youtuber間の紛争が民事訴訟や刑事告訴に発展しそうだ。
桜鷹虎氏がシバター氏に対して,刑事告訴と損害賠償の準備をしていることを自身のyoutube動画で明らかにした。
youtubeでの解説動画もあるので,こちらも参照してほしい。
事案の概要 桜鷹虎vsシバター
https://www.youtube.com/channel/UCxzTizxPXedkbgPBu8pIozgはパチスロ系のユーチューバー
一方,https://www.youtube.com/channel/UCBD4RO82lle5CyB_M9dtwzwhは,炎上商法などで有名な物申す系ユーチューバー
ことの発端は,桜鷹虎氏の動画に,新型コロナウイルスでの休業要請・自粛期間中のパチンコの動画がUPされたことだという。
これに対して,シバター氏は,以下の動画を投稿した。
『桜鷹虎、自粛期間中に新台実践動画を配信! そりゃねーだろ!』
『いまだに新台動画をUPし続ける桜鷹虎の正体を明かします』
『桜鷹虎の潰し方、教えます』
『桜鷹虎の謝罪?動画を見て本当に腹が立った』
なお,これらの動画は現在,非公開状態か,削除されているか,閲覧できない状態だ。
シバターさんの投稿動画内容
投稿動画の内容を見ることができないので,『yutura ユーチュラ』さんのサイトを参考にさせていただいた。
詳細は,https://ytranking.net/blog/archives/26108 を参照して欲しい。
以下,シバターさんの発言内容と思われる部分だけピックアップして紹介する。
「あまりにも意識が低いし低質だし、その場の再生数、広告収入のためにやっている」
「シバター曰く、桜鷹虎には、登録者や再生数、高評価を業者から購入しているという噂や、都合の悪いコメントを削除し、言論統制を行っていると噂があるとのこと。」
「桜鷹虎の動画を見ないことと、チャンネル登録をしないことを視聴者に呼びかけました。」
「どこまで行ってもこいつはクズで、10万円でみそぎを済ませたつもりかと?(中略)
良いとか悪いじゃなくてきしょい!きしょすぎる!自分から自粛したんじゃないんだよ!」
桜鷹虎氏の主張
桜鷹虎氏は,上記のシバター氏の投稿内容・発言について,以下のように主張している。
・シバターさんに民事訴訟と刑事告訴をする
・登録者・再生数を購入はデマ
・「桜鷹虎の潰し方」→視聴者を煽る
・なりすまし,嫌がらせが多発(盗撮を煽る・殺害予告も)
・シバターさんが個人情報の公開を示唆
・チャンネル潰す旨の動画,誹謗中傷・デマの拡散は業務妨害
・請求金額は合計で数千万円
・和解・示談の意思はない
桜鷹虎氏の動画は現在も閲覧できるので,詳細はそちらを参照してほしい。
刑事告訴・名誉毀損罪・侮辱罪・業務妨害罪
桜鷹虎氏は,シバター氏に対して,刑事告訴をすると表明している。
刑事告訴とは?何罪に該当する可能性があるの?
刑事告訴とは,被害者その他法律上告訴権ある者が検察官または司法警察員に対し,犯罪事実について犯人の処罰を求める旨の意思表示をすること(最判昭和26年7月12日)だ。
こんな被害にあったよ,この犯人を処罰してくださいよ,って警察等に申告することだ。
処罰を求める点が被害届とは異なる。
被害届については,以下のサイトを参照して欲しい。
https://criminal-case.gladiator.jp/?p=167
刑事訴訟法
第二百三十条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
第二百四十一条 告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
○2 検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。第二百四十二条 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
では,今回のシバター氏のyoutube動画の投稿や発言内容について,どのような犯罪が成立する可能性があるのだろうか?
以下の3つの犯罪の可能性が考えられる。
名誉毀損罪(刑法230条1項 3年以下,50万円以下)
侮辱罪(刑法231条 拘留30日未満・科料1万円未満)
業務妨害罪(刑法233条・234条 3年以下,50万円以下)
今回の事件については,シバター氏の動画の内容が定かではないので,なんとも言えない部分はあるが,上記に該当する可能性はありそうだ。
業務妨害については,虚偽の風説の流布による業務妨害に該当する可能性があるだろう。
ただ,川崎希さんの件では,よりひどい誹謗中傷がなされていた。
「流産しろ」「窃盗してた」「放火するチャンス」などだ。
それでも,川崎希さんが自ら発信者情報開示により犯人を特定し,その後に警察が動いて侮辱罪での書類送検となっているので,今回もなかなか警察が動かない可能性がありそうだ。
(名誉毀損)第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に関する場合の特例)第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。(侮辱)第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。(親告罪)第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。
(信用毀損及び業務妨害)第二百三十三条虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(威力業務妨害)
第二百三十四条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
損害賠償請求の法的根拠
民法
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
→違法行為と損害との間の因果関係が必要第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
橋下徹元大阪市長と光市母子殺害事件の弁護団の裁判例の概要
テレビ番組で光市母子殺害事件の弁護団への懲戒請求呼びかけ
1審 名誉毀損・業務妨害ともに認め 200万
2審 名誉毀損否定,業務妨害認め 90万
最高裁 名誉毀損・業務妨害両方否定
最判平成23年7月15日等参照
名誉毀損の損賠賠償
名誉毀損とは,公然と事実を適示し,社会的評価を低下させる行為をいう。
民事では,意見論評の表明も名誉毀損(名誉感情侵害)として損害賠償請求の対象となる。
違法性阻却
→公共性,公益目的,真実性の証明,故意・過失
意見論評
→前提事実の重要部分が真実でないor人身攻撃
→違法性阻却されない
橋下氏の事件ではどのように判断されたか?
《橋下さんの事件(高裁・最高裁) 》
社会的評価は低下させる
弁護活動についての意見→公益性・公共目的争いなし
真実性が問題→真実,意見論評を逸脱していない
では,本件ではどうか?
《本件》
再生数等を買っている噂
社会的評価低下? 公共性? 真実? 誤信?
→具体的な内容によっては名誉毀損による損害賠償が認められる可能性はある
橋下徹氏の1審 広島地判平成20年10月2日
(1) 本件における名誉毀損の成立要件について
テレビ番組の出演者による当該番組における発言による名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、人の品性・徳行・名声・信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず成立し得る。そして、事実を摘示することによる名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、この行為には違法性がなく、仮にこの事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において真実であると信じたことについて相当の理由があれば、故意又は過失は否定される。
また、ある事実を基礎として意見ないし論評を摘示することによる名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、違法性を欠くというべきである。そして、仮に上記意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される。
業務妨害・呼びかけ行為と損害賠償
表現の自由と人格的利益の衝突する場面での最高裁の判断基準
→被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度内か?
本件発言の態様,発言の趣旨,Xらの弁護人としての社会的立場,本件呼び掛け行為により負うこととなったXらの負担の程度等を総合考慮して違法性を判断する。
発言状況,趣旨,態様,結果の重大性,結果への寄与度,相手の属性,相手の負担の大きさ等を考慮している。
橋下徹氏最高裁 最判平成23年7月15日等
第1審被告の本件呼び掛け行為は,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとして,弁護士会における自律的処理の対象として検討されるのは格別,その態様,発言の趣旨,第1審原告らの弁護人としての社会的立場,本件呼び掛け行為により負うこととなった第1審原告らの負担の程度等を総合考慮すると,本件呼び掛け行為により第1審原告らの被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるとまではいい難く,これを不法行為法上違法なものであるということはできない。
《橋下事件》
状況:娯楽性の高いテレビのトーク番組での発言
趣旨:視聴者自身の判断に基づく行動を促すもの
態様:視聴者の主体的な判断を妨げ強引に懲戒させるものではない
結果:多数の懲戒請求
寄与度:他の出演者の発言や懲戒請求制度も原因
相手:注目事件の弁護人で様々な批判も止むを得ない
負担:一括で反論できたので負担の程度は大きくない
《本件》
(シバターさんの動画を見てないが)共通点も多そう
他方で,結果の重大性や被害は橋下事件よりも大きいかも
損害賠償が認められる可能性はある
ユーチューバー同士の争いで,youtube内での発言という点がどのように評価されるのか注目したい。
損害額はいくらになる??
桜鷹虎氏の代理人弁護士は,数千万円を請求するとのこと。
果たして,そのような高額の損害賠償が認められるのだろうか??
不法行為(名誉毀損・業務妨害)と損害との間に因果関係が必要だ。
まず,名誉毀損については,精神的損害・社会的地位の低下の損害が問題となる。
→10万という裁判例(東京地判平成30年4月26日参照)もあり,高額にはならないと予想される。
動画公開とプライバシー権 東京地判平成30年4月26日
原告は,本件配信及び本件投稿につき明らかに争わないところ,本件配信及び本件投稿に係る動画中における原告の発言は,被告が原告の著作権を侵害したとの印象を与えるなど,被告の社会的評価を低下させるに足るものと認められるから,被告に対する名誉棄損の不法行為を構成するものと認められる
上記不法行為によって生じた原告の精神的損害を慰藉するには被告に対し慰謝料10万円を支払わせることが相当と認められる。
次に,業務妨害・呼びかけ行為についてみると,具体的な損害についての立証が必要だ。
シバター氏の呼びかけにより,桜鷹虎氏が具体的にどのような損害を受けたのか?
その損害は算定できるか?
その損害と不法行為の因果関係を立証できるか?
この辺りが争点となってくるが,なかなか難しい戦いになりそうだ。
いずれにしろ,数千万円もの高額な損害賠償が認められる可能性は高くないだろう。
続報 桜鷹虎さんが1億円の損害賠償の訴えを提起