「背任罪とはどのような犯罪なの?」
「背任罪と他の犯罪との違いを知りたい」
「背任罪の弁護を弁護士に依頼するとどのようなメリットがあるの?」
背任罪とは、他人から任された職務に背いて、自分や第三者の利益を図るために他人に損害を与える犯罪です。典型的なケースとしては、銀行員による不正融資や不良貸付などがあります。
背任罪は、傷害罪や窃盗罪などの犯罪に比べて非常にわかりにくい犯罪で、どのような場合に成立するのかを正確に理解している方は少ないと思います。ご自身が犯罪の加害者にならないようにするためにも、背任罪の構成要件や他の犯罪との違いなどをしっかりと押さえておきましょう。
本記事では、
・背任罪の構成要件、法定刑、時効 ・背任罪と他の犯罪との違い ・背任罪の弁護を弁護士に依頼する5つのメリット |
などについてわかりやすく解説します。
背任罪は、被害額が高額になるケースも多く、厳しい処分が下される可能性もあります。そのため、背任罪を犯してしまったときは、すぐに刑事事件に強い弁護士に相談するようにしてください。
目次
背任罪とは?
背任罪とは、他人から任された職務に背いて、自分や第三者の利益を図るために他人に損害を与える犯罪です。依頼を受けた本人の利益を保護するために本人を裏切って損害を与える背任行為が処罰対象とされています。
このような背任罪の典型的なケースとしては、銀行員による不正融資や不良貸付などがあります。銀行融資担当者が十分な担保を取ることなく過剰な貸付をしたり、回収の見込みのない顧客から担保を取らずに融資をすると背任罪に問われる可能性があります。
次章で詳しく解説します。
背任罪に該当する具体的なケース
以下に背任罪の典型的なケースを列挙します。
番号 | 行為の種類 | 概要 | 具体例 |
---|---|---|---|
1 | 会社役員による不適切な契約 | 自己利益を優先して不適切な取引先と高額な契約を結び会社に損害を与える。 | 自分の経営する別会社に利益が渡るよう、相場より高額で契約を結ぶ。 |
2 | 資金流用 | 会社資金を個人的な目的で使用し、会社に損害を与える。 | 会社の資金を自宅リフォームや家族旅行の費用に充てる。 |
3 | 担保提供による損害 | 会社資産を第三者の債務の担保に提供し、その結果、会社が損失を被る。 | 友人の借金の担保として会社の不動産を差し出し、返済滞りで不動産を失う。 |
4 | 貸付金の不当な放棄 | 回収可能な貸付金を意図的に放棄し、会社に損害を与える。 | 知人企業への貸付金を回収せず帳消しにする。 |
5 | 故意による株価操作 | 自己利益のため株価を操作し、会社や株主に損害を与える。 | 虚偽情報を流布し株価を下げ、会社の資本調達に不利益をもたらす。 |
6 | 従業員の不適切な採用 | 不必要な従業員を高額給与で雇用し、会社の財産に損害を与える。 | 実際に業務に従事しない親族を高額報酬で雇用する。 |
7 | 会社資産の売却損 | 重要資産を不当に低い価格で売却し、会社に損失を与える。 | 関係者に利益を得させるため、不動産を時価より大幅に安い価格で売却する。 |
8 | 第三者への無償譲渡 | 会社資産を無償または不当に低い価格で第三者に譲渡し、会社に損害を与える。 | 家族や友人に会社所有の車両や機材を無償で譲渡する。 |
9 | 虚偽の決算報告 | 虚偽の決算報告を行い、株主や取引先に損害を与える。 | 実際の利益を隠し、赤字と見せかけて配当を停止する。 |
注意点:
- 影響: これらの行為は会社の財務状況や信用を著しく損ねる。
- 責任: 経営陣の行為は民事責任や刑事責任に発展する可能性がある。
- 予防策: 内部監査の強化、透明性のある経営体制が不可欠。
背任罪の成立には「任務違反」と「損害」の要件が必要であるため、これらのケースが該当するかどうかは具体的な状況により判断されます。
背任罪の構成要件
背任罪は、以下の要件を満たした場合に成立します。
構成要件 | 内容 |
---|---|
他人のために事務を処理している | 他人からの信任や委託に基づいてその事務を処理すること例)会社に雇用された従業員が会社の業務を行っている |
任務違背行為 | 本人の信任や委託の趣旨に反する行為例)不正融資や不良貸付 |
図利加害目的 | 自己の利益を図る目的または第三者の利益を図る目的 |
財産上の損害 | 本人の財産の価値が減少または増加すべき価値が増加しなった |
背任罪の構成要件に関しての記事もありますので、併せてご覧ください。
背任罪の法定刑
背任罪の法定刑は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金と規定されています。
法定刑には懲役刑と罰金刑の2種類が定められていますので、起訴される場合、略式命令請求と公判請求の2つのパターンがあります。
背任罪の公訴時効は5年
公訴時効とは、犯罪から一定期間が経過すると公訴を提起(起訴)できなくなる制度です。
公訴時効の期間は、罪の種類や刑の軽重によって定められており、背任罪の公訴時効は5年になります。すなわち、犯行から5年を経過すれば、背任罪により処罰されることはありません。
ただし、公訴時効は犯人が国外にいる場合や逃げ隠れている場合には時効の進行が停止します。
時効に関しては、こちらの記事も併せてご覧ください。
背任罪と他の犯罪との違い
背任罪と似た犯罪として「横領罪」や「特別背任罪」があります。以下では、背任罪とこれらの犯罪との違いを説明します。
背任罪と横領罪との違い
背任罪と横領罪は、いずれも信任関係に反して他人に損害を与えるという点で共通しますが、主に以下のような違いがあります。
罪名 | 背任罪 | 横領罪 |
---|---|---|
犯罪の主体 | 他人のための事務処理者 | 他人の物の占有者 |
財産上の損害 | 被害者の財産状況の悪化 | 個々の財産の損失 |
目的 | 図利加害目的 | 不法領得の意思 |
行為 | 任務違背行為(本人の信任や委託の趣旨に反する行為) | 横領行為(所有者にしかできない処分をすること) |
法定刑 | 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 5年以下の懲役 |
なお、背任罪と横領罪の違いについての詳細は、以下のコラムをご参照ください。
背任罪と特別背任罪との違い
特別背任罪は、行為者の身分による背任罪の加重類型です。基本的な構成要件は共通しますが、規定される法律、犯罪の主体、法定刑に以下のような違いがあります。
罪名 | 背任罪 | 特別背任罪 |
---|---|---|
規定されている法律 | 刑法 | 会社法 |
犯罪の主体 | 他人のための事務処理者 | 取締役、会計参与、監査役、執行役など株式会社において一定の地位にある者 |
法定刑 | 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(併科あり) |
背任罪で逮捕された実際の事例
以下では、背任罪で逮捕された実際の事例を紹介します。
大手通販会社「夢グループ」の元部長が背任の疑いで逮捕された事例
大手通販会社「夢グループ」の収益を自身の口座に振り込ませ、会社に損害を与えたとして、警視庁捜査2課は、背任容疑で同社元企画宣伝部長(49歳)とイベント会社代表(57歳)を逮捕しました。
同課によると、夢グループは、顧客に配布するカタログのチラシ代を収益の一つとしており、両容疑者は代理店から振り込まれる広告費用を不正に得ていたといいます。
逮捕容疑は、広告代理店から夢グループに支払われる代金の一部を沖山容疑者の会社口座に振り込ませ、夢グループに約3700万円の損害を与えた疑いです。
(引用:時事通信)
日大の元理事らが大学の資金を不正送金した背任の疑いで逮捕された事例
日本大学板橋病院の建て替え工事をめぐる背任事件で、同病院に医療機器と電子カルテ関連機器を納入する取引でも、日大に計約2億円高い契約を結ばせて損害を与えたとして、東京地検特捜部は、日大元理事(64歳)と医療法人「錦秀会(きんしゅうかい)」の前理事長(61歳)を背任容疑で再逮捕しました。
特捜部の発表などによると、板橋病院には今春以降、海外メーカーのMRI、CT、血管撮影装置が7台、導入され、計約14億6300万円のリース契約でした。容疑者は日大子会社「日本大学事業部」の取締役として契約業務を担当し、この取引の中に、介在させる必要のない籔本容疑者側の会社を入れ、日大に約1億3100万円の不要な債務を負担させて損害を与えた疑いがあります。
また、電子カルテ関連機器の板橋病院への納入でも、同様の手法で約6700万円の不要な債務を負担させ、合わせて日大に計約1億9800万円の損害を加えた疑いがあります。
(引用:朝日新聞デジタル)
自動車大手「ホンダ」の法人クレジットカードを私的利用した背任の疑いで逮捕された事例
自動車大手「ホンダ」が法人契約していたクレジットカードを私的に使い、同社に計約2300万円の損害を与えたとして、警視庁は、同社元社員(33歳)を背任容疑で逮捕しました。
捜査2課によると、容疑者は2019年4月~22年12月ごろ、ホンダから社員個人に貸与されたクレジットカードを約2千回使用。計約2300万円分を私的に利用するなどし、同社に損害を与えた疑いがあります。
容疑者は間接材購買課に所属し、課員に貸与されたクレカを管理する役割も担っていました。捜査2課は、小島容疑者が他の課員たちのカードも使い、逮捕容疑も含め18年8月~23年3月に約5千回、計約7千万円の損害を与えたとみています。
(引用:朝日新聞デジタル)
ホンダ元社員を背任容疑で逮捕 法人クレカの私的利用で2300万円
背任罪で逮捕された後の流れ
背任罪で逮捕されると以下のような流れで刑事手続きが進んでいきます。
逮捕・取り調べ
背任罪で逮捕されると警察署内の留置施設で身柄を拘束されます。身柄拘束中は、警察による取り調べを受け、その内容が供述調書という書面にまとめられます。
警察による逮捕には時間制限があり、警察は逮捕から48時間以内に被疑者の身柄を検察官に送致しなければなりません。
検察官送致
警察から身柄の送致を受けた検察官は、被疑者に対する取り調べを実施し、勾留請求をするかどうかの判断を行います。
引き続き被疑者の身柄を拘束する必要があると判断したときは、送致から24時間以内に、裁判官に勾留請求をしなければなりません。
勾留・勾留延長
勾留請求を受けた裁判官は、被疑者に対する勾留質問を実施し、勾留を許可するかどうかの判断を行います。勾留が許可されるとその時点から原則として10日間の身柄拘束が行われます。
また、その後、検察官による勾留延長請求があり、それも許可されるとさらに最大で10日間の身柄拘束を受けることになります。
起訴・不起訴の決定
検察官は、勾留期間が満了するまでの間に、被疑者を起訴するか不起訴にするかの判断を行います。
背任罪には罰金刑も定められていますので、被疑者の同意があれば略式命令請求により罰金刑を科すこともできます。
なお、不起訴処分になればその時点で身柄が解放され、前科が付くこともありません。
背任罪の弁護を弁護士に依頼する5つのメリット
背任罪の弁護を弁護士に依頼すると、以下のような5つのメリットがあります。
被害者との示談交渉を任せられる
背任罪は、主に会社に対して損害を与える犯罪になりますので、損害分の穴埋めができれば会社としてもそれ以上の処罰を望まず、被害届や告訴の取下げが期待できます。
弁護士に依頼すれば会社との示談交渉をすべて任せることができますので、迅速かつ適切な内容で示談をまとめることができるでしょう。特に、逮捕された事案だと被害者本人では示談交渉を行うことができませんので、弁護士によるサポートが不可欠です。
勾留を阻止して早期釈放を実現できる
背任罪は、長期間にわたって会社内で不正な行為が行われているケースが多く、逮捕されてしまうと事件の全容解明のために長期間の身柄拘束を受ける可能性があります。逮捕・勾留による身柄拘束は、最長で23日間にも及びますので、その間の被疑者への肉体的・精神的負担は非常に大きなものとなります。
弁護士に依頼をすれば、逮捕後すぐに被害者との示談交渉に着手し、示談成立に向けて尽力してもらうことができます。それにより検察官による勾留請求を阻止し、早期の釈放を実現することが可能です。
取り調べに対するアドバイスができる
身柄拘束中は警察官による取り調べを受けることになりますが、取り調べを始めて経験する方がほとんどですので、どのように対応すればよいかわからず、誤った供述をしてしまい、不利な供述調書が作成されてしまうリスクがあります。
弁護士であれば被疑者との面会時に取り調べに対するアドバイスができますので、そのようなリスクを軽減することができます。特に、逮捕中に面会できるのは弁護士だけですので、逮捕後はすぐに弁護士に相談・依頼するようにしてください。
保釈請求による釈放を実現できる
背任罪で起訴された後も被告人の身柄拘束は継続されます。
しかし、起訴後であれば「保釈」という制度を利用することで、一時的に釈放してもらうことができます。ただし、保釈請求をすれば必ず認められるわけではありませんので、保釈請求にあたっても専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士に依頼することで保釈が認められる可能性を高めることができ、保釈保証金の納付などの手続きもサポートしてもらえます。
有利な情状を立証することで量刑を軽くできる
会社に多額の損害を与えたような悪質な背任事件では、起訴され有罪になると執行猶予が付かない実刑判決になる可能性もあります。
そのようなリスクを軽減するには、裁判において被告人に有利な情状を立証していくことが必要です。弁護士に依頼すれば、被害者との示談、被告人の反省、監督者の存在など被告人にとって有利な情状を立証することで量刑を軽くすることができます。
背任罪の弁護はグラディアトル法律事務所にお任せください
背任罪にあたり得る行為をしてしまったときはすぐに弁護士に相談することをおすすめします。その際は、刑事事件に強い弁護士に相談するのが重要です。
グラディアトル法律事務所では、刑事事件に関する豊富な経験と実績がありますので、背任事件の弁護も安心してお任せください。経験豊富な弁護士が被害者との示談交渉などの弁護活動により逮捕や起訴を回避できるよう全力でサポートいたします。1人で悩んでいても解決することはできませんので、放置せずすぐに弁護士にご相談ください。
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まとめ
背任罪は、不正行為により会社に損害を与えてしまった場合に成立する犯罪です。背任罪の成立要件は、非常に複雑な内容になっていますので、正確に判断するには専門家である弁護士の協力が不可欠です。
背任容疑をかけられている、背任罪に該当し得る行為をしてしまったという方は、そのままでは逮捕・起訴される可能性がありますので、すぐにグラディアトル法律事務所までご相談ください。