「振り込め詐欺の受け子、出し子とは何のこと？」

「振り込め詐欺の受け子や出し子をしてしまうと何罪が成立する？」

「振り込め詐欺の受け子や出し子をするリスクとは？」

振り込め詐欺の事件で「受け子」や「出し子」と呼ばれる人が逮捕される事件が増えてきています。

最近では、トクリュウ（匿名・流動型犯罪グループ）がSNSなどで闇バイトと称して振り込め詐欺の受け子や出し子の募集をするケースもあり、高額な報酬に釣られて犯罪に手を染めてしまう人もいるようです。

しかし、振り込め詐欺は、詐欺事件の中でも非常に悪質な犯罪類型になりますので、受け子や出し子であっても、実刑になるなど重い刑罰が科されるリスクがあります。

安易に振り込め詐欺に関与しないよう注意するのは当然ですが、万が一、受け子や出し子をしてしまったときは、すぐに弁護士に相談するようにしてください。

本記事では、

などについてわかりやすく解説します。

不起訴処分や執行猶予付き判決を目指すのであれば、専門家である弁護士のサポートが不可欠になりますので、早期に刑事事件に強い弁護士に相談するようにしましょう。

振り込め詐欺の「受け子」「出し子」とは？

振り込め詐欺の「受け子」、「出し子」とは、どのようなものなのでしょうか。以下では、振り込め詐欺事件におけるそれぞれの役割について説明します。

振り込め詐欺の「受け子」とは？

振り込め詐欺の受け子とは、お金をだまし取る相手から現金を直接受け取ったり、宅配便などで送られてきた現金入りの荷物を受け取る役割の人をいいます。振り込め詐欺の受け子には、主に以下のような類型があります。

組織的に行われる振り込め詐欺事件の中では、「お金を受け取るだけ」という末端の役割にすぎませんが、被害者と直接対面する役割ですので、逮捕のリスクが高いといえるでしょう。

振り込め詐欺の「出し子」とは？

振り込め詐欺の出し子とは、被害者を騙して振り込ませた現金をATMから引き出したり、被害者からだまし取ったキャッシュカードを利用してATMからお金を引き出すなどの役割の人をいいます。

ATMの周辺には防犯カメラが設置されていますので、現金を引き出す際には、出し子は防犯カメラに顔を晒すことになります。そのため、防犯カメラ映像から犯人が特定されてしまいますので、受け子と同様に逮捕のリスクの高い役割といえます。

振り込め詐欺の受け子・出し子が問われる可能性のある罪

振り込め詐欺の受け子・出し子にはどのような犯罪が成立するのでしょうか。以下では、受け子・出し子に成立する可能性のある犯罪を説明します。

詐欺罪｜受け子

振り込め詐欺の受け子には、詐欺罪が成立します。

振り込め詐欺は、組織的に行われる犯罪で、「かけ子」と呼ばれる役割の人が被害者に電話をかけ「交通事故の示談金としてお金が必要になった」「女性を妊娠させてしまったため中絶費用が必要」などと嘘をついて被害者を騙します。そして、騙された被害者は、自宅を訪ねてきた「受け子」に現金などを渡すというのが主な流れになります。

受け子は現金などの授受だけしか関与していませんが、振り込め詐欺グループによる一連の詐欺行為の一部を担っていますので、共犯者として詐欺罪の責任を負うことになります。

なお、詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役と定められており、罰金刑はありませんので有罪判決になると必ず懲役が科されます。

窃盗罪｜受け子・出し子

振り込め詐欺の受け子がキャッシュカードすり替え型の事件に関与した場合、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立します。

詐欺罪は、騙された被害者によってキャッシュカードなどの財物を交付されたことが要件になりますが、キャッシュカードのすり替え型の事件では、被害者が気付かないところでキャッシュカードが奪われています。そのため、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立するのです。

また、振り込め詐欺の出し子が他人のキャッシュカードを利用してATMから現金を引き出した場合、ATMの管理者が許容しない方法で現金の占有が奪われていますので、窃盗罪が成立します。

なお、窃盗罪の法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められています。窃盗罪には、罰金刑の定めがありますが、振り込め詐欺は悪質性の高い犯罪ですので、罰金刑で終わることは少なく、正式裁判により懲役刑が科される可能性が高いです。

振り込め詐欺の受け子・出し子が逮捕されるきっかけ

振り込め詐欺の受け子・出し子が逮捕されるきっかけとしては、主に以下の3つが考えられます。

だまされたふり作戦

だまされたふり作戦とは、詐欺に気付いた被害者が警察官と協力して、だまさされたふりをしながら自宅などに現金を受け取りに来た犯人を検挙する方法です。

振り込め詐欺の受け子は、被害者と直接会って現金やキャッシュカードの受け取りを行いますので、被害者が途中で詐欺に気付いた場合、だまされたふり作戦により、その場にいた警察官によって現行犯逮捕される可能性があります。

防犯カメラによる追跡捜査

振り込め詐欺の出し子は、ATMからお金を引き出す際に防犯カメラでその姿を撮影されています。ATMに設置されている防犯カメラは、高精度のカメラですので人相や着衣などをしっかりと判別できます。

また、周辺の防犯カメラにも姿が映されている場合には、複数の防犯カメラによる追跡調査によって、犯人が特定される可能性があります。

このように防犯カメラによる追跡調査で、犯人が特定できれば、警察官が自宅を訪ねてきて後日逮捕となります。

共犯者による供述

振り込め詐欺は、組織的に行われる犯罪ですので複数の共犯者が存在しています。

先に警察に逮捕された共犯者が取り調べにおいて他の共犯者の情報を話せば、芋づる式に共犯者が逮捕されることになります。

このような組織的な犯罪では、逮捕されると共犯者同士の口裏合わせを防ぐために、接見禁止命令が出されますので、弁護士以外の第三者との面会は一切できなくなります。

振り込め詐欺の受け子・出し子として犯罪に関与するリスク

振り込め詐欺の受け子や出し子として事件に関与すると以下のようなリスクが生じます。

逮捕され長期間の身柄拘束を受ける

逮捕による身柄拘束の期限は72時間ですが、その後勾留が許可されると原則として10日間、延長も認められるとさらに最大10日間の身柄拘束を受けることになります。そのため、逮捕後の身柄拘束期間は、最長で23日間にも及ぶことになります。

振り込め詐欺事件は、共犯者が多く、全容解明に時間がかかることから、身柄拘束期間も長期間になりやすい犯罪類型です。また、共犯者との口裏合わせを防ぐために、接見禁止命令が出されますので、基本的には弁護士以外の第三者と面会をすることができません。

このように長期間慣れない環境で、周囲のサポートなく生活していかなければなりませんので、被疑者本人の負担は相当大きなものとなります。

実名報道により学校や職場にバレてしまう

振り込め詐欺事件は、社会的関心の強い事件になりますので、振り込め詐欺事件で逮捕されるとニュースや新聞などで実名報道されてしまう可能性があります。

実名報道されてしまうと、当然学校や職場にもバレてしまいますので、退学や解雇などの不利益な処分を受ける可能性が高いです。また、バイト感覚で受け子や出し子をしたかもしれませんが、実名報道をされてしまうと半永久的にインターネット上で名前や事件の内容が掲載されますので、将来の就職、転職、結婚にまで影響が生じてしまいます。

振り込め詐欺は受け子・出し子の初犯であっても実刑判決になる可能性がある

令和3年版犯罪白書では、特殊詐欺事犯者に関する調査結果をまとめています。それによると特殊詐欺事犯者の役割分担別の人員は、以下のようになります。

このように特殊詐欺事件で有罪になった役割では、受け子・出し子が圧倒的に多いことがわかります。

また、特殊詐欺事犯者のうち「受け子・出し子」の有期刑科刑状況をみると、以下のようになっています。

このことから振り込め詐欺事件の「受け子・出し子」で実刑判決になる割合は全体の54.9％で、執行猶予が付いたのが全体の45.1％ということがわかります。受け子や出し子の約半数は、1件の特殊詐欺事件にしか関与していないにもかかわらず、約55％が実刑になっていることを考えると、非常に重い刑罰が下されていることがわかります。

そのため、振り込め詐欺の受け子や出し子は、初犯であっても実刑判決になる可能性が十分にある犯罪だといえるでしょう。

振り込め詐欺の受け子・出し子に関する裁判例

以下では、振り込め詐欺の受け子・出し子に関する裁判例を紹介します。

熊本地裁令和5年5月17日判決｜窃盗罪・懲役3年【実刑】（受け子・出し子）

【事案の概要】

被告人は、共犯者らと共謀の上、警察官になりすまして、高齢の被害者5名から、キャッシュカードを窃取し、そのキャッシュカードを使用してATMから合計約785万円の現金を引き出して窃取した事案で、懲役3年の実刑判決を言い渡されました。

【量刑の理由】

被告人は、「闇バイト」の検索ワードを用いて自分から共犯者らに接触して、高齢者を狙い周到な役割分担の下に敢行される組織的犯罪に加担している。また、被告人は、専ら共犯者らの指示に従って行動していたにすぎないが、この種の犯行を実現する上で、受け子や出し子が果たす役割が重要であることに照らすと、厳しい非難を免れない。

他方、被告人は、犯行を全て認めた上で、犯した罪の重さを自覚し、可能な限りの被害回復に努めているが、経済的に余裕がないこともあって、合計53万円の一部弁償をしたほかは、将来の分割払いを約束するにとどまっている。被告人に前科前歴がないことや、被告人の母が今後の監督を約束し、被告人も更生の意思を示していることを考慮しても、その刑事責任は重く、実刑を免れることはできない

熊本地裁令和6年6月5日判決｜詐欺罪・懲役2年2月【実刑】（受け子）

【事案の概要】

被告人は、共犯者らと共謀の上、他人の親族等に成りすまして、その親族が現金を支給必要としているかのように装って現金をだまし取ろうと考え、4件合計850万円をだまし取った事案で、懲役2年2月の実刑判決を言い渡されました。

【量刑の理由】

本件は、いわゆる特殊詐欺４件からなる事案であるところ、各犯行はいずれも複数人が関与して組織的に行われており、かつ、言葉巧みに高齢者をだましたもので、悪質というほかない。また、被害額はいずれも100万円以上、合計にして850万円と高額であり、被害結果も大きい。そして、被告人は、約１か月という短期間のうちに4回もいわゆる受け子として各犯罪の実現に重要な役割を果たし、その供述によれば1件10万円と少なくない報酬を受け取っていたことからすると、弁護人指摘のとおり、被告人の地位が特殊詐欺組織の中では末端にあることを前提としても、被告人の刑事責任は相応に重いといわざるを得ない。

他方、被告人は、犯行を全て認め、罪の重さを自覚していることがうかがわれる。また、被告人は、保釈後、父母の下で働き、その監督・協力を得ながら被害弁償のため貯金しており、現時点では貯金額は12万円にすぎないものの、今後も被害回復に努めていきたい旨述べている。さらに、被告人の母が被告人に対する指導監督する旨表明している。以上のほか、被告人に前科がないことなどの事情は存在するが、その刑事責任は重く、実刑を免れることはできない。

振り込め詐欺の受け子・出し子が弁護士に依頼するメリット

振り込め詐欺の受け子・出し子が弁護士に依頼するメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

被害者との示談交渉を任せることができる

振り込め詐欺事件において実刑を回避するには、被害者と示談をすることが重要になります。

しかし、被疑者本人は、逮捕され身柄拘束されているケースが多いため、被疑者自身では示談交渉を行うことができません。また、被害者としても、自分を騙した相手から連絡が来ても、簡単には示談に応じてくれないでしょう。

そのため、被害者との示談交渉は、専門家である弁護士に任せるのがおすすめです。弁護士であれば、逮捕後すぐに被害者と接触し示談交渉を進めることができますので、早期に示談を成立させることで不起訴処分を獲得できる可能性があります。また、起訴されてしまったとしても、示談が成立していれば有利な情状として考慮してもらえますので、執行猶予付き判決を獲得できる可能性が高くなります。

関連記事：

詐欺事件の示談金相場はいくら？払えないときの対処法も解説

早期に面会に駆けつけて取り調べのアドバイスができる

振り込め詐欺事件が捜査機関に発覚すると、そのほとんどが逮捕されてしまいますので、逮捕を回避することは難しいです。逮捕されてしまうと警察官による厳しい取り調べを受けることになりますが、そこで不利な供述をしてしまうと今後の裁判において不利な判決が言い渡されるリスクがあります。

弁護士に依頼をすれば逮捕後すぐに面会に駆けつけることができますので、そこで取り調べに対するアドバイスを受ければ、不利な調書を取られるリスクを軽減することが可能です。逮捕中に面会できるのは弁護士だけですので、すぐに弁護士に依頼することが大切です。

有利な刑事処分獲得に向けたサポートをしてもらえる

弁護士に依頼をすれば示談交渉や取り調べに対するアドバイスだけでなく、有利な刑事処分獲得に向けたさまざまなサポートをしてもらうことができます。

刑事事件に強い弁護士であれば振り込め詐欺事件の弁護のポイントを熟知していますので、効果的な弁護活動により有利な処分を獲得できる可能性が高くなります。そのためには早期に弁護士に依頼することが重要になりますので、振り込め詐欺の受け子・出し子をしてしまったときはすぐに弁護士に相談するようにしてください。

振り込め詐欺の初犯で実刑を回避できた当事務所の事例

振り込め詐欺の初犯で出し子として逮捕された事例について紹介します。振り込め詐欺の量刑は重く、初犯でも実刑になるケースも多いですが、本件では、示談が成立し、なんとか執行猶予判決となりました。

【事案の概要】

今回の依頼者は、[20代男性のTさん]です。

Tさんは、振り込め詐欺・特殊詐欺の「受け子」と「出し子」として逮捕されました。

以前から借金や生活費に困っており、「高時給バイト」という言葉に惹かれて、詐欺かもしれないと感じながらも加担してしまったのです。

その手口は、「被害者から騙し取ったキャッシュカードを使い、ATMでお金を引き出し、報酬を受け取った後、残りの現金を近くの公園に隠す」というものでした。

【弁護方針】

振り込め詐欺を含む、詐欺事件では、執行猶予をとるために、示談や被害弁償の成立が最も重要な要素となります。そこで、弁護士は、まず、被害者への謝罪と弁済のため、検察官を通じて示談交渉を進め、被害金額の弁済を行いました。

また、Tさんの深い反省と更生への強い意思を裁判所に理解してもらうことが最も重要と考え、「情状に関する意見書」を作成しました。

同時に、Tさんの更生を支える環境を整えるため、家族との連携を図りました。

ご両親は当初、「Tさんと関わりたくない」と私たちとの連絡を拒否していましたが、粘り強く説得を続け、最終的には裁判で情状証人として証言してくれることになりました。

祖父母も「Sの将来のために」と、情状証人となることを快諾してくれました。

裁判では、Tさんの深い反省、若年であること、前科がないこと、具体的な更生プラン、そしてご両親と祖父母の支えがあることを強く主張し、執行猶予付き判決を求めました。

【結果】

結果として、Tさんには執行猶予付きの判決が言い渡されました。

実刑判決も覚悟していたTさんは、涙を流して喜んでいました。

ご両親も、Tさんの更生を支えていくことを改めて約束してくれました。

そして、Tさんは働きながら、被害者への弁済を続け、更生の道を歩み始めました。

振り込め詐欺の受け子・出し子の弁護はグラディアトル法律事務所にお任せください

振り込め詐欺の受け子・出し子は、複数の共犯者が関与する特殊詐欺事件の中でも証拠が残りやすいため、逮捕されるリスクの高い役割だといえます。また、特殊詐欺グループの中でも末端の役割であるものの、非常に重い刑罰が下されますので、初犯であっても実刑判決になる可能性も否定できません。

そのため、実刑判決を回避し、少しでも有利な処分を獲得するには、刑事事件に強い弁護士のサポートが不可欠になります。グラディアトル法律事務所では、振り込め詐欺などの特殊詐欺事件の弁護に関する豊富な経験と実績がありますので、受け子や出し子の弁護についてもお任せください。経験豊富な弁護士が事案に応じた最適な弁護活動を行うことで、有利な処分を獲得できるよう全力でサポートします。

当事務所では、相談は24時間365日受け付けておりますので、早朝・夜間や土日祝日であっても関係なく対応可能です。また、初回法律相談を無料で対応していますので、まずは相談だけでも結構です。刑事事件は、スピード勝負と言われるように迅速な対応が重要になりますので、少しでも早く弁護活動に着手するためにもまずは当事務所までお問い合わせください。

まとめ

最近、SNSなどを利用した闇バイトなどで振り込め詐欺の受け子や出し子に手を染めてしまう方も増えてきています。高額な報酬に魅力を感じるかもしれませんが、振り込め詐欺は非常に悪質な犯罪ですので、振り込め詐欺に加担してしまうと重い処罰を受ける可能性があります。

安易な気持ちで受け子や出し子に関与しないようにするとともに、振り込め詐欺に加担してしまったときはすぐに弁護士に相談するようにしてください。実刑を回避して有利な処分を獲得するには、刑事事件に強い弁護士のサポートが不可欠ですので、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。