昨今、AV(アダルトビデオ)の出演強要問題が社会問題化しております。
脅迫的な言動や断れないような状況でのAVへの違法な出演強要や、AV出演であることを隠して勧誘するような詐欺的な勧誘、出演する映像の内容を偽る詐欺的な勧誘などが問題になっております。
また、AV出演を拒否しようとすると、高額な違約金を請求する、親や彼氏にバラすなどと脅され、拒否できないなどの事案も発生しております。
AV(アダルトビデオ)に一度出演をしてしまうと、インターネット上に出回り、完全なる削除が難しくなってしまいます。
そこで、今回は、AV(アダルトビデオ)出演強要問題と関連して、AV(アダルトビデオ)出演契約において定められていた違約金を請求したものの、裁判所がこれを認めなかった裁判例を解説していきます。
AV(アダルトビデオ)の削除や販売差し止めについては、以下の記事をご参照ください。
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AV(アダルトビデオ)出演強要の手口
意に反して、AV(アダルトビデオ)に出演させられてしまわないように、AV(アダルトビデオ)出演強要のよくある手口をご紹介します。
・スカウトからモデル・アイドルにならないかと言って嘘の勧誘をされる
・高収入・チャットで話すだけ・パーツモデルの仕事などと嘘の求人サイトに応募してしまう
・絶対にバレない、顔はうつさないなどと言われたが、顔出しで販売されてしまう
・単なる登録だからと言われサインした書面がAV出演契約書だった
・契約書を読む時間を与えられずAV出演契約書にサインさせられてしまった
・契約書の控えがもらえず、内容がわからない
・AVだと知り、出演を断ったら多額の違約金を請求すると脅された
・親や彼氏にバラすと脅された
AVプロダクションからの違約金請求が否定された判例
前述のように、AV(アダルトビデオ)の出演強要問題においては、出演を断ろうとすると、AVプロダクション側が、多額の違約金を請求すると脅迫をしてくる事例があります。
実際に、プロダクションがAV(アダルトビデオ)の出演を拒否した女性に対して、裁判を起こして、2460万円の損害賠償請求をした事件があります。
この事件では、スカウトされた原告がタレントのプロダクションであると信じてプロダクションと契約をしたところ、AVに「出演をしなければ1000万円の違約金を請求する」「親に連絡をする」などと脅されてAVに出演をしてしまい、その後に出演を断っても「9本撮影しないと辞められない」などと出演を強要され、原告が出演を断っていたところ上記損害賠償の請求がされた事案である。
この事件について、東京地判平成27年9月9日は、原告であるAVプロダクションの請求を棄却しました。
本判決は、原告であるAVプロダクションとAV女優であった被告との契約関係について、その実態としては、AV女優側がプロダクション側にマネジメントを依頼するという女優中心の契約ではなく、プロダクションが指示をして女優を出演させるというプロダクション主導の契約であることから、雇用契約類似の契約であると判断しました。
雇用契約類似の契約であることから、雇用契約についての民法628条により、「やむを得ない事由」があるときには直ちに契約を解除できると解釈しました。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
そして、この民法628条における「やむを得ない事由」について、アダルトビデオへの出演が原告が指定する男性と性行為等をすることを内容とするものであるから、出演者である被告の意に反してこれに従事させることが許されない性質のものであること、原告が被告に対して1000万円という違約金がかかることを告げてアダルトビデオに出演させようとしたことを理由に、「やむを得ない事由」があると判断しました。
その上で、本件におけるアダルトビデオへの出演契約は、被告からの申し入れにより、解除がなされており、その後に被告がアダルトビデオに出演しなかった点について、被告はそもそも出演する義務を負わず、損害賠償責任を負わないと判断をしました。
(1) 契約の性質
第1次契約及び第2次契約の内容は、被告が出演するものについて原告の決定に従わねばならず(8条1項)、出演しなかった場合に損害賠償義務を負うとされているのに対し(9条1項、6項)、被告の得られる報酬の額や支払方法について具体的な基準は定められていない(7条1項、2項)。実際にも、被告がどんなグラビア撮影やアダルトビデオ撮影に従事するかについては、被告の意思にかかわらず、原告が決定していた。また、原告が芸能プロダクションの運営等を目的とする会社であり、被告以外にもアダルトビデオに出演する女優を多数マネジメントしてきたと考えられる《略》。
これらの実情に照らすと、第1次契約及び第2次契約はいずれも、被告が原告に対してマネジメントを依頼するというような被告中心の契約ではなく、原告が所属タレントないし所属AV女優として被告を抱え、原告の指示の下に原告が決めたアダルトビデオ等に出演させることを内容とする雇用類似の契約であったと評価することができる。そうすると、被告の解除は、2年間という期間の定め(3条)のある雇用類似の契約の解除とみることができるから、契約上の規定にかかわらず、「やむを得ない事由」があるときは、直ちに契約の解除をすることができるものと解するのが相当である(民法628条)。
(2) 直ちに解除することの可否
アダルトビデオへの出演は、原告が指定する男性と性行為等をすることを内容とするものであるから、出演者である被告の意に反してこれに従事させることが許されない性質のものといえる。それなのに、原告は、被告の意に反するにもかかわらず、被告のアダルトビデオへの出演を決定し、被告に対し、第2次契約に基づき、1000万円という莫大な違約金がかかることを告げて、アダルトビデオの撮影に従事させようとした。したがって、被告には、このような原告との間の第2次契約を解除する「やむを得ない事由」があったといえる。(3) 債務不履行の有無
そうすると、仮に第2次契約に基づき被告に平成2×年×月×日のグラビア撮影及び同月×日のアダルトビデオ撮影等への出演義務があったとしても、被告の民法628条に基づく同月×日の解除により、第2次契約に基づくこれらの義務は消滅したと認められる。したがって、被告がこれらの撮影に出演しなかったことは、債務不履行にあたらない。以上により、その余の点を判断するまでもなく、被告は原告に対し、債務不履行による損害賠償義務を負わない。
東京地判平成27年9月9日
AV・アダルトビデオの出演強要・違約金の判例まとめ
以上のように、東京地判平成27年9月9日は、AV出演契約を雇用契約類似の契約であるとして、やむを得ない理由による解除を認めました。
この他にも、AV出演契約が錯誤、詐欺、強迫などによる瑕疵ある意思表示によりなされたとして取り消しをすることや、公序良俗に反する契約であり無効であると主張していくこともできるでしょう。
AV・アダルトビデオの出演は、拒否できます。
とはいえ、ご自身で、百戦錬磨のAVプロダクションと交渉をするのはなかなか難しいでしょう。交渉・法律のプロである弁護士に交渉を依頼するのが良いと思います。
AVへの出演を強要された、強要されそうで困っている方は、一度弁護士にご相談ください。
また、万一、AV・アダルトビデオに出演してしまったという場合には、削除や販売の差止を請求していく必要があります。
AV・アダルトビデオやリベンジポルノの削除については、以下の記事もご参照ください。