LINEといえば、ユーザー同士であれば無料でメッセージや通話などのやりとりができるアプリ。
日本では現在(2022年6月末時点)9,200万人以上が利用しており、全年代で幅広く利用されていますが、特に10代~30代までの利用率は90%を超え、もはや生活インフラとして欠かせない存在になっている方も多いでしょう(参考:LINE for Business)。
「LINE VOOM」という機能を使えばフォロワー全員に向けた投稿も可能ですが、個人、あるいはグループでメッセージや通話のやりとりをする場合は、当然ながらその相手と自分しか内容を見ることはできません。
ところが近年、「LINE晒し」と呼ばれる、トーク画面をスクショ(スクリーンショット)して、不特定多数が見られるようSNSなどネット上に公開するという行為が広まっています。
その理由や目的は人それぞれ異なると思いますが、相手の許可なく冗談半分で何気なく投稿したLINEのトーク内容が拡散され続け、意図していなかった事態に発展してしまう可能性も考えられるため、注意するようにしましょう。
クローズドな環境でその人(たち)にだけ話したつもりの内容が、勝手に一部だけを切り取られ、ネット上で公開されてしまったら、だれでも嫌な気持ちになるものではないでしょうか。
自身が被害者の場合も、状況によっては「仲のいい相手だから」と甘んじることなく、きちんと削除をお願いし、そして今後同じことを繰り返されないよう徹底させる必要があります。
当記事では、LINE画面のスクショを晒されたときに法的に罪を問えるかどうか、そしてどう対処すればよいのか、といった点を解説してまいります。
LINEのスクショを晒すのは犯罪か?名誉毀損罪との関係
LINE画面のスクショをネット上に晒すという行為は、犯罪として成立することも考えられます。
具体的には、名誉毀損罪に該当する可能性があります。。
これは刑法第二百三十条に以下のように規定されています。
名誉毀損罪
刑法第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
(引用:e-Gov 法令検索 刑法)
よく間違えられますが、名誉毀損罪はその内容が事実であっても事実でなくても成立します。ポイントになる要素を分解すると、①不特定多数の人に伝達する可能性のある場において、②特定の人の③社会的評価を低下させるような④事実を伝えることで成り立つのです。
LINE晒しも、そのトーク内容によっては、ネット上(①)で特定の人(②)の社会的評価を低下させる(③)ような発言を公開する(④)ことになるので、名誉毀損罪が成立する可能性があると推測されます。
この場合、LINEでのやりとりは実際に行われた行為なので、既に事実が摘示されており、論点となるのは、その内容が客観的に見て、その人の社会的評価を低下させる性質を持っているかどうか、という部分でしょう。
当該投稿をきっかけに、炎上したり、運営している店舗への来客数が減少したり、近所づきあいがなくなったり、といった経緯があれば、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
名誉毀損罪の詳細と刑事・民事での違いについては、以下の記事を参照して下さい。
LINEのスクショを晒すのは違法か?プライバシー権侵害との関係
LINEの内容をスクショなどでデータに残し、SNSをはじめとするネット上に公開するという、いわゆる「晒し行為」は、前述したように、名誉毀損罪という罪に問われる可能性があります。それは、たとえ相手を貶めるつもりがなかったとしても同様です。
その他、「プライバシーの侵害」や「名誉毀損」で、損害賠償請求の訴訟を起こされる可能性も考えられます。
LINEのトークは本来プライベートなやりとりであるはずなので、それを不特定多数が見られる場所に晒すのは、どんな理由があっても避けるべきでしょう。
LINEを利用したことのある方であれば伝わるかもしれませんが、プライベートなやりとりにおいて、発言はすべてその人の私生活の一部を構成しているといえるからです。どんな人と交流を持っているのか、いつ、どんな会話をしていたのか、自らだれでも閲覧可能な場所に提示したいと考える人はそうそういませんよね。
ここでは、プライバシー権侵害について、解説をします。
プライバシー権については、実は日本国憲法において明言されていないため、諸説あるのですが、基本的には国民すべてがそれを保障されており、基本的人権にふくまれると解釈されています。
憲法第十三条の解釈やそれまでの判例によって確立してきた権利なのです。
憲法第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
(引用:e-Gov 法令検索 日本国憲法)
また、民法第七百九条にはこのように示されています。
民法第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(引用:e-Gov 法令検索 民法)
第十三条にて規定されている「幸福追求権」は、憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となり、裁判上の救済を受けられる具体的権利(憲法上保障される権利)だと解されています。
ここには個々のプライバシーが守られることがふくまれると解釈できるのです。
さらに、民法第七百九条によって、個人の権利が侵害された場合、損害賠償を請求することができると定められているため、「プライバシー権の侵害」があれば、損害賠償請求ができると考えられるわけです。
そして、プライベートな会話を交わすLINE上でのやりとりをSNSに晒すという行為は、このプライバシー権の侵害に該当する可能性があると考えることができます。被害者が利益、精神的に損害を被った場合には、不法行為が認められるでしょう。
プライバシーの侵害は、主に以下4つの要素をふくみます。
① 私生活上の事実、または事実だと受け取られるおそれがある事柄
② 公開を望まない事柄だと認められる
③ 当事者以外には知られていない事柄である
④ 公開されることで、不快に感じる事柄
これらの条件を満たし、本人の同意を得ずに公開された場合において、成立すると考えられるでしょう。つまり、本人が望んでいないのに、許可なく私生活の情報を公開され、本人が不快感を覚えているというケースです。
特にそれが氏名や住所、勤務先、連絡先といった個人情報をふくんでいるとしたら、違法行為だと見なされる可能性が高まるのではないでしょうか。
LINEのスクショが晒されても罪に問うのが難しいケース
それでは、ここからは、LINE晒しをされても罪に問うのが難しいケースをご紹介します。
特定の人にだけ晒している
ネットを介さず、特定の人に直接LINE画面を見せた場合は、罪に問われない可能性があります。
「プライバシーの侵害」は、その人が望んでいないのに、私生活における情報を公開されたときに条件を満たすと先に述べました。公開という言葉を、一般的に公然の場に開放されることと解釈すると、特定の人にのみ閲覧させた場合は、それにあたらないと見なされる可能性があります。
名誉毀損罪においても同様で、先ほどお伝えしたようにそれは「不特定多数の人に伝達する可能性のある場」で、その人の名誉を毀損するような事柄を開示した場合に成立するため、やはり特定のだれかに見せただけでは該当しないと考えられます。
ただし、その「特定のだれか」がその後ネット上などに情報をばらまいた場合、特に「この人に知らせれば、もっといろんな人に拡散してくれるだろう」という目的をもってその人に見せた場合は、やはりプライバシーの侵害、あるいは名誉毀損罪に問われる可能性が再浮上するでしょう。
また、たとえ罪に問われないとしても、やはりほかの人に特定の人のプライベートな部分を晒すというのは褒められた行為ではないため、その内容が著しくその人の評価を下げることにつながらないかどうかなど、きちんと考えたうえで行動するようにしましょう。
たとえば仲のいいグループのひとりと個別でやりとりしたLINEのトーク画面を、その場に本人がいないときにほかのメンバーに晒していたら、あまりいい気はしないですよね。
個人が特定できない晒し
晒された情報の中から個人が特定できない場合も、罪に問えない可能性があります。画像加工などによって名前やアイコンなどが伏せられていると、そのトーク内容がプライバシーを侵害するものであったり、名誉を毀損しかねないものであったりしても、第三者から見てだれのことだか特定できない場合は、実際にその人のプライバシーを侵害している、あるいは名誉を毀損しているとは立証できないですよね。
とはいえ、晒された当人は気分を害す可能性があるので、名前を伏せれば本人の許可なくネット上にLINEのスクショを晒してもいいというわけではありません。
報道によるLINEの内容流出
過去に著名人の不倫などのスキャンダルの証拠としてLINEの画面が週刊誌などに掲載されているのを見たことがないでしょうか?それによって炎上したり、ファンが減ったり、仕事が減ったりした人もいることが想定できるので、今までの流れでいうと、プライバシーの侵害だけでなく、名誉毀損罪も成立するのではないかと考えられそうですが、実は日本では、「報道の自由」「表現の自由」が尊重される傾向にあります。
報道の自由とは、表現行為のうち、事実を知らせる行為の自由のこと。つまりLINEのやりとりが事実であり、それを報道する目的で公然の場に晒した場合、違法にならない可能性があるということです。
ただ、もちろんその人を貶める目的で、一部、あるいはすべてを加工したり、故意に前後の文脈を隠したりした場合はそうとも限りません。また、報道の自由は法律によって定められているわけではないので、訴えられる可能性がゼロではないことも念頭に置いておくべきでしょう。
名誉毀損罪の違法性阻却事由である公共性、公益目的、真実性の証明がなされれば、報道が名誉毀損に該当するような内容であっても違法性が阻却されることになります。
(公共の利害に関する場合の特例)
刑法第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
ネット上にLINEのやりとりを晒されたときの対処法
では次に、自身がLINEの画面をスクショされてネット上に晒されてしまった場合、特にそれに違法性がある場合において、どう対処すべきなのか言及します。
一度ネット上に公開されると、情報は拡散され、どんどん広がってしまうことも考えられるので、早急に手を打つ必要があります。そのまま放置せずに、拡散防止、そして名誉回復のための措置をとらなくてはいけないでしょう。
晒した本人に削除依頼する
晒した人がLINEのトーク相手、あるいはだれなのか明確にわかっている場合は、まずはその人にコンタクトを取って、直接削除依頼をしてみましょう。公開先がTwitterやInstagamなどSNSであれば、投稿した本人が削除することができます。
悪気なく冗談半分で公開したのであれば、その投稿によって第三者に知られたくない部分が見られてしまったと伝えるだけでも応じてくれるかもしれません。あるいは、違法行為にあたる可能性があると告げれば、自身の行為の重みを理解してくれることもありそうです。
このとき削除してくれても、投稿目的が承認欲求を満たすためだったり、目立ちたいという理由だったりする場合は、今後も同様のことを繰り返してしまうかもしれません。LINEのトーク画面を本人の許可なくネット上に晒す行為は、プライバシーの侵害や名誉毀損罪にあたる可能性があり、罰せられることもある、ということをしっかり伝えて、行った行為の重大さに気づいてもらうことも大事です。
サイト・SNS管理者に削除依頼する
投稿した人が削除要請に応じてくれるとは限りません。連絡が取れないこともあるでしょう。あるいは、晒した場所がSNSではなく匿名掲示板などの場合は、書き込んだ本人が削除できないケースもあります。このようなときは、SNSやサイトの管理者に削除要請するようにしましょう。
SNS、掲示板では、個人情報やプライバシーの侵害、名誉毀損などにあたる内容をふくんだ投稿を規制する利用規約を提示していることが多く、それをきちんと明示しているサイトであれば、削除対応してくれる可能性があります。
特に近年では、晒し行為による悪質なトラブルが多発していることもあり、個人情報の取り扱いについては各社改めて明確なルールとポリシーを設けるようになりました。そして同時に、誹謗中傷を避けるための施策も講じられてきています。
氏名や住所のような個人情報にとどまらず、特定の人物への嫌がらせや侮辱などにあたる行為に対してもポリシー違反になる可能性が高まっているわけです。要請から日数はかかってしまうかもしれませんが、まず管理者、運営者への報告も怠らないようにしましょう。
ホスラブ・爆サイといった匿名掲示板への削除依頼については、以下の記事もご参照ください。
リンク:ホスラブのコメントを最短半日・高確率で削除する唯一の手法とは!?
投稿削除の仮処分を裁判所に申し立てる
SNSや掲示板の管理者も投稿の削除に応じてくれない場合は、プライバシーの侵害や名誉毀損を理由に、裁判所に対して投稿削除の仮処分を申し立てることも可能です。仮処分とは、「正式な裁判の前に、被害者を守るために訴えを受け入れ、一旦要請に応じる」というもの。民事保全法によって定められています。
第二十三条 2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
(引用:e-Gov 法令検索 民事保全法)
仮処分命令が発令されれば、SNS、掲示板の管理者は当該投稿の削除責任を負うことになります。とはいえ、このとき担保金を預ける必要があるので、注意が必要です。また、裁判所からそのような命令がなされても、なお一向に管理者が削除要請に応じないというケースも考えられます。
確実に投稿が削除されるまでには多くの時間や費用、そして心労がかかるということを踏まえておきましょう。ひとりではあまりの気苦労の大きさに、途中で泣き寝入りしたほうが楽だと考えるようになってしまうかもしれません。できればネットに強い弁護士に相談するのがベターです。
不法行為に基づく損害賠償を請求する
LINEの内容を晒されたことで経済的、精神的に損害を被った、あるいは削除要請をしてもなかなか聞き入れてもらえない、といった悪質なケースの場合は、民事訴訟を起こし、損害賠償を請求することも視野に入れてよいでしょう。仮処分申し立てと同様に、弁護士に依頼することをおすすめしますが、その費用は、損害賠償金額によっては、そのなかから支払うことが可能です。
もちろん、晒されたLINEの内容がプライバシーの侵害や名誉棄損にあたらないと判断された場合は、訴訟は認められず、棄却されてしまうことになるというのは、事前に知っておいてほしいですが、なにも行動せずに後悔するよりは少し気持ちが楽になることもあるかもしれません。
名誉回復措置を請求する
民法第七百二十三条によると、LINEの内容をネット上に晒されたことで名誉を毀損された場合、被害者は裁判所に対して、名誉を回復するのに適した処分を命ずることを請求することができます。
第七百二十三条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
(引用:e-Gov 法令検索 民法)
具体的な名誉回復措置の方法は、投稿の削除と、謝罪文、訂正文の掲載など。請求自体は、損害賠償の請求と同時に行うことができるので、併せて請求するとよいでしょう。
名誉毀損罪で刑事告訴をする
LINE画面のスクショを晒されたことで、先ほど言及したような名誉毀損罪にあたりそうな被害を被った場合には、投稿者を刑事告訴することも検討してみましょう。
名誉毀損罪は親告罪といい、窃盗罪や殺人罪などと異なり、検察官が被疑者を起訴するには、被害者の告訴が必要になるという犯罪類型にふくめられます。つまり被害を訴えるためには自分から動かないといけないということです。投稿者への処罰を求める場合は、警察に対して刑事告訴をするようにしましょう。
LINE晒しに遭ったら、被害が拡大する前に弁護士に相談を
LINE上のプライベートなやりとりをスクショなどにおさめられて、ネット上に晒された場合、違法性が認められる可能性はおおいにあります。その影響で自身の社会的評価が低下したと判断できれば、犯罪行為と認められる可能性もあるでしょう。
投稿されることで不快に感じることがあれば、なにもせずに見守るのではなく、削除要請など、まずは行動を起こしてみてください。ひとりでは心細いようであれば、弁護士に相談するという方法もあります。
自身の権利を保全し、回復できるかどうかは、晒されたあとの対処法にかかっているのです。
一人で悩まず、是非一度、弁護士にご相談ください。