「強制性交等罪」「準不同意性交等罪」が刑法の改正により、「不同意性交等罪」となりました。
不同意性交等罪では、冤罪や美人局が増えるのではないかと懸念されています。
今回紹介する事例は、もともと愛人関係にあり、何度か性的関係もあった部下から不同意性交等罪だと被害届を出され、逮捕されてしまった事例です。
結果として、不起訴にはなりましたが、冤罪の疑惑の残る事件です。
目次
事件の概要 職場の部下と同意で行為をしたつもりが、不同意性交等罪で逮捕
Kさんは都内の会社に勤める40代男性です。
Kさんは既婚者でしたが、部下の一人である20代女性と親密な関係になってしまい、体の関係まで持ってしまいます。Kさんは女性と良好な関係を築いており、同意のもと性行為をしていると思っていました。もちろん、無理やり性行為を迫ったようなつもりもなく、女性も好意を持って行為に応じてくれていると思っていたのです。
2人は仕事の飲み会終わりにホテルへ行くこともあれば、仕事終わりに二人でただ飲みに行くということもありました。
ですが、2人が男女の関係になってからも、女性は会社に出勤しており、会社では上司と部下として変わらず接する毎日が続いていました。そのため、まさかKさんは、女性が不同意だったと言って警察に相談するとは想定もしていなかったのです。
しかし、ある日突然Kさんのもとへ警察がきて不同意性交等罪の容疑で逮捕されてしまいました。
事件のポイント 不同意性交等罪とは?
2023年の刑法改正により、強制性交等罪、準強制交等罪が不同意性交等罪と改められました。
不同意性交等罪の条文は以下の通りです。
(不同意性交等)
第百七十七条前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
(刑法177条引用)
例えば、相手の女性を殴るという「暴行」を用いて逆らえない状況にし、性交に及んだ場合、不同意性交等罪が成立します。
あるいは、相手の女性に対して「殺されたくなかったら言うとおりにしろ」等の「脅迫」を用いて性交に及んだ場合も、不同意性交等罪が成立します。
以上のような状況では、改正前の強制性交罪でも変わらず罪が成立していました。
しかし、刑法が改正され、不同意性交等罪となったことで、新たに「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。」(刑法176条1項8号)の場合についても不同意性交等罪が成立すると定められました。
これは、会社と上司と部下という関係性も該当し、上司という立場を利用して性交を迫った場合も不同意性交等罪が成立し得ることを定めたものです。
例えば、上司の言うことを聞かないと仕事をクビにされてしまうかもしれないといった状況で部下が上司と性交をした場合についても、不同意であったとされ、不同意性交等罪が成立することがあります。
不同意性交等罪の法定刑は、懲役5年以上の懲役(拘禁)と定められています。そのため、いきなり実刑判決を受けて刑務所に収監される可能性も十分考えられます。
不同意性交等罪について、さらに詳しい解説は以下の記事をご覧ください。
今回の事件では、Kさんと部下の女性の間に同意があったかどうか、Kさんが上司という立場を利用して性交を迫ったかどうかが争点となりました。
同意の有無は、様々な証拠から判断されることになるため、弁護士は客観的に同意があったことを明らかにすることになります。
そこで、相手の女性とどういった関係だったのか確認する必要があったため、弁護士がKさんのもとへ何度も接見に行き、色々と事情を聴きました。
また、他の社員の方にも話を聞いたりして、同意があったと思われる客観的証拠を集めていったのです。
今回の事件のように不同意であったことを認めていない場合、取り調べでどのように受け答えをするかも重要になってきます。
自分では上司という立場を利用して行為に及んだつもりはないとしても、取り調べの中で自白してしまうことは十分考えられます。
長期間外の世界と遮断され、自分が悪い前提で毎日取り調べを受けていれば、どんなに精神力の強い人であっても心が折れてしまうものです。
そして、早く帰りたい一心で警察に言われた通りの受け答えをしてしまい、むしろ長期間帰れない状況に陥ってしまうこともあるでしょう。
そのような事態にならないために弁護士がいるのです。
弁護士は、たとえ接見を禁止されている場合であっても、例外的に接見することが認められています。これは、刑事訴訟法39条1項で保障された被疑者・被告人の重要な権利であり、「接見交通権」といいます。
弁護士はただ依頼者の話を聞くだけでなく、取り調べでの受け答えや、今後の対応についていろいろとアドバイスをしながら精神的にもサポートをしていきます。
今回の事件でも、弁護士が何度も接見に行き、Kさんに色々とアドバイスをしたり、外部との連絡役となったりしました。その結果、Kさんは最後まで取り調べに耐えることができたのです。
もちろん弁護士に依頼するメリットはそれだけではありません。
その他のメリットについては、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
事件解決 示談成立!勾留延長されず不起訴処分に
Kさんは逮捕後、しばらく勾留されて取り調べを受けることになりました。
勾留とは、逮捕後、捜査の必要があると判断された場合、身柄を拘束して捜査を進める制度をいいます。勾留期間は原則10日間となりますが、やむをえない事由などがある場合については、10日間の延長が認められることもあります。
勾留されてしまうと、もちろん自宅に帰ることもできず、場合によってはたとえ家族であっても全く話をする事が出来なくなってしまいます。
10日間くらいであれば我慢できるだろうと思われるかもしれません。しかし、10日間外部とのつながりを遮断され、毎日長時間取り調べを受けることは精神的に相当苦しいものです。また、会社や学校にも行くこともできなくなるため、周囲のひとに事件の事がばれてしまうリスクや、場合によってはそのまま会社を解雇されてしまうことも考えられます。
そこで弁護士は、逮捕勾留された場合、一刻も早く勾留から解放されることを目指すことになります。
今回の事件でKさんは、弁護士に対して早く帰れるようにしてほしいと何度も希望されました。
弁護士は勾留延長がされ、さらに長期間勾留されてしまわないように動くことにします。
また、裁判となった場合も、たとえ結果的に無罪判決を受けることになったとしても、裁判で長期間にわたって拘束されてしまいます。
そのため、弁護士はKさんと相談の上、不起訴処分を目指して動くことにしました。
具体的には、被害者と示談交渉し、示談成立を目指すことにしました。
示談が成立していることは、検察が起訴するか不起訴とするか決定する際の重要な判断材料となるため、早い段階で示談を成立させることが大切になってきます。
示談では、示談金と言われるお金を被害者に支払うことで、謝罪の念を示すことが一般的です。不同意性交等罪の示談金の相場は、100万円~300万円と言われています。
もっとも、示談金は被害者と相談しながら決定するため、それより高額になったり、低額になることもあり得ます。
示談金の相場についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
今回の事件でも、弁護士が相手の女性と交渉しながら示談金を決定し、無事示談を成立させることができました。
そして、示談を成立させたこともあり、勾留延長もされずに済み、不起訴処分となりました。こうして早期に事件は解決したのです。
まとめ
今回の事件は、不同意性交等罪で逮捕された事例についてご紹介しました。
弁護士が早急に対応したことで、Kさんは勾留延長されず、すぐに解放されることができたといえます。すぐ弁護士に依頼して適切な対応をとれていなければ、もしかしたら悪い結果になっていたかもしれません。
もし不同意性交等罪で逮捕されてしまった場合、すぐに弊所弁護士へご相談ください。弊所弁護士が事件解決に向けて尽力いたします。