「麻薬特例法ではどのような薬物や行為が規制されている?」
「麻薬特例法で逮捕されるとどのようなリスクがある?」
「麻薬特例法で逮捕されたときに弁護士はどのようなサポートをしてくれる?」
麻薬特例法とは、麻薬などの規制薬物に関する以下の行為を取り締まり対象にしています。
・業として行う不法輸入等 |
・薬物犯罪収益等隠匿 |
・薬物犯罪収益等収受 |
・規制薬物としての物品の輸入等 |
・あおりまたは唆し |
麻薬特例法は、規制薬物に係る不正行為を助長する行為等を防止することを目的としているため、麻薬などの規制薬物が見つからなくても検挙できるという点が特徴です。最近でも、覚醒剤の密売をしていた男女3人が逮捕された事件や大麻などを密売した「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」のメンバーが逮捕された事件などがあり、ここ2~3年で麻薬特例法を使って逮捕される事例が増えてきているように感じます。
薬物犯罪に関わっている方は、麻薬特例法により検挙される可能性もありますので、規制対象や罰則、逮捕された場合の対処法などを理解しておくことが大切です。
本記事では、
・麻薬特例法による規制対象薬物 ・麻薬特例法違反となる行為と罰則 ・麻薬特例法違反で逮捕されたときに弁護士ができること |
などについてわかりやすく解説します。
麻薬特例法違反は、薬物犯罪の一種ですので、万が一逮捕されてしまったときは、すぐに薬物犯罪に詳しい弁護士に依頼してサポートしてもらうようにしましょう。
目次
麻薬特例法とは?規制される主な薬物
麻薬特例法とは、正式名称を「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」の略称で、薬物犯罪の取り締まりに関する特例や罰則が定められています。
麻薬特例法という名称からは、規制対象が「麻薬」だけだと誤解されがちですが、麻薬だけではなく以下のような薬物が規制対象になっています。
・大麻 | ・コカイン | ・LSD |
・MDMA | ・MDA | ・向精神薬 |
・あへん | ・けしから | ・覚醒剤 |
麻薬特例法は、規制薬物に係る不正行為を助長する行為等を防止することを目的としているため、麻薬などの規制薬物が見つからなくても検挙できるという点が特徴です。
麻薬特例法と麻薬取締法・覚醒剤取締法の違い
項目 | 麻薬特例法 | 麻薬取締法 | 覚醒剤取締法 |
---|---|---|---|
対象薬物 | 麻薬・覚醒剤・大麻・指定薬物など広範囲 | 麻薬・向精神薬 | 覚醒剤・原料 |
処罰対象 | マネーロンダリング、収益隠匿、認識での 取引 | 所持・譲渡・使用・製造等 | 所持・譲渡・使用・ 製造等 |
現物が不要か(物なし対応) | 〇(認識あれば可) | ×(現物が必要) | ×(現物が必要) |
不法収益の没収 | 〇(法律上規定あり) | △(刑法の規定に基づく) | △(同上) |
特徴 | 広範な薬物犯罪を包括的に処罰可能 | 医療目的以外の麻薬を規制 | 覚醒剤乱用の防止を 目的 |
麻薬特例法と似た法律に、「麻薬取締法」「覚醒剤取締法」があります。以下では、これらの法律の違いと麻薬特例法が適用される場面について説明します。
対象薬物の範囲
薬物犯罪を規制する法律には、麻薬特例法以外にも「麻薬取締法」や「覚醒剤取締法」があります。
麻薬取締法は「麻薬」を、覚醒剤取締法は「覚醒剤」を規制対象とした法律ですが、麻薬特例法は、上記のとおり麻薬や覚醒剤を含む広い範囲の薬物を規制対象にしています。
また、麻薬特例法は、麻薬取締法や覚醒剤取締法では規制されていない、薬物犯罪に関するマネーロンダリングの処罰、不法収益の没収、泳がせ捜査なども処罰対象になっているのが特徴です。
「物なし事件」での対応の違い
麻薬特例法は、実務上、薬物を特定できない場合や薬物そのものが存在しない場合の譲受けなどで適用されています。このような事件を「物なし事件」といいます。
麻薬取締法や覚醒剤取締法でも規制薬物の譲受が禁止されていますので、麻薬や覚醒剤を譲り受けた場合には、同法違反として処罰されます。しかし、麻薬取締法や覚醒剤取締法では、譲り受けたとされる規制薬物が存在しない場合には、検挙できないため、いわゆる「物なし事件」では麻薬取締法や覚醒剤取締法を適用することができません。
他方、麻薬特例法では、規制薬物でない物を規制薬物であるとの認識で譲り受けた場合を処罰対象としているため、規制薬物であることを証明できないような場合もこれに含めて処罰することが可能です。すなわち、規制薬物の取引からすでに時間が経過し、現物がなく鑑定もできないような場合でも、それによって得た不法収益などについて、麻薬特例法8条により没収または不法収益等隠匿罪を適用することが可能になるわけです。
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麻薬特例法違反となる行為と罰則
以下では、麻薬特例法違反となる主な行為とその罰則について説明します。
行為 | 法定刑 |
---|---|
業として行う不法輸入等の罪 | 無期または5年以上の懲役および1000万円以下の罰金 |
不法収益等隠匿罪 | 5年以下の懲役または300万円以下の罰金 |
不法収益等収受罪 | 3年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
規制薬物としての物品の輸入・輸出の罪 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
規制薬物としての物品の譲渡・譲受、所持の罪 | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
あおりまたは唆しの罪 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
業として行う不法輸入等の罪|無期または5年以上の懲役および1000万円以下の罰金
規制薬物の栽培、輸入・輸出、製造、譲り渡しおよびけしや麻薬原料植物の栽培にあたる行為を業として行った場合、業として行う不法輸入等の罪が成立し、無期または5年以上の懲役および1000万円以下の罰金に処せられます。
法定刑に無期懲役が定められていますので、これらの罪を犯した場合は、裁判員裁判の対象になります。
不法収益等隠匿罪|5年以下の懲役または300万円以下の罰金
不法収益等の取得や処分について事実を仮装し、または不法収益等を隠匿するなどのいわゆるマネーロンダリングを行った場合、不法収益等隠匿罪が成立し、5年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます(併科あり)。
不法収益等収受罪|3年以下の懲役または100万円以下の罰金
不法収益等をそれと知って取得した場合、またはこれを支配することができる地位・立場にある人が引き渡しを受けた場合には不法収益等収受罪が成立し、3年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます(併科あり)。
規制薬物としての物品の輸入等の罪|3年以下の懲役または50万円以下の罰金・2年以下の懲役または30万円以下の罰金
規制薬物であるとの認識で、規制薬物でない薬物または規制薬物であるかどうか不明な薬物などの輸入または輸出をした場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
また、同じく譲り渡し、譲り受けまたは所持をした者に対しては、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
これは、麻薬捜査の手法である泳がせ捜査(コントロールド・デリバリー)のうち、送り荷中の規制薬物を取り除いて行われる、クリーンコントロールド・デリバリーを実施して特定した犯人を処罰することを可能とする規定です。
あおりまたは唆しの罪|3年以下の懲役または50万円以下の罰金
薬物犯罪を実行することまたは規制薬物を濫用することを公然、あおりまたは唆した場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
たとえば、ネット掲示板やSNSなどに規制薬物の濫用をあおるような書き込みをすると同罪で処罰される可能性があります。
麻薬特例法違反で逮捕された後の流れ

麻薬特例法違反で逮捕されると、以下のような流れでその後の刑事手続きが進んでいきます。
逮捕・取り調べ
麻薬特例法違反で逮捕されると警察署に連行されて、警察官による取り調べが行われます。
逮捕後は、48時間以内に被疑者の身柄が検察官に送致されます。
検察官送致
検察官は、被疑者に対する取り調べを行い、身柄拘束を継続するかどうかを検討します。引き続き身柄拘束をする必要がある場合は、送致から24時間以内に裁判官に勾留請求を行わなければなりません。
なお、麻薬特例法違反の罪は、違法薬物を自分で使用する犯罪とは異なり、業として違法薬物を売りさばき利益を上げているため、全容解明のために綿密な捜査が必要になります。
そのため、麻薬特例法違反で逮捕されると、ほとんどの事件が勾留請求されてしまいます。
勾留・勾留延長
裁判官は、被疑者に対する勾留質問を実施し、勾留を許可するかどうかの判断をします。
勾留が許可されると、原則として10日間の身柄拘束が行われ、その後、勾留延長も許可されるとさらに最長10日間の身柄拘束が続きます。
麻薬特例法違反の罪では、最長20日間の身柄拘束となるケースも多いため、長期の身柄拘束を覚悟しておく必要があります。
起訴または不起訴の決定
検察官は、勾留期間が満了するまでの間に事件を起訴するか不起訴にするかの判断を行います。
麻薬特例法違反の罪で起訴されると99%以上の事件が有罪になりますので、実刑を回避するには執行猶予付き判決を獲得することが重要になります。
麻薬特例法違反での逮捕率や起訴率はどのくらい?

麻薬特例法違反で逮捕・起訴される確率はどのくらいなのでしょうか。以下では、麻薬特例法違反の逮捕率と起訴率を説明します。
麻薬特例法違反の逮捕率は約47%
2023年検察統計(※23-00-41参照)によると麻薬特例法違反で検挙された事件は1025件あり、そのうち逮捕された事件が482件、逮捕されなかった事件が543件でした。
そのため、麻薬特例法違反の逮捕率は約47%ということになります。
麻薬特例法違反の起訴率は約37%
2023年検察統計によると、具体的な行為別の麻薬特例法違反による起訴・不起訴の件数は、以下のようになっています。
業として行う不法輸入等 | 薬物犯罪収益等隠匿 | 薬物犯罪収益等収受 | 左記以外の罪 | ||||
起訴 | 不起訴 | 起訴 | 不起訴 | 起訴 | 不起訴 | 起訴 | 不起訴 |
10件 | 8件 | 10件 | 16件 | 9件 | 26件 | 337件 | 565件 |
この統計からわかるように、麻薬特例法違反で起訴される事件の多くは、規制薬物の譲受け等の罪またはあおり・唆しの罪であり、その起訴率は約37%となっています。
麻薬特例法違反の初犯の量刑はどのくらい?
令和5年犯罪白書(※資料2-3)によると、令和4年に麻薬特例法違反で有罪となった事件の量刑は、以下のようになっています。
量刑 | 10年超15年以下 | 7年超10年以下 | 5年超7年以下 | 3年超5年以下 | 2年以上3年以下 | 1年以上2年未満 | 6月以上1年未満 | 6月未満 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 2件 | 9件 | 11件 | 8件 | 7件 | 29件 | 21件 | 6件 |
この統計結果からは、麻薬特例違反で有罪になった場合の量刑としては、「1年以上2年未満」がもっとも多いことがわかります。麻薬特例法違反は、具体的な行為によって法定刑が大きく異なりますが、「規制薬物の譲受け等の罪」または「あおりまたは唆しの罪」の初犯であれば、懲役1年6月・執行猶予3年程度が相場といえるでしょう。
麻薬特例法違反で逮捕されたときに弁護士ができること

麻薬特例法違反で逮捕された場合、弁護士に依頼すれば以下のようなサポートを受けることができます。
逮捕後すぐに駆けつけて取り調べに対するアドバイスができる
麻薬特例法で逮捕されると警察による厳しい取り調べが行われますので、警察官による圧力に屈したり、誘導に乗ってしまうことで不利な供述調書が作成されてしまうリスクがあります。
逮捕後すぐに弁護士に依頼すれば、弁護士が警察署まですぐに駆けつけてくれますので、今後の取り調べに対するアドバイスを受けることができます。取り調べに対する対応、黙秘権の行使、供述調書の訂正など基本的な知識を身につけることで、不利な供述調書が作成されるリスクを最小限に抑えることができます。
起訴後は早期に保釈請求を行い、身柄解放を実現できる
麻薬特例法で逮捕・勾留されると最長で23日間にも及ぶ身柄拘束となり、起訴後は原則2か月(1か月ごとの更新あり)の身柄拘束が続きますので、被疑者・被告人の心身には大きな負担が生じることになります。
このような負担を少しでも軽減するには、起訴後すぐに保釈請求をする必要があります。弁護士に依頼すれば、捜査段階から身元引受人や保釈金の手配を進めてくれますので、起訴後迅速に保釈請求を行うことが可能です。
執行猶予や減刑獲得に向けたサポートができる
麻薬特例法で起訴されるとほとんどの事件が有罪になってしまいますので、執行猶予付き判決を獲得することが重要になります。
薬物犯罪に詳しい弁護士であれば、執行猶予付き判決や刑の減軽を獲得するためのポイントを熟知していますので、適切な弁護活動により有利な処分を獲得できる可能性を高めることができます。
関連コラム:麻薬事件を弁護士に依頼する4つのメリットと弁護士選びのポイント
麻薬特例法違反で逮捕されたときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

麻薬特例法違反で逮捕されてしまったときは、薬物犯罪に詳しい弁護士によるサポートが不可欠になります。薬物犯罪の経験に乏しい弁護士では、十分な弁護活動は期待できませんので、有利な処分の獲得を希望するなら、薬物犯罪に詳しい弁護士に依頼することが重要です。
グラディアトル法律事務所では、薬物犯罪の弁護士に関する豊富な経験と実績がありますので、麻薬特例法違反で有利な処分を獲得するためのポイントを熟知しています。経験豊富な弁護士によるサポートを受けることで、有利な処分を獲得できる可能性が高くなりますので、麻薬特例法違反で逮捕されてしまったときはすぐに当事務所までご相談ください。
また、当事務所では刑事事件に関してスピード対応を心がけていますので、最短で即日対応が可能です。身柄拘束されている場合には、すぐに警察署に駆けつけて面会を実施しますので、一刻も早く当事務所までご相談ください。
さらに、相談は24時間365日受け付けておりますので、早朝・夜間や土日祝日であっても関係なく対応可能です。初回法律相談を無料で対応していますので、麻薬特例法違反に関する相談をご希望の方は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
まとめ
麻薬や覚醒剤などの規制薬物が見つからなかったとしても、薬物取引をしていたことを裏付ける証拠があり、薬物犯罪を犯す意思が認められれば、麻薬特例法により逮捕される可能性があります。
麻薬特例法違反で逮捕されてしまったときは、薬物犯罪に詳しい弁護士のサポートが不可欠となりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。