【暴行罪】3つの成立要件と罰則が重くなる4つのパターン

【暴行罪】3つの成立要件と罰則が重くなる4つのパターン
弁護士 若林翔
2024年05月30日更新

「どこからどこまでが暴行罪の成立要件?」

「暴行罪の罰則が重くなるケースはあるのだろうか?」

暴行罪は、相手に対し暴力を振るった場合に成立する犯罪です。

暴力は、「胸倉を掴んだ」「押し倒した」といった直接的な行為だけでなく、「爆音で不快にさせた」「光を当てて目を眩ませた」といった間接的な行為も成立するので、幅広い成立要件があることを理解する必要があります。

また、暴力罪の刑罰は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」を定められておりますが、適切な対応ができていれば、不起訴処分になることが多く、懲役刑まで発展することは稀です。

だからといって、自分の行為に胡坐をかいて適切な対応を怠ると、懲役刑に発展することも。

当記事では、

  • ・暴行罪の成立要件
  • ・暴行罪が成立するケース
  • ・暴行罪が成立しないケース
  • ・暴行罪成立で罰則が重くなる要件

といったことについて、実際の判例も交えて詳しく解説します。

 

暴行罪における3つの成立要件

暴行罪の成立要件は、以下の3つを満たす必要があります。

暴行罪における3つの成立要件

「暴行」行為に及ぶこと

暴行罪において、一番焦点になるのが「暴行」行為があったかどうかです。

暴行罪における「暴行」とは、人の身体に対し不法に有形力を行使することです。「暴行」行為には、殴る・蹴る・叩くといった直接的なものと、光・音・熱といった間接的な行為も当てはまります。

具体的には、

  • ・胸倉を掴む行為
  • ・相手を強く押す・押し倒す行為
  • ・相手を引っ叩く行為
  • ・塩を振りかける行為
  • ・相手の手前に石などの物を投げつける行為
  • ・強い光を当てて相手の目を眩ませる行為
  • ・嫌がる相手を無理矢理サウナに入れる行為
  • ・爆音で相手を不快にさせる行為

といったように、幅広い範囲が「暴行」行為として成立します。

怪我をしていないこと

暴行罪の成立要件として、怪我をしていないことも重要な要件の一つです。

暴行罪と間違えやすい刑罰に傷害罪がありますが、その明確な違いは「暴行行為により怪我をしたかどうか」です。

  • ・怪我をしていない・・・暴行罪
  • ・怪我をしている・・・傷害罪

傷害罪は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」と、暴行罪よりも重い罪になってしまうので注意しましょう。

暴行罪と傷害罪の違いについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

暴行罪と傷害罪の違いは?成立要件や刑罰の違いを弁護士が解説

故意に行うこと

「暴行」行為が故意であった場合、暴行罪が成立します。

例えば、相手を害する目的を持って「暴行」行為に及んだ場合は、故意である(=暴行罪が成立する)と判断できますが、たまたま肩と肩がぶつかったという程度では、お互いに意図していないので、暴行罪として成立しない、ということになります。

 

暴行罪が成立するケース

暴行罪が成立するケース

暴行罪が成立する要件をまとめますと、「暴行」行為が故意に行ったもので、且つ怪我をしていないことが成立要件となります。

以下で、暴行罪が成立したケースを、実際の判例をもとに列挙していきます。

直接的な「暴行」行為により成立したケース

直接的な「暴行」行為とは、殴る・蹴る・叩くなどの行為が当てはまりますが、怪我を負わせるような行為じゃなくても暴行罪として成立する可能性はあります。

具体的な判例は、以下の通りです。

  • ・電車に乗ろうとしている人の服を引っ張った(大判昭8・4・15刑集12-427)
  • ・帳簿を取り返すために他人に組み付いた(大判明35・12・4録8-11-25)
  • ・仰向けに倒れた女性の上に馬乗りになる行為(大阪高判昭29・11・30裁特1-12-584)
  • ・通り掛かりの女性に抱きつき帽子でその口を塞ぐ行為(名古屋高金沢支判昭30・3・8裁特2-5-119)
  • ・頭から塩を振りかけた(8事件〔福岡高判昭46・10・11〕)

非接触的な「暴行」行為により成立したケース

暴行罪の成立要件において、直接的な「暴行」行為でなくても、怪我を負わせる危険に相当すると判断されれば、暴行罪が成立します。

具体的な判例は、以下の通りです。

  • ・通行人の数歩手前を狙って石を投げつけた(東京高判昭25・6・10高集3-2-222)
  • ・人に対して拳大の瓦の破片を投げつけ、鍬を振り上げて追いかけた(最判昭25・11・9集4-11-2239)
  • ・人の乗っている自動車に石を投げて窓ガラスを破損させた(東京高判昭30・4・9高集8-4-495)
  • ・驚かせるつもりで椅子を投げつけた(仙台高判昭30・12・8裁特2-24-1267)
  • ・室内で日本刀の抜き身を振り回した(最決昭39・1・28集18-1-31)
  • ・包丁を被害者の首の辺りをめがけて突きつけた(東京高判昭43・12・19判夕235-277)

光・音・熱などのエネルギー作用を利用した「暴行」行為により成立したケース

暴行罪は、目に見えないエネルギー作用による行為についても、「暴行」行為として認められています。

具体的な判例は、以下の通りです。

  • ・相手の近くで太鼓を連打し、意識が朦朧とする感覚を与えた(最判昭29・8・20集8-8-1277)
  • ・携帯用拡声器を用い耳元で大声を発した(大阪地判昭42・5・13判時487-70)

 

暴行罪が成立しないケース

暴行罪が成立しないケース

暴行罪が成立しないケースとしては、以下の2点が考えられます。

言葉による暴力

暴行罪の成立要件としては、「有形力の行使(=物理的な行為)」が焦点となるため、言葉による暴力は暴行罪として成立しないとされています。

ただし、前述でも解説したように、大声で発したり、拡声器を用いたりと、状況次第では暴行罪が成立することもありますので、注意が必要です。

また、暴行罪とは別に「侮辱罪」や「名誉棄損罪」に該当する恐れもありますので、「言葉の暴力は大丈夫」と思っている場合は、認識を改める必要があるでしょう。

「暴行」に違法性(不法性)が認められない

暴行罪における「暴行」とは、人の身体に対し不法に有形力を行使することです。

ここでいう有形力の行使とは、殴る・蹴るといった直接的な行為の他に、非接触的な行為、エネルギー作用による行為などが当てはまります。

ただし、それは場所・状況によっても変化するため、違法性(=不法な有形力の行使)があるかどうかが焦点になります。

例えば、太鼓を連打したケースで考えてみましょう。

相手の近くで太鼓を連打し、意識を朦朧とさせる行為は違法性があると判断できますが、その場所がお祭りだった場合は、違法性があるとは言えませんので、暴行罪として成立しません。

このように、違法性は、行為の目的や当時の状況、行為の態様、被害者に与えられた苦痛の有無・程度等を総合して判断されるので、全ての有形力の行使が暴行罪に該当するわけではないことを理解しましょう。

 

暴行罪成立で罰則が重くなる4つの要件

暴行罪成立で罰則が重くなる4つの要件

暴力罪の刑罰は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と定められており、適切な対応ができていれば、その大半が不起訴処分で完結するため、懲役刑まで発展することは極めて稀です。

ですが、以下の4つの要件に当てはまると罪が重くなり、懲役刑になる可能が高まりますので、しっかりと押さえておきましょう。

悪質性が高い

暴行罪においては、悪質性が高いかどうかで量刑に差が出ることがあります。

例えば、相手の胸倉を掴んだケースで考えてみましょう。ついカッとなって一回だけ胸倉を掴んだ程度なら違法性は低いと判断される可能性が高いですが、胸倉を掴んで怒鳴ったり、そのまま押し倒す行為があった場合は、悪質性が高いと判断され、量刑が重くなる可能性があるということです。

初犯ではない(前科持ち)

暴行罪で、初犯であることは減刑要素の一つになりますが、前科がある場合は、同じ犯行でも量刑が重くなる傾向にあります。初犯では不起訴処分の内容でも、前科持ちということで罰金刑・懲役刑になる可能性があるということです。

また、前科から再犯までの期間が短い場合も量刑が重くなる可能性がありますので、注意しましょう。

反省の様子が見られない

暴行罪において、反省の様子が見られるというのは減刑要素として非常に重要です。

逆に、「暴行による犯行を認めない」「謝罪しない」「逆ギレの対応」といった反抗的な態度を取り続けると、反省の様子が見られないと判断され、量刑が重くなる可能性が高まります。

自分のしてしまった行動に反省し、誠意を持った行動をすることが、不起訴処分を獲得するカギになることを覚えておきましょう。

被害者が処罰を強く望んでいる

暴行罪で不起訴処分を獲得するには、被害者との示談を成立させる必要がありますが、被害者が処罰を望んでいる場合は、示談交渉は難航してしまいます。

もし仮に示談交渉が不成立となれば、起訴される可能性が高まりますので、その場合は高い確率で有罪判決を受けることになります。

また、無理な示談交渉の継続は不利な結果にしかなりませんので、そうなる前に弁護士に依頼することをおすすめします。

 

暴行罪の成立要件を満たし罰則が科せられた判例3選

暴行罪の成立要件を満たし罰則が科せられた判例を3つご紹介します。

【判例1】音や熱によるエネルギー作用による行為で暴行罪が成立

Aほか数名の部課長らがいる部屋に300名くらいの大人数で押し掛け、職場交渉と称し「組合側につけ」などと叫んだり、暑い時期にも関わらず部屋を締め切り、蒸し風呂状態にした。

さらに、太鼓などの打楽器を用いて夜通しで鳴らし続け、Aほか部課長らは意識が朦朧したり脳貧血を起こすものが出たことで、暴行罪が成立した。

(最高裁昭29・8・20集8-8-1277)

【判例2】塩を振りまいて暴行罪が成立

団体交渉で示威運動をしていたAは、会社側から執拗に嫌がらせを受けていた。

事件当日、会社側の従業員Bら20名がAを取り巻いて「帰れ」「出ていけ」などの罵声を浴びせたので、Aがその場から退去したところ、Bが追いかけ数回に渡り塩を振りかける行為を行ったことで、暴行罪が成立した。

(福岡高裁昭46・10・11刑月3-10-1311)

【判例3】車両および徒歩による追跡行為で暴行罪が成立

被害者Aのことを革マル派(過激派)だと勘違いし、追いかけたが一度は見失い、再発見したところを、Bほか1名で自動車に走り寄り襲い掛かる行動を見せた。

自動車で逃走するAを、Bは自動車でさらに追いかけた。その後、車から降りて守衛所に逃げ込もうとしたAを走って追いかけ、背後からつかみかかろうとしたことで、暴行罪が成立した。

(東京高裁昭51・12・6時報27-12-160)

 

暴行罪の要件を満たしても示談成立すれば不起訴の可能性大

暴行罪は示談を成立させれば不起訴率は極めて高くなる!

暴行罪が成立すれば、警察に逮捕されたり、検察官に起訴されてしまうリスクが発生します。前科が付くようなことになれば、家族や友人に迷惑をかけることになり、無断欠勤が続けば解雇になる可能性もあるでしょう。

そのため、起訴されてしまう前に被害者との示談を成立させる必要があるのですが、自力での示談交渉は困難どころか、逮捕されてしまった場合は、被害者と連絡する手段すらなくなってしまいます。

示談が成立すれば不起訴の可能性が高くなるのに、被害者との示談の場を設けることすら困難。この状況を打開するには、弁護士のサポートが不可欠になります。

弁護士に依頼すれば、被害者に寄り添った対応をしてくれるので、被害者も安心して示談交渉に応じてくれるようになります。また、被害者の連絡先が分からないという状況でも、弁護士が捜査機関を通じて調べることができますので、示談成立に大きく貢献することが可能です。

示談までの期間が長引けば長引くほど、起訴されてしまうリスクが上がりますので、早めに弁護士へ依頼することをおすすめします。

暴行罪の示談・示談金については、以下の記事をご参照ください。

暴行罪の示談金相場は10〜30万円!金額を決める5つの要因も解説

暴行罪の弁護はグラディアトル法律事務所へお任せください

暴行罪が成立した場合、不起訴処分を獲得するには迅速な行動が求められます。

対応が遅れると、外部と連絡取れないまま長期間身柄拘束を受けたり、起訴されて前科が付いてしまうリスクが高くなります。

グラディアトル法律事務所では、24時間365日対応していますので、ご依頼いただければ最短当日で、弁護活動に着手することができます。また、暴行罪の示談交渉において、実績豊富な弁護士が多数在籍していますので、被害者に寄り添った対応で、迅速な示談成立を目指します。

暴行罪の弁護は、グラディアトル法律事務所にお任せください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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