文春砲の違法性 渡部建さんの不倫報道

弁護士 若林翔
2020年06月14日更新

渡部建さんの不倫報道が波紋を呼んでいる。

『週刊文春』6月18日号「佐々木希、逆上 渡部建『テイクアウト不倫』」が報じた。

お笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部建さんが佐々木希さんという妻と子どもがいながら複数の女性と不倫をしていたという内容だ。

 

週刊文春の文春砲で芸能人の不倫を暴くことは適法なのか?

プライバイシー権侵害や名誉毀損にならないのだろうか?

週刊誌の編集長が有罪になった事件

芸能人の不倫報道をした週刊誌への損害賠償請求が認められた事件

これらの裁判例を踏まえて解説する。

 

解説動画もあるので,こちらもご覧ください。

 

表現の自由と名誉・プライバシー

週刊文春などの週刊誌での報道,報道の事由は,表現の自由として憲法上保護された権利だ。

日本国憲法

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
博多駅事件(最大決昭和44年11月26日)
報道機関の報道は民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値いする
しかし,憲法上重要な表現の自由といえども,無制限に許される訳ではなく,プライバシー権や名誉権との調整が必要だ。

文春砲と刑事事件・名誉毀損罪

文春等の週刊誌で,不倫の事実を摘示することは名誉毀損罪になるのか??

名誉毀損罪(刑法230条1項 3年以下,50万円以下)における名誉毀損とは,公然と事実を摘示して社会的評価を低下させることだ。

しかし,以下の3つの違法性阻却事由(刑法230条の2第1項)があれば,違法性が阻却される。
・事実の公共性
・目的の公益性
・真実性の証明

刑法(名誉毀き損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

 

渡部さんの不倫の事実を週刊文春で公表することは,

公然と不倫の事実を摘示し

渡部さんの社会的評価を低下させることは間違いないだろう。

では,違法性阻却事由はあるのか??

まず,事実の公共性が問題となる。

私人の私生活上の行状にあつても,そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては,その社会的活動に対する批判ないし評価の1資料として事実の公共性が認められることもある(月刊ペン事件 最判昭和56年4月16日)。

この月刊ペン事件では,宗教団体の会長であり,政治的な影響力も大きい人物だったこと,対象となった女性2人も元国会議員で政治的な判断基準になり得たことなどから,事実の公共性は認めた。もっとも,差し戻し審では,真実性の証明がされていないとして,有罪になっている。

ここで,芸能人の不倫についてみると,不倫の事実の指摘に公共性が認められる可能性は低いだろう。

公共の利害に関する事実とは,多数の人の社会的利害に関係する事実で,しかも,その事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められるものを指す(東京地判平成20年6月17日)。

そして,公共の利害に関する事実というためには,興味や好奇心の対象であるにすぎない事実では足りないからだ。

芸能人の不倫については,週刊誌の読者が,その興味や好奇心の対象として読む事実ではあるが,社会的に正当な事実とまでは認められないと考えられるからだ。

月刊ペン事件 最判昭和56年4月16日

ところで、被告人が「a」誌上に摘示した事実の中に、私人の私生活上の行状、とりわけ一般的には公表をはばかるような異性関係の醜聞に属するものが含まれていることは、一、二審判決の指摘するとおりである。しかしながら、私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法二三〇条ノ二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合が あると解すべきである。

本件についてこれをみると、被告人が執筆・掲載した前記の記事は、多数の信徒を 擁するわが国有数の宗教団体であるb学会の教義ないしあり方を批判しその誤りを指摘するにあたり、その例証として、同会のc会長(当時)の女性関係が乱脈をきわめ ており、同会長と関係のあつた女性二名が同会長によつて国会に送り込まれているこ となどの事実を摘示したものであることが、右記事を含む被告人の「a」誌上の論説全体の記載に照らして明白であるところ、記録によれば、同会長は、同会において、その教義を身をもつて実践すべき信仰上のほぼ絶対的な指導者であつて、公私を問わずその言動が信徒の精神生活等に重大な影響を与える立場にあつたばかりでなく、右宗教上の地位を背景とした直接・間接の政治的活動等を通じ、社会一般に対しても少なからぬ影響を及ぼしていたこと、同会長の醜聞の相手方とされる女性二名も、同会婦人部の幹部で元国会議員という有力な会員であつたことなどの事実が明らかである。

このような本件の事実関係を前提として検討すると、被告人によつて摘示されたc 会長らの前記のような行状は、刑法二三〇条ノ二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル 事実」にあたると解するのが相当であつて、これを一宗教団体内部における単なる私的な出来事であるということはできない。

なお、右にいう「公共ノ利害ニ関スル事 実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきものであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右するものではな いと解するのが相当である。

以上のように,渡部さんの記事を書いた週刊文春の編集長が名誉毀損罪で処罰される可能性がある。

 

文春砲と民事事件・損害賠償

次に,民事事件について検討する。

渡部さんが週刊文春を訴えた場合に,損害賠償請求が認められるのかという問題だ。

この場合は,不法行為に基づく損害賠償請求が認められるかが問題となる。

民法第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民事の場合にも,その損害賠償請求の成否,不法行為の成否の中で,名誉権・プライバシー権と表現の自由・報道の自由との調整が必要になる。

民事の場合でも,名誉毀損罪の違法性阻却事由と類似の判断基準によって判断される。

情報を公開して広く国民に知らせるのが相当である場合に限って報道の自由を優先させ,違法性阻却がされると考えられており,本件の不倫の問題は,公共の事実にあたらず,違法性が阻却されないものと考えられる。

そのため,渡部さんが週刊文春を訴えた場合,損害賠償は認められる可能性が高いと考える。

 

東京地判平成20年6月17日(広末涼子さんvs女性セブン 損害賠償事件)

(2) しかしながら,一般に,名誉毀損に対する損害賠償請求訴訟において違法性が阻却されるためには,その事実が「公共の利害に関する事実」であること(公 共性)が必要とされているところ,この「公共の利害に関する事実」とは,多数の人の社会的利害に関係する事実で,しかも,その事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められるものを指すのであって,多数の人が関心を抱いていたとしても,単な る興味や好奇心の対象であるにすぎない事実では足りないというべきである。

すなわち,個人の私生活上の言動や家庭生活等を構成する事実で,一般の市民であれば通常は公開されることを望まないような事実については,これを公開することにつき特に公共的な意義が認められる場合や,当該個人の社会的地位や活動状況に照らして,その個人的な情報を公開して広く国民に知らせるのが相当である場合に限って,その目的に沿うべく報道の自由を優先させ,当該個人にその事実が公開されることを受忍させて,その報道につき違法性を阻却するのが相当である。

したがって,そのような場合に該当しない限り私的な言動や私的な家庭生活等を公開することは個人のプライ バシーの侵害に当たりその事実の摘示が対象者の社会的評価を低下させるものであるときは,名誉毀損に該当し,その違法性が阻却されることはない,というべきである。

(3) 以上のところを前提に本件について検討すると,本件記事や本件広告は,いずれも原告の私的な家庭生活に関する事柄や原告の過去及び現在の男女関係などに関する事柄を取り上げて報道したものであるところ,そのような私的な事柄は, 一般の市民であれば通常は公開されることを望まない事実であることが明らかである。

もちろん,原告が著名な芸能人であるところから,その私的な家庭生活に関する事柄について個人的な興味を抱く読者がいることはそのとおりであるとしてもそのような興味や関心を寄せることにつき社会的に正当と認められるような事情が認められるわけではなく,かつ,そのような事実を公開することによって何か社会公共の利 益に貢献するものがあるわけでもないから,本件記事等によって被告両名が公表した事実は,「公共の利害に関する事実」には該当しないことが明らかである。

したがっ て,本件記事等につき違法性が阻却されるとする被告両名の主張は,その余の点につ いて判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。

なお,広末さんが女性セブンを訴えた事件では,東京高裁に控訴がなされ,最終的に230万円の損害賠償が認められた。

 

 

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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