性風俗店で働いているという事実を公開される、風俗店勤務という事実と本名を結びつけられるという被害は多いです。

特に、ホスラブや爆サイといった掲示板では、風俗店のスレッドや、風俗嬢の個人のスレッドが立っていることも多く、このような被害が多いです。

ただ、この風俗店で働いているという事実の権利侵害性の理屈は難しい部分があります。

性風俗も立派な職業であり、風営法で規定されいる営業です。そうだとすれば、風俗店で働いている事実が社会的評価を低下させる名誉毀損であるとは言い難いところがあります。

そこで、本裁判例では、プライバシー権侵害を理由として、権利侵害性を認めております。一般的な感覚からして、風俗店で働いている事実やそのことと本名を結びつけた事実は、公開されたくない、知られたくない事実といえ、この公開はプライバシー権を侵害すると判断しました。

爆サイ、ホスラブについての誹謗中傷削除や犯人特定・発信者情報開示請求については、以下の記事もご参照ください。

https://www.gladiator.jp/defamation/爆サイの書き込みを自分で削除/

【ホスラブ開示請求】特定方法・期間・費用相場・成功事例を解説!

 

ライブチャット嬢の個別スレッドに情報を投稿

→プライバシー権を侵害する

本件記事は、原告に子供がいること、原告に離婚歴があること、原告の居住地等を明らかにする内容となっている。・・・原告は「●●」の名称を使用して、インターネットを通じて相手の映像を見ながら音声又は文字によって会話をするサービスを行っているが、上記各属性又は情報は、いずれも一般人をして通常公開を望まない内容であるということができ、本件記事で公開された内容は、まさにかかる内容の一つである。したがって、本件記事は原告のプライバシー権を侵害することが明らかである。

引用|東京地方裁判所平成27年(ワ)第3243号【開示訴訟】

本件では、ライブチャットサービスを行う女性の子供がいること、離婚歴があること、居住地などがネット上に晒されてしまったケースです。

これについても、プライバシー権の侵害を認めております。

 

性的投稿とプライバシーに関する裁判例

「素人童貞」

→プライバシー権を侵害する

素人童貞という言葉が、性風俗店で働いている風俗嬢以外の女性との性行為の経験がない男性を意味するものとして、ある程度一般的に通用していること、それが否定的評価を伴うものであることを認めることができる。・・・そして、自らの性経験を不特定多数が閲覧可能なインターネット上で晒されることは、一般人の感受性を基準とすれば、通常望まないことといえる。・・・そうすると、この記載は、原告のプライバシーを侵害するものであるといえる。

素人童貞の意味からすれば、本件投稿記事2は、原告を侮辱するものであって、原告の名誉感情を侵害するものといえる。

引用|東京地方裁判所平成27年(ワ)第37324号【開示訴訟】

この裁判例では、「素人童貞」という書き込みが、性経験についての書き込みであって、一般人の感受性を基準として、公開を欲しない事実だとしてプライバシー権侵害を認めました。

また、侮辱的な表現であるとして、名誉感情の侵害を認めています。

 

「オカマバーで勤務している」

原告がオカマバーで勤務していたという事実は、一般に広く知れ渡っている情報ではなく、一般人の感覚でみだりにこれを開示されたくないと感じる私的な情報であると認められるから、かかる情報を不特定多数の者が閲覧することができるインターネット上の掲示板に公開することは、原告のプライバシー権を侵害する行為であるということができる。

(もっとも,同定可能性が認められなかったため請求は棄却されています。)

引用|東京地方裁判所平成24年(ワ)第6974号【開示訴訟】

 

男女関係にまつわる投稿とプライバシー権侵害の裁判例

「不倫をしている」

→プライバシー権を侵害する

不倫行為をしていること及びその相手方の氏名は、一般に他人に知られたくない私生活上の事実であることは明らかであって、原告Xがタクシー会社の代表取締役であるからといって、このような事実をみだりに公表されない利益は保護されるべきであり、・・・発信者がこのような事実を公表する目的、動機や必要性は何ら明らかでないことからすれば、・・・原告のプライバシーを違法に侵害することは明らかである。

引用|東京地方裁判所平成25年(ワ)第29013号【開示訴訟】

不倫について、その事実と相手方の氏名が公表された事例で、プライバシー権の侵害を認めました。

不倫については、一般的に、社会的な評価を低下させる事実の指摘と考えられていますので、プライバシー権侵害のほか、名誉毀損が成立し、名誉権侵害も認められます。

 

愛人がいることを仄めかす投稿

→名誉権を侵害する

「車も愛人に買ってもらったと聞いたが?」・・・「家まで金だしてもらったみたいだよね 車の名義も愛人らしいじゃん。」・・・「あの背の小さいデブの狸オヤジ?店辞めても金もらってあんな気持ち悪い奴とセックスしてんのか?」などと記載されている。・・・既婚者であるにもかかわらず愛人がいるとの事実の摘示は、原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。

引用|東京地方裁判所平成26年(ワ)第34762号【開示訴訟】

 

氏名・電話番号とプライバシー権侵害

現住所ではなく旧住所を記載した投稿

→プライバシー権を侵害する

人の現住所は私生活に関する事柄であり、当然に不特定又は多数人が了知しているものではないから、公開するか否かについて自己決定権を有し、プライバシー権の対象となる。これに対し、旧住所は、現住所と比較して、開示されることによって被る不利益の程度は小さいといえる。しかし、そうであるからといって、旧住所は、現住所を調査するための手がかりになることがあることなどから、公開するか否かについて自己決定権がないとはいえないし、・・・原告が旧住所の隣地に居住していることからすれば、結果的にみて、・・・原告の現住所を公開している状況に極めて近い状況を作出しているということができるから,原告のプライバシー権を侵害する違法なものであると認められる。

引用|東京地方裁判所平成28年(ワ)第4879号【開示訴訟】

この事例では,対象者の現住所ではなく旧住所をネット上に公開したという内容です。

旧住所自体についてプライバシー権で保障されるかという点に関しては,「公開するか否かについて自己決定権がないとはいえない」というように濁しています。

しかし,現住所が旧住所と隣接しているという事情をもとに,旧住所と表札の写真を投稿すること=隣接する現住所を公開することに近いとしてプライバシー権侵害を認めています。

この裁判例の判示では,旧住所自体にプライバシー権侵害があるかどうかは定かではありません。

もっとも,弁護士や税理士は「職務上請求」という職権に基づいて一市民の住民票を適法に取得することができます。
そうすると,旧住所さえ判明すれば転籍手続きが取られていれば現住所を把握することも可能となります。

そういったことから,旧住所についてもプライバシー権で保障されるという認定は可能になるかもしれません。

 

実名・学歴・所属大学・所属学部

→プライバシー権侵害にあたる

本件記事は、その前後の記事・・・において、原告X1(兄)について「オフパコ界隈のレジェンド」「東京都迷惑防止条例違反(盗撮画像の拡散)」「彼自身も法を犯した過去がある」などと名誉毀損をされているところ、原告X2(妹)がかかる原告X1の妹であることを明示し、その実名・学歴・所属大学、所属学部を明示するものである。したがって、かかる原告X1と関連づけて個人情報を開示されることは、一般人を基準とすれば公開を欲しない情報に該当すると解するのが相当である。

引用|東京地方裁判所 平成30年(ワ)第20481号/平成30年(ワ)第26871号 平成31年02月28日

実名や所属大学が公開を欲しない事項に該当するとした判例(最高裁平成15年9月12日第二小法廷判決:講演会参加者リストの提出とプライバシー権侵害)は,かかる「個人情報についても,本人が,自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきものであるから,本件個人情報は,Xらのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる」としています。

今回の事案でいえば,実名や学歴が「オフパコ界隈のレジェンド」といった内容と紐付けられることでプライバシー権侵害があると判断されました。

仮に「オフパコ界隈のレジェンド」と紐付けられなくともプライバシー権侵害は認められそうですが。。

その他のプライバシー権侵害に関する裁判例

「●●はアトピー顔」という投稿

→プライバシー権を侵害する

アトピー性皮膚炎であることを、不特定多数が閲覧可能なインターネット上で晒されることは、一般人の感受性を基準とすれば、通常望まないことといえる。もとより、一般私人たる原告の病状が、人に広く知られているということはない。そうすると、この記載は、原告のプライバシーを侵害するものであるといえる。

引用|東京地方裁判所平成27年(ワ)第37324号

アトピー性皮膚炎は,病状が肌に表れるので身長や体重のように①外見に関する事柄ともいえますし,疾患という意味では胃腸炎など②外見に表れないような事柄ともいえます。

裁判所の判断が,①または②どちらに基づくものなのか,はたまた①と②両方の性質を考慮してされたものなのかどうかの判断は難しいところです。

浪人や留年した年数

→プライバシー権侵害にあたる

浪人や留年の年数については、E大学医学部が偏差値の高い難関であること、医学部が高度な理解を求められることを踏まえても、やはり本人の努力不足を連想させるものといわざるを得ず、一般人を基準とすれば公開を欲しない情報に該当するといわざるを得ない。

引用|東京地方裁判所 平成30年(ワ)第20481号/平成30年(ワ)第26871号【開示訴訟】

浪人や留年に関して,プライバシー権侵害を認めた興味深い裁判例です。
もっとも,主文からは何年浪人・留年したのか定かではないため,プライバシー権侵害となる浪人・留年の年数が気になるところではあります。

大学受験において1年の浪人であれば感覚的にはそれほど権利侵害は高くないでしょうし,キテレツ大百科の勉三さんのような10年選手をネット上で公開すれば,たしかに権利侵害性は高いようにも思えます。

その判断は難しいでしょう。

プライバシー権侵害についての裁判例まとめ

以上見てきたように、プライバシー権の侵害については、数多くの事例で認められております。

ただ、自分が書き込まれた投稿、レスに権利侵害性があるのか、プライバシー権を侵害するのかの判断は難しいものが多いです。

そのため、これは権利侵害に当たるのかな?と思ったときは、弁護士にご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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