業務上横領の罪を犯してしまった場合は、自首することも選択肢のひとつに入ってきます。
業務上横領罪は「10年以下の懲役」が定められた重大な犯罪ですが、自首して反省の姿勢を示せば、不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得できるかもしれません。
しかし、自首を真剣に検討し始めると「本当に自首するメリットはあるのか」「自首はどのような流れで進んでいくのか」など、さまざまな疑問が生じてくるものです。
そこで本記事では、業務上横領で自首すべきかどうかの判断基準や自首のメリットなどを解説します。
自首する場合の具体的な手続きの流れについても記載しているので、最後まで目を通してみてください。
目次
業務上横領で自首したほうがよいケース
まずはじめに、業務上横領で自首したほうがよいケースを4つ紹介します。
自身が置かれている状況と照らし合わせながら、読み進めてみてください。
被害額が高額な場合
被害額が高額な場合は、自首することが望ましいといえます。
被害額が多くなればなるほど示談による解決が難しくなり、刑事事件化する可能性が高いためです。
そもそも事件化を防ぐことが難しいのであれば、はじめから自首することも選択肢に入れておくべきでしょう。
たとえば、被害額が100万円を超えるようであれば金銭的負担が大きくなるため、自首を検討してもよいかもしれません。
とはいえ資金力は人それぞれなので、被害額が高額でも弁済できるのであれば、まずは自首よりも示談を優先するのが基本です。
横領したお金の弁済が難しい場合
横領したお金の弁済が難しい場合も、自首を前向きに検討したほうがよいでしょう。
被害弁償ができなければ、会社側が警察に被害届を出したり、告訴したりする可能性が高いためです。
金額にもよりますが、被害弁償せずに事件化を回避することは難しいでしょう。
そのため、会社から警察に連絡がいく前に、自首して反省の態度を示すことが最善の対処になり得ます。
なお、自首したからといって、被害弁償を免れるわけではありません。
自首によって刑事上の責任は軽くなったとしても、民事上の損害賠償責任は残ったままです。
会社が内部調査を始めている場合
業務上横領で自首したほうがよいケースのひとつは、会社が内部調査を始めている場合です。
すでに内部調査が進んでいるのであれば、横領の事実が明らかになるのも時間の問題なので、ただ黙って待つことはおすすめしません。
内部調査によって犯人が発覚するよりも、自首して自ら名乗り出たほうが、会社にも捜査機関にも良い印象を与えられます。
その結果、逮捕を回避し、不起訴や減刑の可能性を高めることができるのです。
横領は会社にとっても重大な事件であり、内部調査は速やかに進められることが予想されるため、できるだけ早く行動に移すようにしてください。
公務員の場合
公務員が横領した場合も、自首したほうがよいと考えられます。
公務員は高い倫理観を求められる職業であり、信頼を裏切る行為は厳しく追及されます。
そのため、公務員による横領は金額の多寡に関わらず、警察への被害申告がなされる可能性が非常に高いです。
また、公務員が扱うお金は法律に従い、減額に管理されています。
横領を隠し通すのは現実的に難しいため、自首して罪を認めるのが賢明な判断といえるでしょう。
業務上横領で自首しないほうがよいケース
業務上横領の罪を犯した場合、必ずしも自首することが最善の策とは限りません。
ここでは、自首しないほうがよい2つのケースを紹介するので参考にしてください。
会社側が事件化を望んでいない場合
そもそも会社側が事件化を望んでいないのであれば、自首しないほうがよいでしょう。
会社が警察に被害届や告訴状を出さなければ、通常、刑事事件には発展しないので、あえて自首する必要はありません。
特に中小企業では、警察への通報を避けるケースが多くみられるので、自首するよりも被害弁償を優先的に考えるようにしてください。
しかし、加害者の態度次第で会社側の意向が変わる可能性もあります。
会社に対しては深く反省の態度を示し、最後まで誠実に対応することが重要です。
示談での解決が見込める場合
示談での解決が見込める場合も、急いで自首する必要はないでしょう。
示談が成立すれば、被害届の提出や告訴を回避できる可能性が高くなります。
そのため、相手が示談に応じる姿勢をみせているにも関わらず自首してしまうと、不必要に事件化することになるので注意してください。
ただし、当事者間での示談交渉は感情的になりやすく、余計なトラブルをまねくおそれがあります。
示談の余地が残されているのであれば、まず弁護士に相談し、交渉を任せるようにしましょう。
業務上横領で自首する4つのメリット
次に、業務上横領で自首するメリットを解説します。
逮捕を回避しやすくなる
業務上横領で自首するメリットのひとつは、逮捕を回避しやすくなることです。
逮捕されてしまうと、その後の勾留も含めて最大23日間にわたって身柄拘束を受けるおそれがあります。
その点、自首すれば逃亡や証拠隠滅のおそれが低いと判断され、身柄拘束を伴わない在宅事件として扱われる可能性が高まるのです。
仮に逮捕された場合でも、自首していれば保釈も認められやすくなるでしょう。
もちろん、逮捕を回避するためには、自首後も捜査に協力し続けることが大切です。
関連コラム:横領で逮捕されるケースとは?逮捕のリスクや逮捕回避の対処法を解説
不起訴処分の可能性が高まる
業務上横領の罪を犯した場合でも、自首すれば、不起訴処分の可能性が高まります。
自首によって自らの罪を認め、反省の姿勢を示すことで、検察官から情状酌量の余地があると判断されやすくなるためです。
不起訴処分になれば、前科がつくこともありません。
今の会社は解雇されるかもしれませんが、就職活動もスムーズに進められるはずです。
刑の減軽が期待できる
刑の減軽が期待できることも、自首のメリットといえるでしょう。
自首すれば、罪を認めて反省していることをアピールできます。
裁判官が量刑を判断する際に自首したことが有利な事情として扱われ、刑期が短くなったり、執行猶予が付いたりする可能性が高くなるのです。
業務上横領罪は「10年以下の懲役」の重たい刑罰が規定されているので、自首によって少しでも刑を軽くすることが、今後の有力な選択肢になります。
関連コラム:業務上横領の量刑はどのくらい?執行猶予や刑期に影響する要因も解説
精神的ストレスから解放される
業務上横領で自首すれば、精神的ストレスから解放されます。
横領がいつ発覚するか、いつ逮捕されるかという恐怖を抱えながら生活することは大きなストレスになるでしょう。
その点、自首して自らの罪を明らかにすれば、不安や恐怖から解放され、これからやるべきことを冷静に検討できるようになります。
毎日、同僚や上司の目を気にしながら仕事をし、夜も眠れないような状況が続いている場合は、思い切って自首することも検討してみてください。
自首を検討するにあたってはまず弁護士に相談・依頼するべき理由
自首は本来事件化しなかったかもしれない犯罪を自ら明るみに出す手続きなので、弁護士にも相談したうえで、慎重に検討を進める必要があります。
ここでは、自首を検討するにあたって弁護士に相談するメリットを解説するので、参考にしてみてください。
自首すべきかどうか判断してもらえる
弁護士に相談・依頼するメリットのひとつは、自首すべきかどうかを適切に判断してもらえることです。
上述のとおり、会社側の意向や示談の可能性などを考慮したときに、必ずしも自首が最善の方法とはいえない場合があります。
焦って自首したことが原因で、自身が不利な状況に追い込まれる可能性もゼロではありません。
その点、刑事事件が得意な弁護士であれば、事案の詳細や過去の事例などをもとに、自首のメリットとデメリットを客観的に評価することが可能です。
自首するかどうかでその後の人生が大きく変わるので、できる限り弁護士の助言を受けるようにしましょう。
自首をおこなううえでのアドバイスを受けられる
業務上横領の自首をおこなううえでのアドバイスを受けられることも、弁護士に相談・依頼するメリットのひとつといえます。
自首するにしても、多くの人は何をどうしていいのかわからないはずです。
そこで、経験豊富な弁護士に相談すれば、出頭のタイミングや事前準備などに関して、スムーズに自首を実行するためのポイントを助言してもらえます。
また、自首後の取り調べを乗り切る方法についてレクチャーしてもらえることも、大きなメリットといえるでしょう。
やり方を誤ると自首の効果が薄れてしまうので、弁護士のサポートは必要不可欠です。
自首に同行してもらえる
弁護士に相談・依頼するメリットとしては、自首に同行してもらえる点も挙げられるでしょう。
弁護士に同行してもらえば、証拠隠滅・逃亡のおそれがないことを主張してもらえるので、その場で逮捕されるリスクを軽減できます。
また、弁護士が身元引受人となることで、家族に連絡がいかないようにすることも可能です。
さらに、取り調べ中も近くで待機してくれるため、適時アドバイスを受けたり、不当な取り調べに抗議してもらったりできます。
なにより弁護士がそばにいてくれることは、精神的にも大きな支えになるはずです。
事件化した場合に迅速な対応をしてもらえる
早い段階で弁護士に相談していれば、業務上横領が事件化した場合に迅速な対応をしてもらえます。
たとえば、犯行が誰にも気づかれていない段階で弁護士に相談しておけば、横領が発覚して逮捕されてしまった場合でも、即座に接見してもらうことが可能です。
また、事前に準備していれば、証拠の収集や示談交渉などにも速やかに着手できるため、起訴を回避できる可能性が高まります。
弁護士への相談が早ければ早いほど、事件化した場合の対策が講じやすくなることを念頭に置いておきましょう。
業務上横領で自首する際の流れ
次に、業務上横領で自首する際の流れを解説します。
現金・着替え・身分証明書などを準備する
業務上横領で自首する際には、まず現金・着替え・身分証明書などを準備する必要があります。
自首後は取り調べや勾留が長引く可能性もあるため、必要最低限の物品を用意しておくことが重要です。
また、自身の犯行を誤解なく伝えられるように、横領に関する資料も揃えておきましょう。
警察署の窓口で自首を申し出る
業務上横領で自首する際には、警察署の窓口で自首を申し出る必要があります。
犯行現場を管轄している警察署に出向き、窓口で「業務上横領の件で自首したい」と伝えてください。
その後、担当の警察官が現れ、詳細の確認をおこなったのち自首が正式に受理されます。
取り調べを受ける
警察署の窓口で自首が受理されると、取り調べに移行します。
取調室に案内され、以下のような点を確認されることになるでしょう。
- ・横領した金額と時期
- ・横領の手口
- ・横領した金銭の使途
- ・共犯者の有無
- ・反省の程度
取り調べでの供述内容は、その後の捜査や起訴・不起訴の判断などに大きな影響を与えます。
不用意な言動をしないように、事前にしっかりと対策しておきましょう。
取り調べが終わると、最後に自首調書への署名を求められます。
署名後の修正は基本的に認められないので、誤りがないかどうかを慎重に確認してください。
逮捕もしくは在宅事件となり、捜査が進められる
業務上横領で自首して取り調べを受けたあとは、逮捕もしくは在宅事件となり、捜査が進められます。
取り調べの結果、重大な事件であることが判明し、加害者に逃亡・証拠隠滅のおそれがあると判断された場合は逮捕される可能性が高いといえるでしょう。
一方、比較的軽微な事件で、加害者にも反省の態度がみられる場合は在宅事件として扱われることがあります。
ただし、在宅事件となっても、捜査には継続して協力しなければなりません。
また、捜査の進展によってはあとから逮捕される可能性もあるので、弁護士と密に連絡を取り、適切な対応を心がけることが重要です。
業務上横領での自首を円滑に進めるためのポイント
次に、業務上横領での自首を円滑に進めるためのポイントを解説します。
主に3つのポイントが挙げられるので、一つひとつ詳しくみていきましょう。
できるだけ早く自首する
業務上横領で自首するのであれば、できるだけ早く行動に移すことが重要です。
早期の自首によって、反省の姿勢や事件解決に協力する意思を表明すれば、より有利な事情として扱ってもらえる可能性が高まります。
たとえば、会社が内部調査を始める前とあとでは、自首が捜査機関や裁判所に与える印象も大きく変わってくるでしょう。
ただし、焦って自首することはおすすめしません。
弁護士とも相談しながら、自首のメリット・デメリットを冷静に判断したうえで、行動に移すことが大切です。
業務上横領の証拠がある場合は持参する
業務上横領での自首を円滑に進めるためには、業務上横領の証拠を持参することが重要です。
証拠を提示することで自首の信憑性が高まり、警察にも受理してもらいやすくなります。
また、証拠を自ら提出すれば、捜査への協力的な姿勢を示すことも可能です。
たとえば、以下のような証拠を持参するとよいでしょう。
- ・横領した金額の明細や帳簿のコピー
- ・横領に使用した口座の取引履歴
- ・横領した資金の使途を示す領収書や明細書
ただし、法的に有効な証拠の種類は個々のケースごとに異なります。
証拠の取捨選別が難しい場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。
刑事事件が得意な弁護士に相談する
業務上横領での自首を円滑に進めたいのであれば、刑事事件が得意な弁護士のサポートが必要不可欠です。
経験豊富な弁護士であれば、自首のタイミングや方法、準備すべき書類などについて適切なアドバイスを提供できます。
また、弁護士は捜査機関とのやり取りにも慣れているため、自首に同行して不当な捜査を防ぎつつ、円滑に手続きを進めることが可能です。
ただし、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
業務上横領の解決にあたっては、専門性の高い法的知識や交渉スキルなどが必要です。
弁護士を選ぶ際には、注力分野や過去の解決実績などを確認し、刑事事件を得意としているかどうかを確認するようにしましょう。
関連コラム:横領事件の弁護士費用はいくら?内訳・相場や弁護士選びのコツを解説
業務上横領の自首に関してよくある質問
最後に、業務上横領の自首に関してよくある質問と回答を紹介します。
業務上横領に時効はある?
業務上横領には、刑事上の時効と民事上の時効があります。
- ・刑事上の時効(公訴時効):時効完成により起訴されなくなる
- ・民事上の時効(消滅時効):時効完成により被害者は損害賠償請求権を失う
公訴時効は「犯罪行為が終了した時点から7年」で完成します。
一方、損害賠償請求の時効期間は「被害者が損害と加害者を知ってから3年、または、犯罪行為のときから20年」です。
いずれにしても時効完成までには長期間を要するため、時効に期待して横領を隠し続けるのは得策とはいえません。
自首を含め、早期解決に向けて行動を起こすべきです。
自首する場合はあらかじめ会社に伝えておくべき?
自首する場合、会社に伝えるべきかどうかは事件ごとの判断が必要です。
会社への事前連絡が有利に働くこともあれば、逆効果になることもあります。
たとえば、会社が穏便な解決を望んでいる場合は、事前連絡をきっかけに示談交渉が始まり、自首を回避できることもあるでしょう。
一方で、コンプライアンスなどに厳しい会社であれば、自首するよりも前に警察へ通報されるリスクもあります。
自首することを会社に伝えるかどうかは、さまざまな要素を考慮したうえで判断しなければならないので、まずは弁護士に相談してアドバイスを受けてください。
業務上横領で自首すると周囲にバレる?
業務上横領で自首したからといって、必ずしも周囲にバレるわけではありません。
特に中小企業に勤めており、横領額が軽微な事件であれば、報道されるリスクも低いと考えられます。
一方で、重大な横領事件を起こした場合は、居住地域や氏名が報道され、身近な人物に知られてしまう可能性も否定できません。
また、未成年がアルバイト先で横領した場合などは、警察から学校に連絡がいくこともあるでしょう。
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本記事のポイントは以下のとおりです。
- ・被害額が高額な場合や弁済が難しい場合、すでに内部捜査が始まっている場合などは自首を検討したほうがよい
- ・会社が示談を事件化を望んでいない場合や示談での解決が見込める場合は自首を控えるべき
- ・業務上横領で自首すれば、逮捕回避、不起訴処分・減刑の獲得、ストレスからの解放が期待できる
- ・弁護士であれば自首の是非を適切に判断し、同行することもできる
- ・自首する際はスピード感のある手続きと事前準備が重要
業務横領はいずれ発覚する可能性の高い犯罪です。
取り返しのつかない事態に発展する前に、自首を含めて対策を講じるようにしましょう。
しかし、自首にはメリット・デメリットがあるため、独断で判断せずに、弁護士のアドバイスを受けることが重要です。
実際にグラディアトル法律事務所では数々の横領事件を取り扱い、円滑に解決へと導いてきた実績があります。
24時間365日体制で経験豊富な弁護士が相談に応じているため、困ったときはいつでもお問い合わせください。
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