自らの不注意で他人にケガをさせてしまった場合、過失傷害罪の罪に問われるおそれがあります。
実際に自転車通勤中の事故などでケガをさせてしまい、「過失傷害罪が成立してしまうのか」「どのような処罰を受けるのか」など、さまざまな不安や疑問を抱えている方もいるのではないでしょうか。
過失傷害罪での逮捕・起訴を回避するためには、早期の対応が求められます。
そのため、最低限の知識を身につけ、できるだけ早く弁護士に相談することが大切です。
本記事では、過失傷害罪について弁護士の視点からわかりやすく解説します。
よく似た罪との違いや、逮捕・起訴の回避に向けてやるべきことなども紹介するので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
目次
過失傷害罪とは?
まずはじめに、過失傷害罪の成立要件と刑罰について解説します。
成立要件|過失により人を傷害したこと
過失傷害罪の成立要件は、「過失により人を傷害したこと」です。
まず「過失」とは、注意義務を怠ったことを指します。
通常求められる注意を払わなかった結果、予見できたであろう危険を回避できなかった場合に「過失」が認定されます。
仮に「過失」ではなく「故意」に人を傷害していた場合は、傷害罪の罪に問われる可能性が高いと考えられるでしょう。
そして、「人を傷害したこと」も過失傷害罪の成立要件のひとつです。
傷害の程度は基本的に関係なく、軽微なケガであっても法律上は「傷害」として扱われます。
また、身体的にケガさせるだけでなく、病気を感染させたり、精神疾患を負わせたりする行為も「傷害」に含まれる点に注意してください。
もちろん「過失」と「人を傷害したこと」の間に因果関係がなければ、過失傷害罪は成立しません。
刑罰|30万円以下の罰金または科料
過失傷害罪の刑罰は、「30万円以下の罰金または科料」です。
過失傷害罪はあくまでも不注意による結果なので、故意に人を傷つける傷害罪の「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」に比べると軽い刑罰といえるでしょう。
ただし、実際の量刑は、傷害・過失の程度や示談の有無などを総合的に考慮して決定されます。
軽微な事案であれば不起訴処分や減刑も期待できますが、重大な結果を招いた場合は実刑判決となる可能性があることも覚えておきましょう。
過失傷害罪の成立を認めた判例
次に、過失傷害罪の成立を認めた判例を2つ紹介します。
散歩中の犬が人にケガを負わせた
ひとつ目は、散歩中の犬が他人にケガを負わせた事例です。
普段は温厚な秋田犬でしたが、散歩中、近づいた子どもに噛みついてしまいました。
問題となったのは事件当時、飼い主が綱を片手で握り、端を手首に巻いていただけであったことです。
つまり、犬の動作を制御するための態勢がとられていませんでした。
そのため、裁判では飼い主に過失があったとし、過失傷害罪の成立が認められました。
信号無視の自転車が車に衝突してケガを負わせた
ふたつ目は、信号無視の自転車が車に衝突してケガを負わせた事例です。
交差点で赤信号の横断歩道を渡っていた自転車と、道路を直進していた乗用車が接触し、運転者が首などに重傷を負いました。
裁判では、信号を確認していなかったことに対する自転車側の過失を指摘し、過失傷害罪として有罪が言い渡されました。
過失傷害罪の逮捕率・起訴率は比較的低いといえる
過失傷害罪は処罰されうる犯罪ですが、逮捕率・起訴率は比較的低いといえます。
過失傷害罪はあくまでも「過失」が前提となっており、意図的に傷害を与えた事実は存在しません。
そのため、逃亡や証拠隠滅の可能性が低いと判断され、逮捕されずに事情聴取で済むケースがほとんどです。
また、検察統計調査によると、令和4年における過失傷害の被疑事件281,635件のうち、起訴されたのは37,739件、割合でいうと約13%にとどまっています。
起訴率が30%を超える傷害罪と比較しても、過失傷害罪の起訴率は低い水準にあるといえるでしょう。
過失によって人を死傷させた場合に成立するほかの罪
過失によって人を死傷させた場合、過失傷害罪以外の罪が成立することもあります。
では、それぞれの成立要件や具体例を見ていきましょう。
過失致死罪|人を死亡させた場合
過失致死罪は、過失によって人を死亡させた場合に成立する可能性がある罪です。
具体的には、以下のようなケースで過失致死罪が成立します。
- ・歩行中の不注意で通行人と衝突し、打ち所が悪く死亡した
- ・アルコールの摂取で倒れた友人を放置して死亡させた
過失致死罪の刑罰は、「50万円以下の罰金」です。
過失の結果として人が死亡しているため、過失傷害罪よりも重い罰則が設けられています。
業務上過失致死傷罪|業務遂行中に人を死傷させた場合
業務上過失致死傷罪は、業務遂行中に人を死傷させた場合に成立し得る罪です。
具体的には、以下のようなケースで業務上過失致死傷罪が成立します。
- ・バスの運転手が居眠り事故を起こし、乗客を死傷させた
- ・飲食店のスタッフが衛生管理を怠り、客が食中毒になった
業務上過失致死傷罪の刑罰は、「5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。
一定の業務に従事する者に対しては高度な注意義務が課されているため、過失があった場合の処分も、通常の過失致死傷罪と比較して重たくなっています。
重過失致死傷罪|注意義務違反の程度が著しい場合
重過失致死傷罪は、注意義務違反の程度が著しい場合に成立する可能性のある罪です。
人を傷害した場合は重過失致傷罪、死亡させた場合は重過失致死罪として扱われます。
重過失致死傷罪が成立するのは、単なる注意不足やミスとはいえない状況があり、本来であれば容易に回避できたであろう重大な事故を起こしたときです。
具体的には、以下のようなケースで重過失致死傷罪が成立しています。
- ・自転車運転中のスマホ操作が原因で事故を起こし、相手を死亡させた
- ・狩猟者が木の上の男性を鳩と見誤って発砲し、ケガを負わせた
重過失致死傷罪の刑罰は、「5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。
通常の過失傷害罪よりも過失の程度が大きいため、刑罰も格段に厳しくなっています。
過失運転致死傷罪|運転中に人を死傷させた場合
過失運転致死傷罪は、運転中に人を死傷させた場合に成立し得る罪です。
自動車運転に特化し、一般的な過失傷害とは区別されている点が特徴といえるでしょう。
具体的には、以下のようなケースで過失運転致傷罪が成立します。
- ・前方不注意で横断中の歩行者をはねてしまい、ケガを負わせた
- ・自動車運転中のスマホ操作が原因で事故を起こし、相手を死亡させた
過失運転致死傷罪の罰則は「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。
自動車事故は社会的影響が大きく、罰則による抑止力も必要とされています。
そのため、過失運転致死傷罪の罰則は、ほかの過失犯と比較して重たく設定されています。
過失傷害罪で逮捕されてしまった場合の流れ
過失傷害罪で逮捕された場合、まず警察官による取り調べを受けることになるでしょう。
そして、48時間以内に検察に事件を引き継ぐ「送致」がおこなわれるか、釈放されるかどうかが決まります。
送致されると、今度は検察官が24時間以内に勾留するか、釈放するかを決定します。
勾留が必要と判断された場合、原則10日間、最長20日間にわたって身柄拘束を受け、捜査が続けられることとなります。
最終的には検察官が起訴・不起訴を判断し、起訴された場合は裁判が開かれ、判決が下されます。
過失傷害罪での逮捕・起訴を回避するためにできること
ここでは、過失傷害罪での逮捕・起訴を回避するためにできることを解説します。
対応が遅れるほど事態は悪化していくので、早急に適切な対応をとることが重要です。
示談を成立させる
過失傷害罪での逮捕・起訴を避けるには、被害者との示談を成立させることが最も重要です。
示談が成立すれば、警察に被害届が出されるのを食い止められる可能性が高まります。
すでに被害届が出されていたとしても、早い段階で取り下げてもらえるかもしれません。
また、示談の成立によって被害者と和解したことを検察官に示せば、あえて起訴して刑罰を与える必要はないと判断され、不起訴処分につながりやすくなります。
ただし、加害者が直接被害者に示談を持ちかけるのはおすすめしません。
多くの場合、まともに対応してもらえず、むしろ不当に高額な示談金を要求されるリスクがあります。
そのため、示談に関することは、交渉のプロである弁護士に任せるのが賢明な判断といえるでしょう。
できるだけ早く弁護士に相談する
できるだけ早く弁護士に相談することも、過失傷害罪での逮捕・起訴を回避するために欠かせないポイントといえます。
傷害・暴行事件を得意とする弁護士なら、豊富な経験と知識を活かして、個々の状況に合わせた最善の解決方法を提案・実行してくれるはずです。
たとえば、被害者との示談交渉も、弁護士の交渉スキルがあればスムーズに進められるでしょう。
また、警察や検察への働きかけもおこなってくれるため、逮捕や起訴を避けられる可能性が大きく高まります。
法律トラブルは時間の経過とともに、解決が難しくなっていくので、決してひとりで対処しようとせず、まずは専門家のサポートを得ることが大切です。
過失傷害罪に関するよくある質問
最後に、過失傷害罪に関するよくある質問を紹介します。
余計な心配をしなくて済むように、気になる疑問は早めに解消しておきましょう。
過失傷害罪は親告罪?
過失傷害罪は、親告罪です。
被害者が処罰を求めて告訴しない限り、検察官から起訴されることはありません。
そのため、示談を早急に成立させ、告訴を回避することが何よりも重要です。
過失傷害罪に時効はある?
過失傷害罪には、公訴時効と告訴時効の2種類があります。
- ・公訴時効|犯罪行為が終了したときから3年
- ・告訴時効|被害者が加害者を知ったときから6ヵ月
公訴時効とは、犯罪後一定期間経過すると起訴されなくなる制度のことです。
つまり、相手に傷害を負わせてしまったときから3年が経過すれば、起訴されず、前科もつきません。
一方、告訴時効とは、犯罪後一定期間経過すると被害者から告訴されなくなる制度のことです。
被害者が加害者を知ったときから6ヵ月が経過すれば、被害者から告訴されなくなります。
過失傷害罪は告訴がなければ起訴されない親告罪なので、告訴時効が成立した時点で過失傷害罪の罪に問われることはありません。
過失傷害罪に問われるおそれがあるならグラディアトル法律事務所に相談を
過失傷害罪に問われるおそれがある場合は、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談・依頼すれば、個々のケースに合わせた対応方法を的確にアドバイスしてくれます。
また、示談交渉や捜査機関への働きかけもおこなってくれるので、逮捕や起訴を回避できる可能性は大きく高まるでしょう。
自力でなんとかしようとすると事態を悪化させることにもなりかねないので、一人で悩む前に、まずは専門家に相談することが大切です。
実際にグラディアトル法律事務所では、多くの傷害事件を解決してきた実績があります。
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