「不同意わいせつ罪とはどのような犯罪なの?」
「刑法改正によりどのような点が変更になった?」
「どのような場合に不同意わいせつ罪が成立する?」
2023年7月13日施行の改正刑法により、これまで「強制わいせつ罪」や「準強制わいせつ罪」として処罰されてきた行為が新設された「不同意わいせつ罪」で処罰されることになります。
単なる名称変更だけではなく、処罰範囲の拡大、性交同意年齢の引き上げ、公訴時効の延長などいくつか押さえておくべきポイントがありますので、自分が犯罪の当事者にならないようにするためにも、しっかりと理解しておくことが大切です。
本記事では、
・不同意わいせつ罪の構成要件
・不同意わいせつ罪と強制わいせつ罪の違い|刑法改正のポイント
・不同意わいせつ罪に関するQ&A
などについてわかりやすく解説します。
被害者の同意なくわいせつな行為をしてしまった場合、不同意わいせつ罪が成立する可能性がありますので、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。
目次
そもそも”不同意わいせつ”とは?不同意わいせつ罪の概要
不同意わいせつとは、被害者の同意を得ることなくわいせつな行為をすることをいいます。
これまではこのような行為をした場合、「強制わいせつ罪」として処罰されてきましたが、2023年7月13日施行の改正刑法により、新たに「不同意わいせつ罪」が設けられたことにより、同日以降に起きた犯罪については、不同意わいせつ罪として処罰されることになります。
これまでの強制わいせつ罪では、構成要件の解釈や状況によって犯罪の成否にばらつきが生じやすく、本来処罰されるべき行為が処罰できないケースも少なくありませんでした。そこで、適切な処罰を行うために犯罪の成立要件を明確にしたものが「不同意わいせつ罪」になります。
不同意わいせつ罪の構成要件
不同意わいせつ罪はどのような場合に成立するのでしょうか。以下では、不同意わいせつ罪の構成要件を説明します。
わいせつな行為をしたこと
わいせつな行為とは、判例により「性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」と定義されています(最大判昭和32年3月13日判決)。
具体的には、以下のような行為がわいせつな行為に該当します。
・電車内で相手のお尻などを触る痴漢行為 |
・路上で後ろから突然抱きつく行為 |
・酔った勢いでいきなりキスをする行為 |
・自分の性器を触らせる行為 |
わいせつな行為に関する同意がないこと|8つの類型
不同意わいせつ罪は、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態の相手とわいせつな行為をした場合に成立します。
形成困難 | わいせつな行為を受け入れるかどうかの判断が困難な状態例)アルコールの影響で意識が朦朧としている状態 |
表明困難 | わいせつな行為を拒否したいと考えてもそれを外部に表すのが困難な状態例)職場での上下関係を利用して抵抗できない状態にする |
実現(全う)困難 | わいせつな行為をしたくないという意思を表明したものの、行為を止めることができない状態例)無理やり押さえつけられて抵抗できない状態にする |
被害者をこのような状態にさせる行為としては、以下の8つの類型があります。
以下に、不同意わいせつ罪における行為類型を具体例とともに整理しました。
項目 | 定義 | 具体例 |
---|---|---|
暴行または脅迫 | 人の身体に向けられた不法な有形力の行使(暴行)または畏怖させる害悪の告知(脅迫) | 相手を殴る、蹴る 「言うことを聞かないと殺す」と脅す |
心身の障害 | 身体障害、知的障害、発達障害、精神障害を含む状態(一時的なものも含む) | 抵抗できない障害を持つ被害者にわいせつ行為をする |
アルコールまたは薬物の影響 | 飲酒や薬物の投与・服用によって正常な判断ができない状態 | 大量のアルコールを飲ませて泥酔させ、わいせつ行為をする |
睡眠その他の意識不明瞭 | 睡眠または意識が朦朧としているなど意識がはっきりしない状態 | 寝ている被害者にわいせつ行為をする |
同意しない意思を形成、表明または全うするいとまの不存在 | 自由な意思決定をする時間的余裕がない状態 | 不意打ちでわいせつ行為をする |
予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕 | 突然の事態で平静を失い、極度の不安状態になる | 突然の行為に相手がフリーズ状態になっている |
虐待に起因する心理的反応 | 虐待の経験から抵抗しても無駄だと考えてしまう心理状態 | 義父から日常的な虐待を受けた娘が抵抗を諦めている |
経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮 | 経済的・社会的関係による不利益を不安に思う感情 | 上司が部下にわいせつ行為を強要 |
①暴行または脅迫
暴行とは、人の身体に向けられた不法な有形力の行使をいいます。
脅迫とは、他人を畏怖させるような害悪の告知をいいます。
たとえば、相手を殴ったり、蹴ったりした場合や「言うことを聞かないと殺す」などと脅した場合がこれにあたります。
②心身の障害
心身の障害とは、身体障害、知的障害、発達障害および精神障害のことをいい、一時的なものも含まれます。
たとえば、被害者に障害があり抵抗できない状態を利用してわいせつな行為をした場合がこれにあたります。
③アルコールまたは薬物の影響
アルコールまたは薬物の影響とは、飲酒や薬物の投与・服用によって正常な判断ができない状態をいいます。
たとえば、大量のアルコールを飲ませて泥酔させた相手とわいせつな行為をした場合がこれにあたります。
④睡眠その他の意識不明瞭
睡眠とは、眠っていて意識が失われている状態をいいます。
その他の意識不明瞭とは、意識が朦朧としているなど睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態をいいます。
たとえば、寝ている被害者とわいせつな行為をした場合がこれにあたります。
⑤同意しない意思を形成、表明または全うするいとまの不存在
同意しない意思の形成・表明・全うするいとまの不存在とは、わいせつな行為がされようとしていることに気付いてから、実際にされるまでの間に、自由な意思決定をする時間的余裕がないことをいいます。
たとえば、不意打ちによりわいせつな行為をされた場合がこれにあたります。
⑥予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕
予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕とは、予想外の事態に直面し、強く動揺して平静を失ったり、極度に不安になる状態をいいます。
たとえば、突然の事態にフリーズ状態になっている相手にわいせつな行為をする場合がこれにあたります。
⑦虐待に起因する心理的反応
虐待に起因する心理的反応とは、虐待を受けた経験から抵抗しても無駄だと考えてしまう心理状態をいいます。
たとえば、義父から日常的に虐待を受けている娘が抵抗を諦めてわいせつな行為に応じてしまう場合がこれにあたります。
⑧経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
経済的関係とは、金銭その他の財産に関する関係を広く含む関係をいいます。
社会的関係とは、学校・会社・家庭といった社会生活における関係を広く含む関係をいいます。
不利益を憂慮とは、自分や親族などに不利益が及ぶことを不安に思う感情をいいます。
たとえば、上司が部下に対してわいせつな行為を強要する場合などがこれにあたります。
誤信を利用したわいせつ行為
不同意わいせつ罪は、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態の相手とわいせつな行為をした場合だけでなく、誤信を利用したわいせつな行為についても成立します。
誤信を利用したわいせつな行為とは、以下のような状態で行うわいせつな行為をいいます。
・わいせつな行為でないと被害者に誤信させる
・被害者に人違いをさせる
・被害者がそのような誤信をしていることに乗じる
被害者の年齢
被害者の同意があっても被害者の年齢によっては、不同意わいせつ罪が成立することがあります。具体的には、以下のような年齢になります。
・相手が13歳未満の子どもである場合
・相手が13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年長である場合
不同意わいせつ罪の罰則
不同意わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の拘禁刑です。
拘禁刑とは、従来の懲役刑と禁錮刑を統合する形で創設された新しい刑罰で、2025年6月から施行予定です。拘禁刑では、懲役刑で義務付けられていた刑務作業が義務ではなくなり、受刑者の改善更生のための柔軟な処遇が可能になりました。
なお、不同意わいせつ罪の罰則には、罰金刑は含まれていませんので、起訴された場合には略式手続きではなく公判請求による正式裁判を受けなければなりません。
不同意わいせつの罰則、量刑について詳しく記載している記事もありますので、ご覧ください。
不同意わいせつ事件の量刑相場は懲役1~3年・執行猶予率は約77%
不同意わいせつ罪と強制わいせつ罪の違い|刑法改正のポイント
不同意わいせつ罪は、2023年7月13日施行の改正刑法により新設された犯罪です。従来の「強制わいせつ罪」や「準強制わいせつ罪」を統合する形で新設された罪になりますが、以下のような相違点がありますので、改正のポイントをしっかりと押さえておきましょう。
項目 | 強制わいせつ罪 | 不同意わいせつ罪 |
---|---|---|
刑罰の種類 | 懲役刑 | 拘禁刑 |
構成要件 | 暴行または脅迫を用いたわいせつな行為 | 同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態の相手とのわいせつな行為(8類型) |
性交同意年齢 | 13歳未満 | 16歳未満ただし相手が13歳以上16歳未満の場合は、行為者が5歳以上年長であるとき |
公訴時効 | 7年 | 12年 |
配偶者間での犯罪の成否 | 明文の規定なし | 明文の規定あり |
刑罰の種類の変更
強制わいせつ罪の法定刑は、「6月以上10年以下の懲役」でしたが、不同意わいせつ罪の法定刑は、「6月以上10年以下の拘禁刑」になります。
刑期の上限や下限は同じですが、刑罰の種類が「懲役」から「拘禁刑」へと変更になりました。懲役と拘禁刑は、いずれも身体の自由を奪う自由刑という点で共通していますが、拘禁刑は刑務作業が義務付けられていないという違いがあります。
拘禁刑が新設されたことにより受刑者の特性に応じた柔軟な処遇が可能になります。
下記のコラムにも詳しく記載していますので、ご覧ください。
不同意わいせつ罪は懲役刑(拘禁刑)一択!量刑相場は1~3年程度
構成要件の変更
強制わいせつ罪は、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした場合に成立する犯罪ですが、実際の事案では暴行や脅迫以外にも社会的な立場や上下関係などを利用したわいせつ行為などがあり、従来の強制わいせつ罪では処罰ができないものも少なくありませんでした。
そこで、このようなケースにも対応できるよう暴行または脅迫に限らず、同意のないわいせつな行為を処罰すべく新たに不同意わいせつ罪が設けられました。不同意わいせつ罪では、細かく構成要件が定められており、実質的な処罰範囲の拡大となっています。
性交同意年齢の引き上げ
性交等に関する有効な同意をなし得る年齢のことを「性交同意年齢」といいます。
強制わいせつ罪では、性交同意年齢は13歳とされていましたが、不同意わいせつでは、性交同意年齢が16歳に引き上げられました。
ただし、相手が13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年長である場合には、同意があったとしても不同意わいせつ罪として処罰されます。
公訴時効の延長
公訴時効とは、犯罪が終わってから一定期間が経過することにより、起訴することができなくなる制度をいいます。
強制わいせつ罪の公訴時効は7年とされていましたが、不同意わいせつ罪の公訴時効は12年に延長されました。
配偶者間でも犯罪が成立することが明文化
以前から配偶者間でも強制わいせつ罪が成立すると考えられていましたが、それに関する明文の規定はありませんでした。
解釈上の疑義を払拭するために、不同意わいせつ罪では、夫婦間でも犯罪が成立することを明文化しました。
不同意わいせつ罪に関するQ&A
以下では、不同意わいせつ罪に関するよくある質問とその回答を紹介します。
被害者の同意の有無はどのように判断されますか?
被害者の同意の有無は、被害者の供述内容やわいせつ行為がなされた客観的な状況などに基づいて判断されます。
被害者が「同意していなかった」と言っただけで処罰されるわけではなく、犯行の日時・場所・態様、加害者と被害者との関係、交際の有無、知り合ってからの期間、当該行為に至る経緯・状況、行為後の状況その他のさまざまな事情を踏まえて被害者供述の信用性が吟味されます。
キスやボディタッチは不同意わいせつ罪になりますか?
相手の意思に反して無理やりキスやボディタッチをすると不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
ただし、キスやボディタッチが単なる挨拶としての意味合いである場合には、「わいせつな行為」にあたらないため不同意わいせつ罪は成立しません。そのため、キスやボディタッチをした状況、経緯、当事者の関係性などを総合考慮して「わいせつな行為」であるかが判断されます。
キスだけでも不同意わいせつ罪になる?逮捕を回避する方法も解説
もし不同意わいせつ罪で逮捕されたらどうすればよいですか?
不同意わいせつ罪で逮捕されてしまったときは、すぐに弁護士に相談するようにしてください。
逮捕・勾留による身柄拘束は、最長で23日間にも及びますので、何もしなければ長期間の身柄拘束によりさまざまな不利益が生じてしまいます。早期に弁護士に相談をすれば、被害者との示談により早期の身柄解放や不起訴処分を獲得できる可能性が高くなります。
逮捕について詳しく記載していますので、こちらの記事もご覧ください。
不同意わいせつ罪の逮捕率は約59%!逮捕のリスクや回避方法を解説
不同意わいせつ罪の相談はグラディアトル法律事務所へ
不同意わいせつ罪に該当するような行為をしてしまった、家族が不同意わいせつ罪で逮捕されてしまったという場合には、すぐに弁護士に相談をして、今後の対応を考えていく必要があります。
グラディアトル法律事務所では、不同意わいせつ事件などの性犯罪を多数取り扱っており、豊富な解決実績を有しています。被害者との示談交渉も得意としていますので、早期に示談をまとめることにより、逮捕や起訴を回避できる可能性が高くなります。有利な処分の獲得を目指すには、経験豊富な弁護士への依頼が必須となりますので、不同意わいせつ罪でお悩みの方は、当事務所までご相談ください。
当事務所では、24時間365日相談を受け付けておりますので、土日・祝日、早朝・深夜いつでもお電話可能です。初回相談料も無料で対応していますのでお気軽にお問い合わせください。
弁護士への相談について、必要な費用など詳しく記載していますので、こちらも併せてご覧ください。
不同意わいせつに強い弁護士の見極め方と弁護活動のポイントを解説
まとめ
2023年7月13日施行の改正刑法により、不同意わいせつ罪が新設されました。従来の強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪を統合するだけでなく、処罰範囲の拡大、性交同意年齢の引き上げ、公訴時効の延長などの変更点もありますので、ご自身が犯罪の当事者にならないように注意が必要です。
不同意わいせつ罪に該当するような行為をしてしまったときは、すぐに弁護士のサポートを受ける必要がありますので、一刻も早くグラディアトル法律事務所までご連絡ください。