「業務上横領の罪を犯しても、初犯なら実刑を回避できるのか」
「初犯の量刑はどの程度なのか」
犯罪者に対する量刑は、さまざまな事情を考慮して決定されるものです。
そのため、業務上横領の加害者となったものの、初犯であることを理由に罪が軽くなるのではないかと期待している人もいるかもしれません。
結論からいうと、初犯であることは量刑の判断で有利に働くため、刑期が短くなったり、執行猶予がついたりする可能性は高くなります。
しかし、初犯だからといって必ずしも実刑を回避できるわけではありません。
少しでも罪を軽くしたいのであれば、弁護士とも相談しながら、しかるべき対策を講じていくことが重要です。
本記事では、初犯で業務上横領の罪を犯した場合の取り扱いについて解説します。
不起訴処分や執行猶予を獲得するためにやるべきこともまとめているので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
関連コラム:業務上横領罪とは?成立要件や罰則、時効期間などをわかりやすく解説
目次
業務上横領は初犯であっても懲役の実刑になる可能性がある
横領事件において、初犯であるという事実が有利な事情として扱われることは確かです。
しかし、初犯であっても懲役の実刑になる可能性はあります。
まずは、業務上横領の刑罰や執行猶予率について詳しくみていきましょう。
業務上横領の刑罰は「10年以下の懲役」で罰金刑はない
業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」であり、罰金刑の規定はありません。
業務上横領罪は組織内での立場を利用した悪質な犯罪であるため、比較的重い刑罰が設定されており、刑事裁判で有罪になると必ず懲役刑に処されてしまいます。
なお、2023年度版検察統計年報によると、横領事件の起訴率は約52%です。
日本の裁判における有罪率は99%以上なので、起訴された場合にはほぼ確実に懲役刑が言い渡されるものと考えておきましょう。
横領事件全体の執行猶予率は6~7割程度
横領事件で懲役刑に処されたとしても、執行猶予がつけば、普段どおりの生活を送ることが可能です。
しかし、令和5年度犯罪白書によると、横領事件全体の執行猶予率は6~7割程度にとどまります。
初犯に限定すれば執行猶予率も上がることが予想されますが、それでも懲役の実刑になる可能性は十分残されているのです。
そのため、初犯だからといって安心せず、不起訴処分や執行猶予の獲得に向けた対策を早急に講じるようにしましょう。
業務上横領の初犯でも懲役の実刑になりやすいケース
次に、業務上横領の初犯でも懲役の実刑になりやすいケースを解説します。
自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。
被害額が大きい場合
被害額が大きい場合は、業務上横領の初犯であっても懲役の実刑になりやすいといえます。
財産犯である業務上横領では、被害額の大きさが事件の深刻さを直接的に表すためです。
被害額が大きくなるほど、加害者が背負うべき刑事責任は重くなり、不起訴処分や執行猶予の獲得が難しくなります。
明確な線引きはできませんが、被害額が100万円を超え、被害弁償もおこなわれていない場合には、実刑になる可能性が高くなります。
犯行の手口が悪質だった場合
犯行の手口が悪質だった場合も、懲役の実刑になりやすいと考えられます。
悪質な手口は被害者や社会に与える影響が大きいため、厳罰化の対象となりやすいのです。
たとえば、長期間にわたって会社の帳簿を改ざんし続けた場合や、複雑な資金移動を繰り返して追跡を困難にした場合などが挙げられます。
また、横領行為が単なる出来心だったのか、それとも用意周到に計画されていたのかによっても、量刑の判断は大きく変わってくるでしょう。
横領期間が長く、常習性があった場合
業務上横領の初犯であっても、横領期間が長く、常習性があった場合は懲役の実刑になる可能性があります。
裁判所は一時的な過ちよりも、継続的な犯行を悪質で重大なものとして捉えるためです。
また、常習性がみられる場合は、再犯を防止する観点からも厳しい判断につながります。
実際に横領をはじめとした財産犯は常習性が強いので、重い刑罰に処される人も少なくありません。
示談が成立していない場合
業務上横領の初犯であっても懲役の実刑になりやすいケースのひとつが、示談が成立していない場合です。
示談が成立していないということは、「被害者が加害者の横領行為を許していない」ことを意味します。
そのため、裁判所は被害者感情を考慮して、厳しい判断を下す傾向があるのです。
なお、業務上横領の示談を成立させるためには、被害弁償がほぼ必須といえます。
今すぐに全額を支払えなくても、家族や知人からかき集めたり、分割で支払う計画を提示したり、被害弁償の意思をみせることが大切です。
加害者の役職や社会的地位が高い場合
業務上横領事件においては、加害者の役職や社会的地位が高い場合も懲役の実刑になりやすいといえます。
まず、高い役職にある人物は会社から信頼を寄せられているため、横領という裏切り行為がもたらす影響は甚大です。
上位の役職者に与えられた権限を悪用していた場合などは、さらに悪質な犯行として認識されることになるでしょう。
また、士業や公務員のような社会的地位が高いとされる職業も模範的な存在であることが求められているので、信用を失う横領行為は厳しく罰せられます。
加害者に反省の態度がみられない場合
加害者に反省の態度がみられない場合も、業務上横領の初犯であっても懲役の実刑になりやすいケースのひとつです。
反省の態度は、更生の可能性を判断するうえでの重要な要素といえます。
反省の態度がみられない場合は社会復帰の見込みが低いと判断され、実刑を含めた厳しい処罰が下されやすくなるのです。
なお、言葉だけで謝罪をしたり、更生に向けた意思表示をしたりするだけでは、反省の態度を十分に示すことはできません。
着実に被害弁償を進め、再発防止策を提示するなど具体的な行動をともなう必要があります。
業務上横領の刑期は懲役何年?初犯の量刑相場
令和5年において、業務上横領を含む横領罪に対して言い渡された刑期は以下のとおりです。

(参照:令和5年司法統計年報|最高裁判所事務総局)
横領罪に対しては、1~3年程度の刑期を言い渡されるケースが比較的多いです。
業務上横領の初犯に限定したデータはありませんが、平均的な刑期よりは短くなることが予想されます。
なお、刑期が3年以下であれば執行猶予がつくこともあります。
先述のとおり横領事件全体の執行猶予率は6~7割程度ですが、刑期が短くなるほど執行猶予がつく可能性は高くなります。
関連コラム:業務上横領の量刑はどのくらい?執行猶予や刑期に影響する要因も解説
業務上横領の初犯を扱った判例
ここでは、業務上横領の初犯を扱った判例を5つ紹介します。
事案概要 | 判決 |
---|---|
司法書士が遺言執行者として管理していた顧客の預金口座から約750万円を自己の口座に移し、一時的に私的流用した(神戸地判平成26年9月2日) | 懲役2年6月執行猶予3年 |
県職員が東京事務所の経費に充てるための現金800万円を横領し、株式購入や遊興費に費消した(静岡地判平成16年11月24日) | 懲役3年執行猶予4年 |
郵便局の会計担当課長が郵便切手計374万3,610枚・約1億7,600万円相当を計164回にわたり売却し、交際相手との関係維持費などに費消した(東京地判令和3年5月10日) | 懲役3年 |
社会福祉法人Cの理事長Aがクリニック院長Bと共謀し、C名義の預金口座からB名義の口座へ約5億6,800万円を送金した。Aは社会福祉法人Cの経営権をBから42億円で譲渡されており、その分割払いの一部として横領がおこなわわれていた(東京地判令和5年9月6日) | 懲役5年6月 |
弁護士が交通事故の損害賠償金や相続財産管理などの名目で、複数の顧客から預かった約3億7,200万円を横領し、自己の用途に費消した(大阪地判平成20年3月7日) | 懲役9年 |
実際の判例からも読み取れるように、被害金額が大きい場合や加害者の社会的地位が高い場合などは、初犯であっても実刑が言い渡される可能性があります。
不起訴処分や執行猶予を望むのであれば、初犯であるかどうかに関わらず、速やかに対策を講じることが重要です。
関連コラム:【業務上横領罪の有名な裁判例】無罪・執行猶予・実刑・共犯など紹介
業務上横領で不起訴処分や執行猶予を獲得するためにできること
次に、業務上横領で不起訴処分や執行猶予を獲得するためにできることを解説します。

主に2つのポイントがあるので、できるだけ早く行動に移すようにしてください。
被害弁済を済ませて示談を成立させる
業務上横領で不起訴処分や執行猶予を獲得したいのであれば、速やかに被害弁済を済ませて示談の成立を急ぎましょう。
示談の成立は被害が回復し、当事者間で和解していることの証明になるものです。
そのため、検察官も「あえて起訴して処罰を与える必要はない」と判断する可能性が高くなります。
また、裁判官が量刑を判断する際にも、示談の成立は有利な事情として扱われることになるでしょう。
しかし、当事者間での示談交渉はお互いが感情的になりやすく、余計なトラブルを招くおそれがあるのでおすすめしません。
少しでも円滑な示談交渉を望むのなら、弁護士のサポートが必要不可欠です。
横領事件が得意な弁護士に相談する
自身が加害者になったときは、迷わず横領事件が得意な弁護士に相談してください。
経験豊富な弁護士に相談・依頼すれば、個々のケースに合わせた戦略を立てたうえで、効果的な弁護活動を進めてくれるはずです。
たとえば、以下のようなサポートが期待できます。
- ・会社との示談交渉
- ・自首のサポート
- ・取り調べのアドバイス
- ・逮捕直後の接見
- ・早期釈放の要請
- ・家族との連絡調整
- ・捜査機関への働きかけ
- ・再発防止策の提案
- ・裁判への対応
ただし、相談するタイミングが遅くなればなるほど、弁護士が介入できる余地は小さくなっていきます。
不起訴処分や執行猶予の可能性を少しでも高めたいのであれば、一刻も早く弁護士のサポートを得ることが大切です。
関連コラム:横領事件の弁護士費用はいくら?内訳・相場や費用を抑えるコツを解説
業務上横領の初犯に関してよくある質問
最後に、業務上横領の初犯に関してよくある質問を紹介します。

業務上横領は初犯でも逮捕される?
業務上横領では、初犯だからといって必ずしも逮捕を回避できるわけではありません。
逮捕の要件を満たした場合には、初犯かどうかに関わらず、警察が身柄拘束に乗り出す可能性は十分あります。
逮捕を回避するためには、素直に罪を認め、反省の態度を示すことが大切です。
不必要に言い訳をしたり、話をごまかしたりしていると逮捕されやすくなるので注意してください。
業務上横領が発覚しても初犯なら解雇されない?
業務上横領が発覚した場合は、初犯であっても解雇される可能性があります。
横領したこと自体が解雇の理由になり得るため、初犯であるかどうかはそれほど影響しません。
会社の規則に従い、解雇を含めた厳しい処分を受けるケースが一般的です。
関連コラム:業務上横領で逮捕までの流れは?7つのステップに分けて具体的に解説
業務上横領を穏便に解決したいなら今すぐ弁護士に相談を!
本記事のポイントは以下のとおりです。
- ・業務上横領は初犯であっても懲役の実刑になる可能性がある
- ・被害額が大きい場合や手口が悪質な場合などは初犯でも実刑になりやすい
- ・業務上横領の刑期は1~3年程度が平均的
- ・不起訴処分や執行猶予を獲得するには示談の成立が最重要
業務上横領の刑罰は重く、初犯であっても懲役の実刑になる場合があります。
実刑判決を受けると、少なくとも数ヵ月間は刑務所で過ごさなければならないので、社会復帰にも苦労することになるでしょう。
そのため、業務上横領の罪を犯したときは、初犯だからといって安心せず、できるだけ早く弁護士に相談してください。
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