「不同意わいせつ罪に関する判例にはどのようなものがある?」
「不同意わいせつ罪で有罪・無罪になった判例を知りたい」
「不同意わいせつ罪の量刑相場はどうなっているの?」
2023年7月13日施行の改正刑法により従来の「強制わいせつ罪」および「準強制わいせつ罪」が廃止され、新たに「不同意わいせつ罪」が新設されました。不同意わいせつ罪は、従来の強制わいせつ罪のような暴行または脅迫を手段とするわいせつ行為に限らず、同意のないわいせつ行為を処罰するものになりますので、処罰範囲が拡大しています。
このような不同意わいせつ罪における裁判所の判断や量刑などを把握するには判例の理解が不可欠です。ただし、不同意わいせつ罪は、改正法施行後間もないため、十分な判例の蓄積がないことから、旧強制わいせつ罪や旧準強制わいせつ罪などの判例も含めてみていきます。
本記事では、
・不同意わいせつ罪(改正前も含む)に関する著名判例2選
・不同意わいせつ罪で有罪および無罪になった判例の紹介
・判例から見る不同意わいせつ罪の量刑相場
などについてわかりやすく解説します。
不同意わいせつ罪を犯してしまったときは弁護士のサポートが不可欠になりますので、できるだけ早く弁護士に相談するようにしましょう。
目次
不同意わいせつ罪(改正前も含む)に関する著名判例2選
不同意わいせつ罪の構成要件は、旧強制わいせつ罪・旧準強制わいせつ罪などの判例の判断を前提としていますので、過去の著名判例を理解しておくことが大切です。以下では、不同意わいせつ罪(改正前も含む)に関する著名判例2選を紹介します。
暴行または脅迫の程度|大審院大正13年10月22日判決
旧強制わいせつ罪では、わいせつな行為をする際に暴行または脅迫を用いることが要件とされていました。不同意わいせつ罪においても、暴行または脅迫は、同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態にする原因行為の一つとして挙げられていますので、どの程度の暴行または脅迫が必要になるかは、過去の判例が参考になります。
旧強制わいせつ罪の暴行または脅迫の程度が争点となった事案について、裁判所は、暴行または脅迫の程度について、以下のように判示しています。
「刑法第百七十六條前段ニ所謂暴行トハ相當ナ理由ナク他人ノ意思ニ反シ其ノ身體髪膚ニ力ヲ加フルノ謂ニシテ固ヨリ其ノ力ノ大小強弱ヲ問フコトヲ要スルニ非ズ」
すなわち、暴行または脅迫の程度は、被害者の意思に反する程度のものであれば足りるということです。
性的意図の要否|最高裁平成29年11月29日判決
不同意わいせつ罪は、通常、性的な意図をもってわいせつな行為がなされますが、事案によっては、相手への嫌がらせ、報復、金銭目的でわいせつな行為がなされることがあります。不同意わいせつ罪の成立にあたって、性的意図が必要だとするとこのようなケースでは、不同意わいせつ罪が成立しなくなってしまうため、性的意図の要否が問題となります。
過去の判例(最高裁昭和45年1月29日判決)では、強制わいせつ罪の成立にあたって性的な意図が必要と判断していましたが、平成29年の最高裁判決により判例変更があり、性的意図は不要となりました。
そのため、相手への嫌がらせ、報復、金銭目的でわいせつな行為に及んだ場合でも不同意わいせつ罪が成立することになります。
不同意わいせつ罪で有罪になった判例
以下では、不同意わいせつ罪で有罪になった最近の判例を紹介します。
山形地裁令和6年5月23日判決|懲役1年6月執行猶予4年
被告人は、路上において、被害者(当時25歳)に対し、瞬時のことで時間のゆとりがないことにより同意しない意思を形成することが困難な状態にあることに乗じ、いきなりその背後から両腕を回し、その着衣の上からその右胸を手でもみ、陰部をつかむわいせつな行為をしたという事案について、懲役1年6月実行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。
この事案では、事件後、被告人が医療機関で治療を受け始めており、同種前科がなく、被告人の妻による監督が期待できることから、執行猶予付きの判決となりました。
鹿児島地裁令和6年2月8日判決|懲役2年執行猶予4年
被告人は、被害者が13歳未満であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、教室内において、同人に対し、その両胸を着衣の上から両手で触り、もって13歳未満の者に対しわいせつな行為をしたという事案について、懲役2年執行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。
この事案では、担任教師が自らの教え子に対してわいせつな行為をしたものであり、犯行態様は悪質であると評価されました。しかし、一貫して事実を認め反省の態度を示していることや前科前歴がないことなどから執行猶予付きの判決となりました。
不同意わいせつ罪で無罪になった判例
以下では、不同意わいせつ罪(不同意わいせつ致傷罪・強制わいせつ罪)で無罪になった最近の判例を紹介します。
東京地裁令和6年7月24日判決|不同意わいせつ致傷被告事件
【事案の概要】
被告人は、路上等を歩行中の被害者の女性A(当時33歳)を同意しない意思を全うすることが困難な状態にさせてわいせつな行為をしようと考え、Aに対し、いきなりその背後からAの首に腕を巻き付けるなどの暴行を加えたが、Aに抵抗されたため、その目的を遂げず、その際、Aをその場に転倒させ、よって、Aに加療約7日間を要する右肘擦過傷等の傷害を負わせたという事案です。
【裁判所の判断】
裁判では、被告人にわいせつな意図があったかどうかが争点となりましたが、裁判所は、信用できるAの証言と防犯カメラ映像を核とする関係証拠を前提に、被告人が、わいせつ以外の意図を持って、Aを呼び止めるためにAの右肩をたたこうとしたタイミングで、つまづいてAを巻き込んで倒れこむ形となったという可能性が合理的なものとして想定できるため、わいせつの意図を認定するには合理的疑いが残ると判断し、無罪判決を言い渡しました。
横浜地裁令和5年8月7日判決|強制わいせつ被告事件
【事案の概要】
被告人は、通行中の被害者A(当時24歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え、Aに対し、その背後から抱き付くなどしてAを路上に押し倒した上、そのワンピースの裾から手を差し入れて、ストッキング及び下着を引き下ろし、その陰部に手指を挿入し、強いてわいせつな行為をしたという事案です。
【裁判所の判断】
裁判では、被告人が本件事件の犯人であるかが争点になりましたが、裁判所は、以下のような理由から被告人が犯人であると認定するには合理的な疑いが残るとして、無罪判決を言い渡しました。
・本件DNA型鑑定の結果は、被告人が本件事件の犯人であることを相当程度推認させるものとはいえるものの、被告人の犯人性を肯定する上で決定的ともいえる証拠価値を有するものではない
・被告人が本件事件直前に本件事件現場付近で被告人が所有する自動車を運転していたことは、被告人が本件犯行を実行することが可能な場所にいたということを示すにすぎず、その推認力は犯人であることと矛盾しないという限度にとどまるといわざるを得ない
判例から見る不同意わいせつ罪の量刑相場
不同意わいせつ罪で有罪になった場合の量刑相場は、どのくらいなのでしょうか。以下では、過去の裁判例を踏まえて、不同意わいせつ罪の量刑相場を説明します。
懲役1~3年程度が相場
不同意わいせつ罪は、2023年7月13日施行の改正刑法により新設された犯罪ですので、量刑相場のわかる資料はまだ存在しません。しかし、不同意わいせつ罪と改正前の強制わいせつ罪の量刑は、刑の種類を除いて共通ですので、強制わいせつ罪の量刑相場が参考になります。
法務省が公表している「性犯罪の量刑に関する資料」によると、令和元年に強制わいせつ罪で有罪となった事件の量刑は、以下のようになっています。
1年以下 | 2年以下 | 3年以下 | 5年以下 | 7年以下 | 10年以下 |
29件(4.05%) | 550件(65.19%) | 189件(26.34%) | 28件(3.51%) | 3件(0.50%) | 1件(0.29%) |
この表からは、懲役1~3年が全体の約9割を占めていますので、不同意わいせつ罪の量刑相場は、懲役1~3年といえるでしょう。
下記のコラムも量刑について詳しく記載がありますので、目を通してみてください。
不同意わいせつ事件の量刑相場は懲役1~3年・執行猶予率は約77%
執行猶予率は約77%
不同意わいせつ罪で有罪になったとしても、執行猶予が付けばただちに刑務所に収容される心配はありません。日本の刑事司法では、起訴された事件の99%以上が有罪になっていますので、不同意わいせつ罪で起訴されてしまったときは執行猶予が付くかどうかが重要なポイントになります。
法務省が公表している「性犯罪の量刑に関する資料」によると、2019年に強制わいせつ罪で有罪になった事件は800件で、そのうち執行猶予が付いた事件は614件でした。そのため、不同意わいせつ罪(強制わいせつ罪)の執行猶予率は約77%ということになります。
起訴されたとしても約4人に3人が執行猶予付きの判決を獲得していますので、執行猶予付きの判決を目指すのは決して難しいことではありません。
執行猶予に関しての記事もありますので、ご覧ください。
不同意わいせつ罪の執行猶予率は約77%!執行猶予獲得のポイント6つ
不同意わいせつ罪の弁護はグラディアトル法律事務所にお任せください
不同意わいせつ罪の判例からもわかるように、性的意図がなかったとしても、わいせつな行為をすれば不同意わいせつ罪が成立し、重く処罰される可能性があります。もっとも、性的意図がなかったことは、量刑を軽くするための有利な情状になりますので、弁護士としっかりと打ち合わせをして、適切な弁護方針を立てることで有利な判決を獲得できる可能性もあります。
このような不同意わいせつ事件を起こしてしまったときは、刑事事件に強い弁護士によるサポートが不可欠となりますので、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。当事務所には、性犯罪などの刑事事件に詳しい弁護士が多数在籍していますので、いつでも迅速なサポートを受けることが可能です。早期に被害者との示談を成立させることができれば、不起訴処分の可能性もありますので、お早めにご相談ください。
なお、当事務所では、24時間365日相談を受け付けておりますので、土日・祝日、早朝・深夜いつでもお電話可能です。初回相談料も無料で対応していますのでお気軽にお問い合わせください。
不同意わいせつに強い弁護士の見極め方と弁護活動のポイントを解説
まとめ
不同意わいせつ事件を起こしてしまったとしても、刑事事件に精通した弁護士に依頼することで、最終的な処分を軽くできる可能性や不起訴処分を獲得できる可能性を高めることができます。
不同意わいせつ事件を起こしてしまった方は、刑事事件に注力するグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。