不同意わいせつ致傷罪とは?構成要件や刑法改正のポイントを解説

不同意わいせつ致傷罪とは?構成要件や刑法改正のポイントを解説
弁護士 若林翔
2024年12月16日更新

「不同意わいせつ致傷罪とはどのような犯罪?」

「不同意わいせつ致傷罪の罰則と量刑はどうなっている?」

「刑法改正による不同意わいせつ致傷罪のポイントとは?」

不同意わいせつ致傷罪とは、不同意わいせつ罪および監護者わいせつ罪またはこれらの未遂罪を犯して、その過程で被害者に怪我をさせた場合に成立する犯罪です。

通常の不同意わいせつ罪や監護者わいせつ罪に比べて、被害者に怪我をさせたという点で悪質性が高いため、無期または3年以上の拘禁刑という非常に重い刑罰が科されます。

不同意わいせつ致傷罪は、2023年7月13日施行の改正刑法により、従来の「強制わいせつ致傷罪」および「準強制わいせつ致傷罪」が「不同意わいせつ致傷罪」へと改正されました。名称変更だけでなく刑罰の種類の変更、性交同意年齢の引き上げ、公訴時効の延長など重要な内容を含んでいますのでしっかりと押さえておきましょう。

本記事では、

・不同意わいせつ致傷罪の構成要件

・不同意わいせつ致傷罪の刑罰と量刑

・不同意わいせつ致傷罪の刑法改正のポイント

などについてわかりやすく解説します。

不同意わいせつ致傷罪は、初犯であっても実刑になる可能性がある犯罪ですので、犯罪の加害者になってしまったときは、すぐに弁護士の相談するようにしてください。

不同意わいせつ致傷罪とは

不同意わいせつ致傷罪とは、不同意わいせつ罪および監護者わいせつ罪またはこれらの未遂罪を犯して、その過程で被害者に怪我をさせた場合に成立する犯罪です(刑法181条1項)。不同意わいせつ致傷罪は、不同意わいせつ罪や監護者わいせつ罪の過程で被害者に怪我を負わせるケースが多いことから、そのような行為を重く処罰するために設けられたものになります。

以前は、わいせつ行為に関連して被害者に怪我を負わせた場合は、「強制わいせつ致傷罪」または「準強制わいせつ致傷罪」により処罰されていましたが、2023年7月13日の改正刑法によりこれらの犯罪を統合する形で新たに「不同意わいせつ致傷罪」が設けられました。

法改正に伴い処罰範囲も実質的に拡大していますので、犯罪の加害者にならないよう十分に注意が必要です。

不同意わいせつ致傷罪の構成要件

不同意わいせつ致傷罪はどのような場合に成立するのでしょうか。以下では、不同意わいせつ致傷罪の構成要件について説明します。

以下に、不同意わいせつ致傷罪の構成要件をまとめます。

項目内容詳細
不同意わいせつ罪の既遂または未遂同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態の相手にわいせつ行為を行った場合に成立被害者をこのような状態にする行為の類型:
①暴行または脅迫
②心身の障害
③アルコールまたは薬物
④睡眠または意識不明瞭
⑤同意を形成するいとまの不存在
⑥恐怖または驚愕
⑦虐待による心理的反応
⑧地位による影響力の悪用
監護者わいせつ罪の既遂または未遂監護者が18歳未満の子どもに対し、影響力を利用してわいせつ行為を行った場合に成立監護者の例:
・実親、養親
・同居する親の交際相手
・子どもを預かる親族など
人に怪我を負わせたこと被害者に怪我を負わせることが要件(怪我の程度は問わない)・肉体的傷害(かすり傷含む)
・精神的損傷(例:PTSD)も含む
行為と怪我との間に因果関係わいせつ行為や暴行・脅迫と怪我に因果関係があること・実行行為中に発生した怪我
・抵抗して逃げる際の転倒や負傷も含む

このテーブルにより、不同意わいせつ致傷罪の構成要件とその詳細が整理されています。これにより、犯罪成立の条件や適用範囲を簡潔に把握できます。

不同意わいせつ罪の既遂または未遂の罪を犯したこと

不同意わいせつ罪とは、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態の相手とわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です(刑法176条)。

被害者をこのような状態にさせる行為としては、以下の8つの類型があります。

①暴行または脅迫
②心身の障害
③アルコールまたは薬物の影響
④睡眠その他の意識不明瞭
⑤同意しない意思を形成、表明または全うするいとまの不存在
⑥予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕
⑦虐待に起因する心理的反応
⑧経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮

なお、不同意わいせつ致傷罪は、不同意わいせつ罪が既遂の場合に限らず、未遂だった場合にも成立します。そのため、わいせつ行為が未遂に終わったとしても、被害者に怪我を負わせていれば不同意わいせつ致傷罪に問われます。

こちらの記事も併せてご覧ください。

不同意わいせつ罪とは?構成要件と強制わいせつ罪との違いを解説

監護者わいせつ罪の既遂または未遂の罪を犯したこと

監護者わいせつ罪とは、監護者が18歳未満の子どもに対して、監護者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です(刑法179条)

監護者に該当する人としては、子どもの実親、養親、同居する親の交際相手、子どもを預かって育てている親族などが該当します。18歳未満の子どもは、精神的にも経済的にも未熟で、監護者に依存して生活しなければならないため、このような状況を利用して監護者がわいせつな行為をすると監護者わいせつ罪が成立します。

なお、不同意わいせつ致傷罪は、監護者わいせつ罪が既遂の場合に限らず、未遂だった場合にも成立します。そのため、わいせつ行為が未遂に終わったとしても、被害者に怪我を負わせていれば不同意わいせつ致傷罪に問われます。

人に怪我を負わせたこと

不同意わいせつ致傷罪は、被害者に怪我を負わせたことが要件になります。

不同意わいせつ致傷罪は、怪我の程度は要件になっていませんので、かすり傷一つでも不同意わいせつ致傷罪が成立する可能性があります。

また、「傷害」とは、肉体的な傷だけでなく、精神的な苦痛や損傷(PTSDなど)も含まれるとされています。そのため、被害者の心理的負担やトラウマが認定された場合にも、この罪が適用される可能性があります。

行為と怪我との間に因果関係があること

不同意わいせつ罪および監護者わいせつ罪と被害者の怪我との間に因果関係があることが要件になります。

ただし、被害者に生じた怪我は、不同意わいせつ罪または監護者わいせつ罪の実行行為であるわいせつ行為や不同意わいせつ罪の手段である暴行・脅迫から発生したものに限らず、これらの機会に発生したものも含まれます。

たとえば、不同意わいせつ罪に該当する行為をして、抵抗した被害者がその場から逃げるために転倒して負傷したような場合にも不同意わいせつ致傷罪に問われる可能性があります。

不同意わいせつ致傷罪にあたる具体的な行為

不同意わいせつ致傷罪に該当し得る具体的な行為としては、以下のような行為が考えられます。

・深夜の路上で、背後から女性に抱きついて胸を揉んだところ、被害者が抵抗して転倒し、擦り傷を負った

・マッチングアプリで知り合った女性に大量のアルコールを摂取させ、意識朦朧の状態にしてわいせつな行為をしたところ、急性アルコール中毒による健康被害を生じさせた

・無理やりわいせつな行為をされた被害者がショックでPTSDを発症した

・交際相手の女性の子どもに対して、わいせつな行為をしようと押し倒したところ、頭を床に強打し、脳震盪を引き起こした

不同意わいせつ致傷罪の刑罰

不同意わいせつ致傷罪の刑罰

不同意わいせつ致傷罪の法定刑は、無期または3年以上の拘禁刑と定められています。

不同意わいせつ罪の法定刑が6月以上10年以下の拘禁刑であることと比較すると、非常に重い刑罰であることがわかります。不同意わいせつ致傷罪は、わいせつ事件の被害者に怪我を負わせるという悪質な犯行であることに鑑み、このような重い刑罰を科しています。

なお、拘禁刑とは、従来の懲役刑と禁錮刑を統合する形で創設された新しい刑罰で、2025年6月から施行予定です。拘禁刑では、懲役刑で義務付けられていた刑務作業が義務ではなくなり、受刑者の改善更生のための柔軟な処遇が可能になりました。

不同意わいせつ致傷罪の量刑|懲役3~5年

不同意わいせつ致傷罪の刑罰

不同意わいせつ致傷罪は、2023年7月13日施行の改正刑法により新たに導入された犯罪ですので、不同意わいせつ致傷罪の量刑に関する資料はまだ存在しません。

不同意わいせつ致傷罪の法定刑は、改正前の強制わいせつ致傷罪と刑罰の種類を除いて同じですので、不同意わいせつ致傷罪の量刑は、強制わいせつ致傷罪の量刑が参考になります。

法務省が公表している「性犯罪の量刑に関する資料」によると、強制わいせつ致死傷罪の量刑相場は、懲役3~5年程度となっています。

懲役3年以下であれば、執行猶予を付けることができますので、相場の下限に量刑を抑えることができれば執行猶予付き判決を獲得できる可能性があります。

なお、実際の事案としては、わいせつ行為をしようとトイレに被害者女性を連れ込んで馬乗りになり、被害女性の首を約15秒間締め続けた事案について、懲役4年6月の実刑判決が言い渡されたものがあります。

女性の首を15秒間締め、トイレに連れこみ馬乗り 不同意わいせつ致傷や傷害で男に懲役4年6カ月(琉球新報2024年11月2日)

こちらに量刑についての詳しい記事もありますので併せてご覧ください。

不同意わいせつ事件の量刑相場は懲役1~3年・執行猶予率は約77%

不同意わいせつ致傷罪の刑法改正のポイント

不同意わいせつ致傷罪は、2023年7月13日施行の改正刑法により新たに導入された犯罪です。刑法改正による重要な変更点としては、以下の点が挙げられます。

強制わいせつ致傷罪・準強制わいせつ致傷罪が不同意わいせつ罪へと改正

刑法改正により、強制わいせつ致傷罪および準強制わいせつ致傷罪が統合され、新たに「不同意わいせつ致傷罪」が設けられました。

これにより改正刑法施行後は、新設された不同意わいせつ罪致傷罪により処罰されることになります。

刑罰の種類の変更

強制わいせつ致傷罪の法定刑は、「無期または3年以上の懲役」でしたが、不同意わいせつ致傷罪の法定刑は、「無期または3年以上の拘禁刑」になります。

刑期の上限や下限は同じですが、刑罰の種類が「懲役」から「拘禁刑」へと変更になりました。懲役と拘禁刑は、いずれも身体の自由を奪う自由刑という点で共通していますが、拘禁刑は刑務作業が義務付けられていないという違いがあります。

拘禁刑が新設されたことにより受刑者の特性に応じた柔軟な処遇が可能になります。

性交同意年齢の引き上げ

性交等に関する有効な同意をなし得る年齢のことを「性交同意年齢」といいます。

強制わいせつ罪では、性交同意年齢は13歳とされていましたが、不同意わいせつでは、性交同意年齢が16歳に引き上げられました。

ただし、相手が13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年長である場合には、同意があったとしても不同意わいせつ罪として処罰されます。

公訴時効の延長

公訴時効とは、犯罪が終わってから一定期間が経過することにより、起訴することができなくなる制度をいいます。

強制わいせつ致傷罪の公訴時効は15年とされていましたが、不同意わいせつ致傷罪の公訴時効は20年に延長されました。

2023年7月13日以降の行為に適用

不同意わいせつ致傷罪は、2023年7月13日から施行されており、同日以降に不同意わいせつ致傷罪に該当する行為をした場合には、改正後の刑法が適用され、不同意わいせつ致傷罪により処罰されます。

他方、2023年7月12日以前に行った不同意わいせつ行為が改正法施行後に発覚したとしても、改正刑法は適用されず、従来の強制わいせつ致傷罪として処罰されることになります。

不同意わいせつ致傷罪の相談はグラディアトル法律事務所へ

不同意わいせつ致傷罪の相談はグラディアトル法律事務所へ

不同意わいせつ致傷罪は、性犯罪の中でも悪質な犯罪になりますので、非常に重い刑罰が科される可能性があります。初犯であっても実刑になる可能性もありますので、不同意わいせつ致傷罪に該当するような行為をしてしまったときは、すぐに弁護士に相談することが大切です。

グラディアトル法律事務所では、不同意わいせつ致傷罪などの性犯罪に関する豊富な実績と経験があります。性犯罪に精通した弁護士に依頼することで逮捕の回避、不起訴処分の獲得、最終的な処分を軽減できる可能性を高めることができます。

また、当事務所では被害者との示談交渉も得意としていますので、強い処罰感情を有していて示談交渉が難航しているようなケースもお任せください。被害者の処罰感情にも配慮しながらスムーズに交渉を進めて、迅速な示談成立を目指します。

当事務所では、24時間365日相談を受け付けておりますので、土日・祝日、早朝・深夜いつでもお電話可能です。初回相談料も無料で対応していますのでお気軽にお問い合わせください。

不同意わいせつに強い弁護士の見極め方と弁護活動のポイントを解説 

まとめ

不同意わいせつ致傷罪は、無期または3年以上の拘禁刑という非常に重い刑罰が定められていますが、被害者との間で示談が成立すれば、不起訴処分や起訴されたとしても執行猶予付きの判決を獲得できる可能性があります。

そのためには、早期に弁護士に依頼して被害者との示談交渉に着手することが重要です。

不同意わいせつ致傷罪に該当するような行為をしてしまった方は、すぐにグラディアトル法律事務所までご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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