発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたときの対処法と同意拒否の回答書の書き方を弁護士が解説!

インターネット上の誹謗中傷が社会問題化しております。

当法律事務所の弁護士には、誹謗中傷をしてしまった加害者側からのご相談件数も増えてきております。

TwitterやYouTubeなどのSNSや、5ちゃんねる・ホスラブ・爆サイなどの匿名掲示板で誹謗中傷をしてしまい名誉毀損、プライバシー権侵害に基づく発信者情報開示請求がされてしまった。

トレントなどのファイル共有ソフト(P2P)を使用して、映画、漫画、AV(アダルトビデオ)の違法アップロードをしてしまった。

このような権利侵害行為をしてしまったため、発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた。どう回答したらいいか、同意せずに拒否したいので書き方を教えてほしい、弁護士に回答書を作成してほしいなどの相談が多くなっております。

本記事では、発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた場合の対処法について解説をしていきます。

現在、呪術廻戦等の人気漫画・アニメや、AV・アダルトビデオについて、BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフト(P2P)を使用し、違法ダウンロード・違法アップロードをしてしまい発信者情報開示に係る意見照会書が届いたというご相談が増えてきております。

ファイル共有ソフトでの著作権侵害においては、過去に逮捕事例があること、多額の損害賠償請求がなされた事例があることから、早期に対応する必要があります。詳細については、以下の記事をご参照ください。

BitTorrent(ビットトレント)などファイル共有ソフト(P2P)での違法アップロードをめぐる発信者情報開示請求やその対処法

発信者情報開示請求とは

発信者情報開示請求とは、インターネット上で誹謗中傷等の被害によりその権利を侵害された者が、加害者である投稿者・発信者を特定するために必要な情報の開示を求める請求です。

プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)の4条1項をその根拠としております。

(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

プロバイダ責任制限法

このプロバイダ責任制限法は、今年(2021年)4月に改正案が成立し、発信者情報開示請求の手続きの簡易迅速化が図られることになります。もっとも、この改正法の施行は来年になる見込みですので、現状では、現行法下の発信者情報開示請求の手続きについて解説をしていきます。

発信者情報開示請求の手続きは、主に、以下の3つのプロセスを経る必要があります。

  1. SNSや掲示板運営会社にIPアドレス等の開示請求
  2. 開示されたIPアドレス等からプロバイダを特定し、ログ保存請求
  3. プロバイダに契約者情報を開示請求

「1,SNSや掲示板運営会社にIPアドレス等の開示請求」では、爆サイなど、現状は弁護士による任意請求によってIPアドレス等を開示してくれるコンテンツプロバイダもありますが、多くは、裁判所に対して発信者情報開示の仮処分申立てが必要になります。

「2,開示されたIPアドレス等からプロバイダを特定し、ログ保存請求」では、主に、任意の請求によりログの保存対応をしてもらえます。しかし、接続先IPアドレスなどの関係で、特定をするための調査が必要になることもあり、ログ保存の仮処分申立てが必要になることもあります。

「3,プロバイダに契約者情報を開示請求」では、開示請求をしたプロバイダから契約者(誹謗中傷投稿をした犯人)に対して、契約者情報を開示してもよいかという意見照会書が届きます。犯人がこれに同意した場合などは、任意に情報が開示される、犯人側の弁護士から示談・和解の交渉の申し入れがあるときもあります。

発信者情報開示請求の手続図 グラディアトル法律事務所作成

 

発信者情報開示に係る意見照会書とは

発信者情報開示に係る意見照会書とは、発信者情報開示請求を受けたプロバイダなどが、発信者情報を開示するかどうかの意見を発信者(投稿者)に確認をするための書面です。

プロバイダ責任制限法4条2項は、発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならないと定めており、同条項に基づいて、発信者の意見を聞くための書面が意見照会書になります。

同条項は、発信者情報の開示請求への対応に当たって、プライバシーや表現の自由、通信の秘密等、発信者の権利利益が不当に侵害されることのないよう配慮するため、発信者の意見を聞く規定を設けております。

(発信者情報の開示請求等)
第四条
2 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。

プロバイダ責任制限法

発信者情報開示に係る意見照会書は、一般社団法人テレコムサービス協会の書式(テレサ書式)で送られてくることが多いです。

発信者情報開示に係る意見照会書
「発信者情報開示に係る意見照会書」一般社団法人テレコムサービス協会HPより

 

意見照会書はいつ届く?そのタイミングとは

発信者情報開示請求に係る意見照会書はいつ届くのでしょうか?そのタイミングについて解説をします。

前述したように、発信者情報開示請求は、コンテンツプロバイダ(SNS運営会社や掲示板運営会社)に対するIPアドレス等の開示請求、経由プロバイダの調査とログ保存請求、経由プロバイダ・インタターネットサービスプロバイダ(携帯電話会社など)に対する発信者の契約者情報の開示請求という3つの段階があります。

  1. SNSや掲示板運営会社にIPアドレス等の開示請求
  2. 開示されたIPアドレス等からプロバイダを特定し、ログ保存請求
  3. プロバイダに契約者情報を開示請求

発信者情報開示請求に係る意見照会書は、上記1.コンテンツプロバイダへのIP等開示請求の段階、3.経由プロバイダへの契約者情報開示請求のいずれかのタイミングで届くことになります。

1.コンテンツプロバイダへのIP等開示請求の段階(上記図のタイミング①)については、コンテンツプロバイダがIPアドレス等しか把握していないような場合には、意見照会書は届きません。

ブログ運営社がブログ上で誹謗中傷をした場合や、Yahoo!知恵袋で誹謗中傷をした場合などでは、コンテンツプロバイダは、発信者のメールアドレスを把握しておりますので、このメールアドレス宛に意見照会書がメールで届くことがあります。

3.経由プロバイダへの契約者情報開示請求の段階(上記図のタイミング②)での発信者情報開示に係る意見照会書は、郵送で届くことが多いです。

この場合については、経由プロバイダに対してテレサ書式等を使用した任意の発信者情報開示の請求がなされ、プロバイダが意見照会書を送ってくるというタイミングと、発信者情報開示請求の訴訟が提起されて意見照会書を送ってくるというタイミングがあります。

 

意見照会書が届いたときの対処法は?

発信者情報開示請求に係る意見照会書が届き、どうしたらいいか?

全く身に覚えがないのだか…

無視しても大丈夫なのか?

拒否してもいいのか?

拒否するば場合の回答書の書き方は?

など、弁護士へのご相談が増えてきています。

発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたときの対応方法としては、以下の3つの方法が考えられます。

  1. 無視する
  2. 開示の同意を拒否する回答書を提出する
  3. 開示に同意する回答書を提出する

発信者情報開示請求を受けたプロバイダは、開示理由があるかどうかを判断することになります。

また、発信者情報開示請求訴訟が提起されている場合には、プロバイダは、発信者・投稿者の意見も参考にしつつ反論書面等を提出して訴訟活動をしていくことになります。

そのため、身に覚えがない場合や、発信者・投稿者に言い分がある場合には、その言い分や理由などを記載して回答書を提出すべきでしょう。

また、認める場合には、詳細は後述しますが、示談の金額を低く抑えるために同意の回答書を提出すべきであり、無視すべきではないです。

発信者情報開示に係る意見照会書の回答書書式
「発信者からの回答書」一般社団法人テレコムサービス協会HPより

身に覚えがない場合の対処法は?

発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたが、全く身に覚えがないというご相談を受けることもあります。

誹謗中傷等の書き込みをした覚えもないし、トレント等のファイル共有ソフト(P2P)を利用した覚えもない。そんなときにはどうしたらいいでしょうか?

身に覚えがないとはいえ、発信者情報開示に係る意見照会書が届いた以上、その人の名義で契約された携帯電話やWi-Fiなどから、該当する書き込みなどの権利侵害行為がなされた可能性があります。

自分以外の誰かが、自分の契約した携帯電話やWi-Fiなどから書き込みをした可能性がないか思い起こしてみてください。

同居の家族や恋人が書き込みをした可能性、ホームパーティーを開いた際の来客にWi-Fiを使わせた可能性はないでしょうか?

自分以外の人が自分の携帯電話やWi-Fiを使っていた可能性がある場合には、その旨を記載し、それを基礎付ける証拠を添付して発信者情報開示請求に係る意見照会書に同意を拒否する旨の回答をするのがよいでしょう。

例えば、自分はシェアハウスに住んでおり、投稿がされたとされる日時には、10名の10人が住んでいた。そのシェアハウスでは自分がWi-Fiを契約し、他の居住者もそのWi-Fiを使用することができたことなどを、主張立証していくのがよいでしょう。

意見照会書に同意をして示談するメリット

次に、発信者情報開示請求に係る意見照会書が届き、自身の書き込みであると身に覚えがあり、かつ、投稿内容が相手方の権利を侵害するものだと自認しており、反省をしている場合には、意見照会書に同意をして、示談の申し入れをすることが考えられます

意見照会書に同意をして示談をするメリットとしては、以下の2つがあります。

・名誉毀損罪等での逮捕や刑事事件化を避ける

・損害賠償金額が下がる

刑事事件化を避ける

誹謗中傷の書き込みは、その内容によっては、名誉毀損罪、侮辱罪、著作権法違反や業務妨害罪などに該当する可能性があります。このような場合には、被害者は警察に被害届を提出することや刑事告訴を検討している場合があります。

このような場合には、警察の捜査が進み、逮捕されてしまったり、刑事処罰を受けてしまう可能性があり、相手方と示談をすることにより、このリスクを避けるというメリットがあります。

損害賠償金額を下げる

発信者情報開示請求は、通常、2段階の開示の手続き、ログ保存手続きも含めると3段階の手続きを経る必要があります。

そのため、弁護士費用もある程度高額化してしまう傾向にあります。

また、近年、発信者情報開示請求にかかった弁護士費用について、調査費用として相手方に対する損害賠償請求に加算して請求をする事例が増えています。

裁判所も、発信者情報開示請求にかかった弁護士費用を損害として認めている事例が増えてきています

弁護士費用について

 

早い段階で発信者情報開示請求に係る意見照会書に同意をすることにより、誹謗中傷の被害者であり発信者情報開示請求をした原告側としては、弁護士費用を抑えることができます。

そのため、損害額としての弁護士費用、調査費用が下がり、結果として和解金額が下がる可能性があります

もっとも、被害者側の被害感情が強い場合や、すでに警察が捜査を開始しているなど、交渉力が弱い状況で、なかなか和解金額が下がってこないケースもあります。

 

意見照会書の同意を拒否する場合の回答書の書き方

発信者情報開示請求に係る意見照会書が届き、書き込み等について身に覚えはあるものの、こちらにも言い分があり、回答書において同意を拒否したいという場合もあるでしょう。

同意を拒否する場合には、どのような事項を記載すればよいでしょうか。

結論からいえば、発信者情報開示の要件を満たさないことを主張・立証をしていく必要があります。

主に、以下の2つを主張していくことになります。

  • 同定可能性がないこと
  • 権利侵害性がないこと

同定可能性について

同定可能性とは、当該投稿が、誰のことを指しているのか特定できることをいいます。

名誉権侵害や名誉感情侵害をする投稿があったとして、その投稿が被害者であるあなたについての投稿であるといえることが必要です。

インターネット上では、ハンドルネームなどの仮名で活動することや伏字を使用した誹謗中傷の書き込みも多く、この同定可能性が問題になります。

名誉毀損における摘示された事実の意味内容については、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、判断していくと解されています。

同定可能性においても、一般読者を基準として、当該投稿が権利侵害を主張するものと同一視されるのかを判断されます。

そのため、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にして、当該投稿は被害者・発信者情報開示の請求者のことを指しているとは読めないと主張・立証していくことになります。

権利侵害性について

権利侵害性とは、当該投稿が被害者である発信者情報開示の請求者の権利を違法に侵害していることをいいます。

名誉毀損の場合には、具体的な事実の摘示により社会的な評価を低下させるものであることが必要になります。

そのため、意見照会書における回答拒否の理由としては、当該書き込みが事実の摘示に該当しないこと、事実の摘示に該当するとしても、被害者・発信者情報開示の請求者の社会的評価を低下させるような事実でないことを主張・立証していくことになります。

また、名誉毀損は、以下の3つの要件を備えると違法性が阻却されると考えられています。

  • 事実の公共性
  • 目的の公益性
  • 真実性

そのため、意見照会書における回答拒否の理由としては、書き込みにかかる事実が公共性があり、その目的に公益性があり、その事実が真実であることを主張・立証していくことになります。

政治家などの公人の言動に対する批判的な事実を摘示した場合や、店舗や病院などの評価をGoogleマップの口コミに書き込みをした場合などには、この主張・立証をしていくことになるでしょう。

名誉毀損については、以下の記事もご参照ください。

名誉毀損と逮捕・刑事事件,損害賠償

 

名誉感情侵害の場合には、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な価値が侵害されたことが必要です。

名誉感情は、主観的名誉などと表現されることもあります。簡単にいうと、自分の価値についての意識や感情、プライド、自尊心のことといえるでしょう。

判例は、名誉感情侵害の違法性判断基準として、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められるかどうかを基準にしています。

そのため、意見照会書における回答拒否の理由としては、そもそも名誉感情が侵害されていないと主張立証するか、名誉感情侵害に該当するとしても、社会通念上許される限度を超えるものではないと主張・立証していくことになります。

名誉感情侵害については、裁判例も分かれており、丁寧に主張・立証をすることにより、開示がされない可能性も高くなってくるでしょう。

名誉感情侵害については、以下の記事もご参照ください。

ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例まとめ

 

著作権法侵害の場合では、BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使用して、映画、音楽、漫画、AV(アダルトビデオ)を違法ダウンロード・違法アップロードをしてしまい、発信者情報開示に係る意見照会書が届いた、損害賠償請求書面が届いたなどの相談が増えてきています。

ファイル共有ソフトと著作権法の関係でいえば、主に公衆送信権・送信可能化権(著作権法23条)の侵害が問題になります。

公衆送信権とは、著作者がその著作物について、公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を専有しておこなうことができる権利をいいます。

BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使用した違法アップロード事案においては、逮捕されて刑事事件化する場合や、多額の損害賠償請求がなされることもあり、注意が必要です。

 

 

発信者情報開示請求に係る意見照会書の対応まとめ

以上でみてきたように、発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた場合の対処法としては、以下の3つの方法があります。

  1. 無視する
  2. 拒否する
  3. 同意して示談交渉をする

そして、無視するのは建設的ではありませんので、理由をつけて拒否するのか、同意をして示談するのかどちらかの方法をとるのが良いでしょう。

同意するのか、拒否するのか、どちらが良いかの判断基準としては、当該書き込み内容が違法かどうか、裁判になった場合に開示がされるかどうかが基準となるでしょう。

開示されてしまう可能性が高いのであれば、同意をして早期に示談交渉をするという選択肢が出てきます。

他方で、権利侵害性が低いなどの理由から開示される可能性が低そうであれば、拒否することとその理由をしっかりと記載をして、発信者情報開示請求に係る意見照会書の回答書を提出すべきでしょう。

この判断は、専門的な知識を必要とするので、一度、弁護士にご相談いただくのが良いと思います。

また、示談交渉や、意見照会書の回答書の作成について、弁護士に依頼をして任せるという選択肢もありますので、まずは弁護士にご相談ください

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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