近年、SNSやネット上での誹謗中傷が問題となっています。
その中には、逮捕されるなど、刑事事件化に発展するものも少なくありません。
誹謗中傷により刑事事件化して、ニュースになる際に、侮辱罪になる場合と名誉毀損罪になる場合があります。
侮辱罪については、その罪が軽すぎるとして社会問題化し、現在、侮辱罪を厳罰化する刑法改正案が国会にて審議中です。
本記事では、侮辱罪と名誉毀損罪について、その構成要件(成立要件)等を解説しつつ、両者の違いについて解説をします。
目次
侮辱罪について
侮辱罪とは
侮辱罪とは、公然と人を侮辱して、その名誉を害する行為を処罰するものです。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
侮辱罪の保護法益については、対立があるものの、判例通説は、名誉毀損罪と同じ、客観的な名誉であるとしています。
侮辱罪の法定刑は、拘留又は科料です。
ネットで誹謗中傷を受けたプロレスラーの木村花さん(当時22歳)が自ら命を絶った問題では、悪質な投稿をした男性が侮辱罪で略式起訴され、科料9000円の命令を受け、「軽すぎる」などの声が上がっていました。
この問題を契機に厳罰化の動きが進み、現在、侮辱罪を厳罰化する刑法改正案が国会にて審議中です。
この改正案では、侮辱罪の法定刑に、1年以下の懲役と禁錮、30万円以下の罰金が追加されます。
侮辱罪の構成要件(成立要件)
侮辱罪の構成要件(成立要件)は、以下の3つです。
- 事実を摘示せず
- 公然と
- 人を侮辱した
名誉毀損罪と異なり、侮辱罪では、「1 事実を摘示しない」ということが要件になります。
「2 公然」とは、「不特定または多数の者が認識しうる状態」のことをいいます(大審院12年6月4日決定(刑集2巻486頁)、最高裁昭和29年5月6日決定(最高裁判所裁判集刑事95号55頁)。
そのため、他人がいないような場所で、一対一の場面で侮辱されたとしても、不特定または多数の者が認識しうる状態とはいえないため、侮辱罪は成立しません。
「3 侮辱」とは、他人に対する軽蔑の表示のことをいいます。
「死ね」「ブス」「キモい」など、他人を軽蔑する言葉は、侮辱に該当する可能性があります。
名誉毀損罪について
名誉毀損罪とは
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する行為を処罰するものです。
(名誉毀き損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
名誉毀損罪の保護法益は、社会が与える評価としての外部的名誉(社会的名誉)、客観的名誉です。
名誉毀損罪の構成要件(成立要件)
名誉毀損罪の構成要件(成立要件)は、以下の3つです。
- 事実を摘示し
- 公然と
- 人の名誉を毀損する
名誉毀損罪では、侮辱罪と異なり、「1 事実を摘示」することが必要です。
「2 公然」については、侮辱罪と同様、「不特定または多数の者が認識しうる状態」のことをいいます。
「3 名誉を毀損」とは、人の社会的評価を低下させるにたる行為をいいます。
現実に、その社会的評価が低下したかどうかではなく、その危険性があれば足りると考えられています。
もっとも、名誉毀損罪には、一定の要件を満たす場合には、違法性が阻却され、犯罪が成立しなくなります。
名誉毀損罪の違法性阻却事由は、以下の3つです。
- 事実の公共性
- 目的の公益性
- 真実性
この違法性阻却事由は、刑法230条の2に規定されています。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
侮辱罪と名誉毀損罪の違い
侮辱罪と名誉毀損罪の違い、事実の摘示の有無です。
事実を摘示しないで、公然と人を侮辱するのが侮辱罪です。
事実を摘示して、公然と人の名誉を毀損するのが名誉毀損罪です。
また、侮辱罪と名誉毀損罪では、法定刑も違います。
侮辱罪の法定刑は拘留又は科料であるのに対し、名誉毀損罪の法定刑は3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金です。
侮辱罪の方が名誉毀損罪よりも軽い罪です。侮辱罪が改正されて重罰化されたとしても、侮辱罪の方が軽い罪になります。
他方で、侮辱罪と名誉毀損罪の共通点は、以下の2つです。
すなわち、両者とも、不特定または多数が認識し得るような公然性が必要です。
また、両者とも、人の外部的名誉、客観的名誉を低下させる行為が必要となります。
侮辱罪と名誉毀損罪の判例
侮辱罪の判例
最高裁昭和58年11月1日決定(刑集37巻9号1341頁)
【事実の概要】
Xは、知人の交通事故に関し、相手方から損害賠償交渉の委任を受けているA火災海上保険株式会社の顧問弁護士Bと交渉を続けていた。Xは、AとBに圧迫を加えて交渉を有利に進めようと企てていたが、他数名の者と共謀の上、昭和57年7月30日午前2時30分ころから午前3時30分ころまでの間、大阪市所在のC不動産株式会社所有管理にかかるビル1階北側玄関柱に管理者の許諾を受けないで、「D海上の関連会社であるA火災は、悪徳弁護士Bと結託して被害者を弾圧している、両者は責任を取れ」と記載したビラ12枚を糊で貼付した。
【決定要旨】
「刑法二三一条にいう「人」には法人も含まれると解すべきであり(大審院大正一四年(れ)第二一三八号同一五年三月二四日判決・刑集五巻三号一一七頁参照)、原判決の是認する第一審判決が本件日新火災海上保険株式会社を被害者とする侮辱罪の成立を認めたのは、相当である。」
名誉毀損罪の判例
最高裁昭和44年6月25日決定(刑集23巻7号975頁)
r【事実の概要】
新聞社を経営するXが、AまたはA経営の新聞社に属する記者が市役所土木部の課長に向かって汚職の疑いがあることを示しながら凄んだ等の内容の記事を自ら執筆し、掲載した夕刊を発行した。
【決定要旨】
「刑法二三〇条ノ二の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法二一条による正当な言論の保障との調和をはかつたものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。これと異なり、右のような誤信があつたとしても、およそ事実が真実であることの証明がない以上名誉毀損の罪責を免れることがないとした当裁判所の前記判例(昭和三三年(あ)第二六九八号同三四年五月七日第一小法廷判決、刑集一三巻五号六四一頁)は、これを変更すべきものと認める。したがつて、原判決の前記判断は法令の解釈適用を誤つたものといわなければならない。」
侮辱罪と名誉毀損罪の違いのまとめ
ここまで見てきたように、侮辱罪と名誉毀損罪の違いは、事実を摘示するかどうかです。
もっとも、実際の事例において、具体的な事実を摘示しているかどうかという判断は簡単なものではありません。
また、侮辱罪は、今後、法改正がなされて厳罰化されることが予想されるところですが、それでも名誉毀損罪よりは軽い罪になっております。
侮辱罪や名誉毀損罪について、お悩みでしたら、まずは弁護士にご相談ください。