傷害事件を起こしてしまった場合、初犯であるかどうかによって量刑の判断は大きく左右されます。
そのため、実際の判例ではどのような判決が下されているのか、気になっている方も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、初犯に対する処分は軽くなるケースが一般的です。
しかし、必ずしも懲役刑を回避できたり、執行猶予がついたりするわけではないので、できるだけ早く弁護士に相談することを心がけましょう。
本記事では、傷害罪の初犯を扱った判例を6つ紹介します。
不起訴や減刑を実現させるためにやるべきことなども解説するため、ぜひ最後まで目を通してみてください。
目次
傷害罪の初犯での判例6選
まずは、傷害罪の初犯を扱った判例を6つ紹介します。
自身のケースと状況が似ている場合には、近しい判決が下される可能性もあるので参考にしてみてください。
上司を包丁で刺して実刑(懲役)となった判例
【事案の概要】
①ホストクラブで勤務する加害者は、酒癖が悪く、上司から注意されることも多かった ②事件当日も酒に酔って店のルールを破ったため、上司から注意を受けた ③加害者はスーパーで包丁を購入したあと店に戻り、上司の骨盤近くを刺した ④殺人未遂の現行犯として逮捕されたが、殺意があったとは認定されなかったため、結果として傷害罪の罪に問われた |
(札幌地判令和4年5月25日判決)
本事案では、加害者に対して懲役2年の実刑判決が下されました。
加害者は被害弁償として180万円を支払い、実家で親族の監督に服することを約束するなど反省の意思も示していましたが、主に以下の点がポイントとなり、実刑判決に至ったと考えられます。
- ・動機が逆恨みという短絡的なものであった
- ・わざわざ包丁を購入して犯行に及ぶという悪質性があった
- ・飲酒していたとはいえ通常の判断能力はあった
たとえ初犯であっても、ケガの程度が重大であり、悪質性が高いようなケースでは、実刑判決となるケースも少なくありません。
ストーカー行為により精神的被害を与えて実刑(懲役)となった判例
【事案の概要】
①加害者は好意を寄せる職場の上司に対し、数十回にわたってメールを送りつけた ②メールを拒否されたことを理由に、以下のようなストーカー行為に及んだ
③被害者は適応障害及びうつ病性障害を発症し、加害者は傷害罪の罪に問われた |
(神戸地判平成21年4月17日判決)
本事案では、加害者に対して懲役2年の実刑判決が下されました。
捜査の過程において、加害者は各犯行を素直に認め、30万円を寄附するなど反省の態度を示していました。
しかし、独りよがりな動機に基づく犯行は悪質であり、長期間にわたる通院・治療が必要な状態に陥らせるなど結果も重大であったため、実刑判決に至ったものと考えられます。
なお、本事案のように精神的被害を与えたケースのほか、「騒音で睡眠障害を引き起こした」「性病を移した」といったケースなど、殴る蹴るといった行為以外でも傷害罪が成立し得ることを覚えておきましょう。
うつ病にさせるなど物理的な暴行以外の行為で、うつ病にさせるなど、精神的被害を与えたケースでの傷害罪の成立等についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
自宅近くで犬を散歩させていた男性への暴行で略式起訴(罰金刑)となった判例
【事案の概要】
①男性が犬を散歩させている途中、加害者の自宅付近にある空き地に立ち入った ②加害者は「他人の土地に入るのは犯罪」と声をかけた ③加害者はその場を立ち去ろうとした男性を地面に押し倒す、頭部を締め付けるなどの暴行を加えた ③男性は頸椎のねん挫など約2週間のケガを負い、加害者は傷害罪の罪に問われた |
(参照:熊本県警の男性警察官が近隣住民に暴行 傷害罪で罰金の略式命令|朝日新聞)
本事案では、加害者に対して罰金30万円の略式命令が下されました。
前科前歴がなく、傷害の程度も軽傷といえるものであれば、本事案のように罰金の略式命令となるケースも少なくありません。
とはいえ、個々の事案によって処分の内容は異なるため、少しでも不起訴や減刑を望むのであれば、即座に対処することが重要です。
妻への暴行で略式起訴(罰金刑)となった判例
【事案の概要】
①加害者は自宅で飲酒中、妻から投げかけられた言葉に腹を立てた ②妻の胸倉を掴んで振り回す、頭を床に打ちつける、顔を殴るなどの暴行を加えた ③妻はケガを負い、加害者は傷害罪の罪に問われた |
(参照:妻への傷害で罰金刑の鳥取市議に辞職勧告決議 本人は市議会を欠席|朝日新聞)
本事案では、加害者に対して罰金50万円の略式命令が下されました。
配偶者への暴力はDVという言葉に置き換えられることも多いですが、犯罪にもなり得る行為です。
初犯の場合でも、本事案のように50万円という比較的高額な罰金が科せられたり、懲役の実刑判決を受ける可能性があります。
DVと傷害罪・暴行罪についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
同じマンションに住む子どもをハンマーで殴って執行猶予付き判決となった判例
【事案の概要】
①加害者はマンションのほかの部屋から騒音がしていると思い込み、腹を立てた ②加害者は部屋に乗り込み、とっさに布団に潜った子どもを金属製ハンマーで殴打した ③子どもは後頭部打撲など約2週間のケガを負い、加害者は傷害罪の罪に問われた |
(名古屋地判平成30年7月11日判決)
本事案では、加害者に対して懲役1年6月、執行猶予3年の判決が下されました。
布団の上からとはいえ、無抵抗の子どもを凶器で殴打することは極めて悪質であり、精神的被害も無視できるものではありません。
しかし、100万円の被害弁償をしたうえで二度と接触しないことを誓約したほか、被害者側が寛大な処分を求めたこともあり、本事案では執行猶予が付けられています。
また、加害者に前科・前歴がなかったことも、執行猶予による更正の機会を得られた大きな要因になったといえるでしょう。
電車内での暴行で執行猶予付き判決となった判例
【事案の概要】
①女性が電車内で通話をしていた ②加害者は女性の携帯電話を払いのけ、頭部を殴打し、右足に蹴りを入れた ③女性は頭部外傷など約1週間のケガを負い、加害者は傷害罪の罪に問われた |
(神戸地判平成16年4月19日判決)
本事案では、加害者に対して懲役10ヶ月、執行猶予3年の判決が下されました。
加害者は犯行を否認し、反省の態度も見られないなど、酌量の余地はほとんどありませんでした。
しかし、1週間程度の軽傷にとどまっていることや初犯であることなどが考慮され、執行猶予付き判決に至ったものと考えられます。
傷害罪の初犯に対する処分の傾向
次に、傷害罪の初犯に対する処分の傾向を解説します。
状況次第ではありますが、初犯であることは起訴・不起訴や量刑の判断において有利に働くケースが一般的です。
起訴・不起訴|不起訴処分を獲得しやすい
初犯は再犯の場合と比較して、不起訴処分を獲得しやすい特徴があります。
初犯であれば同じ犯罪を繰り返す可能性が低く、社会復帰の機会を与えるべきだと判断される傾向があるためです。
実際に前科・前歴がないことが考慮され、不起訴処分とされている事例も数多く存在します。
ただし、事件の内容次第では、初犯だからといって必ずしも不起訴になるわけではありません。
相手が重傷を負っている場合や被害者との示談が成立していない場合などは、初犯でも起訴されるケースはあります。
刑罰|減刑や執行猶予付き判決になる可能性が高い
傷害罪の初犯であれば、減刑や執行猶予付きの判決になる可能性が高いといえるでしょう。
初犯の場合は十分な反省が期待でき、更生の可能性も高いことから、重い刑罰が避けられる傾向にあります。
実際に、傷害の程度が重い場合や悪質性が極めて高い場合などを除いて、傷害罪の初犯で懲役の実刑が下されるようなケースは多くありません。
仮釈放|初犯かどうかは大きく影響しない
仮釈放の可否に関しては、初犯かどうかは大きく影響しません。
仮釈放を認めるかどうかは、基本的に刑務所内での態度をもとに判断されるためです。
たとえ再犯で服役していたとしても、十分に反省し、受刑態度が良好であれば、仮釈放される可能性は十分あります。
ただし、初犯であることがまったく考慮されないわけではありません。
初犯の場合は再犯の可能性が低いため、常習犯などと比較すると仮釈放が認められる可能性は高いといえます。
【注意】傷害罪の初犯でも実刑に処される可能性はある
傷害罪の罪に問われた場合、初犯でも実刑に処される可能性はあります。
初犯であることが量刑の判断において有利に働くのは確かですが、さまざまな事情が考慮されるなかでの、ひとつの要素にしか過ぎません。
たとえば、以下のようなケースに該当する場合は、実刑に処されることがあります。
傷害の結果や犯行の悪質性については、あとから変えることはできません。
少しでも実刑の回避を望むのであれば、被害者に対して反省の気持ちを示し、示談を成立させることが大切です。
初犯で傷害事件を起こしたときにやるべきこと
ここでは、傷害事件を起こしたときにやるべきことを2つ紹介します。
上述のとおり、初犯であっても重たい刑罰に処される可能性はあるので、不起訴や減刑に向けて迅速に対処することを心がけましょう。
被害者との示談を成立させる
初犯で傷害事件を起こした場合は、被害者との示談を成立させることが何よりも重要です。
反省の態度を示し、示談を成立させることができれば、被害者の処罰感情を抑えられます。
結果として、被害者が被害届の提出や告訴を踏みとどまり、事件化する前に解決できることがあるのです。
また、事件化してしまった場合でも、示談が成立していることを理由に不起訴となったり、減刑されたりする可能性も十分あります。
ただし、加害者が直接、示談交渉をおこなうのはおすすめしません。
被害者が応じるとは考えにくく、交渉に進めたとしても、高額な示談金を求められるおそれがあります。
そのため、示談に関することは、弁護士に一任するのが賢明な判断といえるでしょう。
できるだけ早く弁護士に相談する
初犯で傷害事件を起こした場合には、できるだけ早く弁護士に相談してください。
弁護士に相談すれば、関係法律や過去の事例をもとに個々のケースにあわせた最善の対応策を提案してくれます。
また、被害者との示談交渉や捜査機関への働きかけもおこなってくれるため、逮捕・起訴を回避したり、減刑されたりする可能性が格段に高まります。
実際にグラディアトル法律事務所では、これまでに数多くの傷害事件を解決してきました。
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傷害事件を起こしたときはグラディアトル法律事務所に相談を
傷害罪の罪に問われた場合、初犯であるかどうかは、起訴・不起訴や量刑の判断に大きな影響を与えます。
ケガの程度が軽い場合などでは、初犯であることが考慮され、不起訴となったり、執行猶予付きの判決が下されたりするケースも少なくありません。
一方で、重大な結果を招いた場合や犯行の悪質性が高い場合などは、初犯でも実刑判決となる可能性があります。
そのため、初犯だからといって安心せずに、できるだけ早く弁護士へ相談し、今後の対応について助言を求めるようにしましょう。
また、示談交渉や捜査機関への働きかけをおこなってもらえば、自身にとって有利な結果につながりやすくなります。
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