「盗撮により被った精神的苦痛を犯人に償ってほしい」
「犯人との示談交渉では納得いく金額が提示されないため、民事訴訟を提起したい」
「民事訴訟になるとどのような手続きが必要になるの?」
盗撮事件の被害者は、下着姿などを勝手に撮影されてしまったことで、多大な精神的苦痛を被ります。そのような精神的苦痛は、慰謝料として、犯人に対して請求することが可能です。
しかし、犯人が任意に慰謝料を支払ってくれない場合には、民事訴訟などの法的手続きによって、支払いを求めていく必要があります。
本記事では
・民事訴訟における盗撮事件の慰謝料相場
・盗撮の慰謝料を民事訴訟で請求する方法とその流れ
・盗撮事件で民事訴訟を提起する際の注意点
などについて、わかりやすく解説します。
民事訴訟の手続きは、非常に複雑かつ専門的なものになりますので、民事訴訟の提起をお考えの方は、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
目次
盗撮の慰謝料は民事訴訟で請求できる
盗撮の被害により被った精神的苦痛は、慰謝料として、犯人に対して請求することができます。
盗撮の慰謝料が支払われる2つのケース
盗撮の慰謝料が支払われるケースには、
- ・民事訴訟として請求するケース
- ・刑事事件で示談するケース
の2つのケースがあります。以下では、それぞれのケースの特徴を説明します。
【民事事件として請求するケース】
盗撮というと刑事事件をイメージする方も多いと思います。しかし、被害者は、盗撮により違法に権利を侵害されていますので、不法行為(民法709条)に基づいて、犯人に対して、慰謝料を請求することができます。
民事事件では、まずは犯人との示談交渉により慰謝料の支払いを求めていきますが、任意に支払われない、納得いく金額が提示されないという場合には、民事訴訟を提起して慰謝料の支払いを求めます。
【刑事事件で示談するケース】
盗撮が刑事事件として立件されると、犯人から被害者に対して、示談の申し出がなされることがあります。犯人との示談交渉で示談が成立すれば、示談金として慰謝料が支払われます。
また、犯人から示談の申し出がない場合でも、捜査機関を通じて、加害者に示談に応じる意向がある旨を伝えることで示談できる可能性もあります。
ただし、刑事事件は、犯人を逮捕したり、刑罰を科すための手続きですので、被害者から加害者に対して、慰謝料を請求することはできません。
盗撮を刑事事件化するためには、被害届を提出するのが一般的です。
盗撮と被害届の詳細については、以下の記事をご参照ください。
慰謝料を受け取るなら民事と刑事のどちらがよい?
慰謝料を支払ってもらう方法には、民事事件と刑事事件の2つがありますが、被害者としてはどちらの方法を選択するべきなのでしょうか。
結論から言うとどちらにするかは、ケースバイケースで考える必要があります。
◆犯人に対して厳罰を希望する場合
→民事事件で慰謝料を請求するのがおすすめ
◆すぐにでも慰謝料の支払いを受けたい場合
→刑事事件での示談を選択するのがおすすめ
刑事事件で示談を成立させると、盗撮事件については不起訴処分になる可能性があります。そのため、犯人に対して厳罰を希望する場合には、刑事事件では示談に応じずに、民事事件で慰謝料を請求した方がよいでしょう。
他方、犯人から示談の申し出がある場合には、刑事事件で示談をした方が、迅速に示談金の支払いを受けられる可能性があります。そのため、すぐにでも慰謝料の支払いを受けたいのであれば刑事事件での示談を選択するとよいでしょう。
なお、刑事事件で犯人から示談の申し出がなければ、民事事件で慰謝料を請求していかなければなりません。
【要点まとめ】
犯人が罰金を支払っていても慰謝料は請求できる?
刑事事件により盗撮の犯人が処罰された場合、一般的には、罰金刑が科されることが多いです。
刑事事件により犯人に支払いが命じられる罰金は、犯した罪に対する制裁という性質があります。また、罰金は、被害者に対してではなく、国に対して支払われるものです。
そのため、犯人が罰金を支払ったとしても、被害者が被った精神的苦痛という損害は一切補填されていませんので、慰謝料を請求することには何ら支障はありません。
民事訴訟における盗撮事件の慰謝料相場はどのくらい?
民事訴訟における盗撮事件では、慰謝料相場はどのくらいになるのでしょうか。
盗撮事件の慰謝料相場
盗撮事件の一般的な慰謝料相場は、10万円から100万円程度といわれています。
慰謝料相場は、ある程度幅のある金額になりますので、盗撮事件の内容や被害者の属性などを踏まえて、悪質な事件になるほど慰謝料の金額も高くなる傾向があります。
ただし、慰謝料の金額は、当事者の合意により決めることができます。そのため、被害者と犯人との間で合意が成立しているのであれば、盗撮事件の慰謝料相場を上回る金額の慰謝料の支払いを受けることも可能です。
盗撮事件の慰謝料相場を決める要素とは?
盗撮事件の慰謝料相場は、主に以下のような要素を踏まえて金額が決められます。
・盗撮行為の態様、頻度
・被害者の年齢、性別、犯人との関係性
・犯人の経済状況
たとえば、同じ下半身の盗撮であったとしても、下着を盗撮されたのと陰部を盗撮されたのでは、後者の方が被害者の精神的苦痛は大きいため、慰謝料も高額になります。また、成人女性が被害者になる場合と未成年者が被害者になる場合とでは、後者の方が精神的苦痛が大きいといえますので、慰謝料も高額になります。
民事訴訟になると、裁判所は、上記のような要素や過去の裁判例なども踏まえて、適正な慰謝料額の認定を行います。
盗撮の慰謝料や示談金の相場等については、以下の記事をご参照ください。
民事訴訟なら弁護士費用の請求も可能
盗撮事件の犯人との示談交渉では、基本的には慰謝料の請求しかできません。
しかし、裁判所に民事訴訟を提起すれば、慰謝料に加えて、弁護士を依頼した場合にかかる弁護士費用の一部も請求することができます。なぜなら、裁判実務では、不法行為に基づいて損害賠償請求訴訟を提起する場合、慰謝料として裁判所が認容する金額の1割程度が弁護士費用として上乗せされるからです。
そのため、民事訴訟になれば、犯人に弁護士費用の一部を負担させることも可能です。
盗撮の慰謝料を民事訴訟で請求する方法と流れ
盗撮の慰謝料を民事訴訟で請求する場合には、以下のような方法および流れになります。
訴訟前の交渉
盗撮被害にあった場合、いきなり民事訴訟を提起することもできます。
しかし、犯人が話し合いに応じて、任意に盗撮の慰謝料を支払ってくれるのであれば、民事訴訟ではなく交渉により支払ってもらった方が、早期解決が期待できます。
そのため、一般的には、訴訟提起前に犯人との交渉を行うことが多いです。犯人が交渉に応じない、または交渉では納得いく金額が提示されないという場合には、民事訴訟を提起した方がよいでしょう。
民事訴訟の提起
民事訴訟は、原告(被害者)が裁判所に訴状を提出することによってスタートします。その後は、以下のような流れで民事訴訟の手続きが進んでいきます。
【口頭弁論期日】
訴状が受理されると、裁判所により口頭弁論期日が指定されますので、原告および被告は、指定された日時に裁判所に出廷して、口頭弁論期日を執り行います。
被告(犯人)側は、答弁書を提出している場合には、陳述擬制により、第1回口頭弁論期日を欠席することも可能です。
なお、盗撮事件では、被告側が原告側の請求を一切争わず、欠席裁判により手続きが進められることもあります。
【続行期日】
被告が原告の請求内容を争う場合には、当事者双方で主張立証を尽くす必要がありますので、続行期日が指定されます。続行期日は、約1か月に1回のペースで開催され、お互いの主張立証が尽くされるまで繰り返されます。
すでに刑事事件により盗撮事件の処分が確定している場合には、盗撮行為の存在は明らかですので、主に被害者が被った精神的苦痛の程度(慰謝料額)が争点になることが多いです。
【和解勧試】
当事者双方から主張立証が行われ、ある程度、裁判所の心証が固まってきた段階で、和解の打診が行われることがあります。当事者が裁判所の提示した和解案に合意すれば、和解成立により民事訴訟はその時点で終了となります。
【当事者および証人尋問】
和解が成立しない場合には、審理を続行し、当事者および証人尋問の手続きが行われます。
当事者尋問を実施する場合には、盗撮事件の被害者自身も公開の法廷に立って、証言を行わなければなりません。
【判決】
裁判所は、当事者からの主張立証を踏まえて、判決の言い渡しを行います。
判決に不服がある場合には、判決を受け取った日の翌日から14日以内に控訴をする必要があります。期限までに控訴がなければ判決は確定します。
強制執行の申立て
民事訴訟の判決により、慰謝料の支払いが命じられたとしても、犯人が任意に支払ってくれるとは限りません。
盗撮事件の犯人が任意に慰謝料の支払いに応じてくれないときは、裁判所に強制執行の申立てする必要があります。犯人に差押えるべき財産がある場合には、財産の差押えを行い、強制的に慰謝料の回収を行うことができます。
盗撮事件で民事訴訟を提起する場合の注意点
盗撮事件で民事訴訟を提起する場合には、以下の点に注意が必要です。
盗撮の慰謝料請求には時効がある
盗撮の慰謝料請求には、3年という時効がありますので、この期間内に慰謝料の請求をしていかなければなりません。
3年という期間は、被害者が盗撮をされたことおよび盗撮犯人を知ったときからスタートします。盗撮犯が現行犯逮捕された場合には、盗撮があった時点から時効がスタートしますが、後日逮捕されたケースでは盗撮時点でなく犯人が逮捕された時点から時効がスタートする点に注意が必要です。
なお、刑事事件にも「公訴時効」という制度があります。これは、一定期間を過ぎると犯人を処罰することができなくなるというものです。盗撮事件の場合には、2023年7月13日から撮影罪が適用されますので、公訴時効は3年となります。
相手に資力がないと支払われない可能性もある
民事訴訟を提起して、勝訴判決を得たとしても、犯人に慰謝料を支払うだけの資力がなければ、慰謝料を支払ってもらうのは難しいでしょう。
犯人が任意に慰謝料を支払わない場合には、強制執行の手続きをとることもできますが、差し押さえるべき財産がなければ、やはり慰謝料の回収は困難です。そのため、民事訴訟を提起するかどうかは、相手の資力なども見極めたうえで判断する必要があります。
盗撮事件で民事訴訟をお考えの方は弁護士に相談を
盗撮事件で民事訴訟をお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
加害者との対応の窓口になってくれる
盗撮事件の犯人に対して慰謝料を請求する場合、まずは、犯人との示談交渉で慰謝料の支払いを求めていくことになります。しかし、盗撮事件の被害者が犯人と直接連絡を取って、交渉を行うのは精神的にも大きなストレスが生じる可能性もあります。また、盗撮事件の犯人に対して、自分の連絡先を教えるということにも抵抗を感じる方もいると思います。
このような場合には、弁護士に依頼して慰謝料請求を行うとよいでしょう。弁護士であれば、被害者に代わって犯人との対応の窓口になってくれますので、被害者の負担を大幅に軽減することができます。不慣れな方が示談交渉を行っても、トラブルの原因になりますので、専門家である弁護士に任せるべきです。
相場を踏まえた慰謝料請求ができる
民事訴訟による盗撮事件の慰謝料請求には、一定の相場があります。相場を超えた慰謝料を請求することも可能ですが、著しく相場を超えた金額だと犯人の側も支払いを拒否してしまい、交渉が難航する可能性があります。
そのため、スムーズに慰謝料請求を行うためには、民事訴訟における慰謝料相場を踏まえて請求することが大切です。弁護士であれば、盗撮事件の慰謝料相場を熟知していますので、被害者の状況に応じた適正な慰謝料を算定して、犯人に請求することができます。
民事訴訟の手続きを任せることができる
民事訴訟を提起するためには、訴状や準備書面の作成、証拠の収集、裁判期日の対応などが必要になります。これらの手続きは、専門的知識や経験がなければ適切に行うことが困難ですので、早めに弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、民事訴訟の手続きをすべて任せられますので、負担なく民事訴訟を進めることができます。
まとめ
盗撮されたことで被った精神的苦痛は、民事訴訟により慰謝料請求という形で盗撮事件の犯人に対して請求することができます。ただし、民事訴訟の手続きは、非常に専門的かつ複雑な手続きですので、被害者の方が自分だけで行うのは難しいといえます。そのため、盗撮事件の民事訴訟は、弁護士に依頼して行うべきでしょう。
盗撮事件の犯人に対する民事訴訟の提起をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。