業務上横領罪は相対的親告罪!刑が免除されるケースと示談すべき理由

業務上横領罪は親告罪?
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弁護士 若林翔
2025年02月05日更新

「業務上横領罪は親告罪?」

「告訴がなれば起訴されない?」

「親族なら刑は免除される?」

業務上横領罪は「相対的親告罪」にあたります。

犯人と被害者の親族関係によって、「親告罪」となるか「非親告罪」となるか、そして刑が免除されるかが変わってきます。

◉親族関係による違い

犯人と被害者の関係刑事処分
・婚姻関係にある配偶者
・直系血族(両親、祖父母など)
・同居の親族
刑が免除される
・兄弟姉妹
・叔父や叔母、従姉妹
・配偶者の父母や兄弟姉妹
告訴が必要
・内縁関係の配偶者
・同棲しているカップル
・親族関係にない同居人 など
非親告罪となる(告訴なしでも起訴されうる)

本記事では、

・どのような場合に親告罪となるのか

・親族間で起きた業務上横領罪はどう扱われるのか

・なぜ示談が必要なのか

・逮捕、起訴を防ぐためにすべきこと

について取り上げました。

業務上横領と親告罪の関係について分かりやすく解説するので、是非ご一読ください。

業務上横領罪は親告罪?

業務上横領罪は、「相対的親告罪」に該当します。

犯人と被害者の間に親族関係があるのか、あるとしてどういった関係性なのか等によって、親告罪に該当するかが変わってきます。

犯人と被害者が一定の親族関係にある場合のみ「親告罪」として扱われる犯罪です。

業務上横領は相対的親告罪

そもそも親告罪とは?

親告罪とは、被害者が告訴しない限り起訴されない犯罪です。

犯罪が親告罪にあたる場合、次のような理由から、被害者が処罰を望まない限り、検察は起訴できないとされています。

・家族間の問題なので、国が介入することが適当でない

・起訴して事件が明るみになると、被害者が不利益を受ける可能性がある

・罪が軽微なので、被害者の意向を無視してまで国が関与する必要性が低い

親告罪は、さらに「絶対的親告罪」と「相対的親告罪」の2つに分類されます。

「絶対的親告罪」とは、常に親告罪として扱われる犯罪です。被害者が告訴しない限り刑事事件になることはありません。

一方、「相対的親告罪」は、犯人と被害者の間に特定の親族関係がある場合のみ、親告罪となる犯罪です。全くの他人であれば通常の犯罪と同じですが、特定の身分関係(夫婦、親子など)があれば「親告罪」となります。

業務上横領罪や背任罪、窃盗罪などが相対的親告罪の一例です。

絶対的親告罪・相対的親告罪・非親告罪の違い

絶対的親告罪、相対的親告罪、非親告罪の違いをまとめると、次のようになります。

【絶対的親告罪・相対的親告罪・非親告罪の違い】

項目絶対的親告罪相対的親告罪非親告罪
定義告訴がなければ起訴できない犯罪一定の親族関係があれば、親告罪となる犯罪検察の判断で起訴できる犯罪
該当する犯罪・名誉毀損罪
・侮辱罪
・過失傷害罪 など
・業務上横領罪
・単純横領罪
・背任罪
・詐欺罪 など
※ほとんどの犯罪
・傷害罪
・強盗罪 など
告訴の必要性必要親族間なら必要不要

業務上横領罪は、相対的親告罪にあたる犯罪です。

加害者と被害者の間に親族関係があるのか、あるとしてどういった関係性なのかによって、親告罪となるかが変わってきます。

業務上横領は相対的親告罪|親族間なら刑が免除される?

業務上横領罪は、犯人と被害者の間に親族関係があれば「親告罪」として扱われます。

さらにどういった親族関係なのかによって、「刑が免除されるケース」と「告訴が必要なケース」の2つに分かれます。

(親族間の犯罪に関する特例)
刑法 第244条
配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

刑が免除されるケース|配偶者、直系血族又は同居の親族

犯人と被害者の間に、次のような親族関係があれば刑が免除されます。

関係ポイント
配偶者婚姻関係が必要なので、内縁は含まれない。
(最判平18年8月30日決定)
直系血族両親や祖父母など、縦の関係にある親族。
※兄弟や従妹は含まない。
同居の親族一緒に生活している「6親等内の血族」および「3親等内の姻族」
※一時的な寝泊まりは含まない

これらの親族関係にあれば、告訴の有無にかかわらず刑が免除されます。起訴されたり、逮捕されたりすることはありません。

告訴が必要なケース|その他の親族

一方、犯人から見て次のような親族関係にある場合は、告訴がなければ検察官が起訴することができません。

・兄弟姉妹・叔父や叔母

・甥や姪

・従兄弟や従姉妹

・配偶者の父母や兄弟姉妹

ただし、いずれも同居していれば刑が免除されるため、一緒に生活をしていないケースに限られます。

親族として認められないケース

親族関係とは、「6親等内の血族」および「3親等内の姻族」のことを指します。

いわゆる「親戚」付き合いがあったり、一緒に住んでいたりしても、血縁関係がなければ親族とは認められません。

例えば、次のようなケースでは「非親告罪」となるので注意が必要です。

・内縁関係にある配偶者

・内縁の配偶者の両親、兄弟姉妹

・同棲しているカップル

・親族関係にない同居人 など

このように、業務上横領罪が親告罪となるかどうかは、犯人と被害者の親族関係によって変わってきます。親族間であっても、刑が免除されるケースと告訴が必要なケースがあることを理解しておきましょう。

親族間の業務上横領でも親告罪とならないケースもある

前述のとおり、業務上横領罪は親族間なら「親告罪」となります。

犯人と被害者の間に、親子などの親族関係があれば、刑が免除されたり、被害者の告訴がなければ起訴されなくなったりするのです。

ただし、次のようなケースでは、親族関係が認められても刑は免除されません。

親族が経営する会社で横領した場合

会社に対する業務上横領の場合、たとえ親族が経営していても、親告罪の規定は適用されません。これは、被害者が会社(法人)となるからです。

例えば、父親が代表取締役を務める会社で息子が横領を行った場合、被害者は「父親」ではなく「会社(法人)」自体です。

そのため、親族間の犯罪としては扱われず、非親告罪として処罰される可能性があります。

成年後見人が横領した場合

成年後見人による横領も、親族であっても刑事責任を免れることができません。

これは、成年後見人という職務が公的な性質を持つからです。

親族が成年後見人に選任されて、被成年後見人の財産を横領したケースで、判例は次のように示しています。

(裁判要旨) 
1 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項は準用されない。

2 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があることを量刑上酌むべき事情として考慮するのは相当ではない。(引用:最高裁平成24年10月9日判決|裁判所

このように、親族間であっても、会社や成年後見人が被害者となる場合は、親告罪の規定が適用されず、刑事責任を問われる可能性があります。

業務上横領罪が親告罪となるかどうかは、単に親族関係があるかだけでなく、事件の属性や関係性にも注目する必要があるのです。

業務上横領罪が非親告罪のケースではどうなる?

犯人と被害者の間に親族関係がなければ、業務上横領罪は「非親告罪」となります。

つまり、被害者からの告訴がなくても、検察官の判断で起訴できるのです。

業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」のみで、比較的重い犯罪類型に位置づけられています。被害金額が大きければ、初犯であっても実刑判決が下される可能性も十分に考えられるでしょう。

ただし、実務上は被害者からの告訴がなければ、立件されるケースは少ないです。

業務上横領罪は、組織の内部で発生するという性質上、被害者が申告しない限り捜査機関に発覚しづらいからです。

また、会社としても、横領事件が発生したことが明らかになれば、管理責任などを問われる可能性があります。そのため、すぐに警察に届け出るとは限らず、まずは内部で調査を進めて、その後の対応を検討するケースが多いです。

「親告罪」となるケースでも「非親告罪」となるケースでも、まずは当事者間での解決を考えることが大切です。被害弁償を行ったり、示談によって民事的に解決できれば、刑事事件化しない可能性は高くなります。

相対的親告罪の業務上横領では示談が重要

業務上横領罪による起訴を防ぐためには、被害者との示談が重要です。

業務上横領罪(相対的親告罪)で示談が重要な理由

示談によって告訴を阻止すれば起訴されない

犯人と被害者に親族関係があれば、業務上横領罪は相対的親告罪となります。

この場合、示談によって告訴を阻止できれば、検察に起訴されることはありません。告訴後であっても、起訴前に告訴を取り下げてもらえば、起訴されるリスクはなくなるでしょう。そのため、業務上横領が発覚したら、すぐに示談交渉を進めることが大切です。

示談交渉は、親族関係があることで成立しやすくなるケースもあります。ただし、逆に親族だからこそ揉めてしまうケースもあるので注意してください。

血縁関係があるからこそ、遠慮なく本音をぶつけてしまい、感情的な衝突になることは珍しくないのです。特に、金銭的な問題が絡むと、普段は言えない不満や怒りが表面化し、冷静な話し合いが難しくなるケースが多いです。

被害者と親族関係があったとしても、示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士が間に入ることで、感情的な対立を防ぎ、スムーズに示談を成立させることができるでしょう。

非親告罪でも不起訴処分を獲得しやすい

業務上横領罪が非親告罪のケースでも、示談は極めて重要な意味を持ちます。

横領のような財産事件では、被害弁償や示談の有無によって処分が決まる部分が大きいからです。

スムーズに示談が成立し、次のような内容を検察に伝えることができれば、不起訴処分を得られる可能性は格段に高くなります。 

・示談によって被害回復がなされている

・真摯に謝罪し、反省している

・被害者の処罰感情が低下している

・宥恕文言が記載された示談書が作成されている

当事者間で民事的に解決していれば、検察官は積極的に事件を起訴しようとは考えません。

また、証拠隠滅や逃亡のおそれが低いと判断されるため、逮捕のリスクも大幅に低下するでしょう。

業務上横領の示談はグラディアトル法律事務所へご相談ください

業務上横領罪を疑われてしまった方は、ぜひ私たちグラディアトル法律事務所へご相談ください。弊所は、横領・背任といった刑事事件を数多く取り扱っており、豊富なノウハウと確かな実績を有した法律事務所です。

これまでにも数多くの方から横領事件のご相談をいただき、示談を成立させて刑事事件化を防ぐことに成功しています。

・横領事件に強い弁護士が、粘り強く被害者と交渉

・横領の事実関係を調査して、有利な証拠を収集する

・スピード感をもった弁護活動で、刑事事件化を阻止

・豊富な刑事裁判の実績を活かして、不起訴

・無罪・執行猶予を獲得

・24時間365日相談受付(最短で即日ご対応可能)

業務上横領罪は、事実関係が複雑なケースも多く、横領にいたるまでにも様々な経緯があると思います。しかし、どういったケースであれ、万が一逮捕・起訴されると実刑判決となるリスクも出てきます。

だからこそ、刑事事件に強い弁護士に相談して、速やかに対処することが必要です。ご相談をいただくタイミングが遅くなるほど、対処法も少なくなってしまいます。

「告訴される前に、専門家に相談したい」

「どうすればいいか、弁護士からアドバイスをもらいたい」

「まずは話だけでも聞いて欲しい」

こういったご相談だけでも構いません。相談したからといって、必ず依頼しなければいけない訳ではないのです。

実際にお話を聞かせていただいた上で、あなたが抱えている不安が少しでも軽減されるよう、アドバイスをさせていただきます。1人で抱え込まず、ぜひ私たちグラディアトル法律事務所へご相談ください。

まとめ

最後に、記事のポイントをまとめます。

◉業務上横領罪は「相対的親告罪」

・犯人と被害者に親族関係があれば「親告罪」となる

・親族関係がなければ「非親告罪」となる

◉親族関係による違いは次のとおり

刑が免除されるケース・婚姻関係にある配偶者
・直系血族(両親、祖父母など)
・同居の親族
告訴が必要なケース・兄弟姉妹
・叔父や叔母、従姉妹
・配偶者の父母や兄弟姉妹
非親告罪となるケース上記2つにあたらないケース
・内縁関係の配偶者
・同棲しているカップル
・親族関係にない同居人 など

◉親告罪のケース、非親告罪のケース、いずれも示談の重要性は変わらない

◉スムーズに示談できれば、逮捕・起訴を阻止できる可能性が高まる

以上です。

業務上横領をしてしまった方は、この記事を読み終わったら、すぐに弁護士に相談して、示談などの行動を起こしましょう。

一刻も早く、事件が解決し、あなたの不安が解消されることを願っています。

この記事が役に立った、参考になったと感じましたら、是非グラディアトル法律事務所にもご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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