痴漢で逮捕されたら解雇される?解雇を回避するための対処法を解説

痴漢で逮捕されたら解雇される?解雇を回避するための対処法を解説
弁護士 若林翔
2024年08月31日更新

「痴漢をしたことが会社に知られると解雇されてしまう?」

「痴漢で解雇される可能性の高いケース・低いケースとは?」

「痴漢で解雇されるのを回避するための対処法を知りたい」

会社員の方が痴漢行為をしてしまった場合、「会社から解雇されるのではないか」と不安になる方も多いでしょう。

痴漢は、犯罪行為ですので痴漢をしたことが会社にバレてしまうと解雇される可能性もあります。

しかし、解雇には厳しい規制がありますので、解雇の要件を満たしていない場合には不当解雇として争うことができるケースもあります。

痴漢をしてしまったという方は、どのようなケースで解雇される可能性があるのかをしっかりと押さえておくことが大切です。

本記事では、

・痴漢で解雇される可能性のある4つのケース

・痴漢で解雇される可能性の低い4つのケース

・痴漢をしたときに考えらえる解雇以外の処分

などについてわかりやすく解説します。

痴漢による不当解雇を争うには、弁護士のサポートが不可欠となりますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

痴漢で解雇される可能性のある4つのケース

痴漢をしたことを理由に解雇される可能性があるケースとしては、以下の4つが挙げられます。

痴漢で解雇される可能性のある4つのケース

痴漢により会社の信用を大きく毀損したケース

会社が従業員を解雇するには、就業規則で規定する懲戒事由に該当する必要があります。一般的な懲戒事由としては、「刑法その他刑罰法規に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなり会社の信用を害したとき」などの定めがありますので、これに該当している場合には、懲戒解雇が可能となります。

痴漢行為は、私生活上の犯罪ですのでそのことから直ちに会社の信用を害するとはいえません。しかし、痴漢事件で逮捕され、会社名がわかるような形でマスコミの報道がなされたような場合には、会社の信用を著しく害することになりますので、痴漢を理由として懲戒解雇をされる可能性があります。

業務中に痴漢をしたケース

通勤途中や休日の痴漢といった私生活上の痴漢行為ではなく、業務中に痴漢をしてしまうケースもあります。たとえば、職場内での痴漢行為や営業先に移動中の電車内で痴漢行為をするような場合です。

このような業務中の痴漢は、私生活上の痴漢に比べて企業秩序を乱しているといえますので懲戒解雇が認められやすくなります。

悪質性の高い痴漢であったケース

痴漢により成立する犯罪には、迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪の2種類があります。

痴漢行為の態様が以下のような悪質な態様であった場合には、不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。

・下着の中に手を入れて身体を触る行為

・衣服の上からでも執拗に身体を触り続ける行為

・相手の手をつかんで自分の性器を触らせる行為

・路上で突然抱きついて身体を触る行為

・泥酔して意識のない相手の胸を触る行為

不同意わいせつ罪に該当するような悪質な痴漢行為をした場合には、迷惑防止条例違反の痴漢に比べて懲戒解雇が認められやすくなります。

なお、不同意わいせつ罪に該当する痴漢行為の詳細については、こちらの記事をご参照ください。

公務員が痴漢をしたケース

公務員が痴漢をした場合、民間企業の労働者に比べて厳しい処分が下されます。

国家公務員法76条では、職員が禁錮以上の刑に処せられた場合には、執行猶予がついたとしても当然に失職すると定められており、地方公務員法28条でも同様の規定があります。

また、国家公務員法82条では、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合、懲戒処分として免職などができると定められており、地方公務員法29条でも同様の定めがあります。

なお、東京都では懲戒処分の指針として、公共の乗物等において痴漢行為をした職員は、免職または停職とすると定められています。

このように公務員が痴漢をすると免職となる可能性が高いといえるでしょう。

痴漢で解雇される可能性の低い4つのケース

懲戒解雇には厳格な要件が定められていますので、痴漢をしたからといって常に懲戒解雇が有効になるわけではありません。以下のようなケースについては、懲戒解雇の要件を満たさず、痴漢を理由に解雇される可能性は低いといえます。

痴漢で解雇される可能性の低い4つのケース

痴漢で逮捕されただけで刑が確定していないケース

痴漢で逮捕されたことを理由に懲戒解雇することは不当解雇にあたる可能性があります。

なぜなら、逮捕されたとしても、有罪判決が言い渡されるまでは無罪であると扱われるからです。

被害者との間で示談が成立すれば、不起訴(起訴猶予)となる可能性も十分にありますので、刑が確定していない間に懲戒解雇をされた場合には、不当解雇であるとして争っていくべきでしょう。

なお、痴漢により逮捕されたときの流れや対処法などについては、こちらの記事をご参照ください。

私生活上の痴漢であったケース

懲戒解雇は、企業秩序に違反する行為をした従業員に対する制裁として行われる処分です。痴漢が私生活上の犯罪行為であった場合、企業秩序に対する影響は比較的軽微といえますので、直ちに解雇をするのは違法となる可能性があります。

痴漢が事実であったとしても、私生活上の痴漢だったときは、プライベートで起きた犯罪行為であることを理由に懲戒解雇の有効性を争っていくとよいでしょう。

悪質性の低い痴漢であったケース

痴漢のうち、以下のような悪質性の低いものについては、不同意わいせつ罪ではなく迷惑防止条例違反となるのが一般的です。

・電車内で被害者の衣服の上から臀部を撫でる行為

・満員電車で自分の身体や股間を被害者に押し付ける行為

・路上ですれ違いざまに被害者の身体を触る行為

・公共の場所で承諾なくハグをする行為

懲戒解雇は、懲戒処分の中でももっとも重い処分になりますので、重大な企業秩序違反行為があった場合に限り認められます。痴漢が事実だったとしても、比較的軽微な迷惑防止条例違反の痴漢であった場合には、懲戒解雇は不相当であると判断される可能性があります。

なお、迷惑防止条例違反に該当する痴漢行為の詳細については、こちらの記事をご参照ください。

痴漢が冤罪であったケース

痴漢を理由に懲戒解雇をするためには、少なくとも痴漢をしたことが事実でなければなりません。痴漢で逮捕されたとしても、痴漢が冤罪であった場合には、痴漢をした事実はありませんので、そのことを理由に解雇することはできません。

痴漢を理由とした解雇の有効性が争われた判例

痴漢を理由とした解雇の有効性が争われた判例

痴漢を理由とした解雇の有効性が争われた代表的な判例としては、「東京メトロ事件」と「小田急電鉄事件」があります。両者の違いを簡単にまとめると以下のようになります。

タイトル東京メトロ事件小田急電鉄事件
解雇の有効性無効有効
痴漢行為迷惑防止条例違反で有罪罰金
20万円
迷惑防止条例違反で有罪懲役4月
執行猶予3年
前科の有無なし在職中に同種の痴漢前科あり
(罰金20万円)
先行する懲戒処分の有無なしあり

東京メトロ事件|東京地裁平成27年12月25日判決

【事案の概要】

Xは、鉄道会社であるY社との間で雇用契約を締結し、東京メトロの駅係員として従事していました。

Xは、通勤のために乗車していた東京メトロの電車内で痴漢行為をしたとして逮捕され、迷惑防止条例違反で有罪となり、罰金20万円の略式命令を受けました。

Y社では、Xによる痴漢行為がY社の社会的信用性を失墜させるものであることを理由として諭旨解雇処分としました。Xは、このような懲戒処分に納得できず、本件処分の無効などを求めて訴えを起こしました。

【裁判所の判断:痴漢を理由とする解雇は無効】

裁判では、①Xによる痴漢行為が懲戒の対象になるか、②懲戒の対象になるとして諭旨解雇処分が相当性を有するかが争点となりました。

①Xによる痴漢行為が懲戒の対象になるか→懲戒対象にはなる

Y社は、他の鉄道会社と同様に痴漢行為の撲滅に向けた取組を積極的に行っており、Xは、Y社の駅係員として勤務していたことから、本件痴漢行為は、Y社の企業秩序に直接の関連を有するものであり、かつ、社会的評価の毀損をもたらすものというべきであるとして、本件痴漢行為は懲戒の対象となり得ると判断しました。

②諭旨解雇処分が相当性を有するか→相当性を欠き解雇は無効

裁判所は、以下のような理由から諭旨解雇処分は相当性を欠くと判断しました。

本件痴漢行為に対する刑罰が罰金20万円の支払にとどまるものであり、処罰根拠も迷惑防止条例違反であることから、処罰対象となり得る行為の中でも、比較的悪質性の低い行為であるいえる

・マスコミによる報道やその他本件行為が社会的に周知されることはなく、本件痴漢行為に関し、Y社が社外から苦情を受けるといった事情もない

・Xは、懲戒手続きが進行していることを知らされず、弁明の機会が与えられなかった

小田急電鉄事件|東京高裁平成15年12月11日判決

【事案の概要】

Xは、鉄道会社であるY社との間で雇用契約を締結し、小田急電鉄の従業員として勤務していました。

Xは、電車内で痴漢行為を行い、逮捕され、迷惑防止条例違反で有罪となり、罰金20万円の略式命令を受けました。Yは、Xのまじめな勤務態度などを考慮し、昇給停止および降職の処分として始末書を提出させました。

しかし、Xは、その後も痴漢行為を行い逮捕され、迷惑防止条例違反で起訴され、懲役4月執行猶予3年の有罪判決を言い渡されました。

Yは、度重なる痴漢行為を理由としてXを懲戒解雇とし退職金を不支給としたところ、これに納得ができないXは、退職金の支払いを求めて訴えを起こしました。

【裁判所の判断:痴漢を理由とする解雇は有効】

裁判では、①懲戒解雇の有効性と②退職金不支給の有効性が争点となりました。

①懲戒解雇の有効性→懲戒解雇は有効

Xは、電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、職務に伴う倫理規範として、痴漢行為を決して行ってはならない立場にある。しかも、Xは、本件行為のわずか半年前に、同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止及び降職の処分を受け、今後、このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたいとの始末書を提出しながら、再び同種の犯罪行為で検挙されたものである。

このような事情からすれば、本件行為が報道等の形で公になるか否かを問わず、その社内における処分が懲戒解雇という最も厳しいものとなったとしても、それはやむを得ないものというべきである。

②退職金不支給の有効性→全額の不支給は違法

退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要であるとして、本件では、全額不支給とするほどの重大な不信行為はなかったと判断しました。

痴漢をしたときに考えられる解雇以外の処分

痴漢をしたときに考えられる解雇以外の処分

痴漢をした場合の処分としては、懲戒解雇以外にも以下のような懲戒処分が考えられます。

戒告・譴責

戒告・譴責とは、労働者に対して反省を求め、将来に向けて戒める処分をいいます。懲戒処分の中でももっとも軽い処分になります。

戒告は、口頭での反省を求める処分であるのに対して、譴責は、始末書などの提出を求めるといった書面での反省を求める処分であるという違いがあります。

減給

減給とは、企業秩序違反行為をした労働者の賃金から一定額を差し引く処分をいいます。

懲戒処分としての減給は、無制限にできるわけではなく、以下のような制限が設けられています。

・1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えないこと

・総額が一賃金支払期において支払われる賃金の総額の10分の1を超えないこと

出勤停止

出勤停止とは、労働者との労働契約を維持したまま一定期間労働者の就労を禁止する処分をいいます。

出勤停止期間は、勤続年数に通算されず、賃金の支給もないのが一般的です。出勤停止期間については法律上、上限は設けられていませんが、実務的には1週間から1か月程度が多いといえます。

降格

降格とは、企業秩序違反行為をした労働者の役職・職位・職能資格などを引き下げる処分をいいます。

降格には人事上の措置としての降格もありますが、懲戒処分としての降格に場合、就業規則上の根拠が必要になります。

痴漢による解雇を避けるためはグラディアトル法律事務所に相談を

痴漢による解雇を避けるためはグラディアトル法律事務所に相談を

痴漢による解雇を避けるためにも、痴漢事件の弁護に強いグラディアトル法律事務所にご相談ください。

示談交渉により早期の身柄解放・不起訴処分を獲得できる

痴漢により有罪となると企業秩序違反行為を理由として解雇されるリスクが高くなってしまいます。また、痴漢により逮捕・勾留され、欠勤状態が長くなると痴漢ではなく無断欠勤を理由として解雇されるリスクも高くなります。

このような解雇のリスクを軽減するには、早期に被害者との示談交渉をまとめることが重要になります。

グラディアトル法律事務所では、痴漢事件に関する豊富な解決実績がありますので、痴漢事件の示談交渉も得意としています。被害者との示談を早期にまとめるには、痴漢事件の示談交渉に強い弁護士に依頼するのがポイントとなりますので、当事務所の弁護士にお任せください。

なお、痴漢事件の示談金に関する詳細については、以下の記事をご参照ください。

不当解雇があったときの対応を任せられる

企業によっては痴漢で逮捕されたことを理由として解雇に踏み切るケースもあります。

懲戒解雇には厳格な要件が設けられていますので、私生活上の痴漢行為を理由とする解雇に関しては、不当解雇にあたる可能性も十分にあります。

このような解雇の違法性を争うには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。グラディアトル法律事務所では、刑事事件のみならず労働問題に関する対応も得意としていますので、痴漢による不当解雇の対応もお任せください。

なお、痴漢事件を弁護士に依頼するメリットについては、こちらの記事をご参照ください。

まとめ

痴漢は、犯罪行為として処罰されるだけでなく、会社に痴漢をしたことが知られてしまうと解雇されるリスクもあります。しかし、解雇は、労働者の生活の糧を奪う重大な処分であることから、厳格な要件のもとでのみ認められていますので、私生活上の痴漢を理由とする解雇は不当解雇にあたる可能性もあります。

このような不当解雇を争うには、弁護士のサポートが不可欠となりますので、痴漢被害者との示談交渉や不当解雇に対する対応については、刑事事件と労働問題に強いグラディアトル法律事務所にお任せください。

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弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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