「痴漢で有罪になった場合、執行猶予は付く?」
「執行猶予を付けるにはどのような条件を満たす必要がある?」
「痴漢で執行猶予を獲得するためのポイントを知りたい」
痴漢は、犯行態様によって成立する犯罪が異なり、それ応じて具体的な刑罰も変わってきます。軽微な痴漢行為であれば不起訴や罰金で終わることもありますが、悪質な痴漢行為だと起訴されて有罪になれば懲役刑が科されることになるでしょう。
ただし、懲役刑が科されたとしても執行猶予が付けば、直ちに刑務所に収容される心配はありませんので、通常の社会生活を送ることができます。
そのため、悪質な痴漢行為をしてしまった場合には、執行猶予を獲得できるかどうかが人生の分かれ道といえるでしょう・
本記事では、
・痴漢で実刑を回避するための執行猶予とは
・痴漢で執行猶予がつく条件とは
・痴漢で起訴されたときに執行猶予を獲得するための4つのポイント
などについてわかりやすく解説します。
痴漢事件で執行猶予を獲得するためには、痴漢事件に詳しい弁護士のサポートが不可欠となりますので、早めに弁護士に相談・依頼をするようにしましょう。
目次
痴漢で実刑を回避するための執行猶予とは?
執行猶予とはどのような制度なのでしょうか。以下では、執行猶予の概要や種類・期間などについて説明します。
執行猶予とは
執行猶予とは、刑事裁判で有罪判決が言い渡されたとしても、刑の執行を一定期間猶予することができる制度です。執行猶予付きの判決を獲得することができれば、直ちに刑務所に入る必要はありませんので、通常の社会生活を送ることができます。
ただし、あくまでも刑の執行が「猶予」されているにすぎませんので、執行猶予期間中に再び罪を犯してしまった場合には、執行猶予が取り消され、刑務所に入ることになります。他方、執行猶予期間中に罪を犯すことなく、執行猶予期間が経過すれば刑の言い渡しの効力が失われ、基本的には刑が免除されます。
執行猶予がついても有罪の前科であることには変わりありませんが、実刑判決であるか執行猶予付き判決であるかは、被告人にとっては大きな違いがあるといえるでしょう。
執行猶予の種類|全部執行猶予と一部執行猶予
執行猶予には、「全部執行猶予」と「一部執行猶予」の2種類があります。
全部執行猶予とは、言い渡された刑期のすべてが猶予される制度です。全部執行猶予となれば、直ちに刑務所に収容されることはありません。
一部執行猶予とは、言い渡された刑期のうちの一部が猶予される制度です。たとえば、「被告人を懲役3年に処する。その刑の一部である懲役1年の執行を2年間猶予する」という判決の場合、2年間は刑務所で服役しなければなりませんが、残りの1年に関しては刑務所から出所し、通常の社会生活を送ることが可能です。
なお、令和5年版の犯罪白書によると、令和4年中の確定裁判のうち、有期懲役刑が言い渡されたのが3万8910人で、そのうち全部執行猶予が2万4069人、一部執行猶予が723人でした。全部執行猶予の割合が61.9%であるのに対し、一部執行猶予の割合は1.86%ですので、一部執行猶予になるケースは非常に少ないといえるでしょう。
執行猶予の期間
執行猶予の期間は、1~5年とされており、裁判が確定した日からカウントがスタートします。
執行猶予期間の長さは、裁判官が犯罪の軽重、被告人の反省の態度、示談の有無などを考慮して判断します。
痴漢で執行猶予がつく条件とは?
執行猶予はどのような場合でも付けられるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります。以下では、全部執行猶予がつく条件について説明します。
判決内容が3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金
執行猶予を付けるには、判決の内容が「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」であることが必要になります。
この条件は、法定刑ではなく判決内容を基準する点がポイントになります。
痴漢事件のうち不同意性交等罪は、法定刑の短期が5年以上の懲役と定められていますので、基本的には執行猶予の条件を満たしません。しかし、自首や情状酌量など法律上の刑の減軽事由に該当する事情がある場合には、刑の減軽により執行猶予の条件を満たすこともあります。
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禁錮以上の刑に処せられたことがない
過去に禁錮以上の刑に処せられたことがないことも執行猶予をつけるための条件となります。今回が初犯であるという人や前科はあるものの罰金刑のみである人であれば、執行猶予がつく可能性があります。
禁錮以上の刑に処せられたことがあっても5年よりも前である
過去に禁錮以上の刑に処せられた前科があったとしても、それが5年よりも前である場合には、執行猶予の条件を満たします。
ただし、これらの条件を満たしたとしても、執行猶予をつけるかどうかは裁判官の裁量に委ねられていますので、必ず執行猶予がつくというわけではありません。
執行猶予中に痴漢をするとどうなる?
執行猶予期間中に痴漢をしてしまった場合、どうなるのでしょうか。
【原則】執行猶予が取り消される
執行猶予は、執行猶予期間中に再び罪を犯さないことを条件に刑の執行を「猶予」している状態ですので、執行猶予期間中に痴漢をしてしまうと、原則として執行猶予は取り消されてしまいます。
執行猶予が取り消されてしまうと、今回の痴漢行為に対する刑罰に加えて、執行が猶予されていた刑罰も科されることになりますので、長期間の刑務所での生活を覚悟しなければなりません。
【例外】再度の執行猶予
執行猶予期間中の痴漢であっても、例外的に再度の執行猶予を獲得することができれば、もともと言い渡されていた執行猶予は取り消されず、今回の痴漢事件についても執行猶予がつくため、直ちに刑務所に行く必要はありません。
しかし、再度の執行猶予の条件は、通常の執行猶予の条件よりも厳しく、以下の条件を満たす必要があります。
・今回の判決時に執行猶予期間中であること
・今回の罪の判決で1年以下の懲役または禁錮の言い渡しを受けること
・情状に特に酌量すべきものがあること
・前の罪の執行猶予で保護観察に付されていなかったこと
このように再度の執行猶予は簡単には認められませんので、執行猶予期間中に痴漢をしないように気を付けて行動することが大切です。
痴漢事件では執行猶予にもならず不起訴や罰金刑になることが多い
痴漢事件では、犯行態様によって成立する犯罪が異なりますが、着衣の上から身体を触るような典型的な痴漢行為については、迷惑防止条例違反となるケースが多いです。
迷惑防止条例違反の痴漢の法定刑は、6月以下の懲役または50万円以下の罰金と定められており、初犯であれば不起訴(起訴猶予)処分や略式手続きによる罰金刑が科されるケースが多いといえます。このような軽微な痴漢行為であった場合は、執行猶予が問題になることは少ないといえるでしょう。
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痴漢で起訴されたときに執行猶予を獲得するための4つのポイント
痴漢で起訴されてしまった場合には、執行猶予が付くかどうかが重要になります。以下では、痴漢で起訴されたときに執行猶予を獲得するための4つのポイントを説明します。
被害者と示談をする
被害者との示談が成立すれば、痴漢による被害が一定程度回復し、被害者の処罰感情もなくなったものと評価されますので、痴漢事件の量刑判断に大きな影響を与えます。
実刑判決が濃厚な事案であっても、被害者との示談が成立したことが考慮され、執行猶予を獲得できる可能性もありますので、起訴されてしまったとしても被害者との示談交渉を続けることが重要です。
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罪を認めて深く反省する
痴漢をしたことが事実であるなら、意味のない否認を続けるのではなく、早い段階で罪を認めて反省の態度を示すことが重要です。
どの段階で痴漢を認めていたかは、検察官から提出される供述証書により明らかにすることができますが、さらに反省を深めるために反省文を書いて、それを証拠として提出することも有効です。
家族による監督が期待できる
痴漢などの性犯罪は、再犯率の高い犯罪になりますので、再犯を防止する環境が整っているかどうかが執行猶予を付ける際の判断要素の一つとなります。
家族と同居している場合には、同居する家族に情状証人になってもらい、判決後の監督を誓ってもらうことで再犯を防止する環境が整備されていることを示すことができます。家族が遠方に住んでいるような場合には、職場の上司などに情状証人を依頼することも検討してみましょう。
痴漢癖の治療への取り組み
痴漢を繰り返している人は、痴漢癖という性依存症になっている可能性もあります。このような症状がある場合には、本人の意思だけでは改善が難しいため、医学的な治療を行う必要があります。
裁判で、性依存症の治療に取り組んでいることを証拠として提出するこで、再犯のおそれがないことを証明することができますので、執行猶予を獲得できる可能性が高くなるでしょう。
痴漢の執行猶予でよくある質問
以下では、痴漢の執行猶予についてよくある質問とその回答を紹介します。
執行猶予判決は海外旅行に影響する?
パスポートの申請時や外国のビザの申請時には、必ず犯罪歴の申告が求められます。痴漢により有罪判決が言い渡された場合、執行猶予がついていたとしても犯罪歴の申告の対象となります。
執行猶予判決があるとパスポートの申請が通らなかったり、ビザの発行が受けられない可能性がありますので、海外旅行が制限されるケースもあります。
執行猶予になれば前科にならない?
執行猶予がついたとしても有罪判決であることには変わりありませんので、判決が確定すれば前科となります。
執行猶予期間が経過すれば刑の言い渡しの効力が失われますが、前科が消えるわけではありません。
痴漢で執行猶予を目指すならグラディアトル法律事務所に相談を
軽微な痴漢行為であれば、不起訴処分や罰金刑で済むケースが多いですが、悪質な痴漢行為をすると起訴されて懲役刑が科される可能性があります。そのような場合でも被害者との示談など適切な弁護活動を行うことにより、執行猶予付き判決を獲得できる可能性がありますので、早めに痴漢事件に強い弁護士に相談することが重要です。
グラディアトル法律事務所では、痴漢事件の弁護について豊富な経験と実績がありますので、執行猶予を獲得するためのポイントを熟知しています。悪質な痴漢行為により起訴されてしまった場合でも、経験豊富な弁護士のサポートがあれば執行猶予付き判決を目指すことも可能になるでしょう。
執行猶予付き判決を獲得するには、早期に弁護士に依頼をして、充実した弁護活動を行ってもらう必要がありますので、痴漢をしてしまったときは、早めに当事務所までご相談ください。
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まとめ
悪質な痴漢行為については、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪などが成立する可能性があり、これらの罪で起訴されてしまうと、実刑判決となる可能性も否定できません。
実刑判決となれば刑務所に収容されてしまい、通常の社会生活を送ることができなくなりますので、執行猶予を獲得することが重要になります。執行猶予を獲得するには、被害者との示談交渉などが必要になりますので、弁護士のサポートが不可欠です。
痴漢で執行猶予を希望する方は、痴漢事件の経験と実績豊富なグラディアトル法律事務所にご相談ください。