Twitter(ツイッター)での「チンピラ府議」は名誉毀損?

弁護士 若林翔
2020年11月11日更新

維新の会の足立康史衆院議員が、2017年1月、Twitter(ツイッター)で、自民の占部走馬大阪府議会議員とのやりとりの画像を添付し、「大阪自民党、茨木自民党のチンピラ府議」と投稿しました。

これに対して、令和元年6月、占部氏が足立氏を相手取って150万円の損害賠償請求訴訟を大阪地裁に提起しました。

この判決(以下「令和2年裁判例」といいます。)が出たので、詳しく解説をしていきます。

結論が異なる裁判例

「チンピラ府議」は名誉毀損ではないとの令和2年裁判例

令和2年裁判例の判決文はまだ公開されていないので、以下、ABCニュースからの一部引用となります。

大阪地裁は判決で、チンピラ府議という表現は「政治家への批判とはいえ、いかにも品がなく、政治家を志すものとして素質に疑問を抱かせる内容であることは否定しがたい」と指摘しつつも、書き込みは議員の論争の一環であり、論評の域を外れているとは言えないとして、府議の訴えを棄却しました。
11/10 17:27 ABCニュース

すなわち、「チンピラ府議」という表現は名誉毀損とはならないとの判決を下しました。

「チンピラ」との表現が名誉毀損に該当するとした平成30年裁判例

しかし一方、類似の裁判例で、東京地方裁判所平成30年10月23日民事第48部判決(以下「平成30年裁判例」といいます。)があります。

この平成30年裁判例では、「『サイエンスライター』を自称するネットチンピラ・A」との記載(以下「本件記載」といいます。)に関して、名誉毀損となると判示しました。

令和2年裁判例と平成30年裁判例ともに同じ「チンピラ」という文言が使われていますが、なぜ結論が異なったのでしょうか。

以下、詳細に述べていきます。

そもそも「名誉」とは?

名誉毀損といったときの「名誉」とは何でしょう?

誇らしいという感情でしょうか?
高い身分や偉い肩書でしょうか?
それとも人からの評価でしょうか?

この点、法律上の名誉とは、『人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価』であるとされています。

ですから、人に対する社会的な客観的評価を下げる言動をすれば、名誉毀損に当たります。

平成30年裁判例は、「チンピラ」とは、「小物であるのに大物らしく気取ってふるまう者や、反社会的勢力と関係し、周囲に因縁をつけるなどして騒ぎ立てる者を意味すると解し、人の社会的評価を下げる言葉」としています。

これに異論はないでしょうから、一般に「チンピラ」という表現は、社会的な客観的評価を下げる言動であるといえそうです。

では、なぜ令和2年裁判例は、名誉毀損としなかったのでしょうか。

表現が「事実」か「意見・論評」か

「事実」と「意見・論評」の違い

名誉毀損の不法行為は、表現が、事実の摘示であっても、意見・論評を表明するものであってもいずれでも成立します(最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁)。

事実の摘示とは、たとえば「Aが誰もいない教室で財布を盗んだんだ」「Bは不倫している」「Cは売春婦だ」などの表現をいいます。

これに対して、「Dは馬鹿者だ」「本当にEは役に立たない」と言った表現は、意見・論評といえるでしょう。

そして、名誉毀損の不法行為の成否において、事実の摘示と意見・論評は同列に扱えません。

なぜなら、事実は、真実が「正解」で、不実は「不正解」ですが、意見・論評には「正解」はなく、むしろ一定の意見・論評を「不正解」として排除することは、憲法21条が保障する表現の自由との関係で、大きな問題を生じさせるからです。

少なくともその意見・論評の前提とする事実が真実であるとするならば、対象者は意見・論評で対抗すべきであり、これが思想をより高度に発展させるとの考えがあります。
これをいわゆる思想の自由市場論といいます。

そのため、基本的に意見・論評は言論により対抗すべきなのです。

「事実」と「意見・論評」を切り分ける判断基準

そこで、ある表現が事実なのか、意見・論評なのかを切り分ける必要があります。

その判断は、一般読者を基準にして、証拠等でその存否を決することができるか否かとされています。

では、2つの裁判例で問題となっている「チンピラ」は事実でしょうか、意見・論評でしょうか。

平成30年裁判例の「『サイエンスライター』を自称するネットチンピラ・A」は、その前に記載されていた「『STAP事件』とは、マスコミや三流学者だちが総力をあげてFを魔女狩りのごとく叩きぬいた悪辣非道な人権蹂躙事件だ。本来ならノーベル賞を受賞していたはずのGを『自殺』に追い込むほど、魔女狩り団のリンチは悪辣で狡猾で卑劣だった。そのウラの闇の中で…、国民の生命と健康を利権拡大拡張のエサにする医療マフィアの凄まじい暗躍と指令があったことを忘れてはならない。」との文章を踏まえ、「一般の読者の普通の注意と読み方によれば、原告が、インターネット上で、STAP細胞に関する研究論文の不正事件について、誰かの手先となって騒ぎ、他の者の意見・論評に因縁をつけるなどして騒ぎ立てたという事実を摘示するものであ」るとして、意見・論評ではなく、事実として捉えておりました。

そして、「このような事実の摘示は、原告が、ライターとして根拠もないまま他の者に追随して信頼性に乏しい記事を書き、社会問題についてむやみに騒ぎ立てる人物であるとの印象を与えることから、…原告の社会的評価を低下させるものであるといわなければならない。」として、名誉毀損を肯定しました。

これに対して、令和2年裁判例の「チンピラ府議」かどうかは、証拠等で決することは難しく、意見・論評といえると思われます。

ABCニュースにおいても、「書き込みは議員の論争の一環であり、論評の域を外れているとは言えない」とされていますので、意見・論評とみていると考えて間違いないでしょう。

公正な論評の法理

公正な論評の法理とは

前述の最高裁判決(最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁)によると、「ある事実を基礎としての意見・論評ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、右意見・論評ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見・論評ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性を欠くものというべきである。そして、仮に右意見・論評ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である。」としています。

すなわち、以下の4要件を満たした場合には、意見・論評ないし論評による名誉毀損が免責されます。

  1. ①論評が公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
  2. ②論評の目的がもっぱら公益を図るものであること(公益性)
  3. ③その前提としている事実が重要な部分において真実であることの証明がある(真実性)か、または、真実と信ずるについて相当の理由があること(相当性)
  4. ④人身攻撃に及ぶなど意見・論評ないし論評としての域を逸脱したものでないこと

令和2年裁判例についての考察

令和2年裁判例において、名誉毀損が認められなかったのは、この4要件を満たしたからだと考えられます。

令和2年裁判例では、どのような事実を前提として、足立康史衆院議員が「チンピラ府議」と投稿したのかは明らかではありませんが、占部走馬大阪府議会議員の言動を前提としていることから、上記①公共性及び②公益性を認定し、かつ、④人身攻撃とまではいえないものと認定したものと考えられます。

では、なぜこのように公共性のある意見・論評や論評については、その内容の正当性や合理性は基本的に問題にされないのでしょうか。
意見・論評により、社会的な客観的評価が下がっても我慢しなければならないのでしょうか。

この点については、「はい、我慢しなければなりません。」とお答えせざるを得ません。

なぜなら、意見・論評は民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するもので、手厚く保証されなければならないと考えられているからです。

そのため、首を傾げざるを得ないようなものや合理性を欠くものであったとしても、その論評自体を持って不法行為となることはないと考えられています。

フランスの啓蒙主義者ヴォルテールの私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」との名言と同様の趣旨であるといえるでしょう。

令和2年裁判例でも、足立康史衆院議員の発言を肯定はしておりません。

名誉毀損とはしていませんが、チンピラ府議」の表現を「品がなく、政治家を志すものとして素質に疑問を抱かせる内容であることは否定しがたい」と強く否定しています。

なお、足立康史衆院議員は、新聞社から令和2年判決の取材を受けて、「当方の主張が認められたのは当然。感情的な応酬になったことは反省」とコメントしたとのことでした(足立康史衆院議員のツイッター公式アカウントでの午後10:59 · 2020年11月10日の投稿)。

品がなく、政治家としての素質に疑問を抱かせる内容であると言われている点はどのように捉えているのでしょうか。

まとめ

ネットニュースのコメント欄を見ていると、「チンピラは名誉毀損ではないと裁判所が認めた!」とするものがありました。

しかし、令和2年裁判例においては、公正な論評の法理という精緻な理論により、名誉毀損を認めていないに過ぎません。

「チンピラ」という記載で名誉毀損を認めた裁判例はありますし、名誉毀損が成立しないとしても名誉感情侵害や侮辱による不法行為が成立する可能性も十分にあります。

安易に「チンピラ」と投稿すると、痛い目を見ることになるかもしれませんので、くれぐれもそのような投稿はしないでください。

また、同じ「チンピラ」の文言を使っているにも関わらず、一方の裁判例では「チンピラ」を「事実」と捉え、もう一方では「意見・論評」と捉えておりました。

このように、事実か意見・論評かを判断するのは弁護士や裁判官でも難しいところがあります。

また、個別具体的な事案にもよりますので、「この投稿どうなの?」と思うものがありましたら、弁護士にご相談することをおすすめいたします。

最後に、誹謗中傷でお悩み・お困りの方は遠慮なく当事務所にご相談ください。

また、Twitter(ツイッター)での誹謗中傷被害にあった際の削除依頼、犯人特定のための発信者情報開示請求については、以下の記事もご参照ください。

Twitterの削除依頼と犯人特定・発信者情報開示請求の方法を弁護士が解説!【2021年最新版】

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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