痴漢・強制わいせつ(不同意わいせつ)致傷罪で逮捕|示談成立で執行猶予となった事例

弁護士 若林翔
2024年04月22日更新

今回は、弊所で受任した刑事事件の中から、強制わいせつ致傷罪(現:不同意わいせつ致傷罪)で逮捕されたものの、大阪府の条例違反及び傷害で起訴され、執行猶予付きの判決を受けることができた事例についてご紹介させていただき、併せて解決までのポイントなどを解説しようと思います。

事例の概要①|路上痴漢で任意同行

ご依頼者は大阪府在住の20代の男性で、普段はアルバイトをしながら専門学校に通っていました。

ある日、ご依頼者は路上で痴漢をした疑いがあるとして警察に任意同行を求められました。警察の話では、依頼者が夜道を歩く女性に対して後ろから抱きつき、服の上からその女性の臀部に触れたとのことでした(第1事件)。

ご依頼者は、当時飲酒をして酔っていたためよく覚えていませんでしたが、防犯カメラの映像から自分の犯行であると思い、犯行を認めました。ご依頼者はその日に逮捕されることはありませんでしたが、警察から今後も捜査は続くと告げられました。

ご依頼者は今後の捜査にどのように対応してよいかわからず、被害者と示談しようにもその方法がわからなかったため、刑事事件を多数取り扱っている弊所にご相談いただきました。弁護士は今後の刑事事件の流れを説明し、示談の重要性を説明しました。

事例の概要②|痴漢後に被害者が怪我をして強制わいせつ致傷罪で逮捕

また、上記の件についてご依頼いただいた後、ご依頼者は別件でも同様の痴漢行為をしており、その際には強引に抱きついたことで女性を転倒させ、負傷させていたことが判明しました(第2事件)。

そして、ご依頼者は第2事件について、強制わいせつ致傷罪の被疑事実で逮捕されることとなってしまいました。ご依頼者の希望により、第2事件についても弊所が受任して弁護活動を行っていくことになりました。

解決までの道のり|弁護士による示談交渉・示談成立

弁護士はご依頼者からの継続的な弁護の要請を受けて直ちに接見に向かい、バイト先や学校へ連絡してほしいことを聴取し、ご依頼者の母親に連絡しました。

そして、ご依頼者やその母親と話し合いの末、2つの事件について示談を進めていくことに決めました。また、並行して母親に身元引受書を書いてもらい、申立てを行うなどして、ご依頼者の身体拘束からの解放に向けて精力的に取り組みました。

そして、弁護士の交渉の結果、宥恕文言(犯罪行為を許し、刑事処罰を求めないという文言)を含む示談書を2件の被害者双方と結ぶことができました。

その後、検察は2件の事件を大阪府の迷惑防止条例違反と同条例違反及び傷害の罪名で起訴し、執行猶予なしの懲役1年6ヶ月の求刑をしました。

一方、弁護士は各被害者との示談書を証拠として提出し、ご依頼者の反省状況や再犯防止策等について主張しました。

 

結果|執行猶予判決

結果、ご依頼者は懲役1年2ヶ月、執行猶予3年の判決を受けました。

解決のポイント|痴漢は強制わいせつ致傷という重罪になることも

本件のご依頼者は、強制わいせつ致傷罪の容疑で逮捕されましたが、同罪は法定刑が無期又は3年以上の懲役刑という非常に重い犯罪です。

不同意わいせつ致傷罪と罪名が変わった現在も同様の重い刑罰が定められています。このような厳罰の容疑がかかった今回の事例において、どのような点が執行猶予付きの判決につながったのでしょうか。

そもそも、起訴・不起訴の判断、起訴内容の判断、求刑の判断、量刑の判断など、処罰内容が確定するまでには検察官・裁判官による複数の裁量的な判断が介在することになります。そして、弁護士はご依頼者に有利な判断がなされるために必要な事実を適宜主張していくことになります。

まず、被害者との間で示談を成立させることは非常に重要です。性犯罪は一般に性的自由に対する罪と呼ばれ、被害者の自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為を処罰するものです。もちろん、事後的に許しを得たからといって当時の性的自由に対する侵害が否定されるわけではありませんが、被害者が許すという意思を示していることにより処罰の必要性は低下すると考えられます。そのため、被害者の処罰意思の有無はその量刑等の判断において重視されます。

今回の事例においても、宥恕文言を含んだ示談書を証拠として示すことができた点は、ご依頼者の処罰内容の決定に有利にはたらいたと考えられます。

また、検察官は犯人の改善、更生並びに社会秩序の維持を考慮して求刑するとされているところ、被害者との示談が済んでいるからといって処罰の必要性が失われるものではありません。特に再犯率が高いとされ、社会の秩序維持にも関連する犯罪である性犯罪については、犯人の反省の状況や再犯防止策の有無も重視されるものと考えられます。

今回の事例においては、ご依頼者が二度も同じような犯行をしていることや、二度目の方が悪質化してしまった点は、処罰内容の決定に不利にはたらいてしまったと考えられます。一方で、ご依頼者が自分の行為を素直に認めて反省・改善の意思を示していることや具体的な更生の方法を主張したことは、有利にはたらいたと考えられます。

今回の事例のように、強制わいせつ致傷罪で逮捕された場合でも、上記のようなご依頼者に有利な事実を主張し、適切な判断を繰り返し求めていくことで執行猶予付きの判決を得ることができる場合もあります。また、ご依頼者自身が適切な対応をするためにも、専門家のアドバイスは重要になってきます。

なお、今回の事例は強制わいせつ致傷罪の容疑がかけられたものでしたが、2023年7月13日以後の同様の事例には強制わいせつ致傷罪ではなく不同意わいせつ致傷罪の容疑がかけられると考えられます。

法務省のQ&A(https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html#Q2-1)によれば当該改正により処罰範囲が拡大されたとはいえないとされており、先に述べたように量刑もほぼ同様の定めとなっているため、これにより今回の事例と大きく異なることになるとはいえません。

ただし、要件が明確化されたことにより裁判官が同罪の要件該当性を判断しやすくなったことで、検察官が起訴しやすいなどの事実上の影響が生じることは考えられます。

 

最後に

性犯罪は重大な犯罪とされ、公的機関による追及も厳しくなるところ、そこからの社会復帰は容易ではありません。しかし、本件のように執行猶予付きの判決を得ることができれば、早くから更生への一歩を踏み出すことができます。

弊所の弁護士は刑事事件の豊富な経験を活用し、ご依頼者の少しでも早い社会復帰のために精力的に活動いたします。

刑事事件を起こしてしまい、捜査機関への対応や示談書の締結等について、どのようにしていけばよいのかわからず困っているという方は、ぜひ一度、弊所にご連絡ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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