格闘技経験は暴行罪・傷害罪の成立や罪の重さに影響するか弁護士解説

暴行罪(傷害罪)の成立要件に格闘技経験の有無は関係ない!噂の真相とは?
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弁護士 若林翔
2024年07月07日更新

「格闘技経験があるのに暴力を振るってしまった。罪は重くなる?」

「暴力振るったら暴行罪や傷害罪になるって本当?」

「逮捕を回避する方法や、もし逮捕されてしまった場合、前科を回避する方法は?」

暴行罪や傷害罪は、殴る・蹴るなどの「暴行」行為で成立しますが、「格闘技経験者は暴行罪(傷害罪)が成立しやすい」という噂が、ネット上で散見しているのをよく見かけます。

結論から申し上げますと、暴行罪・傷害罪の構成要件に格闘技経験の有無は関係ありません。

ですが、素人と格闘技経験者では、正当防衛や過剰防衛の成否に“差”が出てしまう可能性はあります。

なぜ、素人と格闘技経験者で差が出てしまうのでしょうか。

この記事を簡単にまとめますと、

  • ・暴行罪・傷害罪の構成要件に「格闘技経験の有無」は規定されていない
  • ・ただ、格闘技経験を理由に正当防衛が成立せず、過剰防衛と判断される可能性はある
  • ・格闘技経験者による暴行や傷害は量刑が重くなりやすい
  • ・逮捕を回避するには、被害者との示談が重要
  • ・示談は自力交渉を避けて弁護士に依頼する方が良い

といった内容になります。

詳しくは、以下で深掘りしていきます。

暴行罪・傷害罪の成立要件において格闘技経験の有無は関係ない

暴行罪は、主に殴る・蹴るなどの「暴行」行為で成立する犯罪で、その結果、怪我を負わせてしまった場合は傷害罪が適用されます。

暴行罪・傷害罪の成立要件において格闘技経験の有無は関係ない

それぞれの刑罰は、

  • ・暴行罪→2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料(刑法208条)
  • ・傷害罪→15年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法204条)

このように定められており、特に傷害罪にいたっては、最大15年の懲役刑があるなど、量刑の範囲が広いのが特徴です。

成立要件における具体例として、

  • ・殴る・蹴るなどの暴行
  • ・胸倉を掴む・引っ張る
  • ・相手の耳元で拡声器などで叫ぶ
  • ・相手に石などの投石物を投げる(付近に投げる行為も同様)
  • ・狭い室内で木刀などの凶器を振り回す
  • ・嫌がる相手を無理やりサウナに入れる

といった行為が当てはまりますが、「格闘技経験の有無」については成立要件に入っていません。

そのため、「格闘技経験者だから暴行罪・傷害罪が成立しやすい」というのはあくまで噂であって、要件さえ満たせば、格闘技経験の有無関係なく成立するということです。

暴行罪・傷害罪の成立要件、構成要件についての詳細は、以下の記事もご参照ください。

【暴行罪】3つの成立要件と罰則が重くなる4つのパターン

傷害罪の構成要件は4つ!罰則や関連する刑罰について判例を交えて解説

格闘技経験の定義

まず格闘技の定義ですが、「自身の身体で攻撃・防御を行うための技術」とあり、大きく分けて「競技」と「興行」の2種類に分類されます。この2つに共通するのは「明確なルール(競技規則や禁止行為など)」がある点で、逆説的に言えば、明確なルールに則って行判う武術のことを格闘技と言います。

具体的には、

~打撃系格闘技~

例)空手、ボクシング、中国武術など

~組技系格闘技~

例)柔道、相撲、合気道、レスリングなど

~総合系格闘技~

例)日本拳法、空道、ヨーロピアン柔術など

といったものが格闘技に分類されています。

また、格闘技“経験者”とあるように、現役の格闘家でなくても、「過去格闘技をやっていた」という場合でも経験者として扱われる可能性があります。

そのため、

  • ・5歳から18歳までボクシングジムに通っていたが、成人したのを境に辞めたので、今はやっていない
  • ・ダイエット目的で、週に一度ボクシングジムに通っている程度で、本格的ではない
  • ・中学校の部活動で、3年間柔道部に所属していた

このような場合は格闘技経験者として扱われますので、覚えておきましょう。

「格闘技経験は暴行罪・傷害罪が成立しやすい」という噂の真相

暴行罪・傷害罪の構成要件において、格闘技経験の有無は関係ありません。

では、なぜ暴行罪・傷害罪と格闘技経験を関連付ける噂が多いのかというと、「正当防衛や過剰防衛(かじょうぼうえい)が絡んでくるため」と推察されます。

まず、刑法には違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆう)という考え方があり、簡単に言うと、本来であれば法令に違反する行為でも、“一定の条件”を満たせば違法にならない行為(事情)を指します。

今回のケースでいうと、正当防衛がこれに当てはまります。

一方で、一定の条件を満たさない行為(事情)、いわゆる「度が過ぎた反撃行為」については、正当防衛が成立せず、過剰防衛となり、違法性が阻却されない(=暴行罪や傷害罪が成立してしまう)ということになります。

ここまでの話をまとめますと、

  • ・「暴行」行為に違法性阻却事由が認められる→正当防衛が成立
  • ・「暴行」行為に違法性阻却事由が認められない→過剰防衛が成立

となります。

本題に戻りまして、格闘技経験者は、言い方を変えれば攻撃・防御(回避)に長けている人と分類できます。

そのような人が「暴行」行為に及べば、例え手加減だったとしても、素人の暴行に比べて被害が大きくなるのは目に見ています。

そのため、格闘技経験者の暴行(傷害)行為は、防衛のための必要最小限度の行為であると認められず(相当性がない)、正当防衛が成立せず、過剰防衛と判断されてしまうことがある、というのが噂の真相であると言えるでしょう。

暴行罪・傷害罪で格闘技経験者が過剰防衛と判断されやすい理由

暴行罪・傷害罪で格闘技経験者が過剰防衛と判断されやすい理由

格闘技経験者の「暴行」行為は、正当防衛が成立せず、過剰防衛と判断される(=正当防衛が認められない)可能性が高いのですが、その理由として、防衛のために「やむを得ずにした」必要最小限度の防衛行為と認められず、防衛の手段の相当性が否定されやすい点が挙げられます。

まず、正当防衛について、

(正当防衛)

第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

と定義されており、簡単に言うと、

  • ・相手からの「暴行」行為に対して、自己の防衛のために反撃した
  • ・ひったくりに遭ったので、止むを得ず、殴った

というように、“防衛を目的”とした行為は罰しない、という要件になります。

上記に倣うならば、格闘技経験者であっても“防衛を目的”とした「暴行」行為だった場合は罰せられないということになりますが、実際はそう甘くはありません。

例えば、

~正当防衛が認められない(=過剰防衛)ケース~

加害者A(素人)が難癖を付け、突然殴りかかってきた。それに対し、被害者B(格闘技経験者)は防御し怪我には至らなかった。それに逆行したAは、さらに殴る・蹴るなどの「暴行」行為に及んだが、Bは防御・回避行動で応対。

流石に埒が明かないと感じたBは、防衛・回避が可能であるにもかかわらず、防衛目的で一発殴ったところ、それがカウンターになり、顔面に直撃。結果、Aは全治○ヵ月の大怪我を負った。

突然殴ってきたのはAですから、その時点で暴行罪が成立し、Bは被害者となります。

ただ、その後の反撃行為で、結果、怪我を負ったのはAで、さらに重傷というおまけ付きです。

このケースですと、「Bが格闘技経験者であり、殴らずとも防御や回避が可能であったので、防衛の相当性が認められない」と断され、正当防衛は成立せず、過剰防衛になる可能性が高く、逆にBの傷害罪が成立することになるでしょう。

※過剰防衛の場合は、成立する犯罪の減刑または免除になります。(刑法36条2項)

そのため、仮にBの傷害罪が成立しても、情状酌量が認められ、通常の法定刑に比べて罪が軽くなる可能性が高いです。

「なぜ格闘技経験者というだけで?」と思うかもしれませんが、自身の肉体が武器になり得る以上、力の振るい方には、より一層注意しなければならない、ということでもあるでしょう。

暴行罪・傷害罪で格闘技経験者の量刑が重くなりやすい理由

暴行罪・傷害罪で格闘技経験者の量刑が重くなりやすい理由

暴行罪や傷害罪に限らずですが、刑事裁判で裁判官が量刑を決定するにあたって、

  • ・犯行の経緯や態様
  • ・犯行の動機
  • ・傷害の程度
  • ・悪質性・違反性の有無
  • ・初犯かどうか
  • ・客観的事実
  • ・諸般の事情  等々…

これらを総合的に判断し、量刑が言い渡されます。

その中で、

  • ・格闘技経験であるという事実は、被害者を恐怖に陥れるに値する
  • ・格闘技経験者による「暴行」行為だったため、重大な傷害に陥ったと判断できる
  • ・プロの格闘家でありながら(素人に対して)犯行に及んだという事実は、極めて悪質である

というように、「格闘技経験者だから~」と判断され、量刑が重くなる可能性があるということです。

 

格闘技経験者の傷害罪の判例2選

それでは、格闘技経験者の傷害罪(傷害致死罪)の判例について、2つご紹介します。

格闘技経験者の傷害罪の判例2選

勘違い騎士道事件

この界隈では有名な事件の一つである「勘違い騎士道事件」。

酩酊していた女性Aを宥めていた男性B。宥めている最中、Aが尻もちをついたのも目撃した男性C(格闘家)が「AはBに襲われている」と勘違いし、両者の間に割って入った。

Bからすれば、Cは突然の乱入者、Bは咄嗟にファイティングポーズを取ってしまった。

Cも「相手から殴ら力の振るい方には、より一層注意しなければならない、ということでもあるでしょう。

れる」と誤信し、咄嗟に(Bに対し)回し蹴りを顔面に当て、結果、死亡させた。防衛の相当性を逸脱した行為として、過剰防衛による傷害致死罪が成立した。

(最高裁昭62.3.26刑集41-2-182)

プロの格闘家による“重い”一撃

交際中の彼女から、勤務先で「体調不良なのに飲酒(多量)をさせられた」と訴えがあったので、加害者A(プロ格闘家)は、彼女の働くお店の店長Bを呼びつけて事情を聞いた。

だが、Bの言う飲ませた酒量が彼女の言い分と違い、それに激高したAが、Bの頭部を1回蹴った。それによって、Bは外傷性くも膜下出血になり死亡、傷害致死罪が成立した。

たった1回の「暴行」行為によって死亡した点について、死亡との因果関係の有無が焦点になったが、

  • ・プロの格闘家であったこと
  • ・素人には困難な暴行手段であったこと
  • ・被害者が防御困難な攻撃であったこと

といった要因が重なり、結果、懲役5年に科された。

(千葉地裁平30.11.1)

暴行・傷害事件を起こしてしまったら速やかに示談することが重要

暴行・傷害事件を起こしてしまったら示談することが重要

暴行・傷害事件を起こしてしまった場合、「証拠がないから大丈夫」と逃げた(その場を去った)としても、被害者・第三者の証言や状況証拠により、後日、逮捕されてしまう可能性は十分にあります。

また、後日に逮捕(=通常逮捕・緊急逮捕)されてしまうような場合だと、「逃亡の恐れあり」「証拠隠滅の恐れあり」と、警察が判断しているケースが多いので、罪が重くなるリスクもあります。

では、逃げてしまった場合はどうしようもないのかというと、そうではありません。

考え方次第では、「逮捕までに時間がある」とも取れますので、その期間を有効活用し、被害者と示談することができれば、逮捕を回避することも可能です。

とはいえ、「被害者が示談に応じてくれない」「そもそも被害者の連絡先が分からない」というのが通常で、自力交渉は困難を極めます。

そういった場合には、後述する「弁護士に依頼すること」がおすすめです。

暴行罪・傷害罪の示談・示談金についての詳細は、以下の記事もご参照ください。

暴行罪の示談金相場は10〜30万円!金額を決める5つの要因も解説

傷害罪の示談金の相場は?示談金を決める要素や示談の流れを解説

自力交渉が困難な場合は弁護士に依頼がおすすめ

自力交渉が困難な場合は弁護士に依頼がおすすめ

暴行・傷害事件において、自力交渉が困難な場合には弁護士に依頼するのがおすすめですが、そのメリットは、以下の通りです。

被害者が示談に応じてくれやすくなる

被害者側としては、「許せない」「示談に応じたくない」「罪を償ってほしい」と思っていますので、そのような精神状態の中、加害者からの示談申し入れは、神経を逆なでする行為に等しいです。

実際に、弊所においても、「被害者が知人だったので示談を持ちかけたら、逆に相手を怒らせてしまったので、助けてほしい」という依頼をいただくことが多いです。

弁護士が間に入ることで、被害者も安心して示談に応じることができ、万が一法外な示談金を持ちかけられたとしても、法律を武器に冷静な交渉が可能になります。

逮捕回避や早期釈放を目指すなら、被害者との迅速な示談が不可欠ですので、自力交渉は避けて、早めに弁護士へ依頼することが大切です。

適切なアドバイスを受けられる

何が正解かも分からず闇雲に行動しては、徒労に終わる可能性が高いです。

また、「いつか逮捕されてしまうのだろうか」「いきなり警察が来たらどうしよう」と不安を抱えながら生活するのは、精神的負担も大きく、日常生活や仕事にも支障をきたします。

弁護士に相談いただければ、

  • ・抱えている悩みについて親身に相談
  • ・現状から考えられるリスクと回避案の提示
  • ・今後どのような行動に注意する必要があるのか
  • ・万が一逮捕された場合の流れ
  • ・逮捕後の取り調べを有利に進めるための方法 etc…

自分の悩みが解消されるだけでなく、今後どのような立ち回りをすべきかも明確になります。

“相談”というだけなら家族や友人でも可能ですが、“解決”となると、現場を知っている弁護士にしかできませんので、一人で悩まず、まずは気軽に相談してみましょう。

暴行罪・傷害罪の弁護はグラディアトル法律事務所へ

暴行罪・傷害罪の成立要件と格闘技経験の関係性について解説しました。

今回の記事をまとめますと、

  • ・暴行罪と傷害罪の成立には格闘技経験は関係ない。
  • ・格闘技経験者の行為は正当防衛が認められず、過剰防衛と判断される傾向がある。
  • ・格闘技経験者による暴行や傷害は量刑が重くなりやすい。
  • ・逃げてしまった後も示談できれば逮捕回避可能。被害者との連絡が困難なら弁護士に相談。
  • ・自力交渉難しければ弁護士に相談。示談が取りやすく、法的アドバイスも受けられる。

格闘技経験が暴行罪・傷害罪の成立要件にはならないとはいえ、“格闘技経験者であることを理由に”過剰防衛と判断される可能性はあります。

もし暴行・傷害事件を起こしてしまったら、被害者の安否を確認すると共に誠意を持った謝罪が大切ですが、その場から逃げてしまった場合は、速やかに示談をすることが、解決の一手になります。

「暴行・傷害事件を起こして逃げてしまった。どうしよう」「いつ逮捕されるか気が気じゃない」と悩む前に、まずは弁護士を頼ってください。

グラディアトル法律事務所は、初回相談無料(LINE相談可)24時間365日相談受付全国47都道府県対応できますので、お気軽にご連絡ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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