暴行罪・傷害罪での正当防衛の成立要件や判例・過剰防衛との違いを解説

暴行罪・傷害罪での正当防衛の成立要件や判例・過剰防衛との違いを解説
弁護士 若林翔
2024年08月19日更新

一定の要件を満たしている場合は、相手を殴ったり、押し倒したりしても正当防衛が成立し、暴行罪や傷害罪の罪に問われることはありません。

しかし、自分自身が暴行した側の立場になると、「本当に正当防衛を認めてもらえるのか」「暴行罪や傷害罪で処罰されるのではないか」と不安に感じてしまうものです。

実際、正当防衛が成立するかどうかの判断が難しいケースも数多くあります。

そのため、刑事事件を得意とする弁護士と相談しながら、慎重に事件を解決していくことが重要です。

本記事では、暴行罪・傷害罪での正当防衛の成立要件や判例、過剰防衛との違いなどを解説します。

正当防衛の成否が不明な場合にやるべきことも紹介するので、少しでも逮捕や起訴の可能性を下げたい方は参考にしてみてください。

正当防衛が認められると暴行罪・傷害罪の罪には問われない

他人に対して暴行を加えたとしても、正当防衛が認められた場合は暴行罪や傷害罪の罪に問われません。

正当防衛にあたる行為は違法性が否定されるため、犯罪は成立しないのです。

通常、暴行を加えた結果、相手がケガをすれば傷害罪、ケガをしなければ暴行罪が成立します。

しかし、正当防衛の要件を満たしていれば、相手を突き飛ばしたり、殴って骨を負ったりしても、そもそも違法性がないので処罰されることはありません。

ただし、正当防衛は簡単に認められるものではないうえ、やり過ぎた場合には「過剰防衛」とみなされることもあります。

正当防衛にあたるかどうかを素人が判断するのは難しいため、まずは弁護士に相談することが大切です。

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正当防衛の成否が争われやすい暴行・傷害事件の事例

次に、正当防衛の成否が争われることの多い暴行・傷害事件の事例を3つ紹介します。

正当防衛の成否が争われることの多い暴行・傷害事件の事例

胸倉をつかまれて殴り返した場合

単に胸倉をつかまれただけで殴り返した場合は、正当防衛にならない可能性が高いといえます。

もちろんケースバイケースですが、「防衛の必要性」や「防衛行為の相当性」といった正当防衛の成立要件を満たさないと考えられるためです。

ただし、胸倉をつかんだあとに相手が殴ろうとしていたことが明らかだった場合などは、正当防衛が認められるかもしれません。

また、状況次第では過剰防衛とみなされることもあるでしょう。

正当防衛の成否は個々のケースごとに異なるため、判断に迷う場合はまず弁護士に相談してください。

喧嘩で相手を殴った場合

喧嘩で相手を殴った場合、よほどの理由がない限り正当防衛は認められにくく、傷害罪や暴行罪の罪に問われるおそれがあります。

喧嘩では、お互いが攻撃と防御を繰り返すケースが一般的です。

そのため、最初の攻撃に対する反撃には正当防衛の余地があるともいえますが、その後は「急迫不正の侵害」や「防衛の意思」などの要件を欠いていると考えられます。

また、喧嘩は双方に責任があるので、喧嘩両成敗として正当防衛は基本的に認められません。

ただし、突然刃物を持ち出した相手に反撃した場合や、いったん喧嘩が収まったあとの攻撃に反撃した場合などは、正当防衛が成立する可能性があります。

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格闘技経験者や武道の有段者が反撃した場合

格闘技経験者や武道の有段者が反撃した場合は、一般的に正当防衛が認められにくい傾向にあります。

たとえば、殴りかかってくる相手に対して回避を続けていたものの、埒が明かないと感じてカウンターをいれたとします。

この場合、「格闘技の経験があれば、そのまま防御・回避し続けることもできたはずなのに、殴ったのはやりすぎ」と判断されることがあるのです。

つまり、正当防衛は成立せず、過剰防衛になる可能性が出てきます。

また、格闘技経験者や武道の有段者が暴行罪や傷害罪の罪に問われた場合は、量刑も重くなりやすい点に注意しておきましょう。

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過剰防衛なら暴行罪・傷害罪は成立するが刑の減軽や免除が期待できる

正当防衛ではなく過剰防衛と判断された場合には、暴行罪・傷害罪が成立するものの、刑の軽減や免除が期待できます。

過剰防衛とは、正当防衛の成立要件を一部満たしているものの、防衛の程度を超えてしまった行為のことを指します。

過剰防衛が成立するケース

たとえば、自身の身に危険が及ぶ状況のなかで、本来であれば相手を押し倒すだけで回避できたにも関わらず、馬乗りになって殴り続けたようなケースなどでは過剰防衛とみなされる可能性があるでしょう。

過剰防衛では、暴行罪や傷害罪の罪自体は成立します。

しかし、一定の考慮がなされるため、単なる暴行・傷害行為と比べて懲役期間が短くなったり、罰金の金額が小さくなったりすることがあります。

正当防衛が認められるための要件

正当防衛には4つの成立要件があり、ひとつでも満たしていない場合には、暴行罪・傷害罪に問われる可能性があります。

正当防衛が成立するケース

一つひとつの要件を詳しく解説するので、自身の状況を振り返りながら読み進めてみてください。

急迫不正の侵害があること

正当防衛が認められるための要件のひとつは、「急迫不正の侵害があること」です。

「急迫不正の侵害」とは、違法な行為によって自身の身体や財産が侵害されそうな状況、または、実際に侵害されている状況のことを指します。

具体例としては、口論になった相手が今にも殴ってきそうな場合や、実際に殴られている場合などが挙げられるでしょう。

一方で、殴られて一度逃げた後に反撃したり、漠然と脅威を感じたからという理由で殴ったりした場合には要件を満たしません。

防衛の意思があること

「防衛の意思があること」も、正当防衛が認められるための要件のひとつです。

「防衛の意思」とは、自身の身体や財産を守ろうとする意思のことを指します。

たとえば、相手が殴りかかってきたため、ケガをしないようにとっさに押し倒した場合などは、要件を満たしているといえるでしょう。

一方で、単なる報復や制裁のために相手を殴ったようなケースでは、防衛の意思があったとは認められません。

防衛の必要性があること

正当防衛が認められるためには、「防衛の必要性があること」も要件のひとつとされています。

「防衛の必要性」とは、身体や財産への侵害行為を避ける手段がほかになく、やむを得ず防衛行為に及んだ状況のことを指します。

たとえば、深夜に人気のない場所で強盗に襲われ、逃げることも助けを求めることできない状況で、自分の身を守るために反撃した場合などは、防衛の必要性があったといえるでしょう。

一方、走って逃げるなどの選択肢があったにも関わらず、すぐに相手を殴った場合などでは要件を満たさないので、正当防衛にはなりません。

防衛行為の相当性があること

「防衛行為の相当性があること」も、正当防衛の成立要件として挙げられます。

「防衛行為の相当性」とは、侵害の程度に見合った反応であるかどうかを意味します。

たとえば、素手で殴られそうになった際に、相手を軽く押し返した場合には防衛行為の相当性が認められるでしょう。

しかし、刃物を使って相手を刺した場合は、防衛行為が過剰だったと判断される可能性が高いです。

なお、先述したとおり、4つの要件のうち「防衛行為の相当性」だけが満たされていない行為は過剰防衛に該当します。

暴行・傷害事件で正当防衛の成否が問われた判例

次に、暴行・傷害事件で正当防衛の成否が問われた判例を3つ紹介します。

正当防衛が認められ無罪になったケース

正当防衛が認められ無罪になったケース

【事件の概要】

1. A(76歳)とB(47歳)は金銭トラブルが原因となり言い争いになった

2. BはAに対して殴る・蹴るの暴行を加えた

3. Bは「ぼこぼこにする」「今日はもう許さん」などと発言していた

4. Aは暴行を受けて1~2分うずくまったあと、背を向けるBの頭部をハンマーで殴打した

(札幌地判平成30年12月3日判決)

本事案では、Bが背を向けていたことから「急迫不正の侵害」がなかったのではないか、ハンマーを使った暴行は「防衛行為の相当性」を欠くのではないかといった点が争われました。

結果として、Bは背を向けていたとはいえ攻撃の意思を示していたことや、年齢・体格的に劣るAがハンマーを使用するのはやむを得なかったことなどから、正当防衛が認められました

一部の暴行にのみ正当防衛が認められたケース

一部の暴行にのみ正当防衛が認められたケース

【事件の概要】

1. BはAに因縁をつけて、ひざや足で数回蹴りを入れた

2. AはBを蹴り返し、顔面を殴打した

3. Bはアルミ製灰皿を投げつけたが、Aはそれをかわし、Bの顔面を殴打した(第1暴行)

4. Bは後頭部を地面に打ちつけて動かなくなった

5. AはBが動かなくなったことを認識したうえで、腹部に蹴りを入れた(第2暴行)

6. Bは病院に搬送され、Aに殴打されたこと(第1暴行)によるクモ膜下出血で死亡した

(最高裁平成20年6月25日判決)

第1審判決では、Aの一連の暴行は過剰防衛であり、傷害致死罪が成立するとされました。

しかし、第2審では、Aの暴行を当初の揉み合い時における「第1暴行」と、Bが気を失ったあとの「第2暴行」に分けたうえで、第1暴行の正当防衛を認めたのです。

その結果、Aは傷害致死罪ではなく、第2暴行による傷害罪の罪で処罰されることになり、刑罰も大きく軽減されました。

正当防衛が否定され傷害罪で処罰されたケース

正当防衛が否定され傷害罪で処罰されたケース

【事件の概要】

1. Bはごみ捨てをしていたAを不審に感じ、声を掛けた

2. 両者は言い争いになり、AがいきなりBの顔を殴打して立ち去った

3. Bは自転車で追いかけ、Aの首・背中付近を殴打した

4. Aは護身用の警棒を取り出し、Bを複数回殴打した

(最高裁平成20年5月20日判決)

本事案では、Aの行為が正当防衛にあたるかどうかが論点となりました。

判決では、Aが先立って暴行を加えて自ら侵害を招いていることから、正当防衛を否定し、傷害罪の成立を認めています。

正当防衛の成否が不明で逮捕・起訴のおそれがある場合にやるべきこと

ここからは、正当防衛の成否が不明で逮捕・起訴のおそれがある場合にやるべきことを解説します。

正当防衛の成否が不明で逮捕・起訴のおそれがある場合にやるべきこと

主に3つのポイントがあるので、一つひとつ詳しく見ていきましょう。

当時の状況を詳細に整理して捜査機関に説明する

正当防衛の成否が不明で逮捕・起訴のおそれがある場合には、当時の状況を詳細に整理して捜査機関に説明しましょう。

正当防衛が成立するかどうかは、事件が発生した経緯や双方の意思など、さまざまな要素をもとに判断されます。

そのため、正当防衛を主張するのであれば、捜査機関を納得させられるだけの情報をできるだけ多く提供しなければなりません。

たとえば、自宅に強盗が押し入ってきた際に、自分の身を守るために反撃したのであれば、強盗の行動とそれに対する自分自身の反応、ほかに取り得る手段がなかったことなどを具体的に説明し、正当防衛といえる行為だったと主張する必要があります。

また、自身の主張を裏づける証拠を提出することも大切です。

防犯カメラの映像や目撃者の証言などによって、先述した4つの要件を満たしていることを証明できれば、正当防衛が認められる可能性は高くなるでしょう。

被害者との示談を検討する

逮捕・起訴のおそれがある場合は、被害者との示談も検討してみてください。

示談が成立すれば、相手が被害届や告訴状の提出を踏みとどまり、事件化する前に解決できることがあります。

また、事件化したとしても、示談を成立させて和解していることを示せば、捜査機関が逮捕や起訴の判断をする可能性は格段に低くなるでしょう。

正当防衛の成否が問題となっているケースでは、多くの場合、相手にも落ち度があるので、少額の示談金で話し合いがまとまることも少なくありません。

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できるだけ早く弁護士に相談する

正当防衛の成否が不明で逮捕・起訴のおそれがある場合は、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。

弁護士に相談すれば、正当防衛が成立するかどうかを的確に判断したうえで、今後やるべきことをアドバイスしてもらえます。

また、証拠の収集や捜査機関への働きかけなどを進めてもらうことで、正当防衛が認められ、逮捕・起訴を回避できる可能性が高まります。

被害者に示談を申し入れる場合でも、交渉のプロである弁護士に任せれば、スムーズに話し合いをまとめてくれるはずです。

暴行・傷害事件に関与してしまった場合はグラディアトル法律事務所に相談を

暴行・傷害事件に関与してしまった場合は、弁護士に相談することを最優先に考えてください。

確かに正当防衛が認められると、罪に問われることはありません。

しかし、正当防衛が成立するかどうかは、さまざまな要素を考慮する必要があります。

素人判断で正当防衛が成立するものと勘違いし、事件を放置していると、思いもかけず逮捕・起訴されてしまう可能性があります。

そのため、まずは弁護士に相談し、正当防衛の成否と今後やるべきことについて助言を受けることが重要です。

実際にグラディアトル法律事務所では、多数の暴行・傷害事件を解決してきた実績があります。

24時間365日対応可能、初回相談には無料で対応しているので、まずはお気軽にご連絡ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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