今回は、バーで知り合った女性にキスをしてしまい、不同意わいせつ罪の容疑で書類送検されてしまったものの、示談を成立させて不起訴となった事例を紹介し、あわせて解決のポイントを解説させていただきます。
お酒を飲んだ影響や感情の昂ぶりでつい気が緩み、自分が普段するはずのないような行為をしてしまったという経験がある方も多いのではないでしょうか。
そのような我を忘れた状態で過ちを犯してしまった場合、諦めて刑罰を受けるのを待つほかないのでしょうか。なんとか被害者の許しを得るなどして、やり直す機会を得ることはできないのでしょうか。
目次
【事件の概要 飲みの場での酔いと勘違いから、異性に対して無理やりボディタッチやキスをしてしまった】
ある日、ご依頼者は職場の飲み会に参加したのち、仲の良い同僚と数軒ほど飲み歩き、非常に酒に酔った状態でカラオケバーに入店しました。
ご依頼者は、そこで初めて会った女性と意気投合したと感じ、徐々に距離を近づけ、肩を組むなどのボディタッチを始めました。さらに、女性に受け入れられていると勘違いをしてしまったご依頼者は、女性へのボディタッチを繰り返し、別れ際にはキスをしてしまいました。
するとその後、「キスされた女性が泣いている。」と店員に呼び出され、そのまま警察を呼ばれてしまいました。
ご依頼者は、逮捕されることはありませんでしたが、警察での任意の取調べを数回受けることになり、事件は書類送検されることになりました。
実はご依頼者には妻子がおり、社会的に特に規律を求められるタイプの職に就いていました。もし起訴されてしまった場合、ご依頼者のその後の人生に大きな影響を及ぼすことは明らかでした。
そのためご依頼者は、被害者となった女性に謝罪をして示談を成立させ、どうにか不起訴になって事件を解決させたいと考えました。しかし、初対面の相手であったため、ご依頼者は連絡先を知らず、また連絡先を入手することも困難であり、示談の方法は全くわかりませんでした。
そこで、ご依頼者はインターネットで不同意わいせつ罪に関する事件に強い弁護士を探し、性犯罪にまつわる示談交渉について多数の実績がある弊所に相談することにしました。
【事件解決 70万円の慰謝料の支払いで示談成立!不起訴に!】
ご依頼を受けた弁護士は、ご依頼者に解決までの流れや示談金の相場等をお伝えしつつ、その意向を確認しました。
そして、弁護士は、事件を担当する検察官に連絡し、ご依頼者の示談希望の旨を伝えて、被害者の情報を弁護士限りで教えてほしいと頼みました。
その連絡を受けた検察官は、被害者の意向を確認した上で、ご依頼者に伝えないという条件で弁護士に被害者の連絡先を教えました。
まず弁護士は、ご依頼者が支払い可能と述べた金額を被害者に提示しましたが、被害者も独自に示談金の相場を調べていた様子で、その金額で納得していただくことはできませんでした。
そこで、弁護士はご依頼者の現実的な支払い能力などを考慮しつつ、なるべく低い金額で、さらに分割等を許してもらうという方針で交渉していくことにしました。
特に今回の事例においては、ご依頼者が強く示談を望んでいたため、弁護士は交渉が決裂しないよう細心の注意を払いつつ、粘り強く交渉を続けました。
また同時に、弁護士はご依頼者に謝罪文を書いてもらい、被害者へと送ることにしました。
交渉の結果、70万円の慰謝料を分割で支払うことで合意し、無事に示談が成立しました。
そして、示談の成立を確認した検察は、ご依頼者の事件について、不起訴にするとの判断を下しました。
不起訴になったことで、ご依頼者は無事に仕事を続けることができました。
少額とはいえない慰謝料の支払いは、ご依頼者の犯してしまった過ちについての重い代償となりましたが、人生を棒に振るまでには至らず、ご依頼者は再び社会人としての生活を取り戻すことができました。
不同意わいせつ罪の示談の重要性・示談金相場についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
不同意わいせつ罪の示談金相場は?示談交渉の流れと弁護士の必要性
【解説1 軽いボディタッチやキスでも不同意わいせつ罪が成立する?】
今回の事例のように、異性に受け入れられていると勘違いをし、酒の勢いを借りてボディタッチやキスをした場合、不同意わいせつ罪の要件を満たすといえるのでしょうか。また、不同意わいせつ罪が成立した場合、どのような刑を受けることになるのでしょうか。
そもそも、16歳以上の相手に対する不同意わいせつ罪は、基本的に①同意のない状態で、②わいせつな行為をすることで成立します。
まず、①同意のない状態について、不同意わいせつ罪を定めた刑法176条1項柱書は「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」と表現しています。そして同項各号は、この状態の原因となり得る行為・事由として、8つの行為・事由を例示しています。今回は、これらの行為・事由のうち、今回の事例と関連性がありそうな以下の行為・事由について解説します。
Ⅰ アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること(同項3号)
Ⅱ 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと(同項5号)。
今回の事例のように飲みの場での行為の場合、アルコールの影響についての3号に該当する可能性があります。
例えば、酩酊状態にある異性を送り届けるためタクシーに同乗し、走行中のタクシー内でわいせつ行為に及んだような事例(新潟地判令6年3月14日)では、同号を根拠に不同意わいせつ罪の成立を認めています。
ただし、同号の認定被害者が飲酒していたからといって直ちに同号の要件を満たすものではなく、相手方が飲酒の影響で「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」になっているといえるような酩酊状態の場合に初めて同号の適用があるといえます。
今回の事例において、被害者が酩酊していた影響でキス等を拒めない状態にあったとまではいえないとみると、3号ではなく、5号に該当し得ると判断された可能性があります。
法務省が公開しているQ&A(https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html)によれば、同号に当たる場合とは、「性的行為がされようとしていることに気付いてから、性的行為がされるまでの間に、その性的行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがない」場合をいうとされています。
今回の事例のように、急に一方的なボディタッチやキスをした場合には、相手は不意をつかれて拒否することができなかったとして同号に該当し得るといえます。
以上、条文に列挙された行為・事由のうち、今回の事例と関連性のありそうなものについて解説してきました。
もっとも、これらの列挙事由はあくまで例示であって、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」が認められるならば、各号の文言に厳密に当てはめることができない場合であっても、不同意わいせつ罪は成立し得ることに注意が必要です。
次に、②わいせつな行為をすることについて解説します。判例は「わいせつ」とは「徒らに性慾を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいうとしています。
この「わいせつ」の解釈については、公然わいせつ罪の場合との違いに注意が必要です。公然わいせつ罪は社会の性的風俗に対する罪とされるところ、社会的な風俗・慣習を基準にわいせつ性が判断されます。そのため、現代のわが国において、人前でキスをする行為や着衣の相手方への服を乱すことのない簡単なボディタッチが、同罪にいう「わいせつ」な行為と判断されることは、まず考えにくいところです。
一方で、不同意わいせつ罪は被害者の性的自由に対する罪とされるところ、被害者の同意なくキスをする行為や着衣の相手方にボディタッチをする行為は、その程度にもよりますが、同罪にいう「わいせつ」な行為に当たり得るということになります。
そのため、今回の事例のようなキスやボディタッチも、不同意わいせつ罪との関係では「わいせつ」な行為に当たることがあるといえます。
したがって、今回の事例におけるキスやボディタッチは①同意のない状態における、②わいせつな行為に当たり得るものといえ、同罪の要件を満たし得る行為といえます。
そして、不同意わいせつ罪の刑罰は「6月以上10年以下の拘禁刑(2025年6月の改正法施行日までは懲役)」と定められています。罰金刑がなく、起訴されて有罪となった場合は必ず自由刑(身体の自由を制限する刑)になるのが特徴です。
不同意わいせつ罪とは?構成要件と強制わいせつ罪との違いを解説
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【解説2 酔っぱらってしまってついつい…で許される?】
今回の事例は、酒に酔った勢いで、つい普段しないような行為をしてしまい、それが罪に問われたというものでした。
今回の事例のように、記憶もあいまいなほどに酔っぱらっていたという場合、犯罪の成立が否定されないのでしょうか。
確かに、極度の酩酊状態にあり、心神喪失や心神耗弱の状態に至っていたと判断されるような場合には、犯罪の成立が否定され、もしくは刑が減軽されることもあります。
少し難しい表現にはなりますが、心神喪失とは、「自己の行為の是非善悪を弁別する能力を欠くか、又はその能力はあるがこれに従って行動する能力がない者」を言い、心神耗弱とは「このような弁別能力又は弁別に従って行動する能力の著しく低い者」を言います。
逆に言えば、自己の判断や行為をまったく制御することができないような極度の酩酊状態でない限り、その状態における行為には犯罪が成立し得るといえます。
また、実際に犯罪行為をした際には完全に酩酊していたとしても、酩酊前にお酒の力を借りて犯罪行為をしようと考え、実際にそのような行為をしたような場合には、完全な責任が認められることがあります。
以上のように、酒を飲んで普段の自分ならするはずのない行為をしてしまったというのは、多くの場合犯罪を否定する理由にはなりません。仮に起訴されて有罪となった場合には、より多くの代償を払うことになります。
今回の事例のように、かなり酒に酔ってつい過ちを犯してしまったような場合も、基本的に変わらぬ刑事手続で処理されていくことになります。事件の解決のためには、自分の行為に真摯に向き合い、速やかに正しい対応をすることが重要になってきます。
【解説3 不同意わいせつ罪の容疑がかけられている場合、示談すべき?その方法は?】
今回の事例は、被害者との示談の成立が事件解決の大きなカギとなりました。
示談の成立は、刑を受けることを回避するにあたって、どのような意味をもつのでしょうか。また、示談を成立させるためには、どのような対応をするべきなのでしょうか。
《示談を成立させる意味》
先ほど述べたように、不同意わいせつ罪には罰金刑が存在しませんので、起訴され有罪となると自由刑が科されることになります。現在のわが国では、起訴されてしまった場合かなりの高確率で有罪とされるため、このような重い刑罰を受けることになってしまいます。そのため、不起訴になることが非常に重要になってきます。
そして、先ほど述べたように、不同意わいせつ罪は被害者の性的自由に対する罪とされ、被害者の処罰感情が重視されます。
そのため、示談が成立している場合、検察官は当事者の意思を尊重し、不起訴との判断をすることが多くなります。
今回の事例でも、検察は被害者との示談の成立を重視し、示談の成立を確認した時点で不起訴にするとの決定を下しました。
また、今回の事例のように在宅で捜査がなされている場合は関係ありませんが、示談が成立すると、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれが減退したとみられ、逮捕・勾留といった身体拘束から解放される可能性が高まります。
《示談の方法》
不同意わいせつ罪の中でも、今回の事例のように相手方の情報をほとんど知らない場合、自ら連絡先を知ることは困難です。警察や検察が加害者に対して被害者の連絡先を教えることもほとんど考えられません。
一方、今回の事例のように弁護士を代理人につけることで、被害者の了承の上、加害者に知らせないことを条件に、連絡先を教えてくれることがあります。
このような場合には、弁護士が窓口となって示談交渉を進めることができます。
また、自ら連絡先を知っている場合でも、自ら示談交渉をしてしまうと、被害者やその家族の感情を逆撫でし、示談交渉自体が決裂してしまうおそれがあります。
このような場合、第三者である弁護士が交渉を行うことで、スムーズに交渉を進めることができます。
さらに、加害者が自ら交渉を行った場合、被害者が感情的になってしまい、不当に高額な請求をしてくることがあります。
このような場合には、性犯罪の示談交渉の経験が豊富な弁護士に交渉を依頼することで、被害者へのスムーズかつ効果的な謝罪を実現しつつ、相場や事案の特徴を考慮して妥当な条件での示談を実現することができます。
また、弁護士が示談書を作成することで、事件の蒸し返しなどの不測の事態を事前に予防することもできます。
不同意わいせつに強い弁護士の見極め方と弁護活動のポイントを解説
【まとめ】
今回は、飲みの場での酔いと勘違いから不同意わいせつ罪に当たり得る行為をしてしまったものの、示談の甲斐あって不起訴になることができたという事例を紹介してきました。
つい我を忘れて過ちを犯してしまうということは誰にでもあり得ることかと思われますが、それによって人生を棒に振ることになるか否かは、その後の対応にかかっています。
不同意わいせつ罪の容疑をかけられて困っているという場合、不同意わいせつをはじめとする刑事事件の示談に強い弁護士に速やかに助けを求めることで、その事件の影響を最小限に抑えることができます。
弊所所属の弁護士は、不同意わいせつをはじめとする刑事事件の示談についての豊富な経験をいかし、精力的に弁護活動を行っていきます。
不同意わいせつ罪等の容疑をかけられてしまいお困りの方は、ぜひ一度弊所にご連絡ください。