アダルト動画サイトなどで、無許可で撮影した盗撮動画・画像などを販売したり、UPしたりする被害が相次いでいます。
リベンジポルノ被害や盗撮被害では、一度ネット上に画像・動画が流出してしまうと、その画像・動画を削除したとしても、削除までの期間に画像・動画を保存した人が再度ネット上にUPしてしまう可能性があり、そうなると完全にネット上から消し去るのは非常に困難になってしまいます。
今回は、昨今、社会問題化していた女子アスリート、スポーツ選手の盗撮動画が販売され、名誉毀損罪で逮捕されたニュースを基に、盗撮動画の販売と名誉毀損罪、リベンジポルノ防止法、各都道府県の迷惑防止条例について解説をしていきます。
性的動画販売で名誉毀損罪で逮捕されたニュース
選手の性的動画販売疑い、男逮捕 千葉県警が名誉毀損を初適用
女性スポーツ選手の下着が透けて見える動画をインターネットで販売し、女性の名誉を傷つけたとして、千葉県警サイバー犯罪対策課は21日、名誉毀損容疑で、千葉県市川市の会社員〇〇容疑者(57)を逮捕した。
選手の画像や動画を、性的な意図を持って撮影したり拡散したりする行為は社会問題化しており、競技団体などが対策に乗り出している。同課によると、選手の性的画像問題を巡り、名誉毀損容疑で摘発するのは全国で初めて。
逮捕容疑は2018年11月~今年3月、女性バレーボール選手の下着が透けて見える動画をアダルト動画販売サイトに掲載して販売し、女性の名誉を傷つけた疑い。
共同通信 2021,6,21 https://news.yahoo.co.jp/articles/3e7c90461d1ff317e1e8ff75a66252a1170e9376
盗撮動画と名誉毀損罪
本件では、盗撮された動画の販売行為について名誉毀損罪に該当するとして逮捕されています。
名誉毀損での摘発は全国で初めてのことだそうです。
では、盗撮動画の販売行為は名誉毀損罪に該当するのでしょうか?
名誉毀損罪(刑法230条1項 3年以下,50万円以下)における名誉毀損とは,公然と事実を摘示して社会的評価を低下させることです。
刑法(名誉毀き損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
名誉毀損罪に該当するといえるためには、事実を摘示する必要があります。
盗撮動画の販売行為は事実を摘示したといえるのでしょうか??
文字通り解釈して考えると、盗撮動画の販売は、単なる映像を流出させる物であって、事実を摘示するとは考え難いように思えます。
ここで、参考になる判例があります。
東京地判平成14年3月14日です。
この裁判例は、入浴中の盗撮風の動画について、被写体である被害女性が出演に同意したやらせにも見えるという点を指摘し、名誉毀損罪の成立要件である「事実の摘示」について、上記のような内容の本件ビデオテープに上記K子ら3名の全裸の姿態が録画されているという事実を摘示したものということができると判断しました。
名誉毀損の「事実の摘示」について、全裸の姿体が録画されているという事実を摘示したという判断をしているのです。
どうも認定に無理があるように思えます。
また、今回のニュース事例では、完全なる盗撮事例ですから、盗撮動画を見た人が、アスリートが撮影に同意したやらせ動画だとは思わないでしょうから、この裁判例と同様に考えることは難しいでしょう。
判示第9のビデオカセットテープ「g-3」(以下「本件ビデオテープ」ともいう。)は,被告人らが専ら見る者の性的関心にこたえることを意図して,入浴中の女性の裸体の映像を集め,販売目的で編集したビデオテープであるところ,被告人らは,前記K子,L子及びM子の入浴中の裸体を本件ビデオテープ中に収録して編集した上,アダルトビデオを扱う多数の書店やビデオ販売店等にこれを陳列させ,現に不特定多数の者が閲覧できる状態に置いたものである。なお,本件ビデオテープに収録されているK子ら3名の映像には,その顔面等も明瞭に写されており,そこに写されているのが同女らであることをその映像自体から明瞭に識別できることも明らかである。
名誉毀損罪の成立要件である「事実の摘示」についてみると,被告人らは,上記のような内容の本件ビデオテープに上記K子ら3名の全裸の姿態が録画されているという事実を摘示したものということができる。そして,本件ビデオテープのようないわば性的関心に向けられた商品に女性の全裸の姿態が録画された場合,撮影された女性がだれかが分かれば,その女性が周囲の人たちから好奇の目で見られたり,場合によっては嫌悪感を抱かれるなど,その女性について種々否定的な評価を生ずるおそれがあることは否定し難い。殊に,本件では,K子らは,実際には,入浴中にその裸体を盗撮され,自分たちの知らない間にその映像を本件ビデオテープに録画されるに至ったのであるが,本件ビデオテープは,それ自体鮮明な画像に仕上がっているなど,その映像自体を見ても,実際に盗撮の方法で撮影されたものか,一見しただけでは明らかではなく,事情を知らない者が見れば,撮影されている女性が,不特定多数の者に販売されるビデオテープに録画されることを承知の上,自ら進んで裸体をさらしているのではないかという印象を与えかねないものになっている(ちなみに,被告人自身の供述を始めとする関係証拠によると,盗撮ビデオとされるものの中にも,実際にはいわゆる「やらせ」によるものがあり,ビデオの映像を見ただけではその識別が困難であることが多いなどの事情もうかがうことができる。)。このような場合,上記のおそれにはとりわけ軽視し難いものがあるといわなければならない。そうすると,本件で被告人らが摘示した上記の事実は,まさにK子ら3名の名誉を害するに足りる事実に当たるということができる。
そして,被告人らの上記行為が名誉毀損罪のその他の成立要件を満たすこともまた明らかであるから,結局,本件について名誉毀損罪が成立することを肯定することができる。
東京地判平成14年3月14日より引用
盗撮動画販売とリベンジポルノ防止法
以上でみてきたように、盗撮動画販売は、名誉毀損罪の成立要件である「事実の摘示」の要件を満たさず、名誉毀損罪が成立しない可能性があります。
では、盗撮動画の販売は、リベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)に該当するのでしょうか?検討してみます。
リベンジポルノ防止法は、私事性的画像記録の公表等を処罰する法律です。盗撮動画が私事性的画像記録に該当すれば、これをネット上で販売した行為はリベンジポルノ防止法に違反する犯罪行為になります。
ここで、「私事性的画像記録」とは,本人が第三者に見られることを認識した上で撮影を許可した画像・動画以外の画像であって,性交又は性交類似行為など以下の3つの類型の画像・動画の記録をいいます。
- 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
- 他人が人の性器等を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
- 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって,殊更に人の性的な部位が露出され又は強調されるものであり,かつ性欲を興奮させ又は刺激するもの
本件ニュースでの盗撮動画は、赤外線カメラを使った盗撮動画であって、衣服の一部を透けさせることによって、衣服の一部を着けない人の姿態を映した動画だと評価できるのではないでしょうか。
そして、その目的や販売態様などからすれば、殊更に人の性的な部位が露出され又は強調されるものであり,かつ性欲を興奮させ又は刺激するものとも評価できそうです。
そのため、今後、名誉毀損罪での起訴が難しい場合には、リベンジポルノ防止法違反での再逮捕・起訴もありえるのではないでしょうか?
リベンジポルノ防止法やリベンジポルノの削除等については、以下の記事もご参照ください。
盗撮動画撮影と迷惑防止条例違反
盗撮事件といえば、原則として各都道府県の迷惑防止条例違反で逮捕・処罰されるケースが多いです。
警察庁も、「盗撮事犯については、一般的に都道府県迷惑防止条例等違反で検挙している」と公表しています(平成29年警察白書より)。
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
東京都迷惑防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)
では、今回のように、赤外線カメラでアスリートを撮影した場合にも、各都道府県の迷惑防止条例に違反するのでしょうか?
東京都の迷惑防止条例では、盗撮について、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置することとしております。
赤外線カメラで女性アスリートの下着を透かして撮影することは、正当な理由なく、人を羞恥させるものであって、人の通常衣服で隠されている下着を撮影するといえるでしょうか、迷惑防止条例が定める盗撮行為に該当すると考えられます。
また、同条例5条1項3号が定める「卑わいな言動」に該当するとも考えられます。
この点について、参考になる最高裁判例があります。
最判平成20年11月10日は、「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうとして、服の上から臀部を撮影した行為について、北海道の迷惑防止条例の「卑わいな言動」に該当すると判断しました。
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうと解され…
被告人は,正当な理由がないのに,平成18年7月21日午後7時ころ,旭川市内のショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて,女性客(当時27歳)に対し,その後を少なくとも約5分間,40m余りにわたって付けねらい,背後の約1ないし3mの距離から,右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて,細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい,約11回これを撮影した。
以上のような事実関係によれば,被告人の本件撮影行為は,被害者がこれに気付いておらず,また,被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえるから,上記条例10条1項,2条の2第1項4号に当たるというべきである。これと同旨の原判断は相当である。
最判平成20年11月10日
以上の判例からすれば、本件のアスリートを赤外線カメラで盗撮した事案においても、社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえ、「卑わいな言動」に該当するものと考えられます。
以上より、アスリートを赤外線カメラで盗撮した事案では、迷惑防止条例違反の罪に該当するものと考えられます。
盗撮行為と迷惑防止条例違反については、以下の記事もご参照ください。
赤外線盗撮と犯罪行為のまとめ
以上見てきたように、盗撮動画の販売行為は、名誉毀損罪では「事実の摘示」該当性についての解釈に、若干の無理が生じます。
リベンジポルノ防止法違反についても、私事性的画像記録の該当性に疑義が生じ得るものと考えられます。
本件では、迷惑防止条例違反で逮捕・起訴すべきだったのではないでしょうか。
また、そもそも、盗撮行為自体が悪質であって、処罰すべきではあると考えておりますので、盗撮罪等の法律の制定など、立法による解決が望まれます。