業務上横領は「10年以下の懲役」という重い刑罰が規定された犯罪です。
また、会社からは損害賠償請求を受ける可能性もあり、加害者に生じる責任は非常に大きくなることが予想されます。
しかし、業務上横領には時効があるため「横領したことを隠し通せば逃げ切れるのではないか」と考える人もいるかもしれません。
確かに時効が成立すれば、刑事・民事の責任を免れることも可能です。
しかし、長期間にわたる時効期間をやり過ごすのは現実的ではなく、賢い選択とはいえません。
横領が事実なのであれば、弁護士とも相談しながら、一刻も早く解決に向けて動き出すべきです。
本記事では、業務上横領の時効について詳しく解説します。
時効の起算点やカウントが停止・更新するケースなどもわかりやすくまとめているので、参考にしてみてください。
関連コラム:業務上横領罪とは?成立要件や罰則、時効期間などをわかりやすく解説
目次
業務上横領には刑事上の時効と民事上の時効がある
業務上横領には、刑事上の時効と民事上の時効が存在します。
時効が完成した場合に生じる効果はそれぞれ異なるので、詳しくみていきましょう。
刑事上の時効(公訴時効)|時効が完成すると起訴されなくなる
刑事上の時効とは「公訴時効」のことです。
公訴時効が完成すると、検察は加害者を起訴して刑事責任を追及することができなくなります。
事件発生から長期間経過すると証拠が散逸したり、被害者側の処罰感情が薄れたりすることから、公訴時効の制度が設けられているのです。
たとえ時効完成後に加害者自ら罪を認めたとしても、刑罰に処されることはありません。
民事上の時効(消滅時効)|時効が完成すると損害賠償請求されなくなる
民事上の時効とは、損害賠償請求権の消滅時効のことです。
業務上預かった金品などの横領は不法行為にあたるため、会社側には不法行為に基づく損害賠償請求権が生じることになります。
しかし、消滅時効が成立すると損害賠償請求権が失われるので、加害者は横領したお金を返済する必要がなくなるのです。
なお、刑事・民事の時効は別々に存在しています。
いずれかの時効が成立した場合でも、もう一方の時効に影響を及ぼすことは基本的にありません。
業務上横領における刑事上の時効期間は何年?
ここでは、業務上横領における刑事上の時効期間について解説します。
刑事上の時効は7年で成立する
業務上横領罪における刑事上の時効(公訴時効)は、7年で成立します。
横領行為から7年が経過すると、その後、起訴されることはありません。
なお、公訴時効の期間は「人を死亡させた犯罪かどうか」「法定刑の重さはどのくらいか」の2点に基づいて決定されます。
業務上横領罪は人を死亡させておらず、法定刑が「10年以下の懲役」の犯罪なので、公訴時効は7年になるわけです。
時効の起算点は「横領行為が終わったとき」
業務上横領罪における刑事上の時効(公訴時効)の起算点は、「横領行為が終わったとき」です。
たとえば、会社名義の口座にあるお金を横領した場合は、自己の口座に振り込んだ時点で時効のカウントがスタートします。
また、会社の物品を無断で売却した場合は、売却が完了した時点が公訴時効の起算点です。
【横領を繰り返していた場合は「最後の横領行為が終わったとき」が起算点】
横領を繰り返していた場合は、通常「最後の横領行為が終わったとき」が公訴時効の起算点になります。
最後の横領行為が終わるまで、犯罪は継続しているものと考えられるためです。
たとえば、会社の経理担当者が2023年から2024年までの1年間、毎月横領を続けていた場合は、2024年の最後の横領行為が終了した時点から7年間のカウントが始まります。
ただし、横領行為の態様次第では個々が独立した犯罪と判断され、それぞれの行為ごとに時効が進行する可能性もあります。
【共犯で横領していた場合は「最後の横領行為が終わったとき」が全員の起算点】
共犯で横領していた場合は、「最後の横領行為が終わったとき」が共犯者全員の起算点です。
たとえば、A・Bによる横領事件において、12月1日にAが準備して、12月2日にBが実行したのであれば、A・Bともに12月2日から公訴時効のカウントが始まります。
業務上横領における民事上の時効期間は何年?
業務上横領における民事上の時効期間は「被害者が損害と加害者を知ったときから3年」または「横領が発生したときから20年」のいずれか早いほうが適用されます。
被害者が損害と加害者を知ったときから3年
被害者が損害と加害者を知ったときから3年が経過すると、民事上の時効が成立し、被害者は横領に関する損害賠償請求権を失います。
たとえば、2022年3月1日に横領行為がおこなわれたとしても、会社が加害者と損害を知ったのが2024年3月1日なら、時効が成立するのは2024年3月1日から3年が経過したタイミングです。
なお、「被害者が損害と加害者を知ったとき」とは、判例上「具体的な損害額まで知る必要はないが、加害者の氏名・住所は知っている必要がある」とされています。
会社側は従業員の氏名・住所を把握しているはずなので、基本的には、横領がおこなわれていたことに会社側が気づいた時点で、時効の進行がスタートする可能性が高いといえるでしょう。
横領が発生したときから20年
横領が発生したときから20年経過した場合も、業務上横領における民事上の時効が成立します。
被害者が損害や加害者を知らない状況が長く続くと、証拠の散逸や記憶の曖昧化を招くため、20年の時効期間が設定されているのです。
とはいえ、横領行為を20年も隠し続けることは難しく、「いつかバレるかもしれない」という不安を抱えながら生活することは精神的な負担も大きいでしょう。
時効には期待せず、自ら早期解決を目指していくのが賢明な判断といえます。
業務上横領の時効は停止・更新されることがある
業務上横領の時効カウントは、特定の条件を満たした場合に停止・更新されることがあります。
民事・刑事それぞれの時効について、停止・更新されるケースを具体的にみていきましょう。
刑事上の時効が停止するケース
業務上横領の時効が停止するケースは、以下のとおりです。
- ・加害者が国外にいる場合
- ・加害者が身を隠し、起訴状や略式命令が届かない場合
- ・加害者が起訴された場合
たとえば、横領行為が終了した日から4年経過したタイミングで国外に逃亡した場合、その時点で時効のカウントは停止します。
帰国後にカウントが再開し、3年経過すると合計で7年に達して時効が完成するわけです。
なお、刑事上の時効は停止することはあっても、更新することはありません。
民事上の時効が停止・更新するケース
業務上横領における民事上の時効が停止・更新するケースは以下のとおりです。
事由 | 停止(完成猶予) | 更新 |
---|---|---|
訴訟の提起・支払督促・ 和解/調停の申立てなど | 〇 (事由終了まで完成猶予) | 〇 (権利の確定により更新) |
強制執行・財産開示など | 〇 (事由終了まで完成猶予) | 〇 (事由終了により更新) |
仮差押え・仮処分 | 〇 (事由終了から6ヵ月間の完成猶予) | × |
催告 | 〇 (催促後6か月間の完成猶予) | × |
協議をおこなう旨の合意 | 〇 (原則として合意から1年間の完成猶予) | × |
債務の承認 | × | 〇 (承認行為により更新) |
仮に時効期限が迫っている場合は、会社側が上記のような手続きによって、時効の完成を阻止してくる可能性があります。
業務上横領で時効の完成を待つ前にやるべきこと
最後に、業務上横領で時効の完成を待つ前にやるべきことを2つ紹介します。
たとえ犯罪を犯したことが事実であっても、その後の行動次第で処遇が大きく変わることを覚えておきましょう。
会社と示談を成立させる
業務上横領事件では、時効の完成を待つ前に示談を成立させることが極めて重要です。
示談成立を成立させることができれば、会社側の処罰感情が和らぎ、刑事告訴を踏みとどまってもらえる可能性があります。
また、事件化してしまった場合でも、示談の成立を理由に不起訴処分になったり、刑が軽減されたりすることも十分考えられます。
特に業務上横領では、会社側が穏便な解決を望んでいるケースも多いので、積極的に示談交渉を進めるようにしましょう。
ただし、当事者間での示談交渉は、余計なトラブルをまねくおそれがあるためおすすめしません。
少しでも円滑な示談交渉を望むのであれば、弁護士のサポートが必要不可欠です。
横領事件が得意な弁護士に相談する
業務上横領事件を起こしたときは、一刻も早く弁護士に相談してください。
横領事件が得意な弁護士であれば、過去の事例や関係法律に基づき、迅速に法的対応を進めてくれるはずです。
事件の態様にもよりますが、弁護士のサポートによって逮捕を回避したり、不起訴処分を獲得したりできる可能性も十分あります。
弁護士の介入が早ければ早いほど事態の悪化を防ぎやすくなるため、少しでも不安に感じることがあれば迷わず相談してください。
業務上横領の罪を犯したときは一刻も早く弁護士に相談を
本記事のポイントは以下のとおりです。
- ・刑事上の時効(公訴時効)が完成すると起訴されなくなる
- ・民事上の時効(消滅時効)が完成すると損害賠償請求されなくなる
- ・刑事上の時効(公訴時効)は「横領行為が終わったとき」から7年で成立する
- ・民事上の時効(消滅時効)は「被害者が損害と加害者を知ったときから3年」と「横領が発生したときから20年」のいずれか早いほうが経過したタイミングで成立する
- ・時効は停止または更新されることがある
- ・時効の成立を待つ前に示談の成立を急ぐことが重要
業務上横領には時効制度が存在しているものの、何年にもわたって罪を隠し通すことは現実的ではありません。
そのため、横領事件を起こした際にはできるだけ早く弁護士に相談し、今後の対応について助言を受けるようにしましょう。
実際にグラディアトル法律事務所では、これまでに数々の横領事件を解決へと導いてきた実績があります。
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