インターネット上の誹謗中傷に対して裁判所を通して対処してもらう場合、発信者情報開示や、削除仮処分の申し立てを行うことが考えられます。
裁判権(具体的事件を裁判によって処理する国家権力のことをいいます。)は、事件ごとにどこの裁判所が行使できるか決められています(これを管轄といいます)。
そこで、今回はこれらの請求をするとして、どこの裁判所で行えばよいかを解説します。
誹謗中傷に対する仮処分や裁判の概要
インターネット上の誹謗中傷に対する対処方法としては、大まかに分けて、削除するか、犯人を特定するかに分かれます。
削除の場合には、任意の削除請求の他、裁判所を通して行う削除の仮処分という手続きがあります。
削除仮処分は誹謗中傷にあたる書き込みや投稿を削除してもらう手続です。仮処分は、裁判の一種ですが、通常の裁判手続きよりも迅速な手続きで行われるものです。「仮」とついていても削除された投稿は復活することはありません。
発信者情報開示請求とは、誹謗中傷をした人物を特定するための請求です。
犯人が特定できた場合には、損害賠償請求や刑事告訴といった手段をとっていくことになります。
削除仮処分の裁判管轄
削除に限らず、管轄は原則として被告(相手方)の住所地にあります(民事訴訟法4条1項、2項、民事保全法12条1項)。
注意点としては、掲示板やサーバーの管理者も当該記事を消す義務を負っているため、これらの者も相手方になりうるという点です。
また、削除仮処分は、個人の人格権が侵害されたことが請求の根拠になります。人格権の侵害は、不法行為にあたります。不法行為の管轄は、不法行為が行われた地が管轄になり、そこには損害発生地も含むとするのが判例です。
インターネット上の不法行為においては、損害発生地はパソコンの画面を見た場所となります。多くの場合は、自宅や会社でパソコンの画面を見るでしょう。ですので、自宅や会社のある場所を管轄している地方裁判所に管轄となります。
《結論!》
まとめるとこうなります。
削除仮処分の管轄は
相手側の住所地
or
自宅や会社の所在地
たとえば、岐阜県に住む個人が東京都にあるサーバー会社に対して削除の仮処分を求める場合、岐阜地方裁判所または東京地方裁判所に申立てを行うことになります。
発信者情報開示請求の仮処分の裁判管轄
発信者情報開示における請求権は、プロバイダ責任制限法で新たに作られた発信者情報開示請求権です(プロバイダ責任制限法4条)。
ですので、管轄は原則通り被告(相手方)の住所地となります。プロバイダ責任制限法は、「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し」発信者情報開示請求をすることができるとしています。この場合は、書き込みを行った人物は相手方とはなりません。
《結論!》
まとめるとこうなります。
発信者情報開示の仮処分の管轄は
サーバー会社の住所地
たとえば、山口県に住む個人が愛知県にあるサーバー会社に対して削除の仮処分を求める場合、名古屋地方裁判所に申立てを行うことになります。
発信者情報開示請求の訴訟の管轄
訴訟であっても、仮処分の場合と、請求権が変わるわけではありません。
ですので管轄は原則通り被告(相手方)の住所地となります。書き込みを行った人物が相手方とならない点も同様です。
特定された相手方に損害賠償等の請求を行う場合は、削除仮処分と同様に不法行為(人格権侵害)に基づく損害賠償請求となるため、削除仮処分の場合と同様となります。
《結論!》
まとめるとこうなります。
発信者情報開示の裁判の管轄は
サーバー会社の住所地
たとえば、新潟県に住む個人が大阪府にあるサーバー会社に対して削除の仮処分を求める場合、大阪地方裁判所に申立てを行うことになります。
損害賠償等の訴訟の管轄は
相手の住所地
or
自分の住所地
となります。たとえば、東京都の個人が、京都府の個人を訴える場合、東京地方裁判所または京都地方裁判所に申立てを行うことになります。
外国法人の場合の管轄
インターネットは、グローバルなネットワークですので、サーバー運営会社が海外の企業である場合も珍しくありません
日本に主たる事業所・営業所中や代表者・業務担当者がいる場合には、これまで解説した分類に従った裁判所に申立てを行うことができます。
一方で、日本には事業所も代表者も置いていない場合があります。このような場合管轄はどこになるのでしょうか。
削除仮処分の場合、損害発生地が管轄となります。そのため、日本国内にも管轄が及ぶことになります。ですので、自宅や会社のある場所(パソコンを見た場所)を管轄している地方裁判所に管轄があります。
発信者情報開示の場合、原則通り考えると被告の住所地(外国)となりそうです。しかし、外国には我が国の裁判権が及びません。そうするとまず、そもそも日本の裁判所に管轄があるのかという点から問題になってきます。
発信者情報開示の場合、請求の根拠は発信者情報開示請求権です。この場合、原則として相手側の住所に申立てを行うことになるため、日本の裁判所に管轄はないようにも思われます。確かに、サービス提供自体は海外から行われているかもしれません。しかし、その提供先は日本です。
法律は、「日本において事業を行う者」に対する訴えで「当該訴えがその物の日本における業務に関するもの」である場合に、日本の裁判所に管轄を認めています(民事訴訟法3条の3第5号、民事保全法7条)。
そのため、海外の企業の行為であっても日本の裁判所に管轄があると考えられます。では、日本のどこの裁判所に管轄があるのでしょうか。
この点、「この法律の他の規定又は他の法令の規定により管轄裁判所が定まらないときは、その訴えは、最高裁判所規則で定める地を管轄する裁判所の管轄に属する」とされています(民事訴訟規則10条の2)。
同規則ではこの場合に「定める地」を「東京都千代田区」としています(同規則6条の2)。そのため、東京都千代田区を管轄する裁判所、すなわち東京地方裁判所が管轄となります。
《結論!》
まとめるとこうなります。
削除仮処分
自宅や会社の所在地
となります。
例えば、新潟県に住む個人がアメリカ合衆国カリフォルニア州のサーバー会社に対して対して削除の仮処分を求める場合、新潟地方裁判所に申立てを行うことになります。
発信者情報開示
東京地方裁判所
となります。
例えば、静岡県に住む個人がアイルランド共和国ダブリン市にあるサーバー会社に対して発信者情報開示の請求をする場合、東京地方裁判所に申立てを行うことになります。
誹謗中傷削除・発信者情報開示の裁判管轄のまとめ
今回は、削除仮処分や発信者情報開示の申立を行う場合の管轄について、解説しました。
削除仮処分や発信者情報開示の申立を行う場合、弁護士に依頼する場合は弁護士が申立てを行うため、あまりこの問題は関係ないようにも思われます。
しかし、申立て地から遠方の弁護士に頼んだ場合、移動費などの日当が発生する可能性があります。なので、あらかじめどこの裁判所に対して申立てを行うべきか知っておくことは、弁護士に依頼する場合であっても有用です。
弊所グラディアトル法律事務所ではこうした誹謗中傷に対する案件を数多く取り扱っています。さらに、海外サーバー会社に申立てを行う場合に管轄を有する東京にオフィスを有しております。
ぜひとも弊所もご検討に加えて頂ければ幸いです。
弁護士の無料相談はこちらから→https://www.gladiator.jp/defamation/contact/
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。