「痴漢を疑われても身分証明書を見せれば現行犯逮捕されない」は誤り

「痴漢を疑われても身分証明書を見せれば現行犯逮捕されない」は誤り
弁護士 若林翔
2024年11月17日更新

一時期、「痴漢を疑われても身分証明書を見せれば現行犯逮捕されない」という情報がネット上で話題になったことがあります。

実際にこの噂を見聞きし、真実なのかどうか気になっている人も多いのではないでしょうか。

結論からいうと、身分証明書を見せたからといって、必ずしも現行犯逮捕を回避できるわけではありません

身分証明書を提示しても現行犯逮捕の要件該当性が完全に否定されることはなく、そのときの状況次第で逮捕される可能性は十分あります。

ただ、身分証明書を提示すれば痴漢の現行犯逮捕を回避しやすくなるのも事実であり、現場での対応次第で、その後の処遇は大きく変わります。

そのため、痴漢の疑いをかけられたときは一人で解決しようとするのではなく、できるだけ早く弁護士に助けを求めることが大切です。

本記事では、「痴漢を疑われても身分証明書を見せれば現行犯逮捕されない」の情報が誤りといえる理由を解説します。

痴漢を疑われた場合にやるべきことも詳しく記載しているので、ぜひ参考にしてみてください。

痴漢を疑われると身分証明書を見せても現行犯逮捕されることはある

痴漢を疑われた場合、身分証を見せても現行犯逮捕される可能性はあります。

まずはじめに、「痴漢を疑われても身分証明書を見せれば現行犯逮捕されない」が誤った情報だといえる理由を詳しく解説します。

現行犯逮捕の要件

まずは前提知識として、現行犯逮捕の要件を詳しく見ていきましょう。

現行犯逮捕の要件は、以下のとおり大きく3つに分けられます。

現行犯逮捕の要件

「現行犯人または準現行犯人」は、今まさに痴漢に及んでいる者、または、痴漢行為に及んで間もないと明らかに認められる者を指します。

「犯罪と犯人が明白」とは、逮捕者自身が現場の状況を見たり、聞いたりした限りにおいて、被逮捕者による犯行であると認識している状態のことです。

「逮捕の必要性がある」とは、逃亡や証拠隠滅のおそれがあることを指します。

そして、「身分証明書を提示すれば逃亡のおそれがなくなり、逮捕の必要性の要件を満たさなくなるため、現行犯逮捕されない」という噂がSNSなどで広がっているのです。

身分証明書を提示しても現行犯逮捕の要件該当性は否定されない

身分証明書を提示しても、現行犯逮捕の要件該当性が直ちに否定されることはありません。

確かに、身分証明書の提示により自身の身元を明らかにすることで、逃亡のおそれを減少させる効果はあるでしょう。

しかし、身分証明書を見せたからといって、物理的に逃亡できない状況になるわけでもないので、絶対に逃亡しないという保証にはなり得ません

身分証明書の提示だけでは、逮捕の要件該当性を否定する材料として不十分です。

むしろ、身分証明書を渡してその場を無理に立ち去ろうとすると、余計に立場を悪くしてしまう可能性さえあります。

身分証明書の提示で逮捕されないのは軽微な犯罪だけ

身分証明書の提示だけで逮捕を回避できるのは、軽微な犯罪だけです。

刑事訴訟法第217条では、「30万円以下の罰金、拘留または科料」に当たる犯罪について、犯人の氏名・住所が明らかでない場合や逃亡のおそれがある場合に限り、現行犯逮捕が認められると規定しています。

たとえば、軽微な窃盗や器物損壊などであれば、身分証明書を見せることで現行犯逮捕を回避できる可能性があるわけです。

しかし、痴漢事件の多くは迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪に該当し、「30万円以下の罰金、拘留または科料」よりも重たい刑罰が規定されているため、刑事訴訟法第217条の規定は適用されません

痴漢に適用される主な罪と刑罰

したがって、痴漢容疑をかけられた際に身分証明書の提示だけで逮捕を回避できるという考えは誤りです。

実際に逮捕されるかどうかは、現場の状況や証拠の有無、被害者の意向などさまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。

痴漢は何罪に問われる?痴漢の態様ごとに適用される刑罰を解説

身分証明書を提示すれば痴漢の現行犯逮捕を回避しやすくなるのは事実

身分証明書の提示によって、痴漢の現行犯逮捕を完全に回避することはできませんが、逮捕のリスクを低減させることはできます。

身分証明書の提示によって氏名や住所などを明かし、あとで連絡をとれる状態にしておけば、逃亡のおそれがないと判断してもらいやすくなるためです。

逮捕の要件

たとえば、混雑した電車内での偶発的な接触で痴漢と疑われた場合に、身分証明書を提示して協力的な態度を示すことは、穏便に事件を解決するための有効な手段といえるでしょう。

ただし、前述したとおり、身分証明書の提示だけで100%逮捕を回避できるわけではないので、痴漢を疑われた際にはできるだけ早く弁護士に相談するようにしてください。

痴漢を疑われた場合に「身分証明書の提示」以外にやるべきこと

次に、痴漢を疑われた場合の対処法を解説します。

痴漢を疑われた場合に「身分証明書の提示」以外にやるべきこと

身分証明書を提示すること以外にも、主に4つの対処法があるので詳しく見ていきましょう。

現場から逃げ出さずに対応する

痴漢を疑われた場合、現場から逃げ出さずに冷静に対応することが重要です。

逃走しようとすると現行犯逮捕の可能性を高めてしまううえ、起訴・不起訴の判断においても不利に働く可能性があります。

たとえば、電車内で痴漢を疑われたときは落ち着いて状況を説明し、必要であれば身分証明書を提示して協力的な態度を示すことが望ましいといえるでしょう。

冤罪の場合でも逃げずに対応していれば、自身の意見を主張する機会を得られるはずです。

個人情報を隠さない

痴漢を疑われ、警察が駆けつけたときは、個人情報を隠さずに提供するようにしてください。

個人情報を隠すと、警察に「逃亡のおそれがある」と判断され、逮捕されてしまうリスクが高まります

また、警察が身元を特定できないと、取り調べや事実確認が困難になり、かえって身柄拘束の期間が長引くおそれもあります。

そのため、氏名・住所・電話番号・勤務先などの基本的な個人情報に関しては、聞かれたとおり素直に答えましょう。

ただし、回答してよいのか判断できないような質問を受けたときは、安易に答えてはいけません。

軽はずみな一言が自身の立場を悪くすることもあるので、弁護士と相談するまで回答を控えるなど慎重な対応を心がけましょう。

冤罪の場合は謝罪せずに否認し続ける

痴漢を疑われた場合、冤罪であれば謝罪せずに一貫して否認し続けましょう。

実際には痴漢していなくても、謝罪することで罪を認めたと判断されやすくなります

のちのち裁判に発展した場合などには、謝罪したことが原因で不利な状況に陥ってしまう可能性も否定できません。

突然痴漢を疑われると、とっさに謝罪の言葉を発してしまう人もいますが、冤罪であれば「私は何もしていません」と冷静に主張し続けることが大切です。

そのうえで、弁護士に相談し、法的なアドバイスを受けるようにしてください。

家族や職場に連絡する

痴漢を疑われた場合は、家族や職場に連絡することも極めて重要です。

仮に痴漢で逮捕されてしまった場合は、外部と連絡が自由に取れなくなります。

そのため、弁護士に依頼するためには、逮捕されていない外にいる人から連絡をとってもらったり、お金を支払ってもらったりしなければなりません

万が一に備えて身近な人物に自身の状況を知らせ、可能であればサポートを求めることが大切です。

職場にも連絡しておけば、無断欠勤による不利益を防げるでしょう。

ただし、余計な憶測やトラブルを避けるためにも、必要最小限の人にのみ連絡することをおすすめします。

弁護士に相談する

痴漢を疑われた場合、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。

痴漢事件が得意な弁護士に相談・依頼すれば、被害者との示談交渉や捜査機関への働きかけを迅速に進めてもらうことができるため、逮捕を回避し、不起訴処分を獲得しやすくなります。

また、冤罪事件の場合も、弁護士であれば目撃者を探したり、再現実験をおこなったりと無実を証明するための戦略を立てることが可能です。

特に、逮捕直後は家族や知人との面会が認められないため、弁護士のサポートが必要不可欠といえるでしょう。

弁護士の早期介入により事件をスムーズに解決できれば、前科をつけることなく、元の生活を取り戻せる可能性も十分あります。

痴漢事件は迷わず弁護士を呼べ!理由と早期に不起訴獲得した事例

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痴漢冤罪で現行犯逮捕された場合は訴えられる?

ここでは、痴漢冤罪で現行犯逮捕された場合に、逮捕した相手を訴えられるかどうかについて、詳しく解説します。

痴漢冤罪で現行犯逮捕された場合は訴えられる?

刑事上の責任を問うことは難しい

たとえ冤罪であっても、逮捕者に刑事上の責任を問うことは難しいといえます。

刑事上の責任として考えられるのは、逮捕罪の適用です。

不法に人を逮捕した者に対して、3ヵ月以上7年以下の懲役を求めることができます。

しかし、逮捕する側も、何かしらの合理的な疑いに基づいて行動しているはずです。

そのため、不法に逮捕しようとする故意は認められず、逮捕罪が適用されないケースがほとんどでしょう。

痴漢が事実ではないと知りながら逮捕したことが明らかな場合には、逮捕罪に問える可能性はありますが、それを立証するのは簡単ではありません。

結果として、冤罪被害者の救済は主に民事的な手段に頼らざるを得ないのが実情です。

民事上の損害賠償責任を問える可能性はある

痴漢冤罪で現行犯逮捕された場合、民事上の損害賠償責任を問える可能性はあります。

痴漢で逮捕されたことが原因で、財産的・精神的損害が生じたのであれば、一定の補償を受けられる余地は残されています。

しかし、不法行為に基づく損害賠償請求が認められるには、逮捕者に故意または過失があったことなど、いくつかの条件を満たしていなければなりません。

単なる勘違いや軽微な過失では、損害賠償責任を問えない点に注意が必要です。

痴漢事件の不安や悩みはグラディアトル法律事務所に相談を

本記事のポイントは以下のとおりです。

  • ・身分証明書を見せても現行犯逮捕されることはある
  • ・身分証明書の提示によって現行犯逮捕を回避しやすくなるのは事実
  • ・痴漢を疑われた場合は弁護士に相談することが重要
  • ・痴漢冤罪で現行犯逮捕された場合は民事上の責任を問える可能性がある

痴漢を疑われ、逮捕されたり起訴されたりすると、その後の人生で大きな不利益を受けることにもなりかねません。

一人で悩んでいても状況は悪化するだけなので、できるだけ早く痴漢事件が得意な弁護士に相談してください。

グラディアトル法律事務所では、これまでに数多くの痴漢事件を解決してきました。

痴漢事件の解決実績

24時間365日体制で相談を受け付けており、痴漢事件の豊富な解決実績を有する弁護士が即座に駆けつけます。

初回相談は無料なので、事態が深刻化する前にまずは一度お問い合わせください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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