「痴漢事件の微物検査・繊維鑑定とは何?」
「微物検査・繊維鑑定により証拠が検出されなければ痴漢の罪は晴れる?」
「痴漢事件では、微物検査・繊維鑑定以外にどのようなものが証拠になる?」
痴漢事件では、衣服の上から一定時間、被害者の身体を触ることになります。
このような場合、犯人の手に被害者の衣類の繊維片が付着することがありますので、痴漢事件では微物検査・繊維鑑定が行われることが多いです。
あなたが痴漢の疑いをかけられてしまった場合、冤罪であればその場にとどまり、微物検査・繊維鑑定を受けることで冤罪を証明できる可能性があります。
ただし、微物検査・繊維鑑定だけでは無罪を立証することはできませんので、冤罪を立証するならすぐに弁護士に相談することが大切です。
本記事では、
・痴漢事件における微物検査・繊維鑑定とは?
・微物検査・繊維鑑定以外で痴漢事件の証拠になるもの
・痴漢冤罪での微物検査・繊維鑑定についての裁判例
などについてわかりやすく解説します。
微物検査・繊維鑑定の持つ意味をしっかりと理解して対策を講じていくようにしましょう。
目次
痴漢事件における微物検査・繊維鑑定とは?
微物検査・繊維鑑定とは、被疑者の手や指などから微細な物質や繊維を採取して、その種類や性状などを検査・鑑定する捜査手法です。
痴漢事件では、犯人が衣服の上から一定時間、被害者の身体を触り続けていますので、犯人の手や指には被害者の衣服と同種の繊維が付着することがあります。そのため、痴漢事件では、犯人を特定するための手法として、微物検査・繊維鑑定が行われています。
ただし、後述するように微物検査・繊維鑑定の結果は、絶対的なものではありませんので、微物検査・繊維鑑定の結果だけで有罪・無罪が判断されるわけではない点に注意が必要です。
微物検査・繊維鑑定で繊維が一致すれば痴漢有罪の物的証拠になる
痴漢事件の微物検査・繊維鑑定では、被疑者の手や指にテープを貼り、繊維を採取して、その種類や形状の検査・鑑定が行われます。その結果、被害者の衣服の繊維の種類や形状と一致した場合、被疑者が被害者の衣服に触れたことを示す重要な証拠になります。
また、被害者の下着の繊維と同じ種類・形状のものが被疑者の手や指から検出された場合、痴漢行為を立証する重要な物的証拠となります。
微物検査・繊維鑑定で、被疑者の手や指から繊維が検出されたことだけで有罪になるわけではありませんが、被害者の供述や目撃者の供述を裏付ける証拠となりますので、痴漢事件で有罪となる可能性が高くなるでしょう。
ただし、電車の込み具合や乗車位置によっては、痴漢行為をしていなかったとしても、不可抗力で被害者の衣服に触れるなどして、被害者の衣服の繊維が手や指に付着することがあります。そのため、微物検査・繊維鑑定の結果は慎重に評価していく必要があります。
微物検査・繊維鑑定で繊維が検出されなかったとしても痴漢が無罪になるわけではない
微物検査・繊維鑑定の結果、被疑者の手や指から繊維が検出されなかったとしても、痴漢が無罪になるわけではありません。なぜなら、痴漢をすれば必ず繊維が付着するわけではないからです。
微物検査・繊維鑑定で不検出となっても、被害者や目撃者の供述やその他の物的証拠などから痴漢の犯人であることが立証できれば、痴漢事件で有罪となってしまう可能性は十分にあります。
そのため、微物検査・繊維鑑定の結果がシロであったとしても、それだけで安心してはいけません。
微物検査・繊維鑑定以外で痴漢事件の証拠になるもの
痴漢事件の証拠になるものとしては、微物検査・繊維鑑定以外にも以下のようなものがあります。
DNA検査
痴漢行為により被害者の皮膚を引っかいたり、被害者の膣内に指を挿入したような場合には、被疑者の手に被害者の皮膚や体液が付着している可能性があります。このような場合には、被疑者の手指の付着物についてのDNA検査が行われます。
DNA検査の結果、被疑者の手指から被害者のDNAが検出されれば、痴漢をしたという有力な証拠となります。
関連記事:痴漢事件のDNA鑑定とは?痴漢冤罪を立証するためのDNA鑑定を解説
防犯カメラ映像
駅構内や路上には、多数の防犯カメラが設置されています。防犯カメラに痴漢行為の瞬間がしっかりと映っていれば、その映像が痴漢行為の重要な証拠になります。
ただし、痴漢行為の多くは、防犯カメラが設置されていない電車内や防犯カメラの死角などでおこなわれますので、防犯カメラの映像が決定的な証拠になるケースは少ないといえます。また、防犯カメラに映像が残されていても、痴漢行為の決定的な瞬間が映っていないこともあります。
被害者の供述
痴漢事件では、被害者の供述が重要な証拠となります。電車内での痴漢では、被害者の供述しか証拠がないケースも多く、実際の裁判でも被害者供述のみで有罪になったケースも多数存在します。
そのため、被害者から痴漢の犯人であると疑われてしまったときは、被害者供述の信用性を検討することが重要になります。被害者供述の信用性は、主に以下のような要素に基づいて判断されます。
・客観的な証拠との整合性
・供述内容の一貫性
・供述内容の具体性、迫真性
・供述態度が真摯であるか
・虚偽供述の動機の有無
目撃者の証言
痴漢行為を目撃していた人がいる場合、目撃者の証言が痴漢事件では重要な証拠となります。目撃者は、完全な第三者ですので嘘をつく動機がないことから信用性が高いと考えられています。
目撃者の証言の信用性を判断する際の要素は、被害者供述の信用性を検討する際の要素と同様です。ただし、目撃者の場合、以下の要素も加えて信用性を検討する必要があります。
・痴漢行為時に目撃者がいた位置(痴漢行為を視認できる位置であったか)
・目撃者の視力
・視認状況
・目撃者と被害者、被疑者との人間関係(虚偽供述の動機の有無)
痴漢事件の証拠についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
痴漢の証拠は8つ|被害者証言だけで逮捕される実態を解説
痴漢冤罪での微物検査・繊維鑑定についての裁判例
以下では、痴漢冤罪事件で微物検査・繊維鑑定が争点になった裁判例を紹介します。
さいたま地裁平成22年6月24日判決
【事案の概要】
被告人は、電車内において乗客である当時17歳の女性に対し、スカート内に左手を差し入れて臀部を下着の上からなぞるなどの痴漢行為をしたとして、迷惑防止条例違反により起訴された事案です。
【判断のポイント】
被告人の左手の甲と掌から採取された繊維と同種または類似の繊維は、被害者の下着と着衣から採取した繊維からは検出されていない。また、被害者の下着に細胞様片の付着が認められ、ヒト成分が検出されたが、そのDNA型は被告人のDNA型とは一致しなかった。
これらの事情は、直ちに被告人が痴漢の犯人ではないことを示すものではないが、被害者の供述する痴漢の態様がかなり執拗なものであったことに照らすと、被告人が痴漢の犯人であることに相当強い疑念を抱かせる事情であることは疑いない。
なお、この事案では、被害者が痴漢の犯人ではない人物の手をつかんだという可能性を否定することはできないとして、被告人が無罪となりました。
大阪地裁堺支部平成22年11月12日判決
【事案の概要】
被告人は、電車内において乗客である当時17歳の女性に対し、左手をスカート内に差し入れて、下着の上から被害者の臀部をなで回し、陰部をもてあそぶなどの痴漢行為をしたとして、迷惑防止条例違反により起訴された事案です。
【判断のポイント】
被告人は、本件事件の当日および翌日、警察官から微物検査を求められたが、保留する旨述べて検査に応じなかったことが認められる。
検察官は、被告人が拒否したのは自己の指先から女性の下着等の繊維構成物が検出されるのをおそれての行動と見るのが自然であり、被告人が女性の臀部等を触るなどしたことの証左であると主張する。
しかし、被告人は、本件事件当日の取調べの際、微物検査に応じない理由について、警察官から微物検査が身の潔白を証明することになるとの説明を受けたが、検査を受けてすぐに帰れるわけではなく、結果が出るまで1週間なり留置場にいるのであれば一緒なので、弁護士の説明を受けてから考える旨供述しているところ、微物検査を受けてもすぐに釈放されないことに納得せず、弁護士の助言を受けようとしたことは、特に不合理といえるものではなく、被告人が女性の臀部等を触るなどしたことを推認させる事情であるとはいえない。
本件では、被害者が被告人の手を犯人の手と間違えてつかんだ疑いが残るとして、被害者供述の信用性を否定し、被告人が無罪となりました。微物検査・繊維鑑定を拒否したからといってそのことが有罪の証拠となるわけではないと判断しているのが重要なポイントといえます。
東京地裁平成24年9月20日判決
【事案の概要】
被告人は、電車内において乗客である女性に対し、スカートをまくり上げて左太ももを手で触り、下着に上から陰部付近を手指で触り、さらに、下着を引きあげて臀部を手で触るなどの痴漢行為をしたとして、迷惑防止条例違反により起訴された事案です。
【判断のポイント】
被告人の左手の平から、被害者のスカートの構成繊維と類似した無色の獣毛繊維3点と,被害者のパンツの構成繊維と類似したにぶ青緑色の綿繊維3点とが検出されたことが認められる。
しかし、これらの獣毛繊維及び綿繊維は、被害者の着衣の構成繊維と類似していることが認められるというだけで、同一であるというものではない。しかも、綿繊維自体は、ありふれたものであるから、被告人の手に付着した2種類の繊維が、被害者の着衣の構成繊維と類似していても、被害者の着衣に由来する繊維であるとまでは推認できない。
かえって、被告人が、被害者のスカートやパンツの上から、執ように被害者の体を触ったにしては、付着した繊維が少ないのではないかという疑問も考えられ、結局、前記2種類の繊維が検出された事実の推認力を的確に評価するための情報が不十分である。
したがって、被告人の手に付着した繊維が、被害者の着衣の構成繊維と類似していたことは、被告人の犯人性と矛盾しないものと評価することはできるが、これを積極的に推認させるものとまで評価することはできない。
本件では、被害者の供述には相応の信用性が認められるものの、これのみをもって被告人の犯人性を確信することはできないとして、被告人が無罪となりました。微物検査・繊維鑑定により、被害者の衣類と類似する繊維が検出されたとしても、直ちに犯人であると立証できるものではないと判断しているのが重要なポイントといえます。
痴漢を疑われたときはすぐに弁護士に相談を
痴漢を疑われてしまったときは、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。
痴漢が事実なら逮捕や起訴の回避に向けたサポートができる
痴漢が事実であれば、すぐに被害者との示談交渉を始め、示談を成立させることができれば、逮捕や起訴を回避できる可能性が高くなります。
しかし、痴漢事件は、性犯罪という性質上、加害者本人が直接被害者と示談交渉するのは困難です。弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人として示談交渉を行うことができますので、被害者としても安心して交渉のテーブルにつくことができます。迅速に示談をまとめるためにも、痴漢を疑われたときはすぐに弁護士に相談するようにしましょう。
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痴漢が冤罪なら無罪の立証に向けたサポートができる
痴漢が冤罪であるときは弁護士に相談することで、無罪の立証に向けたサポートをしてもらうことができます。
痴漢冤罪事件を自分一人で戦っていくのは困難ですので、すぐに専門家である弁護士に助けを求めるようにしましょう。弁護士に依頼すれば、取り調べに対するアドバイスや被害者供述の信用性の弾劾など無罪立証に必要な弁護活動を行うことで、不起訴処分や無罪判決を獲得できる可能性を高めることができます。
関連記事:
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痴漢事件の弁護はグラディアトル法律事務所にお任せください
痴漢事件の当事者になってしまったときは、すぐに弁護士に相談する必要があります。そして、痴漢事件の弁護を依頼するなら、痴漢事件に強い弁護士に相談するべきです。
グラディアトル法律事務所では、痴漢事件に関する豊富な実績と経験がありますので、痴漢事件の対応に関する豊富なノウハウを有しています。痴漢事件の被害者との示談交渉も得意としていますので、早期に示談をまとめて有利な処分の獲得を希望するのであれば、まずは当事務所までご相談ください。
当事務所では、初回相談料無料、24時間365日相談を受け付けておりますので、いつでもお気軽にお問い合わせください。
まとめ
痴漢事件では、犯人性の立証のために微物検査・繊維鑑定が行われます。しかし、微物検査・繊維鑑定は、絶対的な証拠ではありませんので、被疑者の手指から被害者の繊維が検出されたとしても、直ちに有罪になるわけではなく、また、繊維が検出されなかったとしても直ちに無罪になるわけではありません。
冤罪を主張する場合は、被害者供述が特に重要な証拠となりますので、法的観点から信用性を検討するためにも、まずは痴漢事件の弁護に強いグラディアトル法律事務所までご相談ください。